目次
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
独白 プロローグ
独白 プロローグ
第1章 眠れる森の
第1章 眠れる森の(1)
第1章 眠れる森の(2)
第1章 眠れる森の(3)
第1章 眠れる森の(4)
第1章 眠れる森の(5)
第2章 世にも奇妙な
第2章 世にも奇妙な(1)
第2章 世にも奇妙な(2)
第2章 世にも奇妙な(3)
第2章 世にも奇妙な(4)
第2章 世にも奇妙な(5)
第3章 昔むかしの
第3章 昔むかしの(1)
第3章 昔むかしの(2)
第3章 昔むかしの(3)
第3章 昔むかしの(4)
第3章 昔むかしの(5)
第3章 昔むかしの(6)
第4章 不思議の国の
第4章 不思議の国の(1)
第4章 不思議の国の(2)
第4章 不思議の国の(3)
第4章 不思議の国の(4)
第4章 不思議の国の(5)
第4章 不思議の国の(6)
第4章 不思議の国の(7)
第4章 不思議の国の(8)
第4章 不思議の国の(9)
第4章 不思議の国の(10)
第4章 不思議の国の(11)
第5章 嵐の前の
第5章 嵐の前の(1)
第5章 嵐の前の(2)
第5章 嵐の前の(3)
第5章 嵐の前の(4)
第5章 嵐の前の(5)
第5章 嵐の前の(6)
第5章 嵐の前の(7)
第5章 嵐の前の(8)
第5章 嵐の前の(9)
第6章 山のあなたの
第6章 山のあなたの(1)
第6章 山のあなたの(2)
第6章 山のあなたの(3)
第6章 山のあなたの(4)
第6章 山のあなたの(5)
第7章 ツミキクズシ
第7章 ツミキクズシ(1)
第7章 ツミキクズシ(2)
第7章 ツミキクズシ(3)
第7章 ツミキクズシ(4)
第8章 子心親不知
第8章 子心親不知(1)
第8章 子心親不知(2)
第8章 子心親不知(3)
第8章 子心親不知(4)
第8章 子心親不知(5)
第8章 子心親不知(6)
第9章 男はツラいよ
第9章 男はツラいよ(1)
第9章 男はツラいよ(2)
第9章 男はツラいよ(3)
第9章 男はツラいよ(4)
第9章 男はツラいよ(5)
第10章 禁じられた遊び
第10章 禁じられた遊び(1)
第10章 禁じられた遊び(2)
第10章 禁じられた遊び(3)
第10章 禁じられた遊び(4)
第10章 禁じられた遊び(5)
第10章 禁じられた遊び(6)
第11章 君死にたまふことなかれ
第11章 君死にたまふことなかれ(1)
第11章 君死にたまふことなかれ(2)
第11章 君死にたまふことなかれ(3)
第11章 君死にたまふことなかれ(4)
第11章 君死にたまふことなかれ(5)
第11章 君死にたまふことなかれ(6)
第11章 君死にたまふことなかれ(7)
第11章 君死にたまふことなかれ(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女
第12章 いのち短し走れよ乙女(1)
第12章 いのち短し走れよ乙女(2)
第12章 いのち短し走れよ乙女(3)
第12章 いのち短し走れよ乙女(4)
第12章 いのち短し走れよ乙女(5)
第12章 いのち短し走れよ乙女(6)
第12章 いのち短し走れよ乙女(7)
第12章 いのち短し走れよ乙女(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女(9)
第13章 あゝ無情
第13章 あゝ無情(1)
第13章 あゝ無情(2)
第13章 あゝ無情(3)
第13章 あゝ無情(4)
第13章 あゝ無情(5)
第13章 あゝ無情(6)
第13章 あゝ無情(7)
第13章 あゝ無情(8)
第13章 あゝ無情(9)
第14章 クリスマス・キャロル
第14章 クリスマス・キャロル(1)
第14章 クリスマス・キャロル(2)
第14章 クリスマス・キャロル(3)
第14章 クリスマス・キャロル(4)
第14章 クリスマス・キャロル(5)
第14章 クリスマス・キャロル(6)
第14章 クリスマス・キャロル(7)
第14章 クリスマス・キャロル(8)
第14章 クリスマス・キャロル(9)
第14章 クリスマス・キャロル(10)
第14章 クリスマス・キャロル(11)
第14章 クリスマス・キャロル(12)
第14章 クリスマス・キャロル(13)
第14章 クリスマス・キャロル(14)
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女(1)
第15章 時空を翔る少女(2)
第15章 時空を翔る少女(3)
第15章 時空を翔る少女(4)
第15章 時空を翔る少女(5)
第15章 時空を翔る少女(6)
第15章 時空を翔る少女(7)
第15章 時空を翔る少女(8)
第16章 君の名は
第16章 君の名は(1)
第16章 君の名は(2)
第16章 君の名は(3)
第16章 君の名は(4)
第16章 君の名は(5)
第16章 君の名は(6)
第16章 君の名は(7)
第16章 君の名は(8)
第16章 君の名は(9)
第17章 秘密の逢瀬
第17章 秘密の逢瀬(1)
第17章 秘密の逢瀬(2)
第17章 秘密の逢瀬(3)
第17章 秘密の逢瀬(4)
第17章 秘密の逢瀬(5)
第17章 秘密の逢瀬(6)
第17章 秘密の逢瀬(7)
第17章 秘密の逢瀬(8)
第17章 秘密の逢瀬(9)
終章 いつまでも、いつものように
終章 いつまでも、いつものように(1)
終章 いつまでも、いつものように(2)

