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メルグヴィッツ空港の朝

 翌日――メルグヴィッツ空港の朝。昨日と同じで、よく晴れた空は澄み渡っていた。草原地帯の冷涼な朝の空気が、メルグヴィッツ空港に朝霧を生じさせていた。長老とカイザルは、地上で朝の体操を行っていた。これは、ビザリナ颱空拳(たいくうけん)と呼ばれる、全身に気を漲らせる運動だ。

 

「いいか、カイザル、ここは滑走路だ。地面を叩き割るんじゃないぞ!」

「ああ」

 

 船長は、民間航空機会社のパイロットと一緒に天候調査。ついでに、パイロット連中と一緒に、パワーブレークファストを摂りに空港内へ向かった。船長は、こういったロビイストめいた作業がお得意のようだ。特に、空軍に在籍していたから、機長の中には彼を知る者がおり、思い出話を交わしたりしているという。

 

「お前、グリシア! 久しぶりー。お前が、今やあのリップスの船長なのかよ!」

「信じられないなあ。マスコミ新聞社の方はどうした?」

「ああ、ちょっとな……あの船の長老の口車に、まんまと乗せられたよ」

「へえー、キャラバンの船長ねえ、お前が……」

「さぞかし毎日が楽しかろう……定期航空路と違って」

「いやあ、胃に穴が開きそうな時もあるよ。お子様たちが無鉄砲すぎて」

「さて、霧がなかなか晴れそうもないんだが……」

「それは困ったな。駐機料金今朝9時までなんだよ、リップスは」

「追加かな」「追加だな」

「はー、あのどんちゃん騒ぎ、今日もまた始まるのか……」

 グリシアは、アタマを抱えた。

 

「南の方向だったら、霧は晴れて来るぞ。セント・フェリーナとか行くには好都合だ」

「逆に、北側のブルコニッツとか、西側のウザビクとか、アーツウォークとか、首都ジェンツ方面は……」

「行けなくはないが、今日は霧が濃い。だいいち、国境地帯は、空軍機の護衛が要る」

「うーん、リップスのピッツリー機も、半分程度は武装解除しているし、昨日、ようやくバリア装置を付けたばかりで、とてもSFみたいな戦はできませんって」

「なるほどねー、武器を買うために商売、ってこともあるのか」

「詳しくは言えないけど、まあ、無くはないね……じゃ、分かった! 古巣のセント・フェリーナへ向かうことにする!」

「おう、頑張れよ!」

 

 立ち去るグリシアを、笑顔で見送る、元空軍パイロットたち……。

「それにしても、あいつの船に護衛を頼まれたくないなあ……何だか巻き込まれそうで」

「言えてる、どの船よりも狙われやすいだろうからなー」

 

     ◇ ◇ ◇

 

 グリシアが、艦内放送を流す。

『あー、あー。おはようございます。リップス乗務員の方は、午前8時までに作戦会議室へお集まりください、繰り返します……』

 マイクを置く。すると、コックピットに、ニーナが現れた。もうスーツ姿も決まっている。化粧も済ませたらしい。

「おはよう、船長。今日はどこへ行くの?」

「とりあえず、霧が晴れている南の方角……と言えば、古巣のセント・フェリーナ市だな」

「ジェンツとかへは行けないの?」

「ああ、まだこの船は武装が完全じゃない。もし今この船で国境地帯に行けば、きっと蜂の巣にされる。なので、無難で、比較的安全なビザリナ第2の都市、セント・フェリーナ市に決めた」

「それで、出発時刻は?」

「離陸が午前9時ジャスト。そうでないと、駐機料金を追加しないといけない」
「なるほどね。あ、女の子たちは、まだパウダールーム。男の子たちは、何やってんだか」

「あの捕虜の少年も気になるしな……」

「ファーナちゃんの弟さんね。何だか頑固そうだわ」

 

     ◇ ◇ ◇

 

 午前8時、作戦会議室……と言っても、スペースの関係上、食堂も兼ねている。みんなもりもり食っている最中だ。話なんか聞いちゃいない。

「えー、次の行き先は、南に5000キロ離れた、聖都、セント・フェリーナ市の空港に着艦する」

「みんなー、分かったー?」

「このウインナーうまい!」「レタスなんて久しぶりだよ」「生野菜っていいねー」「あ、おとうと!」「そうだそうだ、昨日捕まえたあいつに食わしてやんねーと」「リーム、行って来い」「やだっす」「じゃあ、ファーナが行け」「あたしー?」「じゃあ、二人で行くんじゃ」「ええー、めんどいー」

 

 グリシアが、騒音にもめげずに頑張って説明している。

「……あー、それでだなあ、北西方向は濃霧が出ているので、民間の旅客機も出発を見合わせている段階で、ここの滑走路を借りられるのも、今日の午前9時ジャストまでだ。1分でも遅れたら、何千万ミントといった駐機料金が吹き飛ぶことになる、なので、各員においては、遅滞なく行動するように!」

「イエッサー!」

「……本当に分かってる? 俺の話聞いてた?」

「聞いてたとも」「うんうん」「聞こえる聞こえる」

 

「はー。それから、次のセント・フェリーナ市で利益が上がったら、自動追尾型のビーム砲、主砲付近に3機、左右の水平尾翼にそれぞれ6機、後部フラップ付近に1機の合計10機を設置する計画だ。もちろん、お小遣いもはずんじゃおう、って算段さ。勿論、能力給だがな」

