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ツイッターでも地震情報の嵐。こういう時はかえって自分の思惑を述べずに、地震と無関係な、静謐な小説を書きたくなる。何故谷崎潤一郎は戦争中に「細雪」を書いていたのか。災難に真っ向から抗わないで、静かに抗う、他愛ない日常の描写で。
テレビをつけても、お笑い芸人がいない日は初めてだ。ニュースでは残酷で陰湿な事件か、先の見えない経済不況と政治の混迷ばかりが伝えられていた。ニュースの後のお笑い番組では、芸人たちが先ほどまでとは別社会の人間みたいに笑っていた。地震後、テレビから芸人が消えて、ニュースのみが残った。


「日本の知らない世界の大問題」なんて本が売れていたけれど、今は日本で起きた震災と原発事故が、世界の大問題になっている。国難とも表現される日本の惨状を知らず、自分自身の問題に煩わされている人は、世界中にたくさんいる。日本国内にも、この問題に無関心の人はいる。


牛乳、パン、豆腐、水、弁当などが、東京近郊のスーパーやコンビ二からなくなった。レジには大量に食品を買い込んだ客の列があった。ありあまるほど食品があった時代から、明日の食事にも困る食料不足の時代へ。歴史の転換点は迫っている。食の恵み、命の継続を尊ぼう。
神様が海の果てで笑っている。僕は神様の顔を見ている。神様は海の上で踊り、津波を引き起こしている。僕の足元に津波が迫ってくる。僕は津波に飲まれる。神様は踊っている。僕は流されていく。神様の体が二つに裂けた。僕の体も二つに裂けた。

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