目次
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
前日譚 目覚めの刻(とき)を待つ少女
独白 プロローグ
独白 プロローグ
第1章 眠れる森の
第1章 眠れる森の(1)
第1章 眠れる森の(2)
第1章 眠れる森の(3)
第1章 眠れる森の(4)
第1章 眠れる森の(5)
第2章 世にも奇妙な
第2章 世にも奇妙な(1)
第2章 世にも奇妙な(2)
第2章 世にも奇妙な(3)
第2章 世にも奇妙な(4)
第2章 世にも奇妙な(5)
第3章 昔むかしの
第3章 昔むかしの(1)
第3章 昔むかしの(2)
第3章 昔むかしの(3)
第3章 昔むかしの(4)
第3章 昔むかしの(5)
第3章 昔むかしの(6)
第4章 不思議の国の
第4章 不思議の国の(1)
第4章 不思議の国の(2)
第4章 不思議の国の(3)
第4章 不思議の国の(4)
第4章 不思議の国の(5)
第4章 不思議の国の(6)
第4章 不思議の国の(7)
第4章 不思議の国の(8)
第4章 不思議の国の(9)
第4章 不思議の国の(10)
第4章 不思議の国の(11)
第5章 嵐の前の
第5章 嵐の前の(1)
第5章 嵐の前の(2)
第5章 嵐の前の(3)
第5章 嵐の前の(4)
第5章 嵐の前の(5)
第5章 嵐の前の(6)
第5章 嵐の前の(7)
第5章 嵐の前の(8)
第5章 嵐の前の(9)
第6章 山のあなたの
第6章 山のあなたの(1)
第6章 山のあなたの(2)
第6章 山のあなたの(3)
第6章 山のあなたの(4)
第6章 山のあなたの(5)
第7章 ツミキクズシ
第7章 ツミキクズシ(1)
第7章 ツミキクズシ(2)
第7章 ツミキクズシ(3)
第7章 ツミキクズシ(4)
第8章 子心親不知
第8章 子心親不知(1)
第8章 子心親不知(2)
第8章 子心親不知(3)
第8章 子心親不知(4)
第8章 子心親不知(5)
第8章 子心親不知(6)
第9章 男はツラいよ
第9章 男はツラいよ(1)
第9章 男はツラいよ(2)
第9章 男はツラいよ(3)
第9章 男はツラいよ(4)
第9章 男はツラいよ(5)
第10章 禁じられた遊び
第10章 禁じられた遊び(1)
第10章 禁じられた遊び(2)
第10章 禁じられた遊び(3)
第10章 禁じられた遊び(4)
第10章 禁じられた遊び(5)
第10章 禁じられた遊び(6)
第11章 君死にたまふことなかれ
第11章 君死にたまふことなかれ(1)
第11章 君死にたまふことなかれ(2)
第11章 君死にたまふことなかれ(3)
第11章 君死にたまふことなかれ(4)
第11章 君死にたまふことなかれ(5)
第11章 君死にたまふことなかれ(6)
第11章 君死にたまふことなかれ(7)
第11章 君死にたまふことなかれ(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女
第12章 いのち短し走れよ乙女(1)
第12章 いのち短し走れよ乙女(2)
第12章 いのち短し走れよ乙女(3)
第12章 いのち短し走れよ乙女(4)
第12章 いのち短し走れよ乙女(5)
第12章 いのち短し走れよ乙女(6)
第12章 いのち短し走れよ乙女(7)
第12章 いのち短し走れよ乙女(8)
第12章 いのち短し走れよ乙女(9)
第13章 あゝ無情
第13章 あゝ無情(1)
第13章 あゝ無情(2)
第13章 あゝ無情(3)
第13章 あゝ無情(4)
第13章 あゝ無情(5)
第13章 あゝ無情(6)
第13章 あゝ無情(7)
第13章 あゝ無情(8)
第13章 あゝ無情(9)
第14章 クリスマス・キャロル
第14章 クリスマス・キャロル(1)
第14章 クリスマス・キャロル(2)
第14章 クリスマス・キャロル(3)
第14章 クリスマス・キャロル(4)
第14章 クリスマス・キャロル(5)
第14章 クリスマス・キャロル(6)
第14章 クリスマス・キャロル(7)
第14章 クリスマス・キャロル(8)
第14章 クリスマス・キャロル(9)
第14章 クリスマス・キャロル(10)
第14章 クリスマス・キャロル(11)
第14章 クリスマス・キャロル(12)
第14章 クリスマス・キャロル(13)
第14章 クリスマス・キャロル(14)
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女
第15章 時空(とき)を翔(かけ)る少女(1)
第15章 時空を翔る少女(2)
第15章 時空を翔る少女(3)
第15章 時空を翔る少女(4)
第15章 時空を翔る少女(5)
第15章 時空を翔る少女(6)
第15章 時空を翔る少女(7)
第15章 時空を翔る少女(8)
第16章 君の名は
第16章 君の名は(1)
第16章 君の名は(2)
第16章 君の名は(3)
第16章 君の名は(4)
第16章 君の名は(5)
第16章 君の名は(6)
第16章 君の名は(7)
第16章 君の名は(8)
第16章 君の名は(9)
第17章 秘密の逢瀬
第17章 秘密の逢瀬(1)
第17章 秘密の逢瀬(2)
第17章 秘密の逢瀬(3)
第17章 秘密の逢瀬(4)
第17章 秘密の逢瀬(5)
第17章 秘密の逢瀬(6)
第17章 秘密の逢瀬(7)
第17章 秘密の逢瀬(8)
第17章 秘密の逢瀬(9)
終章 いつまでも、いつものように
終章 いつまでも、いつものように(1)
終章 いつまでも、いつものように(2)