「それいいー!」「じゃあ、わたしとファーナは、個室の弟さんに食わして来る」「レーザーソード持った?」「持った持った」「じゃねー」「あたしも行きます!」「レマーユは、ここでおとなしく話を聞いとけ」「そうそう、お願いね」「気をつけてー」

 お世辞にもミーティングとは呼べない状態だったが、みんなは、頑張ればお小遣いが出ることだけを期待して、モチベーションを維持していたのだった。

 

「はー、本当に分かってくれたのかなあ……」

「ねえ、グリシアさん!」

「なんだい、レマーユちゃん?」

「あのー、わたし、セントフェリーナの修道院から特赦を受けたものですから……もし修道院関係者にバレたら、どうしていいかわかんなくって……」

「そうだな、長老さんが言ってたな、本来なら、生涯そこで過ごさなきゃならないところを、特赦されて、ということだね。わかる。配慮するよ。逆に、故郷に錦を飾っちゃえ! いまや、司祭さまなんだろう?」

「名目上は、一応……」

「おっと、時間だ。俺たちはコックピットへ戻る。心配すんな」

「でも、でも、船長さん!」

「じゃあ、後片付けは頼んだぞ! さて、あと20分で出発ですか」

 グリシアとニーナは、とっとと行ってしまった。そこへ、チェルダードとカイザルが現れた。

「話は聞いた。お前は、立派に一人で頑張って来た。孤独にも耐えた。奪還しようとする勢力があるなら、一戦交えようではないか。それに、あそこの神父さんは、そんなことはしない。怖がるのも無理はないが、我々が守る。さあ、わしらと一緒に皿を洗おうではないか」

「心配ない?」

「ああ」

「じゃ、後片付けじゃー」

 

 狭い流し台に、身の丈190センチはあろうかという巨男と、幾分バーコードがかった髪型のヒゲの老人と、修道服を着た少女が並んでお皿を洗っている姿を想像してもらいたい。非常に滑稽というか、微笑ましい。

『離陸10分前……』

「いかんっ! ワシはコックピットに行く! カイザル、お前はムーヴァーの中で! それからレマーユ、お前は礼拝堂のシートに座ってベルトを締める! わかったな!」

「ああ」「はい!」

 

     ◇ ◇ ◇

 

『離陸10分前……』

「こんちくしょう、口を開きやがれ! さっさと食いやがれ! もう離陸だぞ!」

「お前らの施しは受けない」

「こら! ナーディル! なんて罰当たりな!」

「姉貴も姉貴だ、なんでこんなキャラバンなんかに……うおっ?」

 リームに襟首をつかまれ、絞り上げられるナーディル。戦慄を覚えた。

「おいお前、黙って聞いてりゃ、こんなキャラバンたあ何だ?」

「ああ、我が弟ながら、もう付き合いきれない。リーム、もういいよ。もうじき離陸だよ」

「あ、ああ。そうだな、この女の腐ったようなへそ曲がり! ここでみっちり反省しろ!」

「そうね、ナーディルには考え直してもらわないと……今度怒ると、わたしも酷いわよ」

「……」

「ふんっ、行きましょ、リーム」

「そうだな、じゃあ、あたしはムーヴァーの中で!」

「私は、コックピットで!」

 

 大空から見ると、一羽の白鳥のような、フランスのコンコルドのような姿の、ピッツリー7570の船体が、ゆっくりと誘導路上を動き始める。しばらく、メルグヴィッツ市とはおさらばだ。目指すは、聖都、セント・フェリーナ市。ブースターに点火されると、一気に身体に重力がかかってゆく。


セント・フェリーナへ急げ!

 リップスの通信端末に、地方病院に滞在中のキャラバンから無線電話が入電した。ニーナが受電した。

 

「はい、こちら準正規軍リップス。応答願います」

『こちら、南メルグ総合病院の産婦人科の医師で、ミエモ・サンタッチャと申します。とても難しい症例の妊産婦さんが1名おられるのですが、これから、セント・フェリーナ市に行かれるそうですね?』

「そうですが、何か?」

『私を含めて、ご家族をセント・フェリーナ市へ連れて行ってくださいませんか』

「少々お待ちください……船長! 船長! 南メルグ総合病院ってここから何キロ?」

『約250キロだな。それがどうした?』

「医師と、身重の患者さんがいるの。今交渉中だけど、できれば船の速度と高度を落として!」

「わかった!」

「あのー、お待たせしました、速度と高度を下げて目視でそちらに向かっていますが……」

『助けて戴けるんですね?

