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15

「脅されたら警察に言うだろうよ。もっと違うやり方だと思うぜ。とにかくランボーのゲリラ戦のように、一人、また一人と消えていくんだ。だから、ほかの幹部は恐れおののいた」

健三が結論を急いだ。

「一人の平社員に半年も振り回されているわけにはいかねえ。会社は円満退社の方向で話を進めた。表向きは円満退社だが、会社が負ったダメージは大きい。今でもマサルの名前はタブーだ」

尚は神妙な顔つき。涼子は少し納得いかない表情をしていたが、黙っていた。

「エーちゃんは全部真相を知ってんじゃないの?」尚は睨む。

「オレの口はコンニャクより堅いんだ」

「過去の話はよそうぜ」健三がビールのジョッキをかざした。「きょうは今週の土日のレースの検討会だ」

「違う違う、全然違う」亜美が真顔で言った。

「そうだ。涼子係長の歓迎会だ。質問攻めでスッポンポンにしようぜ・・・NO!」

尚は桜井の顔面に箸を投げた。

「あ、マサルさん!」

亜美の声を聞き、尚と涼子は入口のほうを見た。飛志勝がゆっくり入ってきた。

洒落た黒髪。自信満々の笑み。目は生き生きと輝き、スプリンターのように逞しい肉体を誇る。

革ジャンにジーパン。颯爽と登場する姿は、何かハリウッドスターを彷彿とさせるし、何か一頭、違う馬がいるという他を圧する存在感も感じた。

尚は小声で亜美に聞いた。

「日本人?」

「外国人みたいでしょ?」亜美が笑う。

 

 


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健三が言った。

「マサル、久しぶりだな」

「どうも」

「マサルさん、席用意してますよ」桜井が尚の前の席を指した。

「サンクス」

マサルが席についた。亜美が笑顔で手を振る。

「久しぶり!」

「元気?」

「マサルさんがいないから寂しいよ」

尚が亜美を見て小さく首を左右に振る。桜井が皆を制した。

「まあまあまあ。とりあえず乾杯か?」

マサルが空のグラスを持つ。亜美の席はマサルから少し遠い。尚は目の前の自分の役目だと思い、瓶ビールを両手で持った。

「どうぞ」

「ありがとう」

尚は唇を結んですました顔のままマサルにビールを注いだ。それを見た桜井が絶叫する。

「おおお! な、尚が人にビールを注いでいる!」

(テメー)

尚は声には出さず口だけ動かして桜井を睨んだ。

「め、珍しい!」

「エーちゃん」涼子が腕を掴む。「デリカシーってある?」

「巷でオレはミスターデリカシーと呼ばれている」

「ダメだ」涼子は諦めた。


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皆ビールやウーロンハイを持つと、改めて乾杯した。それぞれ軽くグラスを合わせる。

「カンパイ!」亜美が手を伸ばしてマサルと乾杯した。

マサルは目の前の尚ともグラスを合わせ、桜井に続き涼子とも乾杯した。

「岸守さんも久しぶり」

「あ、どうも」涼子は慌ててグラスを合わせた。

マサルから涼子に話しかける。

「係長になったんだ?」

「そうなんですよ。緊張ですよ。でも皆さんが優しい人ばかりだから助けられています」

桜井が割って入る。

「涼子チャン、逆ゴマスリか?」

「ゴマスリ?」

「ほら、涼子チャンのほうが役職上だから部下に逆ゴマスリ」

「部下なんて思ってないから。仲間ですよ、みんな」

すでに酔っ払っている藤山健三が、名村国男に聞いた。

「史上最強馬っていったら、やっぱりルドルフかディープに絞られるだろう」

「ここへ来て馬の話はやめようよ」

亜美の哀願を無視して、健三と名村は盛り上がった。

「いや、健三さん。ファンは戦績だけじゃ納得しませんよ。マックイーンもテイオーもブライアンも黙ってないです」

「なるほど」健三はビールをグイグイ飲む。「最強牝馬はもっと複雑だな」

「馬の話はまた今度。せっかくマサルさんがいるんだから」

「亜美。マサルがいるから馬の話しなきゃ、いつ話すんだ?」健三が暴走すると止まらない。

 

 


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「千八の鬼・藤山健三を止められるヤツはいないぜ」桜井も加わる。「最強牝馬はヒシアマゾンでしょう」

「エアグルーヴもいるぞ」健三が言った。「あとシンコウラブリイにノースフライト」

「ふーちゃんか」

亜美が顔をしかめた。

「あのね。日本語で喋っているのに、英語より難しい会話を目の前でされているあたしの立場って考えたことある?」

健三は、亜美の猛追を振り切り、マサルを見た。

「マサルはだれだと思う。最強牝馬?」

「成績からいったら最強じゃないかもしれないけど、印象深いのはスターバレリーナだな」

「わあ、わあ、わあ!」桜井が騒ぐ。

「スターバレリーナ?」亜美の顔が怖い。

「わあ、わあ、わあ!」

「エーちゃん」

呼び止める亜美を無視して桜井はマサルに言った。

「マサルさん。ベガを忘れていませんか。ベガはベガでもホクトベガ!」

「でも好きだったのはスターバレリーナだな」

「わあ、わあ、わあ!」

「エーちゃん」亜美は笑顔だが蒼白だ。

「何だダンスパートナー?」

亜美は割り箸やおしぼりを手当たり次第桜井の顔面に投げた。

「馬に例えられて喜ぶのはあんたらだけなんだよ!」

「痛い、あ、割り箸をないがしろにするとは、さては環境問題に無関心だな?」

「話をそらすな!」


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桜井と亜美は放っておき、尚はマサルにビールを注いだ。

「マサルさんって、外国人に間違われませんか?」

「たまに国籍を聞かれる」マサルは笑顔で話した。

また桜井栄光が乱入する。

「尚。マサルさんは正真正銘の外国産馬だぞ」

「サンバ?」

「サンバといってもお嫁サンバじゃねえぞ。知らないか」

「アメリカで生まれたんだ」マサルが言った。

「そうなんですか?」

驚く尚。涼子も黙って聞いていた。桜井が早口で説明する。

「両親は日本人。でもマサルさんが生まれたのはアメリカだ」

「英語ペラペラとか?」尚が聞く。

「そんなことはない。ナチュラルなアクセントには自信があるけど」

「尚。マサルさんの仕事を知りたいか?」

「いい」マサルが一瞬真顔で桜井を睨む。

「何です?」

「尚。何を隠そう、マサルさんは馬券生活者。さすらいのギャンブラーだ」桜井は自慢げに語った。「年収は1000万円」

「1000万?」涼子が聞いた。

「その話はいい」

マサルがそこに触れたがらないので、尚も涼子もそれ以上聞くのをやめた。

 



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