閉じる


第13章 あゝ無情

第13章 あゝ無情(1)

 ──── 2009年8月23日午後2時17分、深山市立総合病院703号室。

 
 

目が覚めると、そこは病室のベッドの上だった。『やっぱり、いないか・・・麻衣さん』あれから、いったいどれだけの時間が経ったんだろう。ボクは手のひらに今も残っている温もりに、彼女を思い描いていた。そばのチェストに置かれてあった時計は午後2時を回っていた。・・・母さん、怒ってるだろうな。2日前に部活で家を出たっきり帰らないで、おまけに知らない町の病院に入院してるなんて知ったら、何て言うかな。

 
 

コン、コン ────

 
 

「はい」

 

その時、ドアをノックする音が聞こえた。あっ、来てくれたんだ・・・なんて思ってたら

 

「よう」

 

と、手を上げて入ってきたのは工藤さんだった。まあ、ガッカリしなかったって言ったらウソになるけれど・・・でも、やっぱり何となく嬉しかったな。色々聞きたいこともあったしね。

 

「どうだい、体の調子は」

 

「まだ動いたらヒビくけど、大丈夫だよ」

 

安心したようにうなずいた工藤さんは撃たれた腕を固定されているからか、煩わしそうに近寄ってきた。


「工藤さんは?」

 

どう見たってボクより『ケガ人』っぽかったから、何か申し訳なくて。・・・聞かずにはいられなかったんだ。バタバタと、逆にこっちが心配になるくらい動かしながら苦笑して言った。

 

「大げさだろ?・・・別に骨にも異常はなかったのに、こんなカッコさせられてさ」

 

「それくらいでいいの!だって、工藤さんにはキチンと体治してもらわなくちゃ」

 

「・・・どうして?」

 

「だって、彼女にはもう・・・工藤さんしか ──── 」

 

「キミは?・・・アイツの、唯一の『協力者』がいるじゃないか」

 

「でもっボクなんかじゃ、もしもの時に彼女を直せないもん・・・!!」

 

ハハハ・・・冗談だよ ──── 自分でも不思議なくらい必死になってたら、工藤さんに優しく頭をなでられてしまった。


第13章 あゝ無情(2)

 「・・・あっ、そうだ!ハイこれ」

 

と、不意に声を上げた工藤さんがポケットから取り出したもの。それは・・・ボクの携帯だった。

 

「なるべく早くと思ってね、キミの携帯から番号調べさせてもらってさ。お母さんに連絡しておいたよ」

 

「ああ・・・そうなんですか?すみません、何か」

 

・・・何か、ちょっとずつまた現実に戻り始めていた気がして。安心したというか、逆にやる気がなくなるみたいな・・・妙に脱力感を覚えてしまったんだ。

 

「あっ、何か・・・マズかったかな」

 

「いやいや、そんな事ないですっ!ホッとしてたんです、ホッと。・・・やっぱ怒ってましたか?」

 

「いや・・・そんなに怒ってはなかったけどねー。ビックリしてたよ」

 

