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セント・フェリーナ空港、二日目!

 セント・フェリーナ空港、二日目。長老、セペル・チェルダードが、作戦会議室(食堂)のホワイトボードの前に立ち、みんなに説明をしている。今日の販売体制の確認と、非常事態時のフォーメーションの確認をしていた。キャラバンのためのキャラバンは、今日もここ、古都セント・フェリーナ空港で行われる。

 

「今日は陸軍のお偉いさん……と言ってもワシの元部下じゃが、お偉いさんが商談に来るので、ワシとグリシアは、ビーム砲装置の正規品の商談に入るので、午後じゅうずっとかかりきりだ。レマーユは今日一日喫茶の用意を。グリシアは午前中、ビーム砲の必要スペックに関するレジュメを作り、昼までに提出するように。午後から商談に同行すること。ニーナはわしらにコーヒーと、ブリーフィングを共に。クルクとファーナはキャッシャー。カイザルはキャッシャーや喫茶などでの警備を。リームとナーディルは……まあ、いつも通り、メカの特訓じゃな。まあ、そういうわけで、二人抜けるので、多少忙しくなるぞ」

「はーい」っと答える女子軍団。

「ちーっす」っと答える男子軍団。

「ちっ、やれやれ……またこいつとかよ……」っとつぶやく、リームとナーディル。


グリシアが、昨日の売上報告をした。

「えー、昨日の売上第4位。料金単価が高いので、ジェット燃料を売った、カイザル!」

「おおー!」

 一同が声を上げた。意外そうだった。

「地味なのに……」

「そして、昨日の売上第3位。チャタ・ファーナ!」

 一同がどよめく。

「おおー!」

 ニーナがささやく。

「まあ、妥当な線かしらね、キャッシャーでひとり頑張ってたもの」

「恐れ入ります、ニーナさん」

「そして、昨日の売上第2位。ナバス・クルク!」

 一同が、声を上げる。

「さすがリーダー!」

「機械製品は単価が高いからね!」

「でも、1位は誰だろう……」

 グリシアが、ドラムロールみたいな口真似をして第1位を発表する。

「ジャン! 昨日の同率第1位は、レマーユとニーナに決定しました!」

 一同がざわめく。グリシアが続ける。

「これは、カフェテリアの収入だな。ニーナがビザリーニューズ、セントフェリーナ支局の手伝いもあって、修道女カフェは人気だったぞ! さあ、それぞれに賞金だ!」

 リームが遮る。

「ちょっと待って! あたいは?」

 グリシアが続ける。

「リームちゃんには、特別功労賞として、レーザー反射型、防弾型の赤い甲冑と寸志をやろう」

 リームが小躍りする。

「やった! 今までの甲冑、少し古かったんだ! おっしゃ、ありがとよ、船長!」

 レマーユが、グリシア船長に申し出た。

「あのー、こんな大金、わたし使うところがないので、お姉様と半分こしたいのですが……」

 グリシアが言う。

「そうだなあ、レマーユちゃんの好きにしていいよ!」

 がっちり赤い甲冑を決め込んだリームが、レマーユの肩に腕を乗せる。

「さっすが、あたいの妹、よくできてるわー」

「とんでもないです。いつもリップスを守ってくれるのは、お姉様の貢献あってこそです」

「ま、小遣いは多い方がいいからな。ありがたく頂戴するぜ!」

 ナーディルが、ちょっと待て! と言った感じで制止する。

「船長……僕のは?」

「うーん、長老、どうします?」

「ナーディル! お前は捕虜という立場を忘れたのか! 黙ってムーヴァーを磨くのだな。まずはその腐った根性から叩き直さねばならぬ! お金はあるのじゃろ? 贅沢を言うな」

 長老の、怒濤の迫力に気圧されて、すっかり意気消沈したナーディル。

「はああ……」

 ファーナが声をかける。

「ナーディル、おとなしくリームの言うことを聞いてるなら、少し分けてあげても良くってよ」

「ありがとう、姉さん!」

 リームがぼやく。

「ちっ、こんな奴、荒野のど真ん中に置き去りにするがいいさ」

 ナーディルがかみつく。

「何だとコラ! 甲冑女!」

「何だとてめえ! ま、待ちやがれ! 逃げても無駄だ!」

「こっちまでおいで、ベロベロバー!」

「こんのクソガキが! 待てー! 後でムチでしばいてやるからなー」

 

