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はじめに

皆様こんにちは。「ねこバナ。」の佳(Kei)と申します。

このたびの震災で被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

大きな地震と津波が東日本を襲ってから20日が過ぎました。あまりにも甚大な被害、多くの尊い命が奪われ、避難所で生活していらっしゃる方、ふるさとを離れて他県に避難された方が数十万人にも及ぶという事実を目の当たりにし、ただ呆然とするばかりです。

遅ればせながら、「ブクログのパブー」さんが立ち上げた「東北地方太平洋沖地震チャリティ本の売り上げの寄付」というシステムを使って、私も何か出来ないか考えました。

しかし私のおはなしはすでにブログにて公開しており、新作を作る余裕も今はないので、これだけでお金をいただくわけにはいかない...。
せめて絵が描ければ、チャリティに参加できるのに、と、ほぞを噛む思いでおりました。

そこで、私のおはなしを、絵本を描いてらっしゃる方、絵本を作ってみたいと思ってらっしゃる方々に、自由に使っていただくのはどうだろう、と思い立ちました。

この電子書籍には、すでにおはなしブログ「ねこバナ。」で公開している、子ども向けのおはなしをまとめてあります。
チャリティー向けに絵本を作りたい、でもおはなしが浮かばない!とおっしゃる皆様、私のおはなしでよろしければ、どしどしお使いくださいませ。
ブクログの「東北地方太平洋沖地震チャリティ本」のためにお使いになるかぎり、どなたでもご自由に、完全にフリー素材としてお使いいただけます。
結果的に、同じおはなしを使った絵本がたくさん出来たとしても、私は全く構わないことだと思います。絵はそれぞれの画家さんたちの作品であるのだし、それに魅力を感じて買ってくださる方がいれば、そしてその数が多ければ、それに越したことはありません。

ちなみに、今回ここに載せたおはなしの朗読は、ボイスブログ「さとる文庫」さんで聴くことができます。こちらもぜひお使いくださいませ。

また「こんなおはなし書いてほしい」というリクエストも受け付けております。コメントにお書きください。チャリティ絵本のために、おはなし書かせていただきます。もちろん何度でも手直しいたします。

支援はこれからも、長く続けなければいけない状況です。少しでも多くの方に支援の手が伸びますように。そしてその助けに、ほんの少しでもなれるのであれば、こんな喜びはないと、思っているのです。

どうぞよろしくお願いいたします。

佳(Kei)