別荘お持ちなんですねーって ──── ・・・ん?いったい工藤さん何て電話したんだろう。

 

「ひょっとして、『工藤さん』で電話したの?」

 

そしたらフルフルッて首を振って否定したんだ。

 

「まさかまさか!・・・そんな事したら、下手すりゃ『誘拐』まがいになっちゃうよ」

 

「じゃあ、何て?」

 

そしたら何か工藤さん、すっごく得意げな顔しちゃって『携帯見ろ』って促してさ

 

「そりゃモチロン、アドレス帳『ともだち』フォルダに名前があって、なおかつ受信メール数が比較的多かった・・・」

 

嶋野しまの陽平くんの、『父親』としてね ──── 久しぶりに聞いた名前だった。・・・ああ、ますますいつもの日常、2学期が近づいてくるぅぅぅ~。

 
 

──── あの日、ボクは部活帰りに『陽平んちの別荘』へ遊びに行って・・・そのまま泊まってたんだって。で、最終日。いざ帰ろうかという時に?・・・何だっけ、遊んでた『アスレチック』から転落しちゃって。おなかを深く切っちゃったから、市内の病院に入院しなきゃならなくなった・・・

 
 

工藤さんの話によると、そういう事らしい。アスレチックねー、あったあった(笑)。・・・こんな話で、本当に信じたのかなあ。自信たっぷりなところを見ると、どうやら怪しまれずに済んだみたいだけれど。っていうか陽平のヤツ、いきなりリッチになっちゃったよ。

 

「メールしてやろっかな。『お前んち、別荘持ってんだー』って」


第13章 あゝ無情(3)

 「ねえ・・・アイツら、どうなったの?」

 

捕まったかどうかなんて、正直そんな事はどっちでも良かった。ただボクが知りたかったのは・・・

 

ちゃんと生きてるか

 

って事。たとえ『正当防衛』として扱われたとしても、彼女には余計な十字架を背負ってほしくなかったから。

 

「ああ、捕まったよ。最後まで、しらばっくれてたけど・・・調べが入ったら、思いっきり『宝の山』だもん」

 

警備員も大澤博士も、明らかに銃で撃たれていた。しかも落ちていた二挺のピストルには、まったく指紋が付いてなかったんだ。それが決め手になった。博士にしても、工藤さんにしても、彼女にしても、当然・・・ボクにしても。それを使ったのなら、確実に指紋が付くはずだ。となると、二人を殺害した犯人はそれぞれご丁寧に手袋をしていた

 

3人のうちの誰か

 

という事になるわけ。

 

「でも、ここだけの話『指紋』に関して言うなら・・・」

 

麻衣も、容疑者の一人になりかねなかった ──── 工藤さんが冗談めかしてそんな事を言ったんだ。

 

「どうして?」

 

「アイツの指には、指紋がないんだ。人の肌触りを完璧に再現する活性細胞にも、ぷるつや肌を形成するが故の欠点があってね・・・」

 

一見して、紛れもなく『人間』に見えた事と『素手』だった事から容疑者扱いにはされなかった。・・・えっ?という事は ────

 

「あのナイフは?ヒゲの男の肩に刺さってた・・・」

 

「ああ、だから結局ヤツの言い分は信用されてないみたいだよ。『彼女に刺されたのなら、柄に指紋が残ってなきゃヘンでしょ』って。それに、肩を貫通して5センチくらい壁に埋まってたから・・・」

 

『女の子』の力じゃ到底無理だと。だからガタイの大きいヌリカベがやったんじゃないかって。アンタらが、金の取り分か何かで仲間割れでもして・・・ ──── って事になったようだ。


第13章 あゝ無情(4)

 「あの・・・さ。麻衣さん ──── は?」

 

そしたら工藤さん、はっ!・・・って顔して、パンッてケガしてないほうの手で太もも叩いて

 

「昨日大変だったんだよ!ただでさえ俺も治療して遅かったからさ、キミを送ってもう戻ってきてると思ったの!」

 

工藤さんの治療が済んだのは、午後7時。通用口が完全に閉じられてしまうのは午後8時30分だった。だから、一旦、あっちの研究室に戻ったんだって。

 

「でも・・・アイツ、どこ捜してもいなかったから」

 

それで工藤さん今度は、深山の別荘へ向かったんだ。あれ?たしか ────

 

「発信機は?それで場所分かるんじゃ・・・」

 

でも、曇った険しい表情は変わらなかった。少し間があって工藤さんは首を振った。いったい、どうなったの?彼女、ちゃんといるんでしょ・・・!?