 取り残されたみんな。クルクがつぶやく。

「あーあ、行っちゃった。リームを敵に回すとキケンなのに」

 レマーユがつぶやく。

「新品の甲冑を差し上げて、私の報奨金を半分こにしたいのですが……」


     ◇ ◇ ◇


 レマーユが、ファーナに廊下で声をかけた。

「ファーナさん、今日は髪型変えました?」

「そうよレマーユちゃん。基本的には変えていないけど、カチューシャのところに、エクステ風にこうやって」

「そう……可愛らしくて羨ましい……私なんか、ずっとこの修道女スタイルでしょ? 退屈しちゃって……」

「あら、それはそれで可愛らしいわよ。なんか、永遠の思春期みたいで、つややかな黒髪! 素敵じゃない!」

「え、永遠の思春期ってファーナさん……思春期……ううむ……」

 リームが、二人に声をかけた。

「よっ、ファーナにいもうと! おっす! おまえらお洒落だなあ! あたいは、さっき甲冑磨いてきた!」

「……ザリガニ?」

「……ロブスター?」

「ひどい! こいつら失礼!」

 ニーナが、こちらに向かって歩いて来た。

「あらまあ、今日も立派な甲殻類ね、リームちゃん!」

「今度は甲殻類か……ろくな言われ方しねえな……」

「ねえねえ、ファーナちゃんにリームちゃん、レマーユちゃん! 今夜は女子会と洒落込まない? その前に、リームちゃんを女っぽくドレスアップしましょう!」

 二人「賛成ー!」

「ちょっと待って、ニーナさん! あたいは、そのー。甲冑脱ぐとあまり逞しくないんで、遠慮しときます」

「何言ってんの! ドレスアップとはいかないまでも、そのザリガニファッション、時には変えてみない?」

「じゃあ、決まりね! まずはその紅く染めた髪の毛から処理ね!」

「お姉様からバトルファッション取り除いたら……わたしに似るんじゃないでしょうか」

「おおー! それは楽しみ! バスルームに直行! 行きますよ皆さん!」

「ちょ……勝手に決めんなよ! おい、待て! 離せ!」

 

 リームは、まず、赤茶色に染められた髪を、脱色して栗毛色に染められた。そして、内巻きショートボブにするために、カーリーアイロンで形を整え、鏡に向かってみんなが発した言葉がこれ。

