目次
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
独白 プロローグ
独白 プロローグ
第1章 眠れる森の
第1章 眠れる森の(1)
第1章 眠れる森の(2)
第1章 眠れる森の(3)
第1章 眠れる森の(4)
第1章 眠れる森の(5)
第2章 世にも奇妙な
第2章 世にも奇妙な(1)
第2章 世にも奇妙な(2)
第2章 世にも奇妙な(3)
第2章 世にも奇妙な(4)
第2章 世にも奇妙な(5)
第3章 昔むかしの
第3章 昔むかしの(1)
第3章 昔むかしの(2)
第3章 昔むかしの(3)
第3章 昔むかしの(4)
第3章 昔むかしの(5)
第3章 昔むかしの(6)
第4章 不思議の国の
第4章 不思議の国の(1)
第4章 不思議の国の(2)
第4章 不思議の国の(3)
第4章 不思議の国の(4)
第4章 不思議の国の(5)
第4章 不思議の国の(6)
第4章 不思議の国の(7)
第4章 不思議の国の(8)
第4章 不思議の国の(9)
第4章 不思議の国の(10)
第4章 不思議の国の(11)
第5章 嵐の前の
第5章 嵐の前の(1)
第5章 嵐の前の(2)
第5章 嵐の前の(3)
第5章 嵐の前の(4)
第5章 嵐の前の(5)
第5章 嵐の前の(6)
第5章 嵐の前の(7)
第5章 嵐の前の(8)
第5章 嵐の前の(9)
第6章 山のあなたの
第6章 山のあなたの(1)
第6章 山のあなたの(2)
第6章 山のあなたの(3)
第6章 山のあなたの(4)
第6章 山のあなたの(5)
第7章 ツミキクズシ
第7章 ツミキクズシ(1)
第7章 ツミキクズシ(2)
第7章 ツミキクズシ(3)
第7章 ツミキクズシ(4)
第8章 子心親不知
第8章 子心親不知(1)
第8章 子心親不知(2)
第8章 子心親不知(3)
第8章 子心親不知(4)
第8章 子心親不知(5)
第8章 子心親不知(6)
第9章 男はツラいよ
第9章 男はツラいよ(1)
第9章 男はツラいよ(2)
第9章 男はツラいよ(3)
第9章 男はツラいよ(4)
第9章 男はツラいよ(5)
第10章 禁じられた遊び
第10章 禁じられた遊び(1)
第10章 禁じられた遊び(2)
第10章 禁じられた遊び(3)
第10章 禁じられた遊び(4)
第10章 禁じられた遊び(5)
第10章 禁じられた遊び(6)
第11章 君死にたまふことなかれ
第11章 君死にたまふことなかれ(1)
第11章 君死にたまふことなかれ(2)
第11章 君死にたまふことなかれ(3)
第11章 君死にたまふことなかれ(4)
第11章 君死にたまふことなかれ(5)
第11章 君死にたまふことなかれ(6)
第11章 君死にたまふことなかれ(7)
第11章 君死にたまふことなかれ(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女
第12章 いのち短し走れよ乙女(1)
第12章 いのち短し走れよ乙女(2)
第12章 いのち短し走れよ乙女(3)
第12章 いのち短し走れよ乙女(4)
第12章 いのち短し走れよ乙女(5)
第12章 いのち短し走れよ乙女(6)
第12章 いのち短し走れよ乙女(7)
第12章 いのち短し走れよ乙女(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女(9)
第13章 あゝ無情
第13章 あゝ無情(1)
第13章 あゝ無情(2)
第13章 あゝ無情(3)
第13章 あゝ無情(4)
第13章 あゝ無情(5)
第13章 あゝ無情(6)
第13章 あゝ無情(7)
第13章 あゝ無情(8)
第13章 あゝ無情(9)
第14章 クリスマス・キャロル
第14章 クリスマス・キャロル(1)
第14章 クリスマス・キャロル(2)
第14章 クリスマス・キャロル(3)
第14章 クリスマス・キャロル(4)
第14章 クリスマス・キャロル(5)
第14章 クリスマス・キャロル(6)
第14章 クリスマス・キャロル(7)
第14章 クリスマス・キャロル(8)
第14章 クリスマス・キャロル(9)
第14章 クリスマス・キャロル(10)
第14章 クリスマス・キャロル(11)
第14章 クリスマス・キャロル(12)
第14章 クリスマス・キャロル(13)
第14章 クリスマス・キャロル(14)
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女(1)
第15章 時空を翔る少女(2)
第15章 時空を翔る少女(3)
第15章 時空を翔る少女(4)
第15章 時空を翔る少女(5)
第15章 時空を翔る少女(6)
第15章 時空を翔る少女(7)
第15章 時空を翔る少女(8)
第16章 君の名は
第16章 君の名は(1)
第16章 君の名は(2)
第16章 君の名は(3)
第16章 君の名は(4)
第16章 君の名は(5)
第16章 君の名は(6)
第16章 君の名は(7)
第16章 君の名は(8)
第16章 君の名は(9)
第17章 秘密の逢瀬
第17章 秘密の逢瀬(1)
第17章 秘密の逢瀬(2)
第17章 秘密の逢瀬(3)
第17章 秘密の逢瀬(4)
第17章 秘密の逢瀬(5)
第17章 秘密の逢瀬(6)
第17章 秘密の逢瀬(7)
第17章 秘密の逢瀬(8)
第17章 秘密の逢瀬(9)
終章 いつまでも、いつものように
終章 いつまでも、いつものように(1)
終章 いつまでも、いつものように(2)