「退役軍人の指示を仰ぎます。お待ちください……長老、こうおっしゃっていますが」

「ワシに電話を代われ……もしもし。リップスの総責任者ですが、そちら、病院で何かおありのようですな」

『はい、どうしても2日以内にセント・フェリーナ市の病院へ届けないと、母子共に危ない状態でして……。ご主人も、憔悴しきっています……』

「それで、条件は?」

『移送にかかる運賃、キャッシュで250万ミント、先払いでお願いしたいのですが……』

「ふむ、なるほど。多少条件は悪いものの、お引き受けする方向で調整します。その場を離れずにもう少しお待ち願いたい。識別コードを発信して欲しいのじゃが……」

『コード910、救急搬送です』「コード950、受諾した」

『良かった、ありがとうございます!』

「では、船長に代わるので、ちょっとお待ち願いませんでしょうかのお」

『はい』

「もしもし、船長のジョマ・グリシアです。近くに滑走路か、広い道路はありませんか?」

『あいにく、河川敷しかご利用いただける場所はなく……』

「そこに垂直着陸を試みます。目印は何ですか?」

『5階建ての、建物の上に、ヘリポートがある総合病院です、草原地帯の中にあります。いま、屋上でシーツを振っています!』

「目視で見てますが……10キロ先、見えました! 目視で着陸します!」

『おお、来られた! リップスの皆さんが来られるぞ! 喜べ! 助かるぞー!』

「騒々しいなあ……あのー、危ないですから、本艦のバーナーからは、出来るだけ離れてくださいね! 着艦します!」

 

 滑空式航空母艦、ピッツリー7570は、高度を下げ、轟音を上げて河川敷に着艦した。

「クルク、カイザル、リーム! 念のため武装して。もし異状があったら知らせて頂戴。じゃあ、行って!」

「分かった」「了解!」

 そこは、一面に芝生が敷かれた総合病院で、コンクリートの壁面にはツタが生い茂っていた。そこへ、年の頃まだ20歳代とおぼしき白衣の医師と、助産婦、それに身重の奥さんと、付き添う旦那さんの姿があった。

 

「リーダーの、ナバス・クルクです」

「ミエモ・サンタッチャ、この病院の医師です。先ずは、お約束のキャッシュを……」

「はい、確かに受領しました。艦内には医務室がありますので、そちらをご使用下さい」

「はい、分かりました。誘導をお願いします」

「うあ、この奥さん、重い……カイザル、奥さん抱えられる?」

「任せておけ」「おおー! ひょいと抱え上げたわねー! お姫様だっこ?」

「どうもお世話になります、イガル・イントンと言います。先ほどの者が、妻のラファーニ・イントンと申します、どうかよろしくお願いします」

「いえいえ、お礼は、セント・フェリーナ市に入ってからでいいですよ、医務室近くの居室に誘導します」

「助かります」

 

 各員は、左舷のハッチから、居室階目指して足早に進む。

『カイザル、クルク、リーム! 聞こえる? ニーナよ。扉を閉めたら、その人たちの警護をお願いします。よろしくね』

「あん? わかったってば姐さん……警護します」

「警護してりゃーいいんだね」

「分かった」

『頼むわよ』

 

 滑空式航空母艦、ピッツリー7570が、垂直上昇を始めた。高度が次第に上がって行く。上空500メートル付近で水平噴射に変わった。高度をどんどん上げていき、上空1.8キロメートル(60,000フィート)のところで船長が叫んだ。

『みんな、何かにつかまれ、みんな! 緊急搬送スピードだ! 音速を超えるかも知れないぞ!  マッハ2.7ぐらいかな……ともかく、行けえええー!』

 

 クルクは電卓を叩きながら考えた。

「マッハ2.7で5000キロメートルを行くと言うことは……2.7かける1224km/hで3305km/hと言うことは……。5000kmを、およそ1時間半で行く! なんて無謀な!」

 イントンさんのご主人が喜ぶ。

「これは助かった! 1時間半ですぞ先生!」

 サンタッチャ先生は困惑する。

「しかし、速いのはいいが、母胎に影響はありはしないかと」

 イントンさん。

「戦闘機以上のスピードですからね」

 

 医務室でのカイザル、クルク、リームは焦った。

「ちょ、ちょっと待った!」

「音速を出すのはまだやめてくれ! まだ患者さんをベッドに寝かしつけてない!」

『ううー、もう、じれったい奴らだなあ……早く寝るなり、座ってくれ!

「船長、もういいぞー」「医務室、スタンバイ完了」「わ、私たちの方もオーケーです」

『分かった! 全段直結、マキシマムパワーだ、行けえええー!』

「おたくの船長さん、凄く勢いがありますな」医師が問いかける。

「ああ、まあ……勢いだけはね」リームが苦笑する。

 

 こうして、全火力を噴出した滑空式航空母艦は、一路、セント・フェリーナ市に向けて、まるでロケットか何かのように突き進むのだった。

 

     ◇ ◇ ◇

 

 衝撃波で、文化遺産を壊さないようにとの警察当局からの指摘もあり、渋々船長は、教会のない方の隣接する政治都市、フェリーナ市の空港に着艦した。早速、地元救急隊が、ドカドカと医務室に入って来た。妊産婦を抱え、旦那さんと医師を乗せると、救急車がサイレンを鳴らして去って行った。

 

「一件落着。さてと、ゆっくりとセント・フェリーナ空港へ向かおうとするか! 発進する!」グリシアが叫ぶ。

「さぞかし、ソニックブーム(地上に与える衝撃波)が酷かったでしょうね」ニーナがつぶやく。

「わしゃ死ぬかとおもったわい……」長老が嘆く。

「今度こそは衝撃波出さないでよねー」ニーナがあきれ顔。

「ただいまー。あれ、船長、今度はどこ行くの?」クルクが問う。

「えー、皆様を、古都、セント・フェリーナ市へお送りいたしまーす」グリシア船長。

「バスガイドか何かかよ!」リームがあきれている。

「疲れた、加速度が身に応えた」カイザルがうめく。

「あー、腰に、腰に来たあー」ファーナが言う。

「お前はお婆さんか!」リームのツッコミは鋭い。

「しずしずしず……あれ、もう音速ごっこは終わったのですか?」レマーユが言う。

「ああ、無事に病院に届けたよ」得意げにグリシアが言う。

「ふうん……そうですか。でも皆さん、誰かひとり忘れていませんかー?」レマーユが廊下の向こうを指さす。

 一同「あっ! チャタ・ナーディル!」

 