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第16章 君の名は

第16章 君の名は(1)

 ──── 2013年4月18日午後3時2分、NBATCL所長室。

 
 

「・・・はい」

 

「工藤です。所長、よろしいですか。長らくメンテナンス及び新システム導入に伴うバージョンアップ作業中だったプロトタイプNHP-001が、ようやく稼動可能となりましたので ──── 」

 

「ほっ、それは本当ですかっ!?・・・はいっ、すぐ!今行きますっ!!」

 

「大丈夫ですよ。連れて来てますから。 ──── さ、入って。ちゃんとご挨拶するんだぞ?

 

はぁ~い・・・おじゃま、あっ・・・しつれーしまぁ~す!」

 

「はいはいっ、どうぞ入って・・・ ──── !!??ハッ・・・ぐむっ。ふぉぉぉぉっっ・・・!!」

 

「えっ、所長?・・・あの、大丈夫・・・ですか?」

 

「俊介オジちゃん、あの人・・・どうしちゃったの?」

 

「麻衣ちゃん。・・・近くに行って、慰めてあげて」

 

「うんっ」

 

 

 

「よしよし♪」

 

 「・・・ああっ、すみ・・・すみません、頭まで撫でていただいて。いやぁ、私としたことが・・・つい、昔の事を思い出してしまって」

 

「むかしのことって・・・なぁに?」

 

「いえ、何でもないんです。あなたのお父さんは、つくづくスゴい人だなぁと・・・そう思っただけですから」

 

「・・・ズルい人ですよね」

 

「ええ、まったく。・・・本当に『極秘』、私にも何一つ教えてくれませんでしたからね」

 

「えっ、そうだったんですか?」

 

「ええ。・・・それだけあの人は、お嬢さんを大切に思っておられたんでしょう。 ──── ねえ、お嬢さんっ!あなたは・・・」

 

「・・・?」

 

「あなたは・・・本当に幸せ者だ。ぜひ、その・・・お父さんから与えられた『二度目の人生』を、大切にしてくださいね」

 

「うんっ・・・あっ、ハイッ!」

 

「おっ、いい返事です!」

  

  

 「来月から、いよいよ試験運用ロケテストに入る予定です。麻衣・・・あ、いやNHP-001には、これまでとまったく変わらない形で日常生活を送ってもらい、社会における適応能力と問題点をチェックします。そのデータはコンピュータに逐一送信され、今後のプロジェクト運営に活用されます」

 

「なるほど。・・・あ、そうそう。それはそうと、学校には通わせるおつもりですか?」

 

「はい、同じく来月から市内の高校に編入させる事が決まっています」

 

「その際の先生方への説明は?」

 

「それはもう、普通どおりに済ませてあります。私が、彼女の『保護者』として」

 

「ヒューマノイドだとは?」

 

「それは、伝えていません。そこはプロジェクト発展のため、あくまでも『人間』ということで」

 

「うむ・・・そのほうがいいでしょうね。やはり・・・奇異な目で見られてしまっては、どうしてもプロジェクトに支障が出てしまいますから。・・・ですが」

 