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第17章 秘密の逢瀬

第17章 秘密の逢瀬(1)

 あれからしばらくして、向こうのほうから用を足したはずの陽平が何故かスッキリしてないような厳しい顔で歩いてきた。

 

「何やってたんだよ陽平、遅いぞ!・・・あっ、お前ひょっとして大きいほう ──── 」

 

笑わせようと思って言ったのに、口を真一文字に結んだままボクの腕をつかんで

 

「来い」

 

「何だよ、まだ練習が ──── 」

 

「いいから来いって!」

 

そのままボクは半ば強引に、どこかへと連れて行かれてしまったんだ。

  

  

 ──── 2013年5月13日午後5時52分、県立四ッ葉高校旧焼却炉前。

 
 

ボクは陽平に引っ張られるまま、事もあろうに薄暗くヒト気のない・・・おまけに、イヤな臭いのするこんな所に連れてこられてしまった。

 

「だから何なんだよ・・・こんなトコ、わざわざ部活サボってまで来る所じゃ ──── 」

 

「ゴメンな後輩!待たせちゃって。もうこっち出てきていいぞ」

 
 

──── そんな偉そうなこと・・・『彼女』見ても、言えんのか?

 
 

「何だよお前、またアイツ・・・ ──── !!!!」

 

その時ボクの目の前には、軽やかな足取りで手を振りながらこっちへ駆けてくる、ひとりの少女がいた。暗くてよく分からなかったけれど、その子はたしかにヨンバの制服を身につけていた。弾けんばかりの笑顔が、頭で認識するよりも速いスピードでグングン近づいてきたんだ。そして・・・

 
 

──── お兄ちゃーんっ!!!!