「誰?」

「誰? じゃねえよ、あたいだ! これじゃあ、弱っちく見えるんじゃね?」

「それがいいんじゃない。あら、眉毛は描いていたのねー」

「さあさ、甲冑外して外して……」

「おい! あたいを素裸にする気か! やめろ!」

「大丈夫、衣装部屋には商品含め、たくさんのストックが」

「諸君、ナバス・リームちゃんを、衣装部屋に連行だ!」

「ラジャー!」「はいはい」「って! 両腕を持つな! 逃げねえから!」


 衣装部屋の中で、リームたちがドタバタガサゴソ音を立てた後、やがて止んだ。

「中に……キャミソールなんて初めて着た……スカート……なんかスースーする……」

「素朴なファッションが、また良し! お姉さん感激!」

「女の子らしくなりましたね、お姉様!」

「うるせえよ!」

「磨けば光る天然素材! あとは、サンダルかな? あ、甲冑は倉庫に入れて施錠して」

「サンダルなあ……ヒールの高い靴は履いたことがねえ……って、施錠って何だよ?」

「この鍵は、明日まで、このわたくし、ラルタ・ニーナさまがお預かりします」

「なんだと? じゃあ、もし、突然ここでバトルが始まったら、こんなフリフリの衣装のままで出撃すると?」

「そうね、そういうことになるねー」

「後は、眉毛を描いて……ジャーン! クリームのようなリームちゃんの出来上がり!」

「……」

「すばらしい! お姉さん感激!」

「ファーナも感激! レマーユちゃんそっくり!」

「あ、まあ……な。いちおう姉妹だしな……」


 そこへ、リームを探しに武器庫から出て来たチャタ・ナーディルが姿を現した。


「あのー。レマーユさん、お姉さんを捜しているんですが……うわぁ!」

「あ゛あ゛~!?」

 リームとしては、ものすごく恥ずかしい。

「ひっ! 本物!?」

「誰がレマーユだと、コラ!?」

「ひえー、たっ、たっ、助けてくれええええー」

 脱兎の如く逃げ出すナーディル。

「ぜい、ぜい、ぜい……まさか本当にレマーユに間違えられるとはな……あたしとしたことが!」


ビザリナ陸軍とトップ会談

 一方、こちらは、商談中のチェルダード長老と、グリシア船長。そして一方、ビザリナ陸軍の女傑准士官、イエラ・ミラルディさん。そして“ラスボス”、カルバ・ラナリット陸軍大佐が、普段リップスに来ない、セント・フェリーナ軍管区の幹部である。あとは、部下を引き連れて、ピッツリー7570滑空式航空母艦内の応接室へとニーナが案内した。


「大佐、こちらです」

「うむ。やあ、チェルダード元大佐、お元気そうで……」

「おお、カルバくんか。久し振りじゃのお……あ、これは、ビザリーニューズ社の社員で、リップスに人材派遣契約されている、船長のジョマ・グリシア。空軍フェリーナ基地で3年の兵役経験がある」

「どうぞよろしくお願いします、ラナリット大佐」

「うむ、うむ」

「では、お掛け下さい」ニーナが着席を勧める。取り巻きの兵士も、別室で控えている。


 応接室で、長距離レーザービーム砲を軍から購入しようとする商談が始まった。まず、イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官、陸軍准士官が口火を切った。他の男性たちは、西ビザリナ(バイザル皇国)と、東ビザリナ(ビザリナ共和国)を俯瞰した地図を囲んで腕組みをしていた。

「対するバイザル皇国軍は、地上部隊を増強、首都ジェンツや、アーツウォークなどのウルロア川沿岸に展開、それを、陸軍の空挺部隊と、空軍が空から叩いている、と言ったような状況がここ一~二年は続いています」

 

 カルバ・ラナリット陸軍大尉が、チェルダード元大尉に告げた。

「チェルダード元大尉、本気でレーザービーム砲で、皇国軍とやり合うおつもりか? 止した方が良い、あなたがたのような民兵組織には危険すぎる……荷が重い」

 

 イエラ・ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が続ける。

「準正規軍を統べる立場から申し上げると、いま首都ジェンツでは、首都特別警察と陸海空軍合同で、バイザル皇国軍の首都侵攻を食い止めているところです」


 チェルダードが、切り出した。

「住民に食料や物資は行き渡っておるのかね、正直なところ……」

 カルバ・ラナリット陸軍大佐が、少し申し訳なさそうにつぶやく。

「それが、地下シェルターに住民をかくまっているような状態で、まるで戦争被災民のような有様でして……」

 グリシアが驚いて聞き返した。

「首都ジェンツが、そんなことに……」

 ミラルディ準正規軍総指揮官(准士官)が答える。

「対岸からロケット砲が飛んでくる有様でして、物資も尽きる頃だと……まあ、定期的に海軍がジェンツの港から物資を運んで、陸軍がシェルターに物資を運んでいるという有様で……」

 セペル・チェルダードは、ジョマ・グリシアに耳打ちした。グリシアは納得した様子で相づちを打った。チェルダードが切り出した。

「よかろう。是非この7570を完全武装化し、物資の空輸は私共にやらせていただきたい。お願いできるかのお……」

 ラナリット大尉と、ミラルディ准士官が耳打ちをする。そして、こう言った。

「よろしいでしょうか、命の保証はありませんよ」

 チェルダードが応える。

「我々は民兵といえども、訓練を重ねた精鋭部隊じゃ。むしろ、そういうところへ出かけて行って、一戦交えつつも、住民に物資を配りたい。ぜひ、払い下げ母艦を完全武装化して欲しい。危険を察知した段階で、急速に内陸部に待避する。これをお願いできんかのお……カネならはずむ。責任は自己責任で。これがこちらの条件じゃ」

