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8

黒田部長は本社に戻り、倉庫のメンバーも作業を始めた。

桜井栄光は、涼子係長を一人ひとりに紹介して回った。

「涼子係長。そこにバッファローみたいな男がいるけど、名村国男。通称コクオーだ」

「ちゃんと紹介しろ」名村が睨む。

「涼子係長。コクオーは一見獰猛そうに見えるけど根は凶暴なんだ」

「おい。どこにフォローがあるんだ?」

涼子は礼儀正しく挨拶した。

「名村さん。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「コクオーの担当は出庫だよ」桜井が説明する。

「あ、出庫は大変なんですよね」

桜井は自分の部署に行った。

「オレの担当は海外部品の管理。で、そのボンバーガールの仕事は出庫」

「ちゃんと名前を言えよ」尚は桜井を睨んだ。

いよいよ来た。涼子は緊張した。桜井が明るく言う。

「紹介しよう。プライムステージです」

尚は鉄でできている引っ張り棒を掴むと、逃げる桜井を追い掛け回した。涼子はため息をつく。前途多難だ。

「バカ、プライムステージなんて最高の誉め言葉なんだぞ」

「うるさい!」

 

 


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9

引っ張り棒で殴ろうとする尚に、桜井は言った。

「尚、涼子係長に引っ張り棒の使い方を教えてやれ」

涼子と尚の目が合う。

「國里さん。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

尚は不良少女とは違う。礼儀には礼儀で応えた。

「エーちゃんとは友達なんですか?」

「まあ、付き合いは長いからね」

尚は、部品が入ったケースの端に、引っ張り棒の先を掛けて、引っ張って見せた。すると桜井が自慢げに説明する。

「見たか涼子係長。いちいち台車に乗せて運ぶよりこっちのほうが数倍速いぜ」

「へー」涼子は感心した。「エーちゃんの発明?」

「そういうわけじゃないけど」

「重くて持てないケースもありますから」尚が言った。「これは便利ですよ」

「尚の場合は凶器に使うから一石二鳥だ」

尚が睨むと、桜井がまくる。

「涼子係長を見る顔とオレを見る顔が違うじゃないか。阿修羅男爵と呼ぶぞ」

「あしゅら?」尚が首をかしげる。

「尚。阿修羅男爵も知らないのか。ヒットマンラリアットだよ。それは阿修羅原。突っ込めよコクオー」

「知らねえ」名村が呟く。

尚は引っ張り棒を桜井に向けた。

「さっきから意味のわかんないこと言ってんじゃねえよ」

 

 


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10

桜井はとりあえず尚から逃げると、涼子を事務室に連れていった。

「そこにいるスターバレリーナは幹中亜美チャン。知ってるよな?」

「ええ」涼子は笑顔で言った。「亜美チャン、よろしく」

「大歓迎ですよ」亜美も満面笑顔だ。「涼子さんと仕事できるなんて嬉しい」

亜美は24歳。涼子よりも3歳年下だ。

「亜美チャンは電話の受付と事務的な仕事をしている」

桜井が事務室を出ると、名村が小声で聞いた。

「栄光。亜美は、スターバレリーナの意味わかってんのか?」

「トップシークレットだ。知ったら泣かされる」

桜井は倉庫の2階を見上げた。

「健三さん。ちょっと下りて来てください」

「何だ?」

「涼子係長に健三さんの作業の説明を・・・」

「バカヤロー! レース中だぞ」

仕事中はレース中という意味か。涼子は内心焦った。

(苦手かも・・・)

しかし桜井は笑顔で語る。

「健三さんにとっちゃ、チャイムはファンファーレだからな。次のチャイムが鳴るまで走り続けるんだ」

「素晴らしい」涼子は感嘆するしかなかった。

「健三さんの担当は入庫だよ」

 


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11

涼子は少し安心した。一人ひとりを見れば基本的に皆いい人ばかりではないか。野蛮人など一人もいない。

「涼子係長。実は健三さんを1階に下ろすのは簡単なんだ」

「簡単?」

桜井は重い金型を持ち上げる真似をした。そしてわざと2階まで聞こえるように大きい声を出す。

「重い。これは一人じゃ持てねえやあ!」

すると、藤山健三はすぐに下りて来た。

「どれだ?」

「これです健三さん」桜井が笑う。

「こんなもん」健三は重い金型を軽々と持ち上げた。「どこに移動するんだ?」

「この台車の上に」

健三は台車の上に金型を置いた。

「これくらい持てねえでどうする?」

涼子は、健三の怪力よりも桜井の臨機応変に感心した。

「健三さんは入庫だけど、出庫も手伝っている」

「あ、健三さん。よろしくお願いします」涼子は深々と頭を下げた。

「よろしく」健三が言った。「そうだ。涼子ちゃんの歓迎会をやるぞ」

涼子が驚いていると、健三は桜井の肩を叩いた。

「幹事を頼んだぜ」

 

 


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12

金曜日はどこの店も混むので、平日を選び、倉庫だけの飲み会を居酒屋で開いた。

名目は涼子の歓迎会だが、酒好きは飲めれば何でもいいのだ。

定時は5時半。残業はない。仕事を終えると、職場の近くにある居酒屋へ行った。倉庫のメンバーは常連客だ。

皆は座敷に上がった。

いちばん端に尚。尚の向かいの席はあいている。

尚の隣は亜美。亜美の向かいに桜井栄光。隣に涼子。その隣に藤山健三。その向かい、つまり亜美の隣に名村国男がすわった。

料理やビールが運ばれてきて乾杯した。

健三が聞く。

「エーちゃん。マサルは呼んだのか?」

「もうすぐ来ますよ」

「マサルさん来るの?」亜美が目を輝かせた。

「あたぼーよ」

社内1番人気の亜美が凄く嬉しそう。よく出る名前の「マサル」という男に、尚は興味を持っていた。

「この中でマサルさんと初対面なのは尚だけか」桜井が言った。

尚はすました顔で聞く。

「そういえば、あの柏原も怖がっていたね」

「そりゃあ、イタチとトラみたいなもんだからな」

「ふうん」

 

 



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