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倉庫の事務室から幹中亜美が出てきた。

「どうしたの、何の騒ぎ?」

幹中亜美 Mikinaka Ami.

肩にかかる綺麗な茶髪。ボリュームのあるお洒落な髪。いつも笑顔を絶やさない天真爛漫さが売り。

スタイルは抜群でモデルのよう。自他共に認める冠田ゴム工業の1番人気だ。

國里尚はすました顔でゆっくり事務室に入ると、受話器を取った。彼女は本社に電話をかける。

「國里です。黒田部長いますか?」

尚は無表情で、心配顔の桜井と亜美を見た。

「あ、國里です。柏原主任にセクハラされたんで、これから告訴の手続きのために早退してもいいですか?」

黒田は慌てた。

『ちょっと待ちなさい。ちゃんとするから。ねっ』

「わかりました。あと、健三さんは暴力なんかふるっていません」

『え?』

「今から柏原主任がそちらに行ってないことないこと言うと思いますが、会社が主任の側につくなら、あたしは戦争を仕掛けます」

黒田は思わず飛志勝との悪夢の日々を思い出した。

『もっと穏やかに行こうよ。私が片方の話だけを聞くと思う。ハハハ。見くびっちゃダメだよ。ハハハ』

「・・・わかりました」

尚は電話を切って受話器を置くと、すました顔で桜井の顔を見て、事務室を出た。

 

 

 

 


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「怖い」亜美は人ごとのように笑う。「エーちゃん。この倉庫って、野蛮人の集まり?」

桜井は笑顔で首を左右に振った。

「ま、人間らしいのはオレと亜美チャンくらいだろう」

「ハハハ」

「あとはまあ、動物園みたいなもんかな」

「キャハハハ!」

 

柏原は本社に戻ると、すぐに黒田に言った。

「藤山健三に暴力をふるわれました。すぐに首にしてください」

黒田は険しい表情になると、眼鏡の奥から柏原を睨んだ。

「君に落ち度はなかったかね?」

「え?」

「女性社員にセクハラなんかしてないね?」

先手を取られた。それより部長が倉庫の人間の言うことを聞くほうが我慢ならない。柏原は怒り心頭だ。

「勝手にしてください!」

柏原は席を蹴るように部屋を飛び出した。その背中を見て黒田は頭をかいた。部長は悩みが絶えない。

 

 

 

 


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1

ここは社長室。

大きなデスクの前に冠田社長がすわる。向かって左側に相川専務。右に黒田部長が立っていた。

これがいつもの位置だ。三人とも眼鏡をかけている。桜井栄光は陰で「メガネトリオ」と呼んでいた。

冠田社長が言った。

「黒田君。倉庫はどうにかならんかね」

「はい・・・」

柏原を係長にして、倉庫の責任者にしようとしたが、その案は完全に消えた。

「やはり柏原君のように役職でガツンと行くタイプは、3分で倉庫から突き出されるハメになりますからな」

黒田の弱気を、相川専務は指を差して責めた。

「君がそんな甘やかしているからダメなんだよ。ねえ社長」

急に顔を向けられ、冠田は答えた。

「マサル君の影響で、みんなは幹部を枝葉だと思っているからね」

相川は険しい表情になった。

「飛志の話はよしましょう。彼の言う通りにしたら、会社は潰れますよ。彼はただの理想主義者です。組織というものをわかっていません」

「マサル君のあのセリフがまだ忘れられないよ」社長は両手を額に当てた。「組織に上下関係を持ち込む者は、悪魔の化身・・・・・・か」

「社長」相川が焦る。「感動しちゃダメですよ。彼が会社にいたら、組織は崩壊します。辞めさせて正解だったんです。ああいう怪物を入れてはいけなかったんです」

黒田は何かを言いたそうな顔をしたが、話題を変えた。

「社長。岸守さんはどうです?」

 


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2

「どうって?」

「倉庫の責任者に」

「何を言うんだね!」相川が怒る。「飢えたハイエナの群れに美しいカモシカを投げ込むようなものだよ」

「私は適任だと考えます」黒田が社長に言った。

「君!」

相川の反対を押し切って黒田は力説した。

「実は彼女と桜井君は同期で親友なんです。桜井君は彼女に協力しますから、間違っても岸守さんがいじめに遭うことはありません」

「なるほど」冠田社長は興味を持った。「岸守さんなら威張らないしね。黒田君と岸守さんで、ちょうど鞭とローソクになるしね」

相川が腰をかがめた。

「社長。飴と鞭です」

「そうそう、飴と鞭、両方が大事だからね」

「しかし役職が主任では」相川が言った。

「社長」黒田が意見を述べる。「わが社初の女性係長となりますが、岸守さんなら十分その資格があると思います」

冠田は感心した。

「黒田君。君はだれとだれが仲良しとか、一人ひとりの性格や実力を把握していて、なかなか素晴らしいよ」

「あ、ありがとうございます!」黒田は感激した。

 

 


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3

善は急げ!

早速、岸守涼子は社長室に呼ばれた。

彼女は、特にミスをした覚えはないが、緊張した面持ちで社長室に入った。

「岸守さん」冠田社長が言った。

「はい」

「私は入社以来ずっと君を見てきたが、皆に優しいし、新人には懇切丁寧に仕事を教えるし、素晴らしい人がわが社に来てくれたと思ったものだよ」

思いがけない話に、涼子はかしこまった。

「ありがとうございます。嬉しいです。でも私なんかまだまだです」

顔を紅潮させて一礼する姿も美しい。三人は思わず見とれた。

「そこでだね。君を、係長に昇格させたいんだ」

「・・・係長!」

涼子は目を丸くした。嬉しいというよりも驚きが先だ。三人は笑顔で涼子を見つめる。

「受けてくれるね」

「しかし・・・」

ためらう涼子に、黒田がニコヤカな顔で言った。

「社長は実力で人事を決める人だから。そんなに驚くこともないでしょう」

冠田もすかさず返す。

「実は黒田君の推薦なんだよ」

「いえいえ」黒田は謙遜ではなく別の意味で慌てた。

 

 



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