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7. Goblin

birthdays, christmas, my only fuckin' wishlist was CD's (and a father) 

  タイラーは"Inglorious"で、父親に会いたい一心だったことを素直に打ち明けている(and a fatherにはディストーションがかかってはいるものの・・・)。そして、自分が”落ち着きがない子供だったのは、実の父親に無視されていたから”、”統計では、父親のいない奴は成功しないとある”とも思い悩む。と同時に、”俺がうまくいきそうなこの雰囲気、まだわからないかな”と、父親がいなくても、ここまでまともにやってきた自分を見てほしい、認めてほしいと、父親に向かって訴える。そして、

(I know I'm not the only bastard in America so ima need some help on this next part, scream it with me niggas)
(アメリカではbastardはオレ一人だけじゃない、だから、オレと一緒に叫んでくれ)
と、自分と同じような境遇に育ってきたリスナーを味方につけ、
”オレを無視しやがって!おまえのことを無視しやがって!オレたちのことを無視しやがって!”
どこにいるのかわからない父親に向かって、何度でも叫ぶ!
FUCK YOU!

  こうした(意外に、と言っては失礼かもしれないけれど)純粋な面が、特に、まだ家庭も子供も持っていないようなハイティーンを中心とするリスナーに大きな共感を抱かせたことは間違いないだろう。
  そんな真摯な態度の中にも、母親が父親役も担っていることから、母親の仕事は、女なのに男役も演るレズみたいだ('cuz she's playing both roles like her occupation was dyke)とか、父親が一度も会いに来てくれず、自分のことが全く眼中にない、見えないなんてスティーヴィー(・ワンダー)なんじゃないか(my father never seen me, the nigga probably Stevie)とか独特のユーモアも見せる。
   ところが、この曲は意外な末路を辿ることになる。

now this counselor is tryin' to tell me that i'm emo
she don't give a fuck d-lo, 
where's the trigger i'll let this bullet play hero
(さては、このカウンセラー、決めつける気だな、オレがエモだって
内心、オレのこと、どうでもいいと思ってやがる
どこが引き金だ?弾をぶっ放して、ヒーローを演じてやる)


 Ready To Die(死ぬ覚悟)なのだろうか?
 タイラーは自死の覚悟さえしているのだ。エモな自分も彼の真の姿なのではないのか? もうこれ以上エモな自分をさらけ出したくないのか? エモな自分は誰にも理解されないのか? エモな自分におさらばしたいのか・・・?

その打開策の一つが"Yonkers"の3ヴァース目に示されているのではないだろうか。

Still suicidal? I am
I'm Wolf, Tyler put this fuckin knife in my hand
I'm Wolf, Ace gon put that fuckin hole in my head
And I'm Wolf, that was me who shoved a cock in your bitch
Fuck the fame and all the hype G
I just wanna know if my father would ever like me
But I don't give a fuck cause he's probably just like me
A muthafuckin GOBLIN
(Fuck everything man) That's what my conscience said
Then it bunny-hopped off my shoulder now my conscience dead
Now the only guidance that I had is splattered on cement
Actions speak louder than words, lemme try this shit
DEAD
(自殺願望だって?オレが
オレはウルフだ、タイラーがこのナイフを俺に握らせる
オレはウルフだ、エースがオレの頭に風穴をあける気だ
ってかオレは狼だ、だからオレがおまえんとこの雌犬にイチモツをぶち込んでやった
名声も評判もクソ喰らえ
オレが知りたいのは、オヤジがオレを好きなのかってこと
まあ、どうでもいいさ、オヤジもオレみたいな人間だろうから
とんでもないゴブリンなのさ
(もうどうにでもなれ)それがオレの意識の言葉だった
そして、オレの肩からスポっと勢いよく飛び抜けてゆく、もうオレの意識は死んだ
唯一オレを導いてきたものが、今はセメントにぶつかって血まみれだ
行動は言葉より雄弁だ、そうさせてもらうよ
死)