 

「それが動いてたら、こんな話しないって」

 

何故か携帯のGPSには光点が表示されなかった。工藤さんはそれを見て、真っ先にエネルギー切れを疑った。

 

「セーフモードは、段階的にエネルギー供給をカットする仕組みになっててね。構造の単純な装置から停止するように設定されてる。だからまずは、発信機が利かなくなったんじゃないか・・・」

 

フル充填したはずの彼女がわずか1日足らずでそこまでバッテリーが少なくなってしまった原因の一つは、制御システムの異常が引き起こした・・・

 
 

予期せぬ再起動と、高出力状態での慣れない『戦闘行動』

 
 

だった。結果的にそれがあったお陰でボクたちが助かったとはいえ、やっぱり彼女には大きな負担になっていた。それと、もう一つ・・・

 

「ここら辺は不便でね・・・病院もここ一つしかなくて。通うにも研究所からだと車で片道30分近くかかる。その時はまだビーコン生きてたからずっと追跡してたんだけど、キミを抱えて飛び出してってから病院にたどり着くまで・・・」

 

10分も掛かってなかったんだよ ──── それでかな。彼女、アンドロイドのはずなのに・・・あの時ボクの手を握ってくれていた時の顔は、ちょっと疲れてるみたいに見えたんだ。

 

「アイツ、やっぱり戻ってこようとしてたみたいでさ。・・・専用ゲートを入ったすぐ近くの山道の脇に、倒れてたんだよ。わりと早く見つかったのは、ラッキーだったけど・・・」

 

体は・・・もうボロボロだった ──── 顔は笑ってるみたいに見えたけれど、震えるようにして遠くに消えた涙声が工藤さんの心情を物語っていた。彼女は今、別荘の・・・『麻衣さんの部屋』で眠ってるんだそうだ。

 

「・・・でも、直せるんでしょ?直して・・・直してあげるよねっ!?工藤さんの体が良くなったらまた、すぐにでも・・・!!」

 

「ああ、もちろんさ。いずれはね・・・」

 

鼻をすすりながら咳払いとともに深呼吸して、工藤さんは声を張った。

 
 

──── また3人で色んな事、笑って話せる日が来ればいいな。

 
 

「工藤さん、何でそんな ──── 」

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。こっちはこっちで、書類の整理がもうタ~ンマリ残ってるから」

 

また、いつでも別荘に遊びに来いよ。ああそうだ、とりあえず後でメールするわ ──── 『聞く耳も持たずに』、工藤さんはパッパッとそれだけを告げて、まるで逃げるようにそそくさと出て行ってしまった。


第13章 あゝ無情(5)

 ──── 2009年8月23日午前9時6分、国立生体工学応用技術総合研究所会議室。

  

  

「体の具合はどうかね」

  

「・・・昨日治療してもらったばかりなので」

  

「しかし、今朝の新聞には驚かされたよ。まさか、博士がプロジェクトを私物化していたとは・・・」

  

「そんなつもりは・・・!!」

  

「所長も大いに期待を寄せている、この・・・我が渾身の一大プロジェクト『N.A.R.P.ナープ』(次世代支援ロボティクスプロジェクト)に、ものの見事にタップリと泥を塗ってくれたわけだが。・・・その『隠し玉』として少しでも早くノアの試作品を公表するべきだった。それなのに、何故しなかったんだね?」

  

「・・・それは ──── 」

  

「いくらお嬢さんを亡くされたとはいえ、我々に断りもなく・・・フッ。まあ、もちろん君は何もかも知っていたようだが」

  

「・・・」

  

「機械工学のスペシャリストも、『公私混同』・・・この言葉はご存じなかったらしい」

  

「もう、やめて頂けないですか。いったい何がおっしゃりたいんです?」

  

「いや・・・私だって、決して全てを否定するつもりはない。愛する家族を亡くされた博士のお気持ちは、察するに余りある。せめてこちらに対して事情なり何なりを打ち明けた上で、きちんとクリーンにNHP-001をマスコミに発表していただいていれば・・・君にもこんな小言を聞かせずに済んだものを」

  