 チェルダードが、懐から6000万ミントの小切手を差し出すと、ラナリット大尉と、ミラルディ准士官は度肝を抜かれた。ラナリット大佐が驚いて訊いた。

「こんな大金、どこで?」

「日々のキャラバンの結果じゃよ。キャラバンのためのキャラバン。我々は軍事訓練を積むと同時に、隊商を行っていて、どの空港に着いても感謝感激されとるよ」

 ラナリット大佐と、ミラルディ准士官が顔を見合わせ、耳打ちを相互にし始めた。いわゆるひそひそ話の類だ。それが3~4分程続くと、双方が頷き、ラナリット大尉が切り出した。

「いいでしょう。根負けしました。ここの駐機場で新型のバリア装置を2台、それから主砲1門に、レーザービーム砲10機、大至急工事に当たらせます。ただし行動に当たっては……」

「行動に当たっては?」

「あくまで無理をせずに、ジェンツの東側からジェンツ州の州境ウザビク基地に着艦し、ウルロア川には近づかないこと。それともう1つ。武器弾薬を積んで補給の応援をして欲しいということです」

「うん、うん、それでこそ我が元部下、話が早いのお……」

「ありがとうございます、船長としても、身の安全が図れて安心致しました」

「安全には留意し、こちらの准士官の指揮命令系統に従うこと。これが最後の条件」

「商談成立よ、グリシアくん、気をつけて。私たちの言うことを聞いて!」

「分かりました、ミラルディ准士官さま!」


 カルバ・ラナリット大佐は、控えの兵士およそ30名を応接室に呼び、呼集をかけた。そして、約束通り、中古のバリア装置を外し、2台に増強し、主砲1門を据え付け、レーザービーム砲10機を取り付けることを命じた。完全武装への始まりだ。


     ◇ ◇ ◇


 キャッシャー付近では、中小のキャラバンでごった返していたが、突然の兵士の出現、そして船体に着々とクレーンで運び込まれ、据え付けられる主砲やレーザービーム砲などの工事場面を見て、「うわー」と言った面持ちで、みんな機体の方向を見ていた。あるキャラバン関係者のつぶやき。

「あの主砲、軍事用じゃないか。あんなもの取り付けてどこで何をするんだろう……」

「さあ、分からん」

「まさか、国境地帯に行くとか……」

「そんなはずネエだろ、さあさ、商談の続きだ! 兄ちゃん! この塩幾らだい?」

「1袋15ミントになります」

「じゃあ、10袋おくれ!」


 ナバス・クルクは、商品を売りながらも、実は武装化されて行くピッツリー7570が気になっていた。着々と滑空式航空母艦に備え付けられて行く装備、いやが上にも緊張が高まって行った。

 ナバス・レマーユも、カフェで同じようなことを考えていた。戦争に巻き込まれるだろうキャラバンの行く末を祈って、こっそりとカウンターの中で、胸に十字を切った。


セント・フェリーナ空港、三日目!

 セント・フェリーナ空港、三日目。毎度の事ながら、朝8時。ジョマ・グリシア船長のブリーフィングが行われていた。朝食兼用で。
「昨日の軍人さんとの会議、交渉の結果、既にこの艦の完全武装化は終わっている。誰と戦うというと、不意に海上などから急襲をかける、バイザル皇国海軍や、物資を略奪しようとする略奪者だ。これから本艦は、北へ12000キロ先の、陸軍ウザビク基地へ向かい、首都ジェンツに送り届ける各種物資を前線に補給する。途中、メルグヴィッツ空港に立ち寄り、燃料の補給を行う。各員においては、緊張感を持って事に当たること」
「分かりました」「異議なーし」「了解」「傭兵の頃を思い出して、腕が鳴るよわたしは」「そんな、リームったら」「神様……」