1 ねこの まち


ねこの まち



おはよう おはよう ねこのまち
さかなや とらさん ごきげんいかが

いつも おおきな りやかー ひいて
おいしい おさかな はこんでる

さあさあ やすいよ おいしいよ
でもでも でもね ないしょだよ

いちばん おいしい まぐろの しっぽ
これはやっぱり ひとりじめ

だって ねこなんだもん

  *   *   *   *   *

こんちは こんちは ねこのまち
きじとら せんせい ごきげんいかが

いつも きれいな はくいを はおり
ぐあいの わるいこ なおしてる

いたいの いたいの とんでいけ
でもでも でもね ないしょだよ

ほんとは とっても おちゅうしゃきらい
いつもさっさと かくれちゃう

だって ねこなんだもん

  *   *   *   *   *

ゆうぐれ ゆうやみ ねこのまち
こっくの くろさん ごきげんいかが

いつも おいしい しちゅーを つくり
おみせは いつでも だいはんじょう

さあさあ たっぷり めしあがれ
でもでも でもね ないしょだよ

うとうと うっかり おひるねしてて
しちゅーのなべを こがしちゃう

だって ねこなんだもん

  *   *   *   *   *

おやすみ おやすみ ねこのまち
おしゃれな みけさん ごきげんいかが

いつも こどもに えほんを よんで
なでなで しながら ねかせてる

さあさあ おねむよ こねこたち
でもでも でもね ないしょだよ

きれいな つきよは やねにのぼって
おそらを みあげて こいのうた

だって ねこなんだもん

だって ねこなんだもん

  *   *   *   *   *

あしたは どうかな ねこのまち
のぞいて みようよ ねこのまち




おしまい






2 ねこっとび


ねこっとび



おいらは こねこ
いたずら だいすき
どんなとこでも ほいほいほい
たんけんするよ ほいほいほい

とくいな わざは
なあんと いっても
たかいとこへの ねこっとび
おしりふりふり ねこっとび

かあちゃん びっくり
とうちゃん おどろき
ねえちゃん おこって
じいちゃん ほおほお

どこでも とぶよ
あちこち じゃんぷだ
でんしれんじに れいぞうこ
てれびのうえに おぶつだん

するどい つめを
がっちり ひっかけ
わきめもふらず ねこっとび
ちょうせんするぞ ねこっとび

  *   *   *   *   *

おいらの すきな
おおきな ほんだな
のぼらんように とうちゃんが
ねずみがえしを とりつけた

おいらは ねこさ
ねずみじゃ ないやい
だからかるうく ねこっとび
しようとしたら おっこちた

かあちゃん げらげら
とうちゃん わははは
ねえちゃん うふふふ
じいちゃん ほおほお

なんだい ふんだ
わらいやがったな
おいらおこって ねこっとび
てーぶるめがけ ねこっとび

おさかな ごはん
みそしる つけもの
おいらはしって ぐっちゃぐちゃ
あたりいちめん ぐっちゃぐちゃ

  *   *   *   *   *

いたずらものめ
とじこめてやる
そうしておいら ものおきに
ひとりぽっちで いれられた

なんだよ だして
くらくて こわいよ
おいらひとりで にゃあにゃあにゃあ
かなしくなって にゃあにゃあにゃあ

  *   *   *   *   *

おいらは こねこ
なきむし こわがり
しばらくないて いたけれど
そのうちねむく なっちゃった

そうっと とびら
ひらいて くれたの
おいらのあたま なでなでと
してくれたのは じいちゃんだ

かあちゃん おまえを
ゆるして くれると
おまえは いたずら
しすぎるからなあ

そうして おいら
そうっと つかまれ
おひざのうえに のっけられ
のどをごろごろ なでられた

  *   *   *   *   *

つぎのひ おいら
やっぱり じゃんぷだ
てーぶるだけは いかないよ
だけれとほかは ねこっとび

おこられちゃっても
どなられちゃっても
あきれられても
ひっぺがされても

やっぱりおいら ねこっとび
えいっとひとつ ねこっとび

こればっかりは やめられない
なぜっておいら ねこだから

そだちざかりの ねこだから




おしまい






3 ねこらしい ねこ


ねこらしい ねこ



町工場にすんでいる、ねこのポチは、かいぬしのおじさんに、いつもこう言われるのです。

「おまえは、ほんとうに、ねこらしくないねえ」

なぜ、おじさんがこんなことを言うのでしょうか。
それはね。

ポチは運動がとってもにがて。
虫をとろうとジャンプして、かならずしりもちをつくのです。
家のかいだんをかけあがろうとして、ふみはずしておっこちたこともあるのです。
ねこじゃらしにじゃれようとして、いすの足におもいっきり、頭をぶつけたこともあるのです。

ポチはとってもあまえんぼ。
いつも、おじさんの後をひょこひょこついて歩きます。
近所のたばこやさんまで、いっしょにおさんぽだってするのです。
おじさんのすがたが見えなくなると、さびしくなって、にゃあにゃあ、にゃあにゃあと、なくのです。