「博士はNHP-001をベースによりブラッシュアップしたノアを製作して、いずれはそれを発表するつもりだと・・・そうおっしゃってたんです!」

  

「君がどう取り繕ったところで、『死人に口なし』なんだよ。・・・いいかね、カネというものは勝手に湧いてくるわけじゃないんだ。たたでさえ不景気で国からの助成金も毎年減る一方だというのに、その上『もう一台作る』だと?」

  

「あんな事がなかったら、全て順調に進んだはずなんですよ!・・・事故だ。あの日の事故さえなければ──── 」

  

「だからといって、娘を被験者にしなければならない理由はただの一つもない。まったく、博士にしろ君にしろ・・・どうも科学者には向かんようだ。もっと、冷静になりたまえ」

  

「・・・!」

  

「とにかく、このように歪んだ形で世間に知られてしまった以上・・・ノア計画は中止せざるを得ない」

  

「そんな・・・ちょっと待って下さいっ!!プロジェクトのすべては私が博士から一任されています!今後は決してこのような事態が起こらないよう重々注意して ──── 」

  

「プロジェクトは、本日をもってN.A.R.P.に一元化する。君にも今後はこちらの部署で働いてもらう。・・・いいね?」

  

・・・フザけた事ぬかしてんじゃねえぞ、このクソバーコード野郎が・・・!!!!

  

「ん?よく聞こえなかったが。・・・何か、ご不満かな?」

  

「あっ・・・いえ、分かりました」

  

「ああ、それからもう一つ。プロトタイプの処分は、君に任せる。ただし・・・なるべく早く廃棄してくれたまえよ。臭いものには、さっさと蓋をしておきたい ──── 」

  

「失礼します・・・!!!」

  

「おおっと・・・えらくいきり立ってるなぁ。しかし実のところ、君が一番良く分かってるんじゃないのかね?ロボットは、所詮どこまで行ってもロボット・・・」

  

  

──── 死んでしまった人間に成り代わるなど、出来るはずがないという事は。


第13章 あゝ無情(6)

 ──── From : s-kudou@satellamobile.ne.jp

 
さっきは何か、ゴメンなm(u_u)m・・・俺もさ、ちょっと色々ありすぎて。気持ちの整理がつかないっていうか。でも、心配しないで下さい。いつか必ず、ノアは修理します。そうなるように俺も何とか頑張ってみるから!あ、そうそう。今度はキミが独りで来られるように、住所と地図添付しとくな。たぶんしばらくは結構ヒマしてると思うんで、退院したらホントいつでも遊びに来てくれよ!麻衣と二人で待ってるぜ。

  

  

なんて言われても、やっぱり遠慮しちゃうのと・・・

 
 

──── From : 陽平

 

何だよ、お前入院してたの?てかさー、どーゆう事?学校にぜんぜん来ねーから、心配してお前んちに電話したの!したらオバさんが、『何言ってんのー陽平くんも一緒だったんでしょー』って・・・。ウチ別荘なんか持ってねーっつーの!| 壁 |д・)・・・ハッハァ~ン、さてはお前何か隠してんな?退院したらズバズバ追及しますので、そのつもりで。じゃね!

 
 

・・・2学期は何かと忙しくなりそうだっていうので、なかなか別荘には行けずじまいだった。

  

  

 で、やっぱり学校に行けば案の定、ボクはは休み時間中ずっと陽平に『尋問』されっぱなし。その内容でまず驚いたのは、

 

ホントに入院してたのか?

 

って。そこからかよ!って感じだけれど、『ただサボりたかっただけじゃねーの?』・・・何か、それを認めてほしいみたいにずっと顔を覗いてきたから、仕方なしにおなかの傷を見せた。そしたら今度は

 

どこの、誰の別荘に行って、どうやってケガしたのか?