 
 

 

 

「やったーお兄ちゃん!お兄ちゃんだぁーっ!!!キャハッ、会いたかった・・・会いたかったよぉっ!!」

 

固まったままのボクに、思いっきり・・・痛いほどの力で跳ねるように抱きついてきた彼女は・・・

 

「麻衣・・・さん?麻衣さんなの・・・!!??」

 

一度そうなってしまえば、もうボクをがんじがらめにしていた鎖が弾け飛ぶのに、そう時間は掛からなかった。ボクは彼女の両肩をガッとつかんで、もう一度その顔をしっかりと確かめた。

 

「うんっ!・・・麻衣だよ?」

 

柔らかで暖かいその言葉を耳にした瞬間、ボクは4年前にタイムスリップした。目が回りそうになるくらいのスピードで、また色んな思い出が浮かんでは消え、頭がいっぱいになって爆発しそうになった時・・・

 
 

──── 元気になったんだね・・・。

 
 

口が勝手にそう呟いて、我慢できずに彼女を抱きしめていたボクの頬を、ゆっくりと涙が伝っていったんだ。


第17章 秘密の逢瀬(2)

 彼女の温もりを、この腕で、体じゅうで確かめながら、ボクはふと彼女の頭を見下ろしていたのに気づいた。いつの間にか、ボクは彼女の背丈を追い越していたんだ。

 

「4年前とは、逆だね」

 

「ん?・・・どうしたの?」

 

何気なく耳元にささやいた一言にも、周りの静けさは遠慮を知らない。・・・そうだった。ボクを見上げる彼女のキラキラした純真無垢な瞳は、あの瞬間を覚えていないんだ。

 
 

ふたりの唇が、そっと優しく触れた・・・あの瞬間を ──── 。

 
 

ボクは顔を上げて、周りを見回した。その時にはもう陽平の姿もなく、辺りには少なくともボクたち以外の『人間』はいなかった。何故かドキドキしていた1人のオトコの不可解な行動を、彼女は不思議そうに笑みを浮かべながらいつまでも見つめている。

 

「あっ・・・そうだ、まだ部活の途中だったんだ!ねえ、もう少しで終わるからさ・・・一緒に帰ろ?」

 

「うんっ!じゃあ麻衣、お兄ちゃんのブカツが終わるまで、さっきのクラブハウスの

ところで待ってる!!」

  

  

 それから1時間ほど経って、部活を終えたボクは彼女と二人で『あの公園』に来ていた。

 

「・・・だから麻衣、勉強大変だったんだよ?」

 

丸太のベンチに腰を下ろして他愛のない話に花を咲かせていたら、話題はいつしか『ヘンニュー』の話に。記憶の欠落は、当然のように学力の低下も招いていた。彼女の話では、高1までに必要な8年分の学力をたった8日ですべて補ったんだそうだ。・・・何か、ちょっとうらやましいな。

 

「そっか・・・頑張ったんだね」

 

「うんっ!だって、麻衣もお兄ちゃんと一緒に一緒のガッコー行きたいもん!!」

 

「じゃあ明日から、ふたりで一緒に学校行こうか?家まで迎えに行ってあげるよ」

 

「ううん、麻衣がお兄ちゃんちまで迎えに行くー!!」


第17章 秘密の逢瀬(3)

 ──── 2013年5月13日午後7時39分、公園。

  

  

・・・なんて、ほかにも色んな話をしたけれど、よく覚えていない。そうしてそろそろ話のネタも尽き、ふと二人の間に沈黙が訪れた時だった。彼女は、じっと大きな噴水を見つめていた。

 

「麻衣、あの噴水・・・見た事ある」

 

「えっ・・・」

 

『もし、このスイッチを押しても・・・壊れたりしないんだよね』『もちろんだよ。・・・ハハ、そんなに心配しなくても。もう大丈夫、麻衣はずっと俺たちと一緒さ』 ──── 今、この時しかないと思ったんだ。ボクは意を決して『腕時計』のフタを開け、そっと何気なく『管理者認証』を終えた。

  

  

 「ねえ、麻衣さん」

 

「なぁに、お兄ちゃん」

 

「目つぶって、10数えて」

 

「かくれんぼするの!?」

 

「ううん、かくれんぼは・・・しないよ」

 

「え・・・?」

 

「・・・そうすれば、『もうひとりの君』に会えるんだ。だから ──── 」

 