 ラルタ・ニーナから補足事項があった。
「いま、首都ジェンツでは、みんなが地下シェルターに入り、また、難を逃れるために、故郷へ帰る人たちが続出しています。放送局はアンテナが破壊されていて、ビザリー・ニューズ本社機能は、次第にセント・フェリーナ支局を仮の本社として移転し、近日中に使用する予定です。幸い、地下のケーブル網は生きているので、シェルターの中の人にも、こちらの画像は見てもらえる状況です。食料は、陸軍ウザビク基地から、陸海空軍がそれぞれシェルターに輸送して、今のところは補給路は無事ね」
「ひどい……」「マジで?」「了解」「物騒になって来たな」「首都がそんなことに」「神様……」

 チェルダードから補足事項があった。
「なお、フラン・ドレイク大統領ら、政府高官も、ここ、セント・フェリーナに疎開政府を設けることを昨日宣言した。近日中に、ここに政府機能が仮移転する」

 全員が無言になった。ジョマ・グリシアが続けた。
「いいかみんな、我々は物資の補給の、後方支援を行う。ジェンツ州には一歩たりとも入るな。あくまで、陸軍ウザビク基地まで。それより西側に行くと、我々の手には負えない、軍事的に。そこで、我々の味方となる、陸軍准士官、準正規軍総指揮官の、イエラ・ミラルディさんの指示に従うこと。いいな」
「はい」「了解」「神様……」「レマーユな、お前、さっきから、それしか言わないのな」「でも怖い……」

 ジョマ・グリシアがファーナに向き合って話した。
「そして、ファーナさんの弟の処遇だが、密閉型の人員輸送カプセルに乗せて、ファビルシティーに自動的に送還してもいいのだが……ファーナさん、どう思う?」
「それは……弟次第だと思います。リーム、どう思う?」
「そうだなあ、最近は真面目にムーヴァー磨いてるし、舎弟を手放すのは惜しいなあ」
「グリシアさん、後ほど、弟と直接話をしてみてください。帰るのか、帰らないのか」
「うーむ、それもそうだな。後で話をつけてくる。士気にも関わることだけにな」
「お願いします」
「じゃあ、ブリーフィング終わり! どうしたみんな、フォークが止まっているぞ! 食える時に、食っておかなきゃ、準正規軍は勤まらない! 食え、食え」

 余りにも重い事実を告げられた後の事だ。みんな同様に、表情がなかなか冴えない。

     ◇ ◇ ◇

 ナバス・レマーユが、ふと、立ち上がって食事を届けに行くところだ。チャタ・ナーディルのもとへ。グリシアが彼女を呼び止める。
「レマーユ、どこへ行くんだ? ナーディルのところか? 一緒に行かせてくれないか?」
「ええ、喜んで」
 廊下を、ナーディルの居室まで静かに歩いて行った。レマーユは、軽く扉をノックすると、扉は向こう側から自動的に開いた。
「ナーディルさん、例の修道女です。お食事をお持ちしました」
「ありがとう……親父、選挙に落ちた……ははっ、はははは……」
「どういうことだね、ナーディルくん?」
「グリシアさん、親父がね、外遊のしすぎで、ファビオ上院の選挙で敗れたよ」
「どこで知ったんだ?」
「親父から、直接、ビデオレターで」
「チャタ・ディルジアさんが落選、それはどういうことだ……」
「だから、外務政務次官でもなんでもなくなったんだよ、ケッサクだろう? 保守党が敗れて、ただの田舎貴族に戻ったんだとさ、ははっ」
 ナーディルは自嘲気味に笑った。
「まあまあ、残念ですわ……お食事置いておきますね」
「上院選挙は、中道右派連合が勝利か……親父さんのところへ帰らなくていいのか?」
「遠慮しとくよ! あんな腰抜け親父なんか大嫌いになった」
「なんなら、密閉型の人員輸送カプセルに乗せて、故郷へ強制送還してもいいのだが」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ、グリシアさん、オレはここのスタッフになりたいんです、どうか、お願いします」
「きゅ、急にお願いされてもだなあ……長老やリームが何て言うか、お願いしてみないとなあ」
「伯父や姉には私からもお願いしておきます」
「助かるよ、行くとこ無くて困っていたんだ」