  これで"Yonkers"のヴィデオで、なぜ、タイラーが鼻血を流し、目の色を一変させ、自らクビを攣って死んでいったのか、もうおわかりだろう。タイラーは、自分の意識を、自ら殺めたのである。そこにあらわれ出てきたのが、
  GOBLINだというのだろう。
  それにしても、タイラーのやり方(見せ方)はうまい。"Yonkers"のヴィデオでは、最初の2ヴァースだけしか聴かせず、しかも、突然の自害という、それだけでインパクトのある幕切れにしておいて、リスナーが、何とかしてその理由を探ろうと、この曲を何度も聴いて、それでもわからないと嘆いているうちに、iTunesで楽曲を正式にリリース、それをゲットしたものだけが、初めて第3ヴァースを(含むフル・ヴァージョンを)耳にして、ようやく自害の理由を理解するに至り、おまけにBastardを繰り返し聴いてきたリスナーには、あのアルバムにカウンセラーとして登場していた存在が、人物などではなく、タイラー自身の”意識”だったのだと確信させてくれる(それが死んだのだ!)、そんな巧妙な手口を使ったのだ。
  これまでは、エースとも名乗っていたタイラー、ザ・クリエイターは、ここに至り、もはや、エースでもタイラーでもない。彼はウルフであり、ゴブリンなのである。
  
  かつて、エミネムはEncoreの大団円で、観客を巻き添えにして、自害し、オルター・エゴであるスリム・シェイディを抹殺したかのように見せかけ、すぐ、そのあとに、「なんちゃって!というニュアンス」の台詞をつけ加えるのを忘れなかった。Bastard からGoblinへと転生???したタイラーは、このウルフやゴブリンとどう付きあってゆくのだろうか? 続) 





   

8. Sarah / Raquel


 だが、Goblinを聴き始める前に、その父親ほどではないにせよ、他にもタイラーが異様に固執している相手がいることも忘れてはならないだろう。
何度も取り上げてきた"Bastard"にはこんなヴァースもある。

Raquel treat me like my father like a fuckin' stranger
She still don't know I made Sarah to strangle her
Not put her in danger and chop her up in the back of a Wrangler
All because she said no to homecomin', demons runnin'
Inside my head tellin' me evil thoughts
I'm the dream catcher but nothin' but nightmares I caught, go to sleep
ラクウェルは、俺のオヤジと同じで、俺を完全に他人扱い
彼女はまだ気づいてないが、俺が"Sarah"を作ったのは、彼女の首を絞めてやるため
実際には彼女を危険な目に遭わせたり、切り刻んでジープの後ろに置いたりしてないけど
みんな彼女のせいさ、同窓会の誘いを断ってきた、悪魔が蠢き出した
俺の頭の中で、邪悪なことを吹き込む
俺はドリームキャッチャー、でも俺が捕まえるのは悪夢だけ、寝るか)


確かに、タイラーは"Sarah"という曲を書いて、Bastardの12曲目に入れている。
上のヴァースから察することができるように、本来なら、"Raquel"と名づけるべきところを"Sarah"(仮名)としておいたのだろう(もっとも、タイラーは、自分が有名になることで、ラクウェルは、サラが自分のことだと気づくはずだと、確信しているようにも思えるのだが・・)

Bastardでは、この曲の2曲前に入っている"VCR / Wheels"の"Wheels"の出だしが
"Danielle, Danielle,yeah you heard about Raquel 
Well that didin't go to well,let us try to make it swell"
となっていて、ラクウェルとつきあいたいという想いが
(珍しく?比較的)素直にR&Bのスタイルを意識して歌われている(と表現したほうがいいだろう)

が、既にお察しの通り、"Sarah"では、またもやN.E.R.D.譲りのメロディや
ビギーからの引用を聴き取れるものの、全く尋常ではない。
曲の頭で聴こえる撃鉄を起こす音から想像できる展開を遥かに超え、
人によっては、吐き気を催すような場面が描かれている。
Verse 2が始まる頃には、誰が聴いても異変が起きていることに気づくはずだが、
Verse 3は、こう始まる。