「麻衣が・・・ふたりになっちゃうの?お兄ちゃん、何か・・・そんなの何かコワいよぉ」

 

「大丈夫、ボクが手を握っててあげるから。・・・さあ」

 

彼女はギュッと目蓋を閉じて、手を握ってきた。ボクは、もう片方の手をそっと上へ重ねる。

 

「どこにも行かないでね?・・・いなくなっちゃヤだよ・・・!!」

 

「ああ、ずっと君のそばにいる。・・・さ、数えて」

 

少し不安げながらも、コクッとうなずいて数え始める彼女。そのやや明るめのトーンが、余計にボクを緊張させる。

 

「・・・ろーく、なーな、はーち・・・」

 
 

──── 1回だけだから。・・・許して、工藤さん。

 
 

・・・とうとうボクはカウント・テンを待たずに、あの『P』スイッチを押してしまったんだ。


第17章 秘密の逢瀬(4)

 スイッチを指で押した瞬間に腕時計の液晶画面にCONNECTING to PMPPMPに接続中...】と表示され、それと同時に瞳を閉じた彼女の表情から、何ていうか・・・

 
 

──── 熱が、失くなった。

 
 

そんな風に見えたんだ。

 

「麻衣さん?」

 

「私は、大澤麻衣のNCMを動作させるために組み込まれたPMP・・・です」

 

スッと目を開けて、クッとこっちに首を動かした彼女は真顔でそう言った。

 

「えっ・・・」

 

その機械的な口調とツンとした態度は、たしかに懐かしかった。ただ、懐かしすぎて・・・何となく、また振り出しに戻った気分になって正直なところ少し気落ちしてしまったのも事実だった。

 

「ボクのことは、覚えてるよね?」

 

「あなたは・・・『ノア計画』プロジェクト№001、管理責任者№000です。登録日時は2013年3月17日午後2時7分です」

 

基本的には、ありえない ──── 頭の中で、工藤さんの言葉が何度も繰り返す。やっぱり、あの日ボクを病院に連れていってくれた彼女との会話は『ただのいい夢』だったのかな・・・。

 

「あん・・・その・・・あのっ、もうずいぶん前の事だけど!ボクを、助けてくれてありがとう」

 

「・・・」

 

どちらにしても、とにかくボクは『彼女』にきちんとお礼が言いたかったから。・・・ひょっとして理解できなかったかもしれないけれど、それはそれでも構わなかった。

 

「もしあの時、君が病院に連れていってくれなかったら・・・たぶんボクは、死んでたと思う」

 

ホントに・・・ありがとう ──── 何か気恥ずかしくて、目の前・・・風に揺れるブランコばかり見ていた。

 

「・・・どういたしまして。でも私は、与えられた命令を遂行した・・・ただ、それだけの事です」

 

だから ──── 少し黙っていた彼女は、不意に穏やかな口調でそうつぶやくように言ったんだ。驚いて顔を見ると、かすかに微笑んでいるようにも見えた。

 
 

──── お礼を言うなら、俊ちゃ・・・いえ、工藤博士に。


第17章 秘密の逢瀬(5)

 フッ、『俊ちゃん』だって。私がそんな風に言ったら・・・怒られちゃうわね ──── そう振り向いた少し寂しげな笑顔は、『夢』じゃないのなら(手の甲をつねってみた・・・)、痛いっ!・・・だとしたら、やっぱり彼女は『彼女』だった。

 

「私にとってあの人は、あくまでも『製作者』であって・・・『幼なじみ』じゃないんだから」

 

その表情の柔らかさは、さっきとはまるで違っていた。ん?・・・じゃあ、どうして

 

「・・・びっくりさせないでよ」

 

「何の事でしょう?」

 

「最初さ、ロボットみたいな喋り方してたじゃん・・・」

 

「だって、ロボットですもの♪」

 