      ◇ ◇ ◇

 コックピットまで戻って来たグリシアとレマーユを、みんなが迎えた。
「ど、どうした、そんな弱り切った顔をして……」
「あいつ、また何かしでかしやがったんだな! 叩き斬って来る!」
「ちち、違うんだ! チャタ・ディルジアさんがファビオ上院に落選し、ただの民間人に戻ったというビデオレターがご本人からあって!」
「ファーナさんの弟さん、行くとこ無くて困っているんです。スタッフになりたいって!」
「うそ! お父さん落選したの?」
「長老、船長、間もなく、チャタ・ディルジアさんからの無線通信が入ります、スタンバイ!」
「わかった」

 画面の向こう側には、すっかりやつれきった、チャタ・ディルジアの顔があった。
「どうも、リップス責任者、セペル・チェルダード元陸軍大佐……」
「話は大体聞いておる。まずは、残念じゃった……」
「はい、先般の襲撃、お詫び致します。故郷ドリアーゴの屋敷に籠もってしばらくは生活をしたいと思います。お願いですから、ファーナ、ナーディルの事は宜しくお願いします」
「うん。でなあ、あなたがたお貴族じゃろ? ひとつ相談が……」
「と、いいますと?」
「ビザリナのどこかの、ジェット燃料の貯蔵タンク、満杯にして、油を買ってくれんかのお……燃料について、大変困っておるのじゃが……」
「それはお安いご用です。早速秘書にメルグヴィッツ空港のタンクを手配させます。貯蔵タンク2個分なら、リップスさん専用にできるかと。わたくしの方からも石油会社に連絡いたします」
「ありがとう。お礼を言うよ、ディルジアさん。お子さんには皇国軍に指一本触れさせません」
「同盟国のお役に立てるなら、それは本人達も本望でしょう。宜しく頼みます」
「じゃあ」「では」
 画面の映像は、プッツリと切れた。そして、椅子をくるりと回転させて、チェルダードがほくそ笑んだ。
「うっしっしっし、まんまと燃料をせしめてやったわい!」
「って、長老!」
「済まないのお、ファーナさん、親父をだまくらかしてやったぞ」
「もう、長老さんったら!」
「ナーディルもごめんなあ……」
「それぐらいしてもいいよ、あんな親父だったら……」
「我が伯父ながら、本当に汚い! 意地汚い! ああ、いやだ!」
「まあまあ、クルクったら……」
「よし、何万ガロンといったジェット燃料が我がリップスにもたらされた!」
「素晴らしいです、船長さん!」
「じゃあ、あたいらがカネに困ったら、チャタ・ディルジアさんを頼ろうぜ!」
「もう、リームったら……」
「転売しても……利益は出るなあ……」
「カイザルまで!」

パウダールームのヒロイン争い!!

 ここは、キャラバン「リップス」の船内。船と言っても、何故か空を飛んでいる。それもそのはず、SFによくありがちな、メインのバトルシップ。つまり「滑空式航空母艦」な訳でして、空母などという、軍事用の船の入手の経路はさておき、ここは船室を改造して作られた広間、パウダールーム。通称「女部屋」の素顔をちょっとだけ拝見することにしましょう。賑やかですよー。うるさいぐらいに。それはもう、はい。

 

・ファーナさん(隣国ファビオのお嬢様)
・リームさん(主人公の姉で女剣士)
・レマーユさん(主人公の妹で修道女)
・ニーナさん(現役ジャーナリスト)

 

<天の声>

「さあ、君たちの中で、誰が一番ヒロインに相応しいか、競争してみるがいい。私はこれで去る。では、がんばってくれ給え」

 

「あん? 今、誰か何か言わなかったか?」

 リームさんは野生の本能があるらしく、天の声がきちんと届いたようだった。屋内にいても、風呂の時以外は、重たい赤いスーツというか、赤い甲冑を常に身につけている。

「あ、あたしも聞こえたみたい。この中から、ヒロインに相応しい人は誰でしょう、ってお話が」

 ファーナさんは、天性の勘というか、第六感が働くらしく、確実に天の声を聴いていたようだった。まあ、天然、と言ってしまえばそれまでだが……。

「おい、レマーユ、何念仏唱えてるんだ。今はヒロイン争いの時間だぞ!」
「……さあ……祈りに夢中で、何も気づきませんでした」
「まったく……祈ったところで、神様は
何もご褒美くれやしねえぞ!」
「実は、私も聞こえたの、って、原稿送信完了っと」