Half your body laying on my chest
The rest is in my stomach, that's including your breast
(お前の身体の半分は、俺の胸の上
残りは俺の腹の中、そこにはお前の胸も入ってる)

タイラーは、サラの死体を喰べかけたところなのだ。

And I'm a just take another guess
Now you probably wishing that you would have said yes
Am I crazy? Maybe, but fucked up is how I been lately
Shit, I don't give a fuck, your family looking for you, wish them good luck
(で、こうも考えてみた
お前も、イエスって返事しておけばよかったと思ってるんじゃないか
俺がキチガイだって?たぶんな。ここんとこ、相当アタマにきてたからな
もう、どうだっていい、家族がお前を探し回るだろう、うまく見つかるといいな)

こんな事になってしまったきっかけはVerse 1にある。

I want to eat you out like jello
And mess with your body like the bass and the cello
And tell your mom I said hello, you want to go to prom? (N*gga hell no)
(お前をジェロみたいに食べちゃいたい
ベースやチェロみたいにお前の身体を抱え込んでメチャクチャにしたい
だから、お前のママに挨拶して、ハロー、プロムに行きたいだろ?ってお前に訊いたら (お断りよ)

(ダブル・ミーニングで)曲の中で人を喰うラッパーとしては、超ヴェテランのブラザ・リンチ・ハングが有名で、


このところ非常に完成度の高いアルバムを出しているが、
18歳やそこらで(その年頃だから、とも言えるわけだが)、すげなくふられた腹いせに、
食べたいほど好きだった女のコを
(殺して)喰べてしまうとは・・・。

さらに続く。

Bitch, you tried to play me like a dummy
Now you stuck up in my mothafucking basement all bloody
And I'm fucking your dead body, your coochie all cummy
(こいつめ、俺をアホ扱いして弄びやがって
お高くとまっていやがる、俺の地下室で、全身血まみれのくせに
俺は死体になったお前とファックしてるのさ、お前のアソコですげえ気持ちよくイケる)

・・・タイラーは死姦にまで及んでいるのだ・・・。

そして、"Bastard"に戻ってみると、一番最後のヴァースはこうなっている。

My wrist is all red from the cutter
Drippin' cold blood like the winter, the summer
Is never that's equivalent to me and Sarah
Well that's not her fuckin name, but I think this shit is clever...
(俺の手首が真っ赤に染まってるのはカッターのせい
滴り落ちる血の冷たさはまるで冬、夏は
二度来ない、俺とサラの仲と同じだ
まあ、それは彼女の本名じゃないけど、そうしておくのが賢明だと思う・・・)

ここに出てくる”夏”。
サラ、つまり、本名ラクウェルという、
タイラーに狂気にも似た欲求不満だけを募らせるだけの”憧れの女性”。

この二点を押さえておくと、
Goblinのリリース直前に、ライヴ・ステージ以外で、
その収録曲から、"Analog"、続いて、"She" の順序で公式にリークされていったのは
"Yonkers"の時と同様に、何らかの意図があるような気がしてならないのだが・・・(続


















9. Meet me by the lake


オッド・フューチャーがライヴで立ち寄ったロンドン、BBCのスタジオでの、
タイラー、ハジー・ビーツ、DJのシドの3人によるパフォーマンス"Analog"(2011.5.3)を
一、二度見た段階では、正直なところ、取りたてて強力な印象が残ったわけではなかった。

キャッチーだけど、妙に執拗なリフレイン
Watch the sunset, we can watch the sunset
それと
Could you meet me by the lake?
という何度かフレーズくらいで
あとは、彼女と湖畔に遊びに行くんだな、程度の
漠然とした、それこそ”アナログ”なデートのイメージくらいしか浮かばなかった。