「おまえみたいなねこは、はじめてだなあ」

と言いながら、おじさんは、ポチの頭をなでるのです。
ポチは思いました。

「そうなのか。ぼくはねこらしくないのかなあ」

なでなでされながら、ポチは考えました。

「じゃあ、ねこらしいって、どういうことだろう」

考えているうちに、おじさんはしごとに行ってしまいました。
小さな頭で、ポチはいろいろ考えていましたが、

「そうだ。ねこらしいねこを、さがしにいこう。そうして、ねこらしいって、どんなことか、教えてもらうんだ」

ポチは「ねこらしいねこ」をさがしに、小さなたびに出ることにしたのです。
おさんぽよりちょっとおおきなていどの、小さなたびに。

  *   *   *   *   *

まずポチがむかったのは、たばこやさんのミケのところでした。

「おやポチ、どうしたんだい」
「ミケねえさん、教えてほしいことがあるの」

ミケはこのあたりでいちばん強い、きもったま母さんなのでした。

「あのね、ねこらしいねこって、どんなねこだろう」
「ねこらしいねこ?」
「うん」
「そりゃあ、あたしみたいなねこに、きまってるだろ」

ミケはおひげをぴんと伸ばして、言いました。

「そうなんだ」
「そうさ。あたしはねずみをたくさんとるもの。むかしから、ねずみをとるねこは、よいねこだって、うちのおばあさんが言ってたよ」

ポチはそんなこと、ぜんぜん知らなかったのです。もちろんねずみなんて、一度もとったことはありません。

「じゃあ、やっぱりぼくは、ねこらしいねこじゃないんだ」
「まあそうしょげなさんな。そうだ、いいもの持ってきてあげよう」

そう言うと、ミケはお店の中に入って行きました。ポチがしばらく待っていると、

「ほら、お食べ」

と、何やら大きな、みどりいろのものを持ってきました。

「これなあに」
「これはね、こまつな、っていうのさ」
「えっ」

よく見ると、それはたしかに、こまつなでした。

「これ、うちのおじさんが、ぶんちょうにあげてるやつだ」

びっくりして、思わずポチは大きな声をあげました。
そんなものを食べるねこを、ポチはほかに知らなかったのです。

「なんだい、ポチは食べたことないのかい」
「ないよう」
「こんなおいしいものを食べないなんて。もったいない」

そう言いながら、ミケはこまつなを、ばりばり、むしゃむしゃと、さもおいしそうに食べました。
それを見ていたポチは、

「ぶんちょうのごはんみたいなものを食べるなんて、なんだか、ねこらしくないような気がするなあ」

と思いました。そうして、

「じゃあさようなら」

と、ミケにあいさつをして、小さなたびをつづけることにしました。

  *   *   *   *   *

つぎにポチがやってきたのは、やおやのタイジのところでした。
タイジはいつも、やおやの店さき、キャベツのとなりで、まあるくなって、ねているのでした。

「おうや、ポチどうしたね」
「タイジおじちゃん、教えてほしいことがあるの」

タイジはこのあたりでいちばんのとしよりで、いろんなことを知っているのでした。

「あのね、ねこらしいねこって、どんなねこだろう」
「ねこらしい、ねこ」
「うん」
「ふふふ、それはわしみたいなねこだろうなあ」

タイジは、大きなあくびをしながら言いました。

「そうなの」
「そうともさ。わしはようくねる。一日のはんぶんよりもっと、この店さきでねているんだ。ねむるから、ねこ、なんだよ。わかるかい」

ポチはまたびっくりしました。そんなことぜんぜん知らなかったのです。
それにポチは、ねむるのがおしくて、一日じゅうあそんでいるのでした。

「じゃあ、やっぱりぼくは、ねこらしいねこ、じゃないんだあ」
「ふふふ、そんなにポチは、ねこらしいねこに、なりたいかね」
「うん」
「じゃあ、わしみたいに、くるっとまるまって、ねむりなさいな」