「はい」

 

「もし、何か問題が起きてしまいますと・・・ちょっと厄介ですね。大きなトレーラーで乗り込んで修理するわけにも行きませんし・・・」

 

「その点は、ご安心ください。すでにその高校には、プロジェクトの『関係者』が通っています」

 

「ほう・・・さようですか」

 

「彼にも、非常用の『緊急停止デバイス』を持たせてありますので」

 

「・・・まあ、そのような装置は使わないに越したことはありませんが。それなら、大丈夫ですね」

 

「ええ。・・・とはいえ」

 
 

──── 今日まで・・・ノアと共に乗り越えてきた彼には、まったく必要のない代物かもしれませんが。


第16章 君の名は(2)

 ──── 2013年3月17日午前11時14分、市内某所。

 
 

「何だ、引っ越したなら引っ越したって言ってくれればすぐにでも手伝いに来たのに・・・」

 

「いやあ、何せ『重要機密』ばっかりで誰かに手伝ってもらうわけにもいかない。それに・・・」

 

キミはたしか、『そうするその時まで待ってるヤツ』じゃなかったっけ? ──── 工藤さんは、あふれんばかりに資料の詰め込まれたダンボール箱を積み上げながら、いたずらっぽく笑って言った。

 

「んなこと言ったって、もうじゅうぶん色んな意味で『怪しまれてる』から、ボクが来てあげなきゃしょうがなかったんじゃないか。『あっ、おじさーん』って・・・」

 

何やら夜中に奇妙な物音のする家がある・・・って『評判』だった工藤さんの新居。ボクはそこに荷物の整理に来ていた。今年に入って、工藤さんから近々引っ越す予定だというメールが届いたんだ。まさか、それがボクんちの近所だとは思いもよらなかったけれど。

 

「とにかく君が来てくれて、色々と助かったよ。・・・昨日のうちに、メンテ用の可動イスは何とか運べたんだけどね」

 

そのせいで、背中を痛めちまって・・・このザマだよ ──── ポンポンと背中を叩きながら、おじさんならぬ『おじいさん』みたいにゆっくりと奥の部屋へ入っていく工藤さん。分厚く厳重な扉の奥、防音設備が施されたその部屋に広がる光景は、まるっきり別荘の地下、あのラボと同じだった。

  

  

 「ハハ、そりゃそうだよ。あそこの設備をそっくりそのまま、こっちへ『引越し』たんだから」

 

やっぱりあのままにしてたらさ、どうしても維持費がかさんじゃって・・・ ──── だからもう、あのラボは取り壊してしまうんだって。

 

「じゃあ、別荘は?」

 

「それは、大丈夫。俺が責任を持って守っていくから。だってあそこは・・・みんなの思い出がいっぱい詰まった場所じゃないか」

 

「そうだよね、良かった。・・・よし、じゃあ置くよ?この辺でいいかな・・・ヨイショ」

 

ボクは、パソコンを置くための机をあのラボのように可動イスのそばに運んだ。

 

「ああ、ありがとありがと。助かったよ ──── ・・・いや、違うんだ。あのラボはさ、思い出っつったって・・・」

 

な~んか、イヤな思い出しかないんだよな ──── きっと、このときの工藤さんの頭の中には彼女を置き去りにしていた日々の記憶がめぐっていたに違いない。もともとは『機密保持』という名目で、あれだけの距離を置いて作られたラボ。でも、いつしかそれは・・・彼女との『心の距離』になっていたんだ。

 

「それに・・・これなら、俺はいつも麻衣のそばにいてやれる」

 

「そっか・・・。工藤さん、『お父さん代わり』だもんね。さあっ、次は何運んだらいい?」

 

「えっ、いいのかい?せっかくの日曜なのに・・・」

 

「いいのいいの!・・・ボクも何だかんだ言って、その・・・来たくて来て、やりたくてやってるところもあるし」


第16章 君の名は(3)

 ・・・そうして2時間くらい経って。あらかたの作業が終わってリビングでひと休みしていると、奥の部屋から工藤さんが出てきて、

 

「いやあー、お疲れさん!今日はホントに助かったよ、ありがとう。その・・・いつか渡すつもりだったし、別に今日のお礼って言うわけでもないんだけど・・・」

 