ただし、既に"Sarah"を繰り返し聴いてきたようなタイラーのリスナーなら
それだけでは済まないのでは?と邪推してしまう。

あの曲にも”夏”が出てきていたけれど、
ここではヴァースの最後が
Summer never has to end with me
(俺と一緒なら(楽しい?)夏は終わらない)
と締め括られている。

そこからは、どうしたって、タイラーと一緒にいることを拒んだ
あのサラ=本名ラクウェルの末路を思い出さずにいられない。

そこにきて、湖と言えば
がトラウマのようにこびりついている。

そんなリスナーの欲求に半ば応じるかのように、
"Analog"のライヴ・セッション映像が公開された翌日には
早くも"She"と"Fish"がリークされた。

"She"はなんと言っても、フランク・オーシャンが歌うフックが
その節回しとあいまって気持ち悪い。

The blinds wide open so he can
See you in the dark when you're sleepin'
Naked body, fresh out the shower
You touch yourself after hours
Ain't no man allowed in your bedroom
You're sleeping alone in your bed
But check your window, he's at your window
(ブラインドが開いてるから、彼から
君が暗闇で眠る姿が見える
裸で、シャワーを浴びたばかりの
君がオナニーするのが
君の寝室は(他の)男子禁制
君はベッドで一人きりで眠っている
窓辺に注意するんだ、彼がいるぞ)

彼とは、言うまでもなくタイラー。
となると、君とは、サラ=本名ラクウェルに違いない。
そして、フランクは、彼女が現在交際中の相手という設定だろう。

イントロなしで、いきなり始まるフランクによるverse 1 では、
彼女とベッドにいる彼が
彼女のストーカー=タイラーに襲われ、反撃し、追い払っている。
フランクの描写は巧みなので、ミュージック・ヴィデオも作りやすいだろう。


一方、タイラーの、彼女への執着、粘着ぶりは凄まじい。

”七回断わられたら、八発銃弾を撃ち込む”
とか

"Sarah"を聴いているリスナーなら
十分に想像できるかもしれないが、

”魂の抜け殻となったお前の死体を森に引き摺って行って
姦淫する、それほどお前を愛している”

ストーカーの心理が、かなり立体的に描き出されているのが、
この"She"なのだ。
オナニーする女性を覗き見たことをネタにして
マスターベーションにいそしむストーカー
という構図さえ浮かび上がってくるだろう。

そして、何度か聴くうちに
Meet me by the lake around 10 and skinny dippin' and then..
とあることに気づく。

また、湖だ。

もしかしたら、"She"に出てくるストーカー、タイラーの夢想が
"Analog"なのではないだろうか。
We should take a dip in that lake quick and then split
Then do something that's beyond what we both can 
とは、
やはり、”全裸で湖に入っていったあと、彼女を切り刻み、
想像を絶する行為に及ぶ”
と聴くべきなのか。
ストレートなラヴ・ソングに聴かせようとさせないところも
タイラーの罠なのかもしれないが・・・(続








10. (Frank) Ocean

前述したように"She"と同時にリークされたのが"Fish"だった。
"Analog"と"She"が Meet me by the lake でつながるとすれば、
"She"と "Fish"は、まず、フランク・オーシャンの客演によってつながる。
聴き取りやすく、耳に入ってきやすいとはいえ"Fish"のブリッジでの彼の歌も、これまた風変わりだ。

Now I'd like to take this time of day to thank the Mother Earth
Letting the sun shine down on the lake while I fish the waters
Ooh, hide your daughters, hide your sisters, hell hide grandmama too
Cause the fisherman's raping everybody in the pool, he on the loose, yeah

ここだけでも、"水"を湛えた場所が3ヶ所も出てくるのだが、
その由来については「夢に出てきただけだ」とうそぶく
彼のアーティスト名がoceanだ(本名はクリストファー・ブロー)。
と書くと、