目をクルッとさせて、いたずらっぽく笑顔を見せる彼女。・・・その行動で、もはや決定的になった。ロボットは、プログラムされなければ、動く事も話す事も出来ない。・・・こうやって可愛らしく笑う事も、しかり。全ての動作がプログラムされたものであるとするならば、ひょっとすると彼女は・・・気の遠くなるほど膨大な量のプログラムによって

 
 

人格を形成されたんじゃないか ────

 
 

そう思えてならないんだ。

 

「いや、そういう意味じゃなくて ──── 」

 

「全てのデータを呼び出すのって、案外時間が掛かるものよ。『Now Loading...』・・・ロード中だったって言ったら分かりやすいかしら。それでも、データ量の多さに比べればずいぶん速いほうだと思うけど」

 

「5分も掛からなかったみたいだしね。・・・ボク、せっかちなのかな」

 

「じゃあ、黙ってて」

 

フッと伏し目がちにそう言った彼女の口調が、何となく苛立ってる感じがして・・・少し怒られた気になってしまったボクは、うつむくしかなかった。

 

「・・・ねえ、怒ってる?さっきの話。ロボットみたいだって ──── 」

 

「そんなくらいで、どうして怒るのよ?ちょっと理解不能だわ。・・・ううん、違う。私が言いたいのは、『私が、あなたに話しかけるまで』黙ってて・・・ってこと。ね?こうやって・・・」

 

目を開けて・・・あなたの顔を、しっかり見て ──── と、いきなりボクは両肩をつかまれて、体ごと彼女のほうへ向かされてしまった。深い茶色をした瞳、その真剣な眼差しに吸い込まれそうになって、思わずドキッとした。彼女は茶目っ気たっぷりに、ちょっと低い声色を作って

 

「あっ、久しぶりー、元気してた?・・・って言ったら、それが」

 
 

──── 『ロード完了』の、合図だから。

 
 

彼女は明るく笑って、ボクの頭をくしゃくしゃと撫でていた。


第17章 秘密の逢瀬(6)

 「・・・懐かしいな。ここの公園」

 

ゆっくり辺りを見回しながらそう言った彼女は、やっぱり噴水に目を留めた。

 

「とにかく水を補給しなきゃ・・・って、あそこの。噴水に入ったら」

 

「オジさんに怒られちゃったんだっけ」

 

彼女は微笑んでうなずいた。

 

「何であんな事されたか、未だによく分からないんだけど・・・」

 

『水浴び』も、しちゃダメなのかしら ──── クルッと興味深げにこっちを向いてきた彼女。さあ、来た。きっと今、彼女の制御システムは『学習機能』をオープンさせている。つまり・・・

 

プログラムの入力待ち

 

なんじゃないかな。・・・よし、じゃあなるべく柔軟な回答を。

 

「そうだな・・・たぶん、怒るのはあのオジさんだけだと思うけど。でもホラやっぱり『水浴びしていいですよー』とか、何も書いていないところじゃあんまりやらないかな」

 

「という事は、どちらかと言えば『目で見て楽しむ』・・・そんな感じね?」

 

「そうそう!」

 

ボクは平静を装って相槌を打ってはいたけれど、彼女に内蔵されたA.I.の性能の高さにビックリしていた。これなら、常識的な事は何を話しても問題はなさそうだ。

 

「それで、あなたに教えられたのよね」

 

『水を飲むなら、あそこだ』って ──── 彼女はスッと水飲み場を指差した。

 

「行列んなっちゃって、大変だったけど」

 

「あの時は、最低でも60パーセントは確保しておきたかったの。どこにいるかも分からない大澤博士を捜すためには、それくらいは必要だと判断したから」

 

・・・彼女によれば、現在は『麻衣さん』が普通に食事を摂ってくれるから、常に6割以上のエネルギーは蓄えられているらしい。

 

「じゃあ安心だ。・・・良かったね」

 