そんなこと言われても、ポチにはすぐにできるはずがありません。
すると、

「タイジや、おふろだよ」

と、店の中から声がしました。
するとタイジはのっそりおき上がり、大きくせのびをして、うれしそうに店の中へむかおうとしました。

「タイジおじちゃん、おふろってなあに」

ポチは聞きました。

「おふろというのはな、おゆの入ったたらいにつかって、のんびりすることだ」
「えっ」

ポチはびっくりしました。いちどだけ、たらいの中で体をじゃぶじゃぶあらわれたことがあるのです。
そのときポチは、いやでいやでしかたがありませんでした。おゆをかけられただけで、さむけがしたのですから。
それに、ポチの知るかぎりでは、おふろがすきなんていうねこは、ほかにいなかったのです。

「お、おゆのなかに、入るの」
「そうさ。きもちがいいぞ。ポチもはいるかね」
「うううううううううん」

ポチは大きく首をふりました。

「おふろがすきなんて、なんだか、ねこらしくないような気がするよう」

そう思ったポチは、

「じゃあ、さようなら」

とタイジにあいさつをして、小さなたびをつづけることにしました。

  *   *   *   *   *

次にポチがやってきたのは、空き地にすんでいるのらねこサンジのところでした。
サンジはいつも、近くのごみすてばをあさって、くらしていました。

「おうポチじゃねえか。どうしたこんなところまで」
「こんにちはサンジ。教えてほしいことがあるの」

サンジはすばしっこくて、けんかしたあとのにげ足はピカイチなのでした。

「あのね、ねこらしいねこって、どんなねこだろう」
「ああ? なんだって? ねこらしいねこ?」
「うん」
「へっへっへ、そりゃあおまえ、おれさまみたいなねこだろう」

サンジは、にやりとわらって言いました。

「そうなんだ」
「そうさ。おれさまはな、ほかのねことちがって、ひとりで生きてるんだ。まあ、たまにこどもにおべっかをつかうこともあるがな。ぜったい心まではゆるさねえ。人間なんぞになれてくらすねこたちは、おれさまに言わせれば、ねこらしいなんて言えないね」

ポチはとってもびっくりしました。人にあまえてくらすのが、ねこらしいと思っていたからです。

「じゃあ、やっぱりぼくは、ねこらしいねこじゃないんだ」
「ふん、しょうがねえよ。おまえはかいねこなんだからな。おれさまのでしになって、のらねこのしゅぎょうをするってんなら、教えてやらんでもないが」
「ほ、ほんと」
「ああ。どうするね」

サンジはにやにやしてポチに言いました。ポチはどうしよう、どうしようと考えました。
サンジといっしょにいれば、ねこらしいねこに、なれるかもしれない。
でもそうなったら、おじさんといっしょには、くらせない。
あったかいおうちも、ふかふかのねどこも、なくなってしまう。
どうしよう、どうしよう。

「どうするんだい」
「ええっと」

そのときです。

「サンジ-、おやつだよう」

空き地のむこうで声がしました。
見ると、セーラーふくをきた女の子が、サンジにむかって手まねきをしています。

「うにゃっ」

サンジは、いちもくさんに、その女の子のところに走りました。そうして、

「うにゃ~~~ん、ぐるぐるぐる、ごろ~ん」

女の子の前で、おなかを出して、ごろごろしはじめたのです。
ポチは、あっけにとられて見ていました。

「よーしよしよしよし」

女の子におなかをなでられて、サンジはすごくうれしそうです。

「それは、おべっかっていうの」

ポチは小声でサンジに聞きました。

「そうさ。こうすればおやつがもらえるからな。そうれ、ごろ~ん」

サンジはいっしょうけんめい、おなかを出してごろごろしているように見えました。

「あら、ちっちゃいねこちゃん。サンジのおともだち?」

と、女の子はポチをなでようとします。すると、

「だめっ、だめだめだめ、おれさまをなでてえええええ」

サンジは女の子の手をつかんで、べろべろなめはじめます。
そのようすはまるで、ポチのきんじょにいる犬のタロそっくりでした。

ポチはためいきをついて言いました。

「犬みたいに手をべろべろするなんて、ねこらしいとは、とても思えないや」

そうしてポチは、

「じゃあさようなら」

ごろごろしているサンジにあいさつをして、小さなたびをつづけることにしました。

  *   *   *   *   *

「どうしよう」

ポチは下をむいたまま、とぼとぼ歩きました。
けっきょく、ポチはねこらしいねこに、会うことができません。
このままじゃ、おじさんが、がっかりしちゃう。どうすれば、ねこらしいねこになれるだろう。
そんなことを、ポチは考えながら、とぼとぼ、ぶらぶらと歩きました。