デビュー・アルバムnostalgia,ULTRA,(.2011.2.18) に収録されている
"Swim Good"を思い出すむきもあるだろう。

I'm about to drive in the ocean
I'mma try to swim from something bigger than me
Kick off my shoes and swim good, and swim good
Take off this suit and swim good, and swim good, good

と繰り返され、ocean と swim の相性のよさを確認できる。
が、それはとんでもない意味での相性の良さなのだ。
フランク・オーシャンは、あまりに大きすぎる失恋の痛手から、
海までクルマを走らせ、まさに入水自殺を図ろうとしている・・・
これはそんな曲なのだ。
彼はオーシャンをどこまで泳いでゆこうというのだろうか・・・。

さらに、”水”つながりで言えば、
このアルバムには"There Will Be Tears"という曲が入っている。
これは、ミスター・ハドソンによる同名曲の歌い出しの部分を
丸ごとサンプリングして、そのパートの歌詞

There will be tears I've no doubt 
There may be smiles but a few 
And when the tears have run out
We'll be numb and blue, blue
I can't be there with you but I can dream
I can't be there with you but I can dream
(今にも涙がこぼれそうだ、自分でもよくわかる
作り笑いの一つや二つはできるだろう
でも、涙が涸れ果てる頃には
お互いに何も感じられなくなって、顔は真っ青だろう
あなたとは離れ離れになるけど、夢の中なら一緒にいられる
あなたとは離れ離れになるけど、夢の中なら一緒にいられる)

に導かれるように、そこから先、オーシャンは、自らの体験を歌い継いでゆく。
言葉はほんの少しだが、
そこでは祖父の死、彼にとっては父親替わりだった祖父との別れ
が取り上げられている。
彼もまたタイラーと同じように父親を知らずに育ってきたのだった。
「タイラーと知りあってからは、新しい音楽については彼がずいぶん示唆してくれたし、いろいろ聴いた。
ただ、自分の曲作りのプロセスに限って言えば、本質的に以前のままなんだ」
オーシャンはこうインタビューで話している。(続









11. Novacane

そして、フランク・オーシャンと言えば、"Novacane"だ。

 

 

やっぱ、そうだったんだ。これだってのを手にいれてから、

しても、しなくても、すっかり不感症。人間を超越したな

もうヴァイアグラ使ってやっても同じ、どのシングル曲もオートチューン使い

感情ゼロ、押し殺された感情、補正されたピッチ(=気分)、計算化された感情

こうなったのも、あのモデルのコのせい、ハリウッド流儀の空虚な笑顔

ストリッパー級のお尻とおっぱいには、絶句、お口使いもレヴェル高し

彼女と会ったのはコーチェラ、俺はジガを、彼女はZトリップを観に行った、好対照でバッチリ
俺がひんやりした芝に腰を下ろすと、彼女が手渡してくれたのが、青いボング、イイね

彼女が言った、何がなんでも歯医者さんになりたいの、今は学生だけど

授業料払うため(サン・ファーディナンド)ヴァレーでポルノに出てるの。きみはとにかく働いてるってわけだ

いやあ、もう俺、自分の顔の感覚も麻痺してるよ、俺たち、何を吸ってんだろ

彼女が言った、せっかくハイなんだから、わたしをちょっとだけ味わってみない

 

ノヴァケイン、ノヴァケイン、きみが欲しい
俺を気持ちよくして、長く続けて、麻痺するまで、してくれ

今だけわたしを愛して、わたしがいなくなっても、わたしだけ愛して

わたしだけ愛して、わたしだけ愛して、麻痺、麻痺、麻痺してるよ


シンクからあふれ出そうな食器、キッチンでそわそわしてる、朝飯からコカイン、おっと、危ない!