 

・・・もぉ~、頼むからそっとしといてよ。

 

「別荘になんか行ってないよ」

 

「えっ、そーなの?何か、アスレチックから落ちたとか何とか言ってたけど」

 

「まあ、それは・・・ある意味そんな感じだけどさ」

 

「何だよ、ハッキリ言えって!『ひよこ組』からの付き合いじゃんか」

 

・・・だからどーした。もうボクは苦肉の策でこう言ったんだ。

 

「ちょっと、独りになりたかったんだよ。だから、山とか川とか・・・ちょっとした『冒険』して」

 

たしかに、冒険は冒険だったかな。・・・命懸けの。

 

「うわ、ずりぃなお前!そんな楽しそうな事1人でやったの!?・・・オレも誘ってくれたら良かったのに」

 

いや、だから『独りになりたかった』って・・・話聞いてないなコイツ。まあたしかに、こんなお気楽なヤツが一人でもあの場面にいたら、案外イイ感じで雰囲気和んだかも知れないけれど。・・・あ、でも

 
 

──── あんまりやかましいから、いちばんに撃ち殺されちゃったりして。


第13章 あゝ無情(7)

 ──── 2009年12月23日午前10時34分、深山市内の別荘。

 
 

結局ボクがあれ以来初めて彼女に会いに行ったのは、何だかんだで12月のイブイブの日。・・・そう、何故こんなにも間が空いてしまったのか。・・・いや、『空けた』のか。それには明確な理由があった。

 

「何だ、随分と久しぶりじゃないかー。元気にしてたかい?」

 

出迎えてくれた工藤さんは、もうすっかり腕の調子も良くなったみたいだった。これならもう、きっと彼女を直してくれてるだろう、って・・・そう思ったからなんだ。

 

「ねっ、麻衣さんは?」

 

『2人で待ってるぜ』 ──── だから、てっきり彼女も一緒に出てきてくれると思ってた。工藤さんは、ボクの話を聞いてなかったみたいにキョトンとしたそぶりを見せていた。

 

「・・・工藤さん?」

 

「ん?・・・ああ、麻衣ね。アイツなら、部屋にいるよ」

 

「ほんとっ!!??」

  

  

 2階の廊下の奥、ちょうど角の部屋。『まい’s Room』・・・そう書かれたカラフルで可愛らしい木製のプレートが掛けられているのを見つけるのは案外簡単だった。ボクは軽くドアをノックした。

 

「麻衣さん、こんにちは・・・」

 

いくら待っても返事がない。『入ってもいいかな?』・・・やっぱり、彼女は何も答えてくれない。ちょっとっ、ホントにここにいるのかな・・・あれ?よく見たらドアノブに埃が。そういえばプレートも何か白っぽいような ──── ・・・あっ!ひょっとして

 

「ねー工藤さーん、まさか『麻衣さんの部屋』って下のラボの ──── 」

 

バタバタと足音そして声が近づいてくる。

 

「えっ、場所分かんない!!??・・・ほいほい、麻衣の部屋は~ ──── って。なぁんだ、もう見つけてたんじゃないか」

 

「えっ、やっぱりここなの?」

 

「そうだよ」

 

「でも返事がなかった ──── 」

 

と、工藤さんはいきなりドアノブを握ってドアを手前に思いっきりグイッと開けたんだ。入り口のそばのスイッチに触れて明かりがつけられると、すぐ目の前・・・淡いピンク色のベッドの上には、ジーンズをはいて薄いセーターかカーディガンみたいなのを羽織った彼女が目蓋を閉じたままで横たわっていた。

 
 

──── 前に言ったろ?・・・『部屋で寝てる』って。


第13章 あゝ無情(8)

 「直して・・・くれたんじゃないの?」

  

ボクは彼女に駆け寄って、すっかり元通りキレイになった頬っぺたに触れた。そのあまりの冷たさに一瞬手を引っ込めてしまった。

  

「とりあえず、『応急処置』はしたよ。もちろん完全停止からのブートもしてある」

 

でも・・・こんな状態さ ──── 工藤さんの言葉もそこそこに、ボクは我慢できずに何度も何度も彼女の名前を呼び続けて、体を揺らし続けていた。

 

「ねえ、リモコン持ってきて」

 

「無駄だよ。・・・そんな事くらい、俺だって何回も試した。指が、痛くなるくらいな」

 

「でもそれって、だいぶ前でしょ!?」

 

ドアノブ、部屋のプレート・・・それだけじゃなくて彼女にも。うっすら白く積もっていた時の移ろい ──── 『溶けない雪』だけは、ごまかせなかった。この時、どこかでボクは逆に

 

そうか。彼女も・・・『機械』なんだ。それだったら・・・

 

そんな期待を寄せていた。ゲームマシンやパソコン、どんなコンピュータだって使い続けていれば起動や読み込みが遅くなったりする事がある。ゲームソフトにはお馴染み『魔法の息』、電源を切ったり入れたり、叩いて『刺激』を与えたりすれば・・・根拠はなくても復活するかもしれないんだ。