「おやポチやないかい。どないしたんや」

声がして、ポチは顔を上げました。
そこには小さなおやしろと、赤いとりいがありました。
とりいの下には、大きなトラもようの猫が、どっしりと座っておりました。

「ああ、ネコイナリのおじちゃん」
「こないなとこまで、ひとりで。めずらしいなあ」

ネコイナリは、おいなりさんにすんでいる、かみさまのつかいです。いつもおやしろの中でねてばかりだけど、たまにこうやってそとに出てくるのでした。

「あのね、ぼくね、ねこらしいねこを、さがしてるの」
「は? ねこらしい、ねこ」
「うん」
「でも、ぜんぜん、みつからないんだ」

ポチは、ほう、とためいきをつきました。

「ねこらしい、ねこ、ねえ」

ネコイナリは、うでぐみをして考えていました。

「そんなもん、おるんかいな」
「だって、うちのおじさんが、おまえは、ねこらしくないなあ、って、言ったんだよ」
「ほう」
「だから、おじさんをがっかりさせたくないから...」
「ははははは、なんやそんなことかいな」

ネコイナリは、からからと高い声でわらいました。

「あんなあ。ねこらしゅうするってのはな、自分らしゅうするっちゅうこっちゃ」
「え?」
「考えてみいや。人間らしい人間ってのは、どんな人間や」
「えっと、それは...」

ポチは、小さい頭でぐるぐる考えました。
やさしい、おっとりしたおじさん。
元気ではたらきもののおばさん。
なきむしのちいちゃん。
おっかないさかなやのおっちゃん。

ひとりも、おんなじひとは、いませんでした。

「ううん、みんなちがう」
「せや。どれが人間らしい人間かなんて、わかれへんがな」

そうしてネコイナリは、

「まあ、ポチなんていう名前をつけたおっちゃんかて、おかしな人やで」

と言うのです。

「なんで?」
「ポチいう名前はな、たいがい犬の名前や。そんなんつけといて、ねこらしゅうないなあ、なんて言うかいな」

ネコイナリはまた、からからと笑いました。ポチはびっくりしました。

「そ、そうなの」
「なんや知らんかったんか。まあええわ。せやから、おまえが気にすることなんかなーんにもないんや。おまえがなりたいようになったらええんや」
「なあんだ。それでいいんだ」
「すっきりしたか」
「うん!」