 ここへ来て、ようやく船室に閉じ込めているチャタ・ファーナの弟、チャタ・ナーディルの存在に気が付いた。みんなが居室へ駆け寄る。すると……。

「きゅう~」

「ナーディル!」

 ナーディルは、シートベルトをしていなかった模様で、ピンポン球のように、部屋中あちこちぶつけたらしく、鼻血の跡が居室じゅうに広がっていた。ナーディル自身は、居室の壁に背中をめりこませて、かなり目を回しているようだった……。

「すまん、ファーナさんのおとうと!」

「なんでえ、だらしのねえ奴だなあ……」

「女子のみんな、彼を着替えさせて、違う部屋へ入れてくれ……居室の掃除は、我々男性陣でやるから……」

「シートベルト、締めてなかったんですね……」

一同「ふー、やれやれ……」


第二の首都、セント・フェリーナ

 リップスは、セント・フェリーナ空港に着艦した。ボーディングブリッジを架けてもらい、船長は早速天候調査と称して、民間航空機会社、ビザリー・エアのスタッフルームに、旧知の友人を訪ねた。すると、早速スタッフのうちのひとりが、ジョマ・グリシアに向かって声を掛けてきた。

 

「おい、お前、ジョマ・グリシアでないの? いやあ、何やってんだこんな所で! 久しぶりだなあ……」

「や、やあ、準正規軍リップスの、船長をしている」

「マスコミ屋のお前が? 信じられない……おーい、みんな来い! 空軍にいた、へっぽこグリシア君が来たぞー!」

「なに? あの、へっぽこグリシアが? 本当だ!」

「やあ、どうもどうも。メルグヴィッツ市から、急患を運んだから、マッハ2.7で隣町まで来たので、そのついでに、ここでキャラバンを開くことにした」

「マッハって……無茶するなよー。で、機体は何だ?」

「陸軍のバトルシップ、ピッツリー7570の払い下げ品だ!」

「お前! よく事故らなかったな。無傷でいられるのが奇跡だぞ!」

「俺も、あの頃のような、へっぽこグリシア君じゃないよ」と、はにかみながら笑った。

「ま、まあ、天候調査に来たなら、折角だから、ブリーフィングをしよう。まあ、座れ。珈琲でも飲め飲め!」

「ああ、美味しくいただくよ」

「で、早速なんだが、お前が言ってた、4日後のセント・フェリーナ周辺の気候だが……」

 

 一方、ラルタ・ニーナは、早速開かれたキャラバンのレポートをしている。もちろん、カメラマンはナバス・クルク。

 

「皆様こんにちは。キャラバン、リップスに同行取材している、記者のラルタ・ニーナです。前回、私がメルグヴィッツ空港のロケで、これからビザリナ北部のブルコニッツ空港へ行く、と申し上げましたが、その後の天候調査で北へ向かえないことが分かり、急遽予定を変更して、いまわたくしは、ビザリナ南部、古都、セント・フェリーナ空港に来ております。セント・フェリーナは、敬虔な祈りと、古い文化遺産に満ちた街であり、一種独特の文化圏を形成しています。そんな静かな都、セント・フェリーナ市でも、このようにキャラバンのためのキャラバン、ジプシーのためのキャラバンとして、リップスが活発に商取引を行っています。意外な事に、スタッフの老人自ら店頭に立ち、骨董品の品定めに当たっています。ここでの滞在は今日から3日間。国内線28番ゲートのボーディングブリッジからもお越しいただく事が可能となっております。また、在庫限定品の海の幸、小麦製品などは、はるばるリズアーモからもたらされたものです。このチャンスをお見逃し無く。以上、ビザリーニューズ社の、ラルタ・ニーナが、セント・フェリーナ空港からお伝えいたしました」

「はい、カット!」

「ふー、スポーツドリンクを頂戴、クルク!」

「ほらよっと!」

「サンキュー! あれ、いま試写見てるんだけど、あたし、こんなにおでこ光ってた? いやー、恥ずかしい!」

「汗かいてたから、誰でもなるよ!」

「撮り直しも面倒だし……仕方ない、本社へ送信するわ……ぽちっと」

 

 一方、コックピットでは、イプス・カイザルが警備ついでに、いろいろな計器類のテストを行っていた。船が乗っ取られないように、常に警護しなければならない決まりになっている。カイザルがコックピットに座っているだけで、絵になるというか、頼もしい限りだ。

 

 その頃、ムーヴァーの格納庫では、つなぎの作業着に着替えたナバス・リームと、ビザリナ風の普段着に着替えさせられた、チャタ・ナーディルが、ちょっとした問答になっていた。

