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1通目




前略 お元気でしょうか。
私はこの町でも楽しく暮らしています。
しかし寒さにはなかなか慣れないもので、今年の冬は猛烈に寒く感じます。
大阪の暖かい空気に慣れてしまったこの身には、なおさらに厳しく思います。

いきなり手紙が来てすこしびっくりされたかもしれませんね。
そうだとしたら、ごめんなさい。
でも、なんとなく、あなたはどうしているのかな、と思い、手紙を出すに至りました。
大学時代は、一番お世話になりましたし、それに、あなたなら、きっとお返事をくれるでしょうから。

私がここに転居してから、もう4年になろうとしています。
あっという間です。大学時代の四年間と比べて、とても同じ四年間であるというふうに思えません。
それほど、あの四年間はたくさんのことがあり、この四年間はシンプルなものであったということでしょうか。ここには色々なものがないので、とてもシンプルなのです。
テレビの中の新喜劇もありませんし、阪急電車もありません。
駅前の銭湯もないし、それから、八百屋の横のカキ氷屋も。

ああ、書いているうちに、なんだか感傷的な気分になってきました。
長くなりすぎてもよくありませんので、このへんでやめておきます。
よろしければ、近況、お返事くださいね。電話もメールも便利ですけれど、是非、手紙で。
そういうことで、長々と失礼いたしました。
それでは。


北の町 より


p.s あのO先輩が結婚するらしいです。
あなたにも招待状が届いているかもしれませんね。
しかし、びっくりしましたよ。
縁とは、どこに転がっているか、とんと想像もつかないものです。

2通目

前略 お元気でしょうか。
私は相変わらずのシンプルな日々を送っています。
寒さ本番、というふうに、冬将軍が猛威をふるっております。
冬将軍のみならず、冬大名や冬家老、冬足軽なんかも飛び回っているのかもしれません。
想像すると、少し楽しいです。

前略しながら、前置きが長くなってしまいました。
お返事、ありがとうござます。
まさか、転居されているとは思いもよら、失礼しました。
次回からは、ちゃんと間違いなくお送りしますね。
なんて、次の返信の話なんかしながら。

研究科生活、大変苦労されているとお見受けします。
とはいえ、文系卒の私にとっては、想像しがたい世界ではあります。
器具の名前なども耳なじみが薄く、かえって楽しく感じてしまうのです。
申し訳ないです。

学部生時代の恋人と、大学院進学時別れられたというのも、転居にあわせて初耳でした。
これについては、特に私が口を挟むべき問題でもないでしょう。
私もこちらにきてからご縁がとんとあませんので、お互いに切磋琢磨、好敵手として良縁探しをいたしましょう。

それでは、顕微鏡を覗きすぎて、目がちいさな点になってしまわぬようお気をつけください。
お返事お待ちしています。


北の町 より

3通目

前略、お元気でしょうか。
私は相変わらず。

そんなことよりも、大変な目にあわれたようですね。長期入院が必要なほどの大けがだったとは。
先ほどの手紙は、病室からの手紙ですか。住所が市立病院だったので、非常に驚きました。
あなたは大丈夫だと書いてはいるけれど。実際に手紙を書かれているけれど・・・心配でなりません。

今日は月曜日。
ですから、今すぐには無理ですが、今週末の土曜日に、一度病院へおじゃましようかと思っています。
お邪魔かとは思いますが、ご容赦ください。
そして、恥ずかしながら、少し緊張します。会うのが、久しぶりだからです。
ですので、また、昔のように、のんびりと出迎えていただければな、と思ったりします。

それでは、くれぐれも、安静にして養生してくださいね。
なにか、おいしいものでも持って行きます。そうですね、病院らしく、真ん丸い林檎でも持っていきますね。飛行機から落としてしまわないように、気をつけながら。


北の町 より


p.s. O先輩の結婚式は来月ですね。服やお祝いはどうすればいいのやら・・・もし余裕がありましたら、そこらへんもお話しましょう。

4通目

前略、お元気でしょうか。
それよりも、大事なお話があります。
といっても、何から書けばいいのでしょうか。
まだ、頭の中が混乱していて、ちょっと整理がついていない状態なのです。
今まで以上に散文失礼いたします、と先に断っておきましょうか。