ポチは元気よく言いました。

「じゃあ、さようなら」
「気ぃつけて帰りや」

ポチはネコイナリとあいさつをかわして、うきうきして家へと帰りました。

  *   *   *   *   *

「おやポチ、どこまであそびに行ってたんだい」

すっかりくらくなってから帰ってきたポチを見て、おじさんはびっくりしてそう言いました。
ポチは、おじさんのさしだした手を、べろべろ、べろべろなめました。

「うひゃ、くすぐったい。やっぱりおまえは、ねこらしくないねえ」

おじさんはそう言いました。でもポチは、ちっともいやではありませんでした。

「いいんだもん。ぼくはおじさんが、すきなんだもん」

おじさんも、まんざらではなさそうな、いいえ、とってもうれしそうな顔をしていたのですから。



おしまい






4 つきに いけなかった ねこ


つきに いけなかった ねこ



「きょうも つきが あかるいなあ」

ぶちねこの アッシュは そう いって つきを みあげました
こうこうと てる まんまるな つきの あかりは
アッシュの おめめを きらきらと ひからせました

「みんなは どうしてるかなあ」

アッシュは つきに むかって ほう と ためいきを つきました

  *   *   *   *   *

ふたつき まえの まんげつの よる
こうじょう うらの あきちの すみで
のらねこ かいぎが ありました

「みんな きいておくれ」

のらねこ ぎちょうの モンじいが おほんと せきばらいをして いいました

「つきの うさぎさんが いいニュースを もってきて くれたぞ」

モンじいの となりには おみみの ながい うさぎさんが ちょこんと すわって おりました

「うさぎさんは つきの なかまを ぼしゅうちゅう なんだ いっしょに つきに すんでくれる なかまをね」

あつまった ねこたちは へえええ と おおきな こえを あげました

「つきに いきたい ねこたちを こんどの まんげつの よるに つれていって くれるそうだ」
「ねえねえ うさぎさん」

くいしんぼの ハチが てを あげました

「つきには おいしいものが たんまり あるかねえ」

うさぎさんは おみみを ゆらして いいました

「もちろんですとも おいしい おもちが ありますよ」

みんなは おお と こえを あげました

「ねえねえ うさぎさん」

しんぱいしょうの シロが いいました

「つきでは びょうきに なったり しないかしらねえ」

うさぎさんは あかい おめめを くりくりさせて いいました

「しんぱいいりません わたしたちが つくった とくべつな おくすりが ありますよ」

みんなは へええ と こえを あげました

「ねえねえ うさぎさん」

けんかっぱやい トラが いいました

「むこうには けんかあいての いぬは いるかねえ」

すると みんなは くちぐちに いいました

「いいや いぬなんか いなくたって いいんだ」
「そうさ いないほうが せいせいすらあ」
「あたしたちは のんびり くらすほうが いいよう」

うさぎさんは にっこり わらって いいました

「まあまあ つきには いぬは いませんよ だから のんびり くらせます」

「ふん つまんねえの」

トラは ふくれっつらをして そっぽを むきました

「いいところだねえ」
「おいらもいきたい」
「あたしも」
「おれも」

みんなは くちぐちに いいました
うさぎさんは みんなの ようすを みまわして おおきな こえで いいました

「そうですとも つきは すばらしい ところです ただし」
「ただし」
「みっつの じょうけんが あるのです」
「みっつの じょうけん」

みんなは みを のりだして ききました
うさぎさんは おほん と せきばらいをしてから いいました

「ひとつ つきに いったら わたしたち うさぎの いうことを ようく きいてくださいね」
「ふんふん」
「ふたつ つきには なにも もって ゆけません みなさん てぶらで きてくださいね」

「ええっ おいらの おきにいりの かみぶくろも」
「あたしの すずも」
「わしの ねどこの タオルもかの」

みんなは くちぐちに いいましたが

「ええ なにも もっては ゆけません」

うさぎさんは きっぱりと いいました

「そして みっつめ」

みんなは また みを のりだしました

「にんげんと なかよく している ねこは つれて ゆけません」
「ええっ どうして」

アッシュは びっくりして さけびました
うさぎさんは めを ほそめて いいました

「だって もう もどっては こられないのですよ」

アッシュは しょんぼり して しまいました
なぜって アッシュは やおやの ヨウコちゃんと とっても なかよし だったからです

「さあ いかがです あかるい つきのせかいへ ゆめのせかいへ わたしと いっしょに ゆきましょう」

うさぎさんは おおきく てを ひろげて よびかけました

「おれ いくぞ うさぎさんの いうこと きくよ」
「おいらも いくよ おもちゃなんか むこうで みつければいい」
「あたしも いくわ にんげんに いっつも いじめられているもの つきに いけば のんびり できるわ」
「わしもじゃ」
「ぼくも」
「わっちも」

