閉じる


<<最初から読む

18 / 247ページ

試し読みできます

6

「きょうから、倉庫の責任者として頑張ってもらことになった、岸守係長だ」

倉庫内で黒田に紹介され、涼子は緊張した顔で挨拶した。

「岸守です。よろしくお願いします」

涼子は深々と頭を下げた。不安な顔色を浮かべ、声に元気がない。

桜井栄光がすかさず言った。

「涼子チャン。オレがいるから心配すんな」

「頼りにしてます」涼子は力なく笑った。

黒田部長が口を挟んだ。

「桜井君。涼子チャンはないだろう」

「じゃあ、涼子係長」

「岸守係長って普通に呼べばいいじゃないか」

怒りそうな黒田を、涼子が止めた。

「いいですよ、自由な呼び方で」

「じゃあ涼子」

いきなりの呼び捨てに、黒田は桜井を睨んだ。

「いや、公私混同はいけない」

「混同?」桜井はすかさず踊った。「君はあ、足でピアノを弾いたことがあるかあ」

「やめろよ」尚が桜井の肩に右ジャブ。

「イテーなあ」

「桜井君」黒田が厳しく言った。「友達だからこそ、君が先頭切って彼女を立てるのが友情じゃないのか?」

 

 


試し読みできます

7

「一本取られたな」尚が桜井に笑顔を向ける。「今のは部長のほうが正しい」

「尚。いつから幹部の味方をするようになった?」

「幹部とか関係ない」尚は口を尖らせた。「正しいほうの味方だ」

思わぬ尚の攻撃に、桜井は反撃した。

「テメー、いつからゴマすり少女に変身したんだ?」

「そういうこと言ってるとぶっ飛ばすよ」尚が拳を見せる。

「あ、わかった。尚、テメー、ボーナスが近いからだろう。図星か?」

「何だと!」

これ以上の心外な言葉はない。笑う桜井に尚は襲いかかった。部長と係長の前なのに構わない。

「NO!」

尚は桜井の髪を掴むと、拳を脳天に連打する。ここは職場だ。あり得ない光景に涼子は笑顔のまま硬直した。

「わかった、わかった・・・」

「殺す」

尚は足を掛けて桜井を倒すと、上から顔面パンチ連打のポーズ。

「ギブアップ、ギブアップ!」

「何がボーナスだテメー!」

涼子は横にいる黒田を無言で睨んだ。黒田は涼子と目を合わせないように前方を見ていた。

 


試し読みできます

8

黒田部長は本社に戻り、倉庫のメンバーも作業を始めた。

桜井栄光は、涼子係長を一人ひとりに紹介して回った。

「涼子係長。そこにバッファローみたいな男がいるけど、名村国男。通称コクオーだ」

「ちゃんと紹介しろ」名村が睨む。

「涼子係長。コクオーは一見獰猛そうに見えるけど根は凶暴なんだ」

「おい。どこにフォローがあるんだ?」

涼子は礼儀正しく挨拶した。

「名村さん。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「コクオーの担当は出庫だよ」桜井が説明する。

「あ、出庫は大変なんですよね」

桜井は自分の部署に行った。

「オレの担当は海外部品の管理。で、そのボンバーガールの仕事は出庫」

「ちゃんと名前を言えよ」尚は桜井を睨んだ。

いよいよ来た。涼子は緊張した。桜井が明るく言う。

「紹介しよう。プライムステージです」

尚は鉄でできている引っ張り棒を掴むと、逃げる桜井を追い掛け回した。涼子はため息をつく。前途多難だ。

「バカ、プライムステージなんて最高の誉め言葉なんだぞ」

「うるさい!」

 

 


試し読みできます

9

引っ張り棒で殴ろうとする尚に、桜井は言った。

「尚、涼子係長に引っ張り棒の使い方を教えてやれ」

涼子と尚の目が合う。

「國里さん。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

尚は不良少女とは違う。礼儀には礼儀で応えた。

「エーちゃんとは友達なんですか?」

「まあ、付き合いは長いからね」

尚は、部品が入ったケースの端に、引っ張り棒の先を掛けて、引っ張って見せた。すると桜井が自慢げに説明する。

「見たか涼子係長。いちいち台車に乗せて運ぶよりこっちのほうが数倍速いぜ」

「へー」涼子は感心した。「エーちゃんの発明?」

「そういうわけじゃないけど」

「重くて持てないケースもありますから」尚が言った。「これは便利ですよ」

「尚の場合は凶器に使うから一石二鳥だ」

尚が睨むと、桜井がまくる。

「涼子係長を見る顔とオレを見る顔が違うじゃないか。阿修羅男爵と呼ぶぞ」

「あしゅら?」尚が首をかしげる。

「尚。阿修羅男爵も知らないのか。ヒットマンラリアットだよ。それは阿修羅原。突っ込めよコクオー」

「知らねえ」名村が呟く。

尚は引っ張り棒を桜井に向けた。

「さっきから意味のわかんないこと言ってんじゃねえよ」

 

 


試し読みできます

10

桜井はとりあえず尚から逃げると、涼子を事務室に連れていった。

「そこにいるスターバレリーナは幹中亜美チャン。知ってるよな?」

「ええ」涼子は笑顔で言った。「亜美チャン、よろしく」

「大歓迎ですよ」亜美も満面笑顔だ。「涼子さんと仕事できるなんて嬉しい」

亜美は24歳。涼子よりも3歳年下だ。

「亜美チャンは電話の受付と事務的な仕事をしている」

桜井が事務室を出ると、名村が小声で聞いた。

「栄光。亜美は、スターバレリーナの意味わかってんのか?」

「トップシークレットだ。知ったら泣かされる」

桜井は倉庫の2階を見上げた。

「健三さん。ちょっと下りて来てください」

「何だ?」

「涼子係長に健三さんの作業の説明を・・・」

「バカヤロー! レース中だぞ」

仕事中はレース中という意味か。涼子は内心焦った。

(苦手かも・・・)

しかし桜井は笑顔で語る。

「健三さんにとっちゃ、チャイムはファンファーレだからな。次のチャイムが鳴るまで走り続けるんだ」

「素晴らしい」涼子は感嘆するしかなかった。

「健三さんの担当は入庫だよ」

 



読者登録

ブラックサワさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について