 ロン毛の年長者が、情報端末の前からくるりと皆の方を向き直った。そして、やおら言い放った。

「ヒロインは、副船長でもある、この私ね。あなたがたとはキャリアが違うしスキルも違うわ。伊達に、長年ジャーナリストしていないもの」
「ちっ、馬鹿馬鹿しい。そんな事務方みたいなヒロインがあって堪るかってーの。やっぱ女は度胸と強さだ。なので、アタシの勝ち。不戦勝ってか」
「待ちなさいよねー。何勝手に言ってるの。ヒロインは、このファーナさまでしょ。格式が違うのよ、庶民とは。こーんな赤いザリガニみたいなのがヒロインなんて、絶対あり得ない」
「コラ!! アタシを指さして、ザリガニとは何だよ。失礼だなあ! アタシに謝んなさいよ!」
「筋肉バカがえらっっそうに」
「バカたあ何だ!!」
「なによー? スウォードで勝負する気?」
「上等じゃねえか!! だいたい普段から、鼻持ちならないお貴族風情が気に入らねえ」
「ちょ、ちょっと、やめなさい二人とも。ここは、穏便に。ファーナさん、ザリガニ発言を撤回してちょうだい。そうすれば、丸くおさまるから、ね、ね」
「誰がこんな甲冑女に謝るものですか。だいたい普段から、筋肉バカっぷりが嫌で嫌いで」
「なんだとこらああ!!」
「もう、いい加減になさい。これ以上やると、私も我慢の限界というものがあるので、喧嘩はおよしなさい」
「ばっきゃろー!! 年増は引っ込んでろ!!」
「そうよそうよ、なに保護者面してるの、バカみたい」
「な、なんですってええええ!! きいいいいー」

 三人とも、SFによく出てくる、レーザー光線系の剣を取り出して、構えた。そうして、ファーナがリームめがけて剣を振り下ろした。そこへ割って入るニーナ。


「乱暴はやめてって!!」
「うるせえ!! 謝るのが、先だろう!?」
「まだ懲りないのね、あんたたち!!」
「まず張本人のお前が謝れ!!」
「絶対に嫌!!」


 命がけの内輪もめだ。ギリギリと光の剣は迫り、頬を青白く染める。そこへ、窓際で祈っていたレマーユが、開いた呪文の書の上に十字架を置くと、なにやらつぶやきはじめた。すると、三人の脚は下から急速に凍って行き、やがて、熾烈なレーザー光もぷっつりと止んだ。

 そう、出来上がったのは、瞬間冷凍ヒロインたちだった。そうして、レマーユが呪文を終えると、面倒くさそうに本を閉じ、十字架を首からかけ、収納した。

「お姉様方、しばらくアタマを冷やしてください。真のヒロインは、レマーユさまー。ばんざーい。さて、晩ご飯の支度をしなければ……」

 と、低エントロピーな声でつぶやきながら、そそくさと部屋を後にした。

 

 さて、彼女たちは、いつ解凍されるのだろう。それだけが気がかりだ。


キャラバン「リップス」、滑空式空母の紹介

「皆さん、ど、どうも。一応リーダーの、ナバス・クルクです。クルク、と呼んでください。先程は、姉たちがヒロイン争いとかで、粗相をしでかしたようで、どうも済みません。後できつく言っておきます」

「さて、このキャラバン“リップス”は、“ピッツリー7570”という、軍用の航空母艦の中古を、民生用に転用したものです。叔父のチェルダードが、元陸軍大尉でして、なんというか、そのコネを使って、格安で払い下げてもらったもの。整備してもらったので、外見は多少旧式ですが、きちんと空を飛びますし、内装だって新品同様です」

「まず、“キャラバン”を名乗っている以上、誰かからモノを仕入れて、誰かに売る、仲介業者みたいなものなのですが、お客さんも、地上を行き交うキャラバンの皆さんが多いです。つまり、ここは、キャラバンのためのキャラバンな訳でして、キャラバンの皆さんの“業務用マーケット”と言った方が適当かと思います」