「どうなんだ、お前、親父さんところへ帰るのか、それとも、姉ちゃんと行動を共にするのか、はっきりしなさいよ!」

「うるせえなあ……姉貴に付いて行くしかねえだろ? ムーヴァーだって動力炉壊されて!」

「鉄道で帰れよ。協力する気がない奴を食わしていけるだけの余裕はないからね!」

「じゃあ切符くれよ!」

「それなら、カネ出せよ! ひ弱のお坊ちゃまが、生意気言ってんじゃねえよ。いいか、あの親父さんは、ファーナを溺愛し過ぎてる。お前も溺愛されすぎている。このままじゃ良くないと、お姉さんは思うのだ」

「じゃあ、どうすんだよ」

「お前、今日からあたしのメカニック手伝え! 剣も教えてやる! 腕っ節だって鍛えてやっから、付いて来いよ! 絶対に損はさせねえ!」

「畜生……しゃあねえな……メカ、教えてくれよ。あそこにぶら下がっている、オレのムーヴァー直してくれよ」

「うん、まずはそこから直そうか。いや、お前、みんなのムーヴァー、磨くとこから始めろ」

「はあ?」

「メカニックについては、あたしの背中を見て、技を盗んで覚える。当面はそうしよう。決まりだ」

「ちっ!」

「てめ! 舌打ちしてんじゃねーよ! さっさと磨く! あ、男手が必要になったら呼ぶから、お前、重いもの持てよ、いいな」

「か、勝手に決めんなよ!」

「おしゃべりはこれまでだ。お前の性根を鍛え直してやる! さあ、来い!」

「わかったよ……やりゃーいいんだろ、やりゃー」

「随分物わかりが良くなったな。お前を、この手で、一人前のメカニック担当にしてやる!」

 

 一方、ここは売る側のキャッシャー。レジスターが置いてあるところだ。そこで、ファーナがお客さんに向かって声を上げた。

「はーい、皆さん、キャラバン毎に1袋限定、お魚詰め放題セール! 塩漬けにしてありますので、オリーブオイルで焼くだけ簡単! 美味しく召し上がれますー。スタート!」

 群衆は我先に、魚をビニール袋に入れようとするが、なかなか上手く入らない様子。生魚を扱ったことがない人たちばかりだからだ。いつもは缶詰になっているので、勝手が違っていた。

 

 そして、こちらでは買う側のキャッシャー。長老と、ブリーフィングから戻って来た船長が、ビーム砲の品定めをしている。

「ええ、それはもう、状態の良い品でして、正規軍が使用しているものと同等品で、射程は最大200キロメートル。ジャンクにしておくのが勿体ないぐらいで……」

「いや、ジャンクは買えないなあ……。暴発されても何の保証もないんで。保証書の付いているものをお持ちの方! いませんかー?」

「いや、ジャンクも予備で買うのじゃ。スペアとしてな。但し、定価の十分の一でな」

「それで結構でございます。品物は確かなので、どうぞお納めください」

「はい、キャッシュ。お売りいただき、ありがとうございました」

「どなたか、7570につなぐことが出来る、正規品のビーム砲お持ちの方、おられますかー」

 とても忙しい。

 

 コックピットには、カイザルが座っていたが、ラルタ・ニーナと、ナバス・クルクが帰って来たので、カイザルはある事を訊いてみようと思った。

「クルク、あいつ……ファーナの弟はどうした?」

「あいつなら、リームに説教されてた。調教するつもりなんじゃない?」

「面白そうね。気が強い者同士、お似合いなんじゃないかしら?」

「ふうん……そうか……なら、良いんだがな」

 カイザルは、納得したのか、また黙った。が、次の瞬間……。

「いかん。オレとしたことが……。キャラバンに燃料を小売りするのを、忘れてた……」

 カイザルは早足で廊下を船の下弦へと歩いて行った。

「何で、カイザルまで張り切っているのかしら……もしや、売り上げ競争?」

「そういうこと。船長がおひねりを出すっつーから、みんな張り切っちゃって」

「それでファーナまで、あんなハイテンションだったのねー、欲っちいな……」

「僕も、ジャンクパーツ売りに行きますよ! 稼ぐぞ稼ぐぞ-、それ行けー!」

「クルクまで! やれやれ……さてと、レーダーの監視でもしますかね……珈琲淹れようっと」

 

 コックピットは静かになった。ニーナひとりがレーダーや、気象観測衛星、監視カメラ、メッセージや無線の送受信を行っていた。そこに、レマーユがやってきた。

 

「あれ、ニーナさん、おひとりですか? 兄はどこへ……」

「クルクかい? クルクなら、売り上げ競争だ、って言って、飛び出して行ったさ」

「私の喫茶店も、在庫が尽きちゃって……食器洗って帰って来ました」

「じゃあ、茶葉とか珈琲とか、この時期アイスクリームなんかも仕入れましょうか!」

「賛成です! あと、カップとソーサーが足りません。食洗機の洗剤なんかも」

「うん、わかった。お姉さんに任せて! こういう時の、人脈もあるのよ」

「人脈ですか……?」

「ビザリー・ニューズ社、セント・フェリーナ支局。ちょっと支局長に電話するわ」

「なるほどー! すごいですー」

 しばらくすると、ボーディングブリッジの方から、台車に食器やらスイーツやら珈琲やら紅茶などを積んだ、ビザリー・ニューズ社、若手社員が数名やって来た。

「よっ、待ってたぞ! こっちこっち!」

「ラルタ・ニーナさん……初めまして。ビザリー・ニューズ社、支局員若手有志です!」

「早速だけど、この娘のお店、地上のカフェテリアまで、それ全部持っていって、荷ほどきしてくんない? 棚への陳列もよろしく」

「それはもう、ニーナさんのご友人とあれば、何だってさせてもらいますよ」

「じゃあ、カフェテリアの運営の手伝いも、閉店までよろしくね! 私から支局長に電話で言っておくから、残業代付くわよ」

「はーい、分かりました! お前ら、行くぞー!」

「うん、結構、結構! レマーユちゃんにもご褒美が行きますように……っと」

 

 かくして、壮絶な売り上げ競争、第1日目、終了。


セント・フェリーナ空港、二日目!