はいコレ ──── ボクに、黒い腕時計のようなものを手渡したんだ。

 

「これって・・・」

 

もうその時には無意識のうちに『期待に満ちた眼差し』でニタ~ッと笑って工藤さんを見ていたに違いない。今のボクには、それが『ただの腕時計じゃない』事なんて、簡単に想像がついた。

 

「腕時計だよ?カッコいいだろー」

 

「またまたー、そんな事言って・・・。これは『ただの腕時計』じゃないんでしょ?」

 

「そりゃあ・・・モチロンそうさ。タダじゃないよ。結構高くついたし・・・」

 

「違うよ、そうじゃなくて・・・これは、『フツーの腕時計』じゃないんだよねっ!?」

 

「ううん・・・ごくごく普通の腕時計」

 

「・・・まさか」

 

「・・・ん?何期待してたの」

 

「えっ・・・ウソ」

 

「ホントホント」

 

・・・何なんだ?この・・・妙にうすら寒い感じは。そんな・・・工藤さんは、ちょっとカッコいいだけの『フツーの腕時計』をボクに・・・?何で・・・何のために ──── 。

 

「ああっ、ゴメンゴメンうそうそッッ!!!そんな顔しないでっ……ホラッよく見てごらんよっ!?普通の腕時計よりちょっとゴツくて、デッカイだろ!?……液晶画面の下……下っ……!!!」

 

ちょっと、そこのボタン押して開けてみて ──── 困惑した表情の工藤さんが必死に指で示したところには、たしかに小さなスイッチのようなものがあった。ボクは、それをそっと押してみたんだ。

 

「!!・・・やっぱり、そうだったんだ」

 

パカッと開いたその下に、その『腕時計』の本性が隠れていた。そこには、あのリモコンと同等かそれ以上の機能が備わっているように思えた。これは・・・スゴイ・・・ちょっとスゴイぞっ ──── !!!!

 

「ゴメンなぁ・・・すぐ気づいてくれるかと思ったんだけど」

 

「えっ、何の話?」

  

  

 ・・・そんなこんなで、ボクはこの後工藤さんのパソコンから、この『腕時計』が他人に使われないようにするための『ユーザー登録』をしたんだ。こんなコンパクトなのに、使用するためには『網膜』と『指紋』の2つの認証をクリアしなきゃならないんだそうだ。その2つを登録したら、後は名前とか生年月日なんかの個人データを入力していく。

 

「今年で17ってことは・・・えっ!?・・・今度、高2になるのか!!」

 

「・・・去年言ったじゃない。今度会う時には、同い年になってるって」

 

「いやいや・・・月日の経つのは早いもんだなぁ~なんてね」

 
 

──── で・・・どこの高校だっけ?

 
 

「えっ、言ってなかった?・・・ここの近くの」

 

「えっ?・・・ああ、あそこか!四ッ葉よんば第二だろっ!?」

 

「そうそう・・・どっかのダムみたいだけど」

 

「よつばのクローバーじゃないんだねーって感じだけどな!」

 

「・・・何か今日は、やけにテンション高いね。どうしたの?」

 

「あ、いや・・・別に。ただ・・・」

 

「ただ?・・・何」

 
 

──── もうすぐだな・・・って。

 
 

「うん・・・もうすぐだね」

 

・・・いよいよ今年、生まれ変わった『同い年』の彼女に会えるんだ。


第16章 君の名は(4)

 「・・・今までのヤツと違って、これだけで完全停止と再起動が出来るようになったんだ。もし何かあれば、そのスイッチを押すことで動きを止められる」

 

「工藤さんも持ってるんでしょ?・・・って事は、これから先ノアと一緒に暮らす家族の人にもコレを渡すんだね?」

 

「いや、これはプロジェクトの関係者、管理責任者だけが持つことになってる」

 

「えっ、何で?」

 

「誰も、家族をオン・オフしたいなんて思わないだろ?・・・もし何かがあった時は、俺たちが現場に行って対処する」

 

「それじゃあ・・・このスイッチは」

 

「とりあえず今は、もちろん麻衣だけにしか効かないけど・・・将来的に周波数は共通のものにする予定だよ」

 

「そっか・・・。でもさ、もう不具合は出ないんだし、使わなくても済みそうだね?」

 

「・・・だといいけどな」

 