「ここが、お客様カウンターで、現在、リップスの女性陣が、接客を行っています。そして、僕ら男性陣は何をしているのかというと、売却する商品を梱包したり、納品したりします。ここらへん一帯が、一階のキャッシャー、と呼ばれている店舗兼倉庫です」

「店舗兼倉庫の二階には、先端のコックピットまで続く、長めの廊下があります。そして、左右に分かれて、居住用スペースがあります。これを居室といい、この二階のことを、単に居室階、と呼ぶ場合があります。さすがに以前、軍人さんが使っていたように、調理室、食堂、個人ごとの居室が完備されています。ここで、珍しい設備を挙げると、たとえば、体を鍛えるトレーニングジム室だとか、レマーユがしつらえた小さな教会、先程の男女部屋、通信室、そして最先端には、作戦司令室があります。おっと、ここからは部外者立ち入り禁止です」


「居室階の後ろ、メインエンジンの前の吹き抜けには、“ライト・ムーヴァー”と呼ばれる、移動戦闘用ロボットのようなものがあります。これは何に使うかというと、有事の際の戦闘要員……僕、カイザル、姉さんたちがこれを操縦し、外敵を迎撃します。あ、ファーナのムーヴァーは、ちょっとデコレーションが派手で、あまり戦闘向きではないようです。……さすがはお貴族さま、豪華だなあ。……また、武装は解除してあるとはいえ、一応、航空母艦なので、最低限、船を守ることが出来る砲撃ブースも、船体側面に各一カ所づつにあります。さすがに、バリアーとかいう高価な装備はありません。コツコツと、チマチマと、敵を倒すだけです。バリアーがあると便利なんですが、誰か買ってくれないかなあ……」


「そして、船を上から見て水平尾翼のちょっと手前にある開口部ですが、ここは飛行機の天井に当たる部分です。そこから前を見ると、小さな滑走路と、カタパルト装置があります。ライト・ムーヴァーは、この開口部に向かって、高性能の油圧ジャッキでせり上がり、ここから発進、着艦を行います。また、小さな軽飛行機くらいならば、離着陸が可能です。開口部には屋根があり、通常、ここを含めたライト・ムーヴァーなどの保管場所を、格納庫といいます」

「キャラバンの商取引が終わると、一階は側面の扉が閉められます。たまに、乗り遅れたりする女子若干名が、通用口の鍵を使って中に入って来るので、艦の発進には注意が必要です。エンジンの火力はロケット並みなので、かなり熱いです。また、艦全体のコントロールは、グリシア船長と、ニーナ副船長が担当します。あまりにも居室階の廊下が長いので、居室から船長は自転車を使って作戦司令室に行き、緊急時に備えます。意外とローテクな装備で補っています」

「で、リーダーである僕は何をするかというと、リーダーとしか答えようがないのですが、最終的に物事を判断する際に、船長に運行計画を伝えたり、それを作成したり、チェルダードさんの意見も聞き、店長であるニーナさんにも店舗を開く日時、場所を決めてもらい、僕が総合的に判断して、みんなをまとめるのが仕事です。そういう修行を、若いうちから積むようにと、チェルダードさんは敢えて自分から手を下さず、若い僕らに任せているのです」

「リップスは、国境を越えます。但し、休戦ラインがある西ビザリナ。つまり、バイザル皇国には行けないので、東半分のビザリナ共和国と、その同盟国の間で国境を越えてビジネスやら、依頼の案件などを受けます。表向き、キャラバンとして、各国の物資をビザリナ共和国本国に投下する業務があります。裏向きは……。あまりしゃべっちゃダメなんですが、準正規軍として、正規軍の後方支援に当たる、ちょっと命がけの任務もあります。業務はお金儲け。任務は任務ですから、正規軍司令室から直接画像で指示が飛んできます。どこそこの部隊に何を運べ、とか、場合によっては、ついでだから敵を倒してくれ、という無茶ぶりもあります、はい」

「リップスの全貌、まだまだお伝えしきれていないのが現状です。船の紹介をしてくれと、チェルダードさんに言われたので……まだまだリーダー失格ですね」



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