彼女は嬉しそうに笑っていた。でも、フッとうつむいたその瞳から、その時突然・・・

 

「ごめんなさい・・・」

 

一筋の涙が零れ落ちたんだ。

 

「どうしたの!?急に・・・」

 

ボクは、涙を流せないはずの彼女が泣いたという『事実』より、その『理由』が分からなくて戸惑ってしまった。その行動は、いったいどんなプログラムから起因しているんだろう。寂しさ?・・・悲しさ。それとも、悔しさなのか。

 

「ロボットである私は、プログラムでしか動けない。プログラムには、逆らうことが出来ない・・・!!!」

 

膝に手を乗せたまま、言葉を失くして俯いていた彼女の涙は止め処なく流れていた。『麻衣さん』そう声を掛けそうになったけれど、彼女は『彼女』であって、麻衣さんじゃない。ボクはたまらず肩を抱き寄せてしまった。

 

「あんまり泣いたら、エネルギーがなくなっちゃうよ?」

 

「ここには、水飲み場があるわ。・・・いざとなったら、そこで補給します。だから、お願い・・・」

 
 

──── 今は思いきり、泣かせて・・・。

 
 

とうとう彼女は、ボクの胸に顔をうずめてワーワー大泣きし始めた。『麻衣さん』の時でさえ、こんなに泣いた事はなかった。ヒックヒック体を引きつらせる事もなく、おとなしく泣き叫ぶ彼女の姿は、まるでこの世の全ての機械たちの悲痛な声のようにボクの心に突き刺さっていた。


第17章 秘密の逢瀬(7)

 「うわぁーあぁー!!!・・・あぁー!!!・・・うわぁーあぁー!!!・・・あぁー!!!・・・うわぁーあぁー!!!・・・」

 

ボクの胸の中で、彼女は一定のリズムを保ちながら『規則正しく』泣き続け、今までの苦しみをぶちまけていた。彼女は、疲れることを知らない。・・・いや、それどころか泣き方さえも知らなかったんだ。その、まるでサイレンのような『泣き声』は、不器用だからこそ余計に悲しさを感じずにはいられなくて、こみ上げるものを抑えきれなかった。だから、何だかボクまで目頭が熱くなってしまったんだ。

  

  

 ・・・それから数十分もの間、彼女は泣きっぱなしだった。そのうちに、ピタリと泣き止んだかと思うと、ムクッと顔を起こし水飲み場へ向かい始めた。しばらく水を飲み続けた彼女は、恥ずかしそうに笑みを見せてこっちに戻ってきた。

 

「ごめんなさい。気づいたら、40パーセントまで減っていたので・・・」

 

「・・・今は、大丈夫なんだね?」

 

コクッとうなずいて、また隣に腰を下ろす彼女。そのスッキリとした表情を見てボクはため息をついた。ようやっと落ち着きを取り戻したみたいだった。

 

「もし、今までに何かがあったとしても・・・こうやってさ、もうボクたちは楽しく暮らしてるんだから」

 

それで、いいんじゃないかな ──── チラリと映る彼女の横顔はそれでもまだ、どこか曇っていた。

 

「私は、プログラムに逆らえなかった。だから・・・あなたまで殺してしまいそうになった」

 

彼女が吐き捨てるように言ったその言葉を聞いた直後、ボクの脳裏にあの日の光景が蘇った。ヒゲオを殺しそうになった彼女を止めようとしたボクは首をつかまれて・・・

 

「麻衣さんが、あなたや大澤博士、工藤博士を助けようとして自らを犠牲にしたのは・・・あの時点では最良の判断だった。でも、私は違った」

 

きっとアイツは、あなたたちを殺す・・・そう予想していた。だから ──── 彼女は自らの判断で、停止したという『ニセの信号』をリモコンに送信。擬似的にシステムをフリーズさせていたんだ。言うなれば、それは・・・

 
 