「ねえ、工藤さん。ちょっと、気になってたんだけど・・・こっちのスイッチは?」

 

「ああ、それは・・・」

 

 

 ・・・あれからさらに2ヶ月近くが経って、もうとっくに新学期がスタートした5月。いくらボクが『そうするヤツ』だとはいえ、こうも音沙汰なしではちょっぴり不安になる。忙しいのかメールにもまったく返信がない。とにかく今は、工藤さんにもらったこの『腕時計』だけが何よりの頼りだった。だって、こんなのが完成してるって事は・・・

 
 

いつか、彼女が動き出す ────

 
 

って事でしょ?・・・っていうかさ

 
 

──── これ、レプリカじゃないよね・・・。


第16章 君の名は(5)

 ──── 2013年5月13日午後12時40分、県立四ッ葉第二高校2-5教室。

 
 

「おっ、何お前・・・時計新しいの買ったんだ!?」

 

「陽平!?ちょっ、返せよ!・・・おい、あんま触るなって!!」

 

その日の昼休み。どうしてそんな事をしたのか分からないんだけど、時計を腕からはずしてボーっと眺めてたら、後ろからバッと腕が伸びてきて・・・

 

「すげえ、何か・・・下からも何か出てきたぞ!?・・・何だこれ、・・・し、『しゅっとどうん』?こっちは・・・り・・・ああ、『れぼーと』か!・・・れぼーと、って何だ?・・・ワケ分かんね」

 

・・・ほい、サンキュ ──── 英語苦手なんだから、あんまり無理すんなって・・・それは、『Shutdownシャットダウン』で、そっちは『Rebootリブート』だから。

 

「・・・なあ、そこの『P』って何なんだよ」

 

「さあ、分かんない。あんま説明書読んでないから・・・。それより陽平、お前よそのクラスじゃんか。何しに来たんだよ」

 

「いやその・・・実は、英語のノートを借りに・・・」

 

いきなり前で手を合わせたと思ったら、急にヘコヘコしだして。2年になって、やっと違うクラスになったと思ったら途端にこんな調子だし・・・ ──── あれっ

 

「珍しいな!・・・お前いつもなら、『英語は捨てた!!』とか言ってる ──── 」

 

「事情が変わったんだよ!!うちのクラスにさあ・・・今日、転校生が来たの!」

 

「・・・へえ、そうなんだ?──── それで」

 

「それがさあ・・・何つーかもー『萌え系』のしゃべり方がドンピシャで、超カワイーんだって!!」

 

何故か陽平のヤツ、どっかのオバちゃんみたくボクの背中をバシバシ叩いてきて

 

「イテッ、何すんだよ!・・・ああ、だからいいトコ見せようとしてんだ」

 

「そうっ!まさに、それですよ!!だから・・・ネッ♪いいだろ?」

 

この借りは必ず返すからさ ──── 別に、こっちはもう英語の授業終わったし・・・

 

「ノートだけ返してくれたら・・・いいよ、それで」

 

って言おうもんなら、陽平ってば『おうっ♪』なんて、クルッと後ろ向いてさ。お礼の一言もなしに、いそいそと出て行こうとしたんだ。

 

「よーしっ、これで完璧だ・・・!!!待っててくれよ、オレの実力を見せてやるぜ・・・!!いとしの・・・」

 

・・・っていうか、それボクの実力なんですけど。

 
 

──── いとしの、まいちゅわぁぁんっっ!!!

  

  

 駆け出した陽平の口から飛び出したその言葉に、ボクは耳を疑った。・・・まい・・・ちゃん?・・・まさか ──── !!!

 

「陽平、待って!」

 

「チッ、何だよっ・・・やっぱり返せなんて言うなよ!」

 

・・・そんな事、言わないよ。言わないけど ────

 

「お前んトコの、転校生。名前・・・何て言うの?」

 

その時の陽平の顔ったら、なかったよ。ジィィィッッ・・・とこっちを細目で見て・・・っていうか、にらんでて。

 

「あ~・・・お前も、あの子の事狙うつもりだろ?・・・ま、たしかにカワイーもんな。ライバルが現れて当然・・・よぉ~しっ!いいぜ、勝負しよう。どっちが、先にあの子に告白こくられ ──── 」

 

「そんな勝負いいからっ!早くその転校生の名前教えてくれよ!!!!」

 