 

「・・・じゃあさ、お願いがあるんだけど」

 

今度はそれと同じ事をコンピュータからやってみたら・・・ ──── って提案してみた。そしたら『なるほどね・・・。たしかに、それは考えた事がなかったなあ』なんて意外に好感触でさ、慌てて出てった工藤さんは数分後自分のノートPCを小脇に抱えて戻ってきたんだ。


第13章 あゝ無情(9)

 「じゃあ、やってみるよ?」

 

と、パソコンを操作する工藤さんに手で合図して、ボクは彼女のお腹に耳を当てて『音』を聞いていた。体を揺らし、叩いて『刺激』を与えつつ目を開けるかどうかも確認しながら。

 

「・・・もう切った?」

 

うなずく工藤さん。・・・おかしい。何の音もしなかった。ハードドライブの駆動音のような『唸り』もなければ、それが静まるきっかけすらも。

 

「うん。・・・じゃあ、もっかい再起動して」

 

カタカタとキーボードを叩く音。『はい、後1分・・・』高まる緊張感でドキドキしすぎて、邪魔で仕方なかった。だって、自分の鼓動か、彼女の『鼓動』か分からなかったんだもの。けれど、それを抜きにしても・・・やっぱり何の反応もなかった。

 

「ダメかい?」

 

「もっかいっ、もっかいやってみてっ!!」

 

工藤さんは、お愛想で笑いかけてはくれた。でも、あらかた諦めてるのがもう見え見えだったから、ボクは何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

「・・・ダメ?」

 

「いやぁ、そんな事ないよ。・・・キミの気が済むまでトコトン付き合うさ」

  

  

 ・・・そんな無駄にも思えるやり取りが数十回続いた。時間にして2時間くらい経った頃かな。

 

「・・・はい、1分ね」

 

さすがにお互いに疲れが見え始めて、注意力も散漫になっていた。でも、そんなボクの耳にハッキリと目の覚めるような澄んだ電子音と金属をこすり合わせるシャリシャリシャリシュワー・・・みたいな心地の良いモーター音が飛び込んできたんだ。

 

「聞こえる・・・動いてるよ!?」

 

ガンバレッ・・・麻衣さん起きて・・・お願い ──── ボクは、必死で体を叩いたり頭を揺らしたりした。その時、バチンッと音がしてパソコンを畳んだ工藤さんが

 

「はい起動完了!・・・どうだい?」

 

こちらに駆け寄って彼女の顔を覗きこんでいた。でも、まだ目を開けてはくれなかった。・・・と思った次の瞬間

 

「麻衣っ!!!!」

 

彼女は、ついにカッと目を見開いた。『俺が分かるかい?麻衣・・・この子も来てくれたぞ?』・・・けれど、飛び跳ねて覗き込んだボクに見向きもせず、彼女は真っ直ぐ天井を見つめたまま口を半開きにして

 

「ア゛・・・ア゛ア゛ア゛ァァ・・・ァァァ・・・ ──── 」

 

喉の奥をカリカリ鳴らすようなそんな『ビープ音』を、ただただか細く漏らすばかりだった。

 

「麻衣さんボクだよ・・・ねえ、こっち見て。こっち見てよ!まっ ──── ノアさんッ!・・・ノォォォアァァァさぁぁんっ・・・!!」

 

無理やり体を起こして、いくら揺すっても・・・どれだけ叫んでも・・・その瞳にボクが映る事はなかった。傍らで工藤さんは静かにパソコンを開き、カチッとキーを押した。すると・・・ゆっくり穏やかに、その苦しげな『息』は聞こえなくなって、麻衣さんは『停止』した。もう、やめておこう ──── 工藤さんは、彼女を抱きかかえもう一度ベッドに寝かせ、故障の影響で開いたままになっていた目蓋と口に、そっと手をかざしてまた彼女を『眠らせる』と、そうつぶやくように言った。何か分からなかったけれど、『とても重いもの』が首にぶら下がっているみたいにうつむきっ放しだったボクは、優しく肩に手を掛けてくれた工藤さんに、吸い寄せられるようにして抱きついていた。我慢しようと思って、唇を思い切り噛み締めていたけれど・・・そんな時に限って思い出しちゃうんだ、今まであった色々な事を。そしたらもう、洪水みたいに一息に押し寄せてきて ──── 。