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4

「部長」涼子は感動した顔で黒田を見つめた。

黒田は落ち着かないそぶりで目をそらす。涼子は社長を見ると、満面に笑みをたたえて質問した。

「でも、係長って、何をすればいいんですか?」

冠田の目が泳ぐ。

「黒田君。言いなさい」

「いやいやいや、社長から」黒田の笑顔が怪しい。

「じゃあ、相川君」

「私が言うんですか?」相川は咳払いをすると、涼子を真顔で見た。「君を、倉庫の責任者に任命します。おめでとう」

一人で笑いながら拍手する相川専務。重い空気を察知してやめた。

「・・・・・・そうですかあ」涼子が落胆の色を見せる。「そういうことでしたかあ」

散々持ち上げられてその気になってしまった自分にも腹が立つ。涼子は落胆が段々怒りに変わっていった。

「つまり、あたしに辞めろって言いたいわけですね?」

「何を言うの!」社長は慌てた。「そんなこと思うわけないでしょう」

涼子は怖い顔で冠田社長を見た。

「人事を断ったら首ですか?」

「まさか。黒田君。黙ってないで何か言いなさい」

「岸守さん。大丈夫だよ。倉庫は優しい人たちばかりだし」

「よく言いますよ!」涼子は目を剥いた。「部長が言ったんでしょ。倉庫は野蛮人の集まりだって!」

「野蛮人?」相川は指を差して黒田を責めた。「君! 自分の部下に何てこと言うんだね」

「野蛮人はまずいよ野蛮人は」冠田も顔をしかめた。「せめてゾンビの集まりくらいにしとかないと」

 

 

 


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5

相川がまた腰をかがめた。

「社長。ゾンビのほうがひどいと思います」

「ゾンビはかわいいじゃない」

「かわいい?」相川が首をかしげる。

「だって、ゾンビって、こうやって飛ぶ奴でしょ?」冠田社長は両手を前にして飛び跳ねる真似をした。

「あれはキョンシーです」

「キョンシー?」

「ゾンビとキョンシーは何も繋がっていませんけど」

「そうだっけ?」冠田は黒田にも聞いた。

「はい。ゾンビならまだ野蛮人のほうがいいと思います。ハハハ・・・」

バン!

「わあ!」

涼子が両手でデスクを叩いたので、社長も思わず立ち上がってしまった。涼子は直立不動の三人を睨みながら言った。

「社長」

「はい」

涼子の目が怖い。

「あたしは係長にも倉庫の責任者にもなりません!」

 


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6

「きょうから、倉庫の責任者として頑張ってもらことになった、岸守係長だ」

倉庫内で黒田に紹介され、涼子は緊張した顔で挨拶した。

「岸守です。よろしくお願いします」

涼子は深々と頭を下げた。不安な顔色を浮かべ、声に元気がない。

桜井栄光がすかさず言った。

「涼子チャン。オレがいるから心配すんな」

「頼りにしてます」涼子は力なく笑った。

黒田部長が口を挟んだ。

「桜井君。涼子チャンはないだろう」

「じゃあ、涼子係長」

「岸守係長って普通に呼べばいいじゃないか」

怒りそうな黒田を、涼子が止めた。

「いいですよ、自由な呼び方で」

「じゃあ涼子」

いきなりの呼び捨てに、黒田は桜井を睨んだ。

「いや、公私混同はいけない」

「混同?」桜井はすかさず踊った。「君はあ、足でピアノを弾いたことがあるかあ」

「やめろよ」尚が桜井の肩に右ジャブ。

「イテーなあ」

「桜井君」黒田が厳しく言った。「友達だからこそ、君が先頭切って彼女を立てるのが友情じゃないのか?」

 

 


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7

「一本取られたな」尚が桜井に笑顔を向ける。「今のは部長のほうが正しい」

「尚。いつから幹部の味方をするようになった?」

「幹部とか関係ない」尚は口を尖らせた。「正しいほうの味方だ」

思わぬ尚の攻撃に、桜井は反撃した。

「テメー、いつからゴマすり少女に変身したんだ?」

「そういうこと言ってるとぶっ飛ばすよ」尚が拳を見せる。

「あ、わかった。尚、テメー、ボーナスが近いからだろう。図星か?」

「何だと!」

これ以上の心外な言葉はない。笑う桜井に尚は襲いかかった。部長と係長の前なのに構わない。

「NO!」

尚は桜井の髪を掴むと、拳を脳天に連打する。ここは職場だ。あり得ない光景に涼子は笑顔のまま硬直した。

「わかった、わかった・・・」

「殺す」

尚は足を掛けて桜井を倒すと、上から顔面パンチ連打のポーズ。

「ギブアップ、ギブアップ!」

「何がボーナスだテメー!」

涼子は横にいる黒田を無言で睨んだ。黒田は涼子と目を合わせないように前方を見ていた。

 


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8

黒田部長は本社に戻り、倉庫のメンバーも作業を始めた。

桜井栄光は、涼子係長を一人ひとりに紹介して回った。

「涼子係長。そこにバッファローみたいな男がいるけど、名村国男。通称コクオーだ」

「ちゃんと紹介しろ」名村が睨む。

「涼子係長。コクオーは一見獰猛そうに見えるけど根は凶暴なんだ」

「おい。どこにフォローがあるんだ?」

涼子は礼儀正しく挨拶した。

「名村さん。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「コクオーの担当は出庫だよ」桜井が説明する。

「あ、出庫は大変なんですよね」

桜井は自分の部署に行った。

「オレの担当は海外部品の管理。で、そのボンバーガールの仕事は出庫」

「ちゃんと名前を言えよ」尚は桜井を睨んだ。

いよいよ来た。涼子は緊張した。桜井が明るく言う。

「紹介しよう。プライムステージです」

尚は鉄でできている引っ張り棒を掴むと、逃げる桜井を追い掛け回した。涼子はため息をつく。前途多難だ。

「バカ、プライムステージなんて最高の誉め言葉なんだぞ」

「うるさい!」

 

 



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