「名前?・・・そりゃお前、アレだよ。かの大先生と、おんなじ苗字のカワイコちゃん・・・」

 
 

──── オーサワの・・・マイちゃん、ですよ。


第16章 君の名は(6)

 「・・・おいっ、どこ行くんだよ!抜け駆けはナシだぞ!?」

 

・・・最後のほうはほとんど聞かないままで、教室を飛び出した。でも、きっと間違いないよね。

 
 

──── 『マイちゃん』ときて、アイツの尊敬する・・・『かの大先生』とくれば。

 
 

だからあの日ボクの通ってる高校を知った時、工藤さん様子が変だったんだ。なるほどね・・・それでボクにも、あの『腕時計』を。それよりも・・・陽平って、何組だったっけ。『科学者になる!』なんて言ってるわりに、アイツもたしか文系だったから・・・ウチ以外の、後半3クラスのどこかだな。・・・クラス分けの日に聞いてたのに、すっかり忘れちゃった。

 

「おい、待てって!そんなに慌てなくたって・・・オレが呼んできてやるよ」

 

「なあ陽平、お前何組・・・ ──── えっ」

 

意外な展開に固まっていたボクをよそに、陽平はそのまま走っていってしまった。

 

「親友への優しさも、しっかりアピールしとかなきゃな!今連れてきてやっから、ちゃんとそこで待ってろよ!!」

 

そう言って、いちばん向こうのクラスへと走っていった陽平。そうか、アイツ8組だったんだ。教室の中に消えていった瞬間から、何かもう緊張しちゃって・・・握り締めていたこぶしは汗でえらく不安定になって、何度もズボンで拭いていた。

 
 

──── 次に出てくる時には、彼女も・・・。

 
 

と、その時教室から再び陽平が姿を現した。中にいる誰かとえらく親しげに喋っている。アイツ・・・彼女の天真爛漫さにつけ込んで、ある事ない事吹き込んでるんじゃないだろうな・・・。

 

「ホラあそこ。・・・アイツがさ、どうしても『まいっぺ』に会いたいって言うから ──── 」

 

そうこうしているうちに、陽平の手がこっちへ伸びてきた。ついで顔が向き、いよいよ彼女が身を乗り出して・・・

 

「あああぁぁ~っっ!こぉんにぃちはぁ~!!!」

 

「は・・・?」

 

「はじめまぁしてぇ~!・・・あなたが、ヨーちゃんの親友さぁ~ん?」

 

「は・・・ハハハ・・・ハハ。はじ、初めまして・・・」

 

でも・・・こっちへ駆け寄ってきた『まい』さんは、彼女とは似ても似つかない。どういう事なんだ、これは・・・!!!見た目からしてまったく違うし・・・しゃべり方も声も、とにかく何もかもが違う・・・こんな・・・・

 
 

──── こんなのは、彼女じゃないっ・・・!!!!

 
 

「わたぁしぃが~・・・『オーサワ マイ』でぇ~す♪ヨ・ロ・シ・ク・ねっ!!」


第16章 君の名は(7)

 ・・・結局あの後は何故か名刺を渡されたんだけど、話が変な方向に行かないうちに『まいっぺ』には丁重にお引き取り願いました。ちょっと待ってよ・・・それにしたって、大澤麻衣じゃなくて

 

逢佐和おうさわ 摩維まい

 

だなんて、とんだ『オーサワ』違いだよ。彼女の名前、先に陽平にメモって

もらえばよかった・・・。

 

「な?カワイーだろ・・・」

 

「何で・・・」

 

「ん?」

 

「何で高校生が名刺なんか持ってんの」

 

「さあ、よく分かんねーけど・・・何か大企業の社長の『ゴレージョー』だって自分から言ってたし。やっぱ育ちが違うとそーなんじゃねーの?とりあえず名刺渡して、みたいな」

 

「そうなんだ・・・。やっぱり、彼女とは大違いだったよ」

 

「彼女って?・・・あっ!おいまさかお前、もう誰かと・・・!!!」

 

「なあ陽平、さっきの勝負だけど・・・」

 
 

──── もう、お前の『不戦勝』でいいよ。

 
 