 セント・フェリーナ空港、二日目。長老、セペル・チェルダードが、作戦会議室(食堂)のホワイトボードの前に立ち、みんなに説明をしている。今日の販売体制の確認と、非常事態時のフォーメーションの確認をしていた。キャラバンのためのキャラバンは、今日もここ、古都セント・フェリーナ空港で行われる。

 

「今日は陸軍のお偉いさん……と言ってもワシの元部下じゃが、お偉いさんが商談に来るので、ワシとグリシアは、ビーム砲装置の正規品の商談に入るので、午後じゅうずっとかかりきりだ。レマーユは今日一日喫茶の用意を。グリシアは午前中、ビーム砲の必要スペックに関するレジュメを作り、昼までに提出するように。午後から商談に同行すること。ニーナはわしらにコーヒーと、ブリーフィングを共に。クルクとファーナはキャッシャー。カイザルはキャッシャーや喫茶などでの警備を。リームとナーディルは……まあ、いつも通り、メカの特訓じゃな。まあ、そういうわけで、二人抜けるので、多少忙しくなるぞ」

「はーい」っと答える女子軍団。

「ちーっす」っと答える男子軍団。

「ちっ、やれやれ……またこいつとかよ……」っとつぶやく、リームとナーディル。


グリシアが、昨日の売上報告をした。

「えー、昨日の売上第4位。料金単価が高いので、ジェット燃料を売った、カイザル!」

「おおー!」

 一同が声を上げた。意外そうだった。

「地味なのに……」

「そして、昨日の売上第3位。チャタ・ファーナ!」

 一同がどよめく。

「おおー!」

 ニーナがささやく。

「まあ、妥当な線かしらね、キャッシャーでひとり頑張ってたもの」

「恐れ入ります、ニーナさん」

「そして、昨日の売上第2位。ナバス・クルク!」

 一同が、声を上げる。

「さすがリーダー!」

「機械製品は単価が高いからね!」

「でも、1位は誰だろう……」

 グリシアが、ドラムロールみたいな口真似をして第1位を発表する。

「ジャン! 昨日の同率第1位は、レマーユとニーナに決定しました!」

 一同がざわめく。グリシアが続ける。

「これは、カフェテリアの収入だな。ニーナがビザリーニューズ、セントフェリーナ支局の手伝いもあって、修道女カフェは人気だったぞ! さあ、それぞれに賞金だ!」

 リームが遮る。

「ちょっと待って! あたいは?」

 グリシアが続ける。

「リームちゃんには、特別功労賞として、レーザー反射型、防弾型の赤い甲冑と寸志をやろう」

 リームが小躍りする。

「やった! 今までの甲冑、少し古かったんだ! おっしゃ、ありがとよ、船長!」

 レマーユが、グリシア船長に申し出た。

「あのー、こんな大金、わたし使うところがないので、お姉様と半分こしたいのですが……」

 グリシアが言う。

「そうだなあ、レマーユちゃんの好きにしていいよ!」

 がっちり赤い甲冑を決め込んだリームが、レマーユの肩に腕を乗せる。

「さっすが、あたいの妹、よくできてるわー」

「とんでもないです。いつもリップスを守ってくれるのは、お姉様の貢献あってこそです」

「ま、小遣いは多い方がいいからな。ありがたく頂戴するぜ!」

 ナーディルが、ちょっと待て! と言った感じで制止する。

「船長……僕のは?」

「うーん、長老、どうします?」

「ナーディル! お前は捕虜という立場を忘れたのか! 黙ってムーヴァーを磨くのだな。まずはその腐った根性から叩き直さねばならぬ! お金はあるのじゃろ? 贅沢を言うな」

 長老の、怒濤の迫力に気圧されて、すっかり意気消沈したナーディル。

「はああ……」

 ファーナが声をかける。

「ナーディル、おとなしくリームの言うことを聞いてるなら、少し分けてあげても良くってよ」

「ありがとう、姉さん!」

 リームがぼやく。

「ちっ、こんな奴、荒野のど真ん中に置き去りにするがいいさ」

 ナーディルがかみつく。

「何だとコラ! 甲冑女!」

「何だとてめえ! ま、待ちやがれ! 逃げても無駄だ!」

「こっちまでおいで、ベロベロバー!」

「こんのクソガキが! 待てー! 後でムチでしばいてやるからなー」

 