──── 『死んだフリ』だった。


第17章 秘密の逢瀬(8)

 「再起動した私を、他の二人は銃で“撃ち殺そう”としたわ。それで私は自分の判断が間違っていなかったんだと認識した」

 

ただ、その時はニューロ・チップ出力で動いていたから、彼女は『麻衣さん』だった。

 

「ノア・シリーズには支援用という性質上、人にケガをさせないために、出力制限が設けられているの。だから、たとえ麻衣さんがどれだけ激怒したとしても・・・」

 

人を殺すほどの力は、出ないはずだった ──── ・・・ところが、麻衣さんは自分の父親までもがヒゲオに殺されたという事実を知って怒りを抑えきれず、それによって膨大な量のプログラムがメモリーログに一度に書き込まれるという異常事態を引き起こした。ひいてはそれが熱暴走の原因となり、もう、PMP・・・彼女の力ではどうにもならなくなってしまった。それ故ついにリミッタは解除され、彼女のパワーは危険レベルにまで達してしまったというわけだ。

 

「もし工藤博士が、あの時私をシャットダウン出来ていなかったら・・・」

 

私は、あなたを ──── 彼女は、あの日ボクの首をつかんだ手・・・その指先を見つめながらゆっくりと握り締めて、悔しそうに唇をかみ締めていた。瞳を閉じたその白い頬を、また涙が伝っていく。ボクは、巻き戻すようにゆっくりと、その指を開いて自分の胸に彼女の手のひらを押し当てたんだ。ボクは親指で彼女の涙を拭って、こう言った。

 

「どう?ドクン、ドクンって鼓動、っていうか振動を感じるでしょ?・・・って事は、『君はボクを殺してない』ってことさ。・・・ああ、そうか。ボクら人間は、イヤな事はなるべく早く忘れようと ──── 」

 

「忘れる・・・!じゃあ、データを消去すればいいのね!?」

 

「やめてっ!!・・・もし君がそんな事出来るとしても、それだけは絶対にしないで!!」

 

「どうして?」

 

彼女は潤んだ瞳で不思議そうな顔をして、こっちを見つめている。

 

「だってっ!・・・そんな事して、君が君じゃなくなったらイヤだもん」

 

君との思い出が消えたりしたら ──── その時、ふと彼女は大人びた笑みを見せて

 

「・・・もし私が人間だったら、ここで『でも、この体は大澤麻衣個人のもの。私は・・・ただのプログラム』なんて、スネてみたりするんでしょうけど。でも、あなたは私の『MANAGER』、管理責任者よ。その命令は、絶対なんです」

 

だから、決して『Delete』・・・消去はしません。安心して? ──── ボクがホッと胸を撫で下ろす仕草を見て、彼女も顔をほころばせていた。

  

  

 「あっ、そろそろ工藤博士がこちらにやってくる頃かしら。・・・あんまりにも遅いから、お出迎えね」

 

「えっ!?・・・って事は、今までの話全部聞かれてたのかな?」

 

「・・・かもしれないけど、心配ないわ。あの人も、すっごく『いいひと』だから」

 

さ、麻衣さんを起こしてあげて ──── 彼女はボクの腕をとって、腕時計のフタを開けた。

 

「うん・・・」

 

なんて言うものの、やっぱり・・・少し寂しかったから。指を重ねても、なかなかスイッチを押せずにいた。そしたら・・・

 

「だぁいじょーぶよ!そんな顔しなくても。私は、いなくなるわけじゃないんだから」

 

と、ボクの手を彼女の頭に触れさせて

 
 

──── 私は、いつも・・・ここにいるわ。

 
 

シュウゥゥン・・・かすかにそんな音がして、そのまま彼女は目蓋を閉じて動かなくなった。彼女の肩を叩いても、もう何も反応はなかった。『おーい・・・』声を掛けようとして、やめた。ボクはもう、『寝たフリをした』彼女の気持ちをしっかり受け止めたつもりで、何もウダウダ言わずに『P』スイッチを押したんだ。