・・・なんて言ったら、『ほら見ろ誰なんだよお前の彼女って!!??』『なあ今度オレにも紹介してくれよ!絶対だぞ!』『オレだって仕方なくお前にまいっぺと会わせてやったんだぜ!?この借りは必ず返してもらうぞ!約束だからな!!』・・・そう強引に『指きりげんまん』までさせられちゃってさ。それから後は、もう・・・何ていうか、一気に無気力状態。いや、この際こんな『約束』のことは別に・・・いいんだ。陽平には、いつだって彼女に会ってもらったって構わないよ。・・・だって、もう会ってるもんだと思ってたもの。そしたら、よりによってあんな『ケバい子』だったし。・・・っていうか

 

「ホントに・・・来るのかなあ、麻衣さん」

 

でも、よく考えたら・・・『ここに来る』とかもそうだけれど、それ以前に『高校に通う』なんてのはボクが勝手に思い込んでるだけだし。実のところは

 
 

──── 彼女が、本当にもう元気になってるのか。

 
 

って、それすらも・・・分からないんだよな。・・・あーあ。何なんだろ、このモヤモヤした気持ちは。

  

  

 ・・・なんて思いつつ。気づいたら、放課後になってました。机の上には、現代文の教科書が。

 

「ああ、さっきの授業国語だったのか・・・」

 

ぜんぜん覚えてない。ふとグラウンドに目をやると、サッカー部の連中がぼちぼち練習を始めていた。・・・そう言えば、昼休みが終わってからずーっとこうやって外ばっか見てた気がする。

 

「おーい、部活行こーぜ!」

 

と、そこへラケットを手に陽平が現れた。 ──── よしっ・・・分からない事考えてたって、どうしようもないか!ボクは

 

「おう」

 

そう言って、腰を上げたんだ。


第16章 君の名は(8)

 こうやってテニスの練習をしてると、4年前の夏を思い出す。ちょうどあの日は部活が早めに終わって、家に帰る途中だったんだよな。

 
 

──── もし、あの日にあの『音』が聞こえていなかったら。今頃どうなってたんだろう。

 
 

転がってきたボールを拾いながら、ふとそんな事を考えていた。たまたまあの時は、車通りが少なかったから聞こえたようなくらいのかすかな音。もし、あのままあそこを通り過ぎていたら。・・・まあ、もともとここには通うつもりだったし、テニスもとりあえず続けようと思ってたから、今とおんなじような事をやってるんだろうけれど。でも、ひょっとすると・・・

 
 

──── 『彼女』は、存在していないかもしれない。

 
 

いや、それどころか大澤博士や、工藤さんさえも今生きていないかもしれない。ニューロ・チップや設計図はN.A.R.P.主任の策略によって、『組織』の手に渡り、あそこで倒れたままの彼女も遅かれ早かれ奴らに回収されてしまっているだろう。そうして責任者のいなくなった『ノア計画』は葬り去られ、全てはあのKBY有珠家の思うがままになっていた?・・・その可能性は、じゅうぶんある。

  

  

 ──── 2013年3月17日午後1時40分、市内某所。

 
 

「そのスイッチは『Presetプリセット』、つまりもともと入ってる基本行動プログラムPMPに制御をシフトさせるスイッチなんだ。様子が変だからって、いきなり人前で止めるのもマズいだろ?だから、まずはこのスイッチを押して管理責任者マネージャに従わせて、その後人目に付かないところで停止させて、回収するってわけさ」

 

「・・・あのさ工藤さん、ヘンな事聞くけど。その・・・『基本行動プログラム』に、人格が生まれる事はあるの?」

 

「基本的には、ありえない。何でかって言うと、普通は起動後すぐに、例の『コンパニオン認証』 ──── 」

 

「ああ、『顔見せて、名前を呼ぶ』ってヤツ・・・」

 

「そうそう。それを経て、すぐにニューロ・チップ出力で行動させる事になるからね。あー、なるほど。キミの言いたい事は分かるよ。・・・たしかに、そのPMPチップにもニューロ・チップと同じA.I.を使ってるから、今回の麻衣の場合のように、もしPMP主導で稼動していた時間が長い場合は、色々な事を学習して行動に反映させていく過程で ──── 」

 

「人格が生まれることがある?」

 

「・・・それに近い事は起こる、かもしれないね」

  

  

 ──── 2013年5月13日午後5時26分、県立四ッ葉第二高校テニスコート。

 
 

「どうしたんだよ?難しい顔して」

 