ベッドに群がる女たち、三脚にカメラを設置、小さな赤い撮影開始ボタンが点灯

気分はまるでスタンリー・キューブリック、広がる幻影

その快感を『アイズ・ワイド・シャット』状態でフィルムに収めようとしても、逃げられてしまう

こうなったのも、あのモデルのコのせい、ハリウッド流儀の空虚な笑顔

ストリッパー級のお尻とおっぱいは息を飲むほど、絶対きみを忘れられない

きみのせいで俺、今まで、ただの一度も、全く知らなかったこんな感覚に溺れてる

あれ以来、必死で思い出したり、記憶のかけらを集めたり、組み立てたりしている

今や俺はキャンパス内で、化学者気取り

でも、あの薬物だけは検出されてない、きみから見つかった成分だけは

もう俺、自分の顔の感覚も麻痺してるよ、俺は何を吸ってんだろう

彼女が言った、せっかくハイなんだから、わたしを味わってみない、ほんのちょっとでいいから


ノヴァケインで痛みを鎮めて


かわいい女の子たちが寄ってくる

たっぷりと俺を愛してくれる、存分に、でも、空しい、哀しい

かわいい女の子ばかり寄ってくる

たっぷりと俺を愛してくれる、存分に、でも、空しい、哀しい


俺はすっかり麻痺してる

彼女のあの感触が思いだせない

ノヴァケインで痛みを鎮めて



 この曲では、ドラッグを使ってセックスをするから気持ちいいのか、

セックスが気持ち良すぎて、ドラッグを使っているみたいなのか、

はたまた、ドラッグを使って、気持ちよかったセックスを思いだそうとしているのか

それはドラッグを使ってもしょせん思いだすことはできないのか

そのあたりのあいまいな部分を、

恩師トリッキー・スチュアートが手がけたアンチ・クライマックスな堂々めぐりなトラックにのって

フランクはうまくとらえている。


いずれにしても、彼の記憶に強烈なセックス体験を刻みつケタむきざみつたのは、

学費を稼ぐためポルノに出ている歯科医を目指す女子学生。

歯科医志望ということで、治療で使う麻酔薬ノヴォケインなのか

とひらめくものの、タイトルの綴りを見ると、Novocaineではなく

Novacaneだ。


フランクによれば、

(マリファナで気分を盛り上げた勢いのまま突入した)この子とのセックス(の記憶?)が強烈過ぎて、

他のどの子とセックスしても、例えば、たとえヴァイアグラを使おうが、全然気持ちよくない。

それは、あのコに、ノヴォケインを使われた時みたいに、感覚を麻痺させられてしまったからだ、ということなのだろう。

ただし、Novocaineではなく

Novacaneと歌っている


彼が上手いのは、ノヴォケインが、感覚を麻痺させることで、痛みを感じさせなくなるのを踏まえた上で、

ノヴァケインが欲しい、と歌っているのだ。

彼の感覚を麻痺させてしまった、欲望の対象としての彼女が生成したのは、

新しい(=ノヴォ)ノヴォケイン(あるいは新種のコカイン?)=ノヴァケインであり、

それは、そんな彼女に焦がれる胸の痛みを鎮める、

新しい(=ノヴォ)ノヴォケイン=ノヴァケインだというのだろう


そんなわけで、この曲で、フランク・オーシャンは、

まったく新しい薬物を世の中に広めてしまったわけだが、

だからといって、リスナーに、既存のドラッグの使用を薦めているわけではないのは

ノヴァケインが彼の脳内で自然に(勝手に)生み出されたものであることからもわかる

だいたい彼は、ここで、ヴァイアグラとオートチューンに、

自然な感情表現や生理を阻害する共通点を見出し、

否定的なものとしてとらえている。

つまり、彼はリスナーにドラッグの使用を薦めているのではなく、

あくまでも、自分が曲を書く上でテーマそのものとして、ドラッグの使用、を自らに課すことで、

陳腐と思われがちな、このテーマでも、まだまだ面白くて新しい(=ノヴァ)曲が書けることを、

フランクは自分と同じシンガーソングライターにアピールしているのではないのだろうか。


もはや、重要なのは、ドラッグの使用そのものではなく、

ドラッグの使用をいかに利用するのか、ということなのだろう・・・(続



 

 

 



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