 取り残されたみんな。クルクがつぶやく。

「あーあ、行っちゃった。リームを敵に回すとキケンなのに」

 レマーユがつぶやく。

「新品の甲冑を差し上げて、私の報奨金を半分こにしたいのですが……」


     ◇ ◇ ◇


 レマーユが、ファーナに廊下で声をかけた。

「ファーナさん、今日は髪型変えました?」

「そうよレマーユちゃん。基本的には変えていないけど、カチューシャのところに、エクステ風にこうやって」

「そう……可愛らしくて羨ましい……私なんか、ずっとこの修道女スタイルでしょ? 退屈しちゃって……」

「あら、それはそれで可愛らしいわよ。なんか、永遠の思春期みたいで、つややかな黒髪! 素敵じゃない!」

「え、永遠の思春期ってファーナさん……思春期……ううむ……」

 リームが、二人に声をかけた。

「よっ、ファーナにいもうと! おっす! おまえらお洒落だなあ! あたいは、さっき甲冑磨いてきた!」

「……ザリガニ?」

「……ロブスター?」

「ひどい! こいつら失礼!」

 ニーナが、こちらに向かって歩いて来た。

「あらまあ、今日も立派な甲殻類ね、リームちゃん!」

「今度は甲殻類か……ろくな言われ方しねえな……」

「ねえねえ、ファーナちゃんにリームちゃん、レマーユちゃん! 今夜は女子会と洒落込まない? その前に、リームちゃんを女っぽくドレスアップしましょう!」

 二人「賛成ー!」

「ちょっと待って、ニーナさん! あたいは、そのー。甲冑脱ぐとあまり逞しくないんで、遠慮しときます」

「何言ってんの! ドレスアップとはいかないまでも、そのザリガニファッション、時には変えてみない?」

「じゃあ、決まりね! まずはその紅く染めた髪の毛から処理ね!」

「お姉様からバトルファッション取り除いたら……わたしに似るんじゃないでしょうか」

「おおー! それは楽しみ! バスルームに直行! 行きますよ皆さん!」

「ちょ……勝手に決めんなよ! おい、待て! 離せ!」

 

 リームは、まず、赤茶色に染められた髪を、脱色して栗毛色に染められた。そして、内巻きショートボブにするために、カーリーアイロンで形を整え、鏡に向かってみんなが発した言葉がこれ。

「誰?」

「誰? じゃねえよ、あたいだ! これじゃあ、弱っちく見えるんじゃね?」

「それがいいんじゃない。あら、眉毛は描いていたのねー」

「さあさ、甲冑外して外して……」

「おい! あたいを素裸にする気か! やめろ!」

「大丈夫、衣装部屋には商品含め、たくさんのストックが」

「諸君、ナバス・リームちゃんを、衣装部屋に連行だ!」

「ラジャー!」「はいはい」「って! 両腕を持つな! 逃げねえから!」


 衣装部屋の中で、リームたちがドタバタガサゴソ音を立てた後、やがて止んだ。

「中に……キャミソールなんて初めて着た……スカート……なんかスースーする……」

「素朴なファッションが、また良し! お姉さん感激!」

「女の子らしくなりましたね、お姉様!」

「うるせえよ!」

「磨けば光る天然素材! あとは、サンダルかな? あ、甲冑は倉庫に入れて施錠して」

「サンダルなあ……ヒールの高い靴は履いたことがねえ……って、施錠って何だよ?」

「この鍵は、明日まで、このわたくし、ラルタ・ニーナさまがお預かりします」

「なんだと? じゃあ、もし、突然ここでバトルが始まったら、こんなフリフリの衣装のままで出撃すると?」

「そうね、そういうことになるねー」

「後は、眉毛を描いて……ジャーン! クリームのようなリームちゃんの出来上がり!」

「……」

「すばらしい! お姉さん感激!」

「ファーナも感激! レマーユちゃんそっくり!」

「あ、まあ……な。いちおう姉妹だしな……」


 そこへ、リームを探しに武器庫から出て来たチャタ・ナーディルが姿を現した。


「あのー。レマーユさん、お姉さんを捜しているんですが……うわぁ!」

「あ゛あ゛~!?」

 リームとしては、ものすごく恥ずかしい。

「ひっ! 本物!?」

「誰がレマーユだと、コラ!?」

「ひえー、たっ、たっ、助けてくれええええー」

 脱兎の如く逃げ出すナーディル。

「ぜい、ぜい、ぜい……まさか本当にレマーユに間違えられるとはな……あたしとしたことが!」


ビザリナ陸軍とトップ会談

 一方、こちらは、商談中のチェルダード長老と、グリシア船長。そして一方、ビザリナ陸軍の女傑准士官、イエラ・ミラルディさん。そして“ラスボス”、カルバ・ラナリット陸軍大佐が、普段リップスに来ない、セント・フェリーナ軍管区の幹部である。あとは、部下を引き連れて、ピッツリー7570滑空式航空母艦内の応接室へとニーナが案内した。


「大佐、こちらです」

「うむ。やあ、チェルダード元大佐、お元気そうで……」

「おお、カルバくんか。久し振りじゃのお……あ、これは、ビザリーニューズ社の社員で、リップスに人材派遣契約されている、船長のジョマ・グリシア。空軍フェリーナ基地で3年の兵役経験がある」

「どうぞよろしくお願いします、ラナリット大佐」

「うむ、うむ」

「では、お掛け下さい」ニーナが着席を勧める。取り巻きの兵士も、別室で控えている。


 応接室で、長距離レーザービーム砲を軍から購入しようとする商談が始まった。まず、イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官、陸軍准士官が口火を切った。他の男性たちは、西ビザリナ(バイザル皇国)と、東ビザリナ(ビザリナ共和国)を俯瞰した地図を囲んで腕組みをしていた。