「あ・・・いや、何でもないよ。・・・行くぞ?」

 

もちろん、麻衣さんには早く会いたかった。でも、ボクはいつしか『彼女』にも、もう一度会って話したいと思い始めていたんだ。会って、どうしても『あの日のお礼』が言いたかった。

 

「ちょっ、タイムタイム!!・・・トイレ、行ってくる」


第16章 君の名は(9)

 ──── 2013年5月13日午後5時29分、県立四ッ葉第二高校クラブハウス前。

 
 

「はあぁぁぁ・・・スッキリスッキリ」

 

「あの・・・」

 

「えっ?・・・おっ、どうした1年こんなトコで。道にでも迷ったか?」

 

「あのっ、『優しいお兄ちゃん』・・・どこにいるか知りませんかっ」

 

「はい?優しい・・・お兄ちゃ ──── ・・・誰のことかな?」

 

「俊オジちゃ・・・あっ、お父さんから『ここにいる』って聞いて!たぶん、テニスしてるんじゃないかって・・・」

 

「・・・!!・・・オホンッ、ンンッ・・・♪」

 

「・・・?」

 

「・・・もしかして、それってオレの事?・・・いやあ、まいったね。まさか、こんな所にまでオレの噂が広まってるなんて・・・

 

「ううん、違いますっ!・・・ねえ~お兄さ~ん、知らない?」

 

うわ、思いっきり否定された!!で、そっこー話題変えられたし・・・。ってかさ、お前は何でその・・・『優しいお兄ちゃん』を捜してるわけ?」

 

「クリスマスに、一緒に遊んだんだよ!・・・その時からね、ずっとずぅぅぅっと会いたかったの!またみんなで一緒に遊ぼーねって、約束したんだもん!」

 

「ずっと会いたかったって・・・お前さ、それ・・・言っても去年のクリスマスの話だろ?すげー必死だけど・・・」

 

「ううん、違~うっ。2009年12月23日・・・だよ?その日のね~、午後1時53分から午後4時57分まで一緒に遊んで、それからね ──── 」

 

「ちょっ、待った待った!オイ、4年も昔のことなのに、何かすげー詳しいな。・・・で、その日からその『お兄ちゃん』には会ってないの?」

 

「うん・・・」

 

「1回も?」

 

「だって麻衣、その日の午後11時8分に寝て・・・起きたら2013年4月18日の午前10時49分だったんだもん」

 

「ちょっ、4年も!!??・・・いや、ありえねーありえねー・・・事故か何かで意識不明とかにでもなってなきゃ・・・あっ、お前さ、ひょっとして病気してたりした?」

 

「・・・分かんない。でも、お父さんが『もうすっかりナオッたから大丈夫・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・だよ』

って言ってたし・・・」

 

「じゃあ、やっぱ入院してたんだな!うん、間違いねーや」

 

「そうかな・・・うんっ、きっとそーだよね!」

 

「でも、ホントにその・・・『優しいお兄ちゃん』って、ここに通ってんのかよ?」

 

「だから、麻衣がここにヘンニューしてきたの!お父さんが『その子はここの2年生なんだ』って言ってたもん!!麻衣だってホントは『同い年』なんだって言ってたから、お兄ちゃんとおんなじ2年生が良かったのにぃ・・・」

 

「まあまあ落ち着けって。・・・はは、たしかに編入は2年からじゃ無理らしいし。そっか、コイツも17ってことは・・・フッ『お兄ちゃん』に『同い年の後輩』って、こっちも何か結構『萌える』シチュエーションじゃ・・・あれっ?それより今お前自分のこと『麻衣』って・・・」

 

「そうだよ?だって麻衣は麻衣だもんっ!!」

 

「えっ!?ちょっ・・・!!まさかコイツが、アイツの言ってた・・・『彼女』か?・・・えー、オホンッ!それでは、ここに立っている嶋野センパイに、もう一度大きな声で自己紹介をしてくれるかな!」

 

「何年何組とかも言う?」

 

「好きにしなさいっ」

 

「うんっ!・・・あっ、ハイッ嶋野センパイ!行きまーす。・・・えっと・・・県立四ッ葉第二高校1年3組、出席ばんごー6番・・・」

 
 

──── 大澤・・・麻衣ですっ!!よろしくお願いしまーす!!!