第17章 秘密の逢瀬(9)

CONNECTING to NCMニューロ・チップに接続中...】

  

  

 ロード中だったって言ったら、分かりやすいかしら ──── ボクは、液晶表示が切り替わってからすぐに麻衣さんを起こすのをためらった。とりあえず、彼女がきちっと起きて何か話しかけてくるまで待とうと思ったんだ。トーンの少し上がった、いつもの可愛らしい声でね。

 

「・・・な~んか数年後の、お姉さんになった麻衣さんと話してた感じがするなあ」

 

・・・数分が立って、『まだかな・・・』依然として『眠ったまま』の彼女の横顔を見ていると、ある時突然彼女の体が傾いて、ボクにもたれかかってきた。

 

「わっ・・・麻衣さん?」

 

ちょっと驚いて声を掛けたボクの耳にスー・・・スー・・・と、静かな寝息が聞こえてきた。『疲れさせちゃったかな・・・』彼女は、本当に眠っていたんだ。

  

  

 「なかなか帰ってこないと思ったら、こんな所にいたんだ」

 

「工藤さん」

 

緊張しなかったって言ったらウソになる。だって、麻衣さんの『眼』を通してモニターできるのは大澤博士の話で知っていたし、あの時は途中でモニターを切っていたとしても、もう今は彼女はプロトタイプとして計画の一環で生活を送っているから、常にモニターされていてもおかしくなかった。・・・百歩譲って、これにマイクが内蔵されていないとして話の内容までは聞かれていなかったとしても、スイッチを押した事は記録されているはずだ。

 

「・・・なんだ。麻衣のヤツ、寝ちゃってるのか」

 

工藤さんが彼女の顔を覗き込む。その顔は、穏やかに笑みを浮かべていた。

 

「ずっと話してたから、ちょっと疲れちゃったみたいで・・・」

 

うんうん・・・と、うなずくその表情は、まるで本当の父親のようだった。やっぱり、まだホントの事は言えなかった。悶々とした気持ちを紛らせようと『起こそうか?』そう小声で言ったボクに首を振って、工藤さんは彼女をおんぶしたんだ。

 

「重たくないの?」

 

「ああ、今は前の半分以下に重量を抑えられたからね」

 

もう、普通の女の子とあまり変わらないよ ──── バージョンアップする段階で何度も軽量化を重ね、今では50㎏ちょっとになってるんだそうだ。姿勢を整えた工藤さんは、振り向いて言った。

 

「キミも、早く帰れよ。お母さん、心配するぞ?」

 

「あっ、はい・・・。お休みなさい」

 

「お休み。・・・あっ、そうだ」

 

あのっ、工藤さ ──── 『ついさっきのこと』を話そうと思って口を開いた時だった。ゆっくりと歩きかけた工藤さんが、またこっちを向いて話し始めたんだ。

 

「その・・・今日から麻衣を行かせるって話、黙っておくつもりはなかったんだけど。まあ何とか、無事に麻衣と会えて良かった。学校に行ってる間、『モニタリング』はキミに任せるから。・・・コイツのこと、よろしく頼んだよ」

 

「うん、分かったよ」

 

まだ心の底から笑えなかったけれど、工藤さんの言葉を信じてもいいんだったら・・・少しだけ笑えたような気がした。『ああ、それから・・・』また、歩きかけた工藤さんが背中を向けたままで

 
 

──── たまにはさ、また今日みたいに・・・ノアの話し相手になってやってくれないかな。

 
 

その言葉でボクの心は一気に熱を帯び、『やった・・・!!!』口パクで雄叫び、ガッツポーズで静かに踊りまくった。そんなボクの今までの緊張や不安、色々なわだかまりを全て見透かすように、工藤さんはスッとVサインを上げてみせた。