「対するバイザル皇国軍は、地上部隊を増強、首都ジェンツや、アーツウォークなどのウルロア川沿岸に展開、それを、陸軍の空挺部隊と、空軍が空から叩いている、と言ったような状況がここ一~二年は続いています」

 

 カルバ・ラナリット陸軍大尉が、チェルダード元大尉に告げた。

「チェルダード元大尉、本気でレーザービーム砲で、皇国軍とやり合うおつもりか? 止した方が良い、あなたがたのような民兵組織には危険すぎる……荷が重い」

 

 イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が続ける。

「準正規軍を統べる立場から申し上げると、いま首都ジェンツでは、首都特別警察と陸海空軍合同で、バイザル皇国軍の首都侵攻を食い止めているところです」


 チェルダードが、切り出した。

「住民に食料や物資は行き渡っておるのかね、正直なところ……」

 カルバ・ラナリット陸軍大佐が、少し申し訳なさそうにつぶやく。

「それが、地下シェルターに住民をかくまっているような状態で、まるで戦争被災民のような有様でして……」

 グリシアが驚いて聞き返した。

「首都ジェンツが、そんなことに……」

 ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が答える。

「対岸からロケット砲が飛んでくる有様でして、物資も尽きる頃だと……まあ、定期的に海軍がジェンツの港から物資を運んで、陸軍がシェルターに物資を運んでいるという有様で……」

 セペル・チェルダードは、ジョマ・グリシアに耳打ちした。グリシアは納得した様子で相づちを打った。チェルダードが切り出した。

「よかろう。是非この7570を完全武装化し、物資の空輸は私共にやらせていただきたい。お願いできるかのお……」

 ラナリット大尉と、ミラルディ准士官が耳打ちをする。そして、こう言った。

「よろしいでしょうか、命の保証はありませんよ」

 チェルダードが応える。

「我々は民兵といえども、訓練を重ねた精鋭部隊じゃ。むしろ、そういうところへ出かけて行って、一戦交えつつも、住民に物資を配りたい。ぜひ、払い下げ母艦を完全武装化して欲しい。危険を察知した段階で、急速に内陸部に待避する。これをお願いできんかのお……カネならはずむ。責任は自己責任で。これがこちらの条件じゃ」

 チェルダードが、懐から6000万ミントの小切手を差し出すと、ラナリット大尉と、ミラルディ准士官は度肝を抜かれた。ラナリット大佐が驚いて訊いた。

「こんな大金、どこで?」

「日々のキャラバンの結果じゃよ。キャラバンのためのキャラバン。我々は軍事訓練を積むと同時に、隊商を行っていて、どの空港に着いても感謝感激されとるよ」

 ラナリット大佐と、ミラルディ准士官が顔を見合わせ、耳打ちを相互にし始めた。いわゆるひそひそ話の類だ。それが3~4分程続くと、双方が頷き、ラナリット大尉が切り出した。

「いいでしょう。根負けしました。ここの駐機場で新型のバリア装置を2台、それから主砲1門に、レーザービーム砲10機、大至急工事に当たらせます。ただし行動に当たっては……」

「行動に当たっては?」

「あくまで無理をせずに、ジェンツの東側からジェンツ州の州境ウザビク基地に着艦し、ウルロア川には近づかないこと。それともう1つ。武器弾薬を積んで補給の応援をして欲しいということです」

「うん、うん、それでこそ我が元部下、話が早いのお……」

「ありがとうございます、船長としても、身の安全が図れて安心致しました」

「安全には留意し、こちらの准士官の指揮命令系統に従うこと。これが最後の条件」

「商談成立よ、グリシアくん、気をつけて。私たちの言うことを聞いて!」

「分かりました、ミラルディ准士官さま!」


 カルバ・ラナリット大佐は、控えの兵士およそ30名を応接室に呼び、呼集をかけた。そして、約束通り、中古のバリア装置を外し、2台に増強し、主砲1門を据え付け、レーザービーム砲10機を取り付けることを命じた。完全武装への始まりだ。


     ◇ ◇ ◇


 キャッシャー付近では、中小のキャラバンでごった返していたが、突然の兵士の出現、そして船体に着々とクレーンで運び込まれ、据え付けられる主砲やレーザービーム砲などの工事場面を見て、「うわー」と言った面持ちで、みんな機体の方向を見ていた。あるキャラバン関係者のつぶやき。

「あの主砲、軍事用じゃないか。あんなもの取り付けてどこで何をするんだろう……」

「さあ、分からん」

「まさか、国境地帯に行くとか……」

「そんなはずネエだろ、さあさ、商談の続きだ! 兄ちゃん! この塩幾らだい?」

「1袋15ミントになります」

「じゃあ、10袋おくれ!」


 ナバス・クルクは、商品を売りながらも、実は武装化されて行くピッツリー7570が気になっていた。着々と滑空式航空母艦に備え付けられて行く装備、いやが上にも緊張が高まって行った。

 ナバス・レマーユも、カフェで同じようなことを考えていた。戦争に巻き込まれるだろうキャラバンの行く末を祈って、こっそりとカウンターの中で、胸に十字を切った。



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