以下、少し長くなっちゃいそうですが、お付き合いください。


* * *


飛行機にのって、懐かしい街へやってきました。
春はもうすこし先だけれど、日差しが暖かい、穏やかな空気を感じました。
私は、モノレールに乗って、病院へと向かいました。
そしてあなたのいる病室へと。
たしか、9階でした。最上階の病棟です。
町が見渡せる、羨ましい場所だな、と私は思いました。
手紙の、病室の前に立ちました。そこは、ネームプレートが一つしかない、個室でした。
そして、そこにはあなたの名前が書いてありました。


・・・というのは、もちろん、冗談です。
あなたとは別の人の名前が、書いてありました。
おかしい、と思って近くでテキパキと働く看護師さんに聞いてみると、あなたのことはしらないと言います。
念のため事務室に問い合わせてもらったところ、あなたはすでに退院したということでした。

これはいっぱい食わされたな、と思いましたよ。
嘘でもつかれたんじゃないか、と少し腹が立つような気持ちであったことも事実です。
ともかく、これで私はすこしムキになってしまい、なんとかあなたへと連絡をつけてやろうと考えるようになりました。

まず、Wに連絡を取りました。
あなたとたいそう仲がよかったし、それに、近くに住んでいることを知っていたので。
ついでに言うと、Wの恋人と私が学外での友人という縁もあり、私はWの現住所をも知っていたのです。
Wの家は大学と病院の、丁度中間ほどにあるのでした。
直感は正解、Wは、転居先のあなたの家を知っていました。
土曜で仕事も無いようでしたが、午後から用事アリとのことで、地図だけ渡してもらってから別れました。
その時Wは、少し困ったような顔をしておりました。
突然呼び出したりしたわけですから、無理もありません。
私も、少し苦笑しました。

書いてもらった地図の指し示すとおり、小さな古いアパートにたどり着きました。
こんなところに住んでいたのですね。
確かに、前の部屋よりも家賃は安そうですし、場所もいい。
その二階の一番奥の部屋。
表札はありません。
私は一旦深呼吸してから、インターホンを押しました。
人が出てきました。
しかしそれは、あなたではありませんでした。
その名も知らない住人にお詫びをしたあと、私はそのマンションを後にしました。

少し、不安になってきたした。
あなたが大阪を離れなければならない理由がほとんど思いつかないからです。
そして唯一思いつくとしたら、先日の事故でしょうか。
私は、震える手でWに連絡を取りました。

Wは、「まいったなあ」と言うと、一旦黙り込みます。
電話の向こうで、しっかりと間を取りながら、言いました。
あなたはもう死んだのだということを。

私は、それが信じられるわけがありません。
そうです、ついこの間、手紙まで貰っているのですから。
しかしそのことを言っても、Wは、益々困ったような声になるのです。
そして、なんならあなたの実家に確認を入れようか? なんてことまで言う。
私は、とても悲しく思いました。
Wの口ぶりが、とても嘘とは思えなかったからです。
私は、携帯電話を片手に、しばらく呆然としていました。

事故があったのは二年も前の冬だったそうですね。
そして、亡くなったのは、去年の冬のことだったとか。
長く、意識が無い状態が続いていたそうで、Wも顔を見に行ったことがあるそうですよ。
あなたは、とても気持ちよさそうに眠っていたそうです。
あの、病院の9階の、町が良く見渡せそうな部屋で。


* * *


長くなりましたが、このへんで筆をおくことにします。
いま私は、帰りの飛行機の中でこの手紙を書います。
ここまで高い場所だと、景色も何もないですね。ただオレンジ色の雲の海が見えるだけです。
すこし、つまらないです。

私は、この手紙をどこへ宛てて出せばいいのでしょうか。

そしてあなたは、お返事をくれるのでしょうか?


ともかく、お返事、待っています。


北の町への空 より


p.s. 家に着いたら、いままであなたがくれたお手紙を、もう一度、ゆっくりと眺めてみようと思います。



(了)

奥付



北からの手紙


http://p.booklog.jp/book/24497


著者 : 吉田岡
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発行所 : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.


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この本の内容は以上です。


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