つぎつぎに てが あがりました

けっきょく てを あげられなかったのは
ぶちねこの アッシュ だけでした

  *   *   *   *   *

つぎの まんげつの よる
つきから おおきな ざぶとんが とんで きました

「へえ これにのって いくのかい」
「ふかふかして きもちよさそう」

のらねこの みんなは つぎつぎに ざぶとんに のっかりました

「アッシュ おまえ ほんとうに いいのかい」

モンじいは アッシュに ききました

「うん だって ヨウコちゃんが かなしがるもの」

アッシュは しょんぼりして いいました

「へんなやつだ にんげん なんかを きにしやがって」
「そうよ むこうで のんびり できるのに」
「まあみんな いいじゃないか アッシュが きめることなんだから」

みんなは くちぐちに いろんな ことを いいました

「さあ では しゅっぱつ しますよ」

うさぎさんは こえ たからかに いいました
すると
おおきな ざぶとんは おそらに ふわりと うきあがり
おとも たてずに つきへと とんで ゆきました

「アッシュ さようなら」
「げんきでな」

みんなは てを ふりました
アッシュも みんなに てを ふりました

「みんな げんきでね さようなら」

ひとり のこされた アッシュの おめめから
ぽろりと なみだが こぼれました

  *   *   *   *   *

「みんなは げんきに してるかなあ」

アッシュは また つぶやいて つきを みあげました
こうじょう うらの あきちは
アッシュ ひとりには ちょっと ひろすぎました
がっこうがえりの ヨウコちゃんと あそんでも
すぐに ヨウコちゃんは おうちに かえって しまうのです

「ぼくも やっぱり いけば よかったかなあ」

アッシュは かんがえました

「ヨウコちゃんは とっても うれしそうに あそんで くれるもんなあ」
「でも いつも いっしょには いられないしなあ」
「でもでも おいしい ごはんを もってきて くれるよなあ」
「でもでもでも たまに そのことで おこられてたり するんだよなあ」

アッシュの ちいさいあたまは いろんなことで いっぱいに なって しまいました
アッシュは かるく あまたをふって

「みんなは どうしてるかなあ」

そう つぶやいて ほう と ためいきを つきました

つきは とっても あかるくて
アッシュの おめめは きらきらと ひかりました
きらきらと ひかって

つきから とんでくる
おおきな ざぶとんを
うつしだしました

「あれ?」

そう つきから とんできたのは
ねこの みんなを のせて とびたった
あの おおきな ざぶとん だったのです

すごい スピードで とんできた ざぶとんは
あきちに すとんと おりたちました
そうして

「はあ まいったまいった」
「よかった もどって こられたぞ」
「やっぱり ここが いちばんいいなあ」

つきに いった はずの ねこたちが
ぞろぞろ ぞろぞろ おりて きたのです

「さあ みんな おりましたね じゃあ わたしは かえりますよ」

うさぎさんは ぷんぷん おこって いいました
おおきなざぶとんは そのまま つきへと とんでいって しまいました

「みんな みんな いったい どうしたの」

アッシュは みんなに ききました

「どうもこうもあるかい」

くいしんぼの ハチが いいました

「あっちにゃ おもちしか ないんだぜ かつおぶしも ないし ネズミも いない おもちばっかじゃ あきちまう」
「へええ」

「それにね それにね」

しんぱいしょうの シロが いいました

「つきには びょうきが ないけれど いっぱい ちいさな ほしが おっこちて くるのよ あたし こわくて こわくて」
「へえええ」

「それによう」

けんかっぱやい トラが いいました

「ウサギのやつ おれたちに なんでもかんでも しごとを いいつけるんだぜ おれなんか なんど やつらと けんかを したか」
「へええええ」

さいごに モンじいが いいました

「やっぱり わしらには この あきちが いいんだなあ きっと」
「そ それじゃあ」

アッシュは うれしくなって いいました

「みんな もどって きたんだね」

「そうさ」
「そうともさ」
「また みんなで くらそうぜ」
「また みんなで あそぼうよ」
「また みんなで けんかしような」

みんなは わらって いいました

そう けっきょくのところ
つきに いけた ねこは

いっぴきも いませんでしたとさ




おしまい







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