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「承知しましたですぅ」

 

 周りの緊張感がうつったかのように、店員はピョンと跳ねてカーテン裏に消えると、驚くほど手際よくピーナッツの入った袋を差し出した。

 

「ごちそうしますよ」

 

 さりげなく母親の隣に立った社長が囁くように言う。

 

「まあ本当?」

 

 母親は嬉しそうに首を傾げて微笑むと、袋詰めされたピーナッツとオレンジジュースを手に取った。

 

「ごきげんよう」

 

 そう言って、母親はゆっくりと出口へ向かい、扉を開けてからこちらを一旦振り返ると、ユラユラと手を振って、そのまま外へ出て行った。

 

「えらい美人だな」

 

 マッチョが溜息交じりに言う。

 

「うむ。基本的には若い方がいいが、ああいう上品そうな熟女ってのもたまらんな。ブヒヒ」

 

 笑おうとしたのに、鼻が詰まってうまく声が出なかったのか社長は豚のように笑った。

 

「クッゴホッ。そろそろ俺も帰る事にするか」

 

 マッチョも軽く咳き込みながら言う。

 

「アタシも、なんか喉痛くなってきたしィ。帰りたい」

 

 皆が母親に夢中だったのが面白くなかったのか、派手女はふてくされたように言った。

 

「また来るぞ……マスタァ……グフォッ」

 

 社長がオーナーに手を振って挨拶をしようとして、途中で咳き込み、自分でも訳がわからないといった様子で喉に手を当てた。


 三人はどこか具合が悪そうな様子で、咳き込みながら店を出て行った。

 


 三人が帰っても、店内では演歌が流れていた。

 

 オーナーがようやく落ち着いたように大きく息をつき、こちらを見た。

 

「それで、オレンジジュースなんですけどね」

 

 オーナーの口調は、いつのまにかオネエ口調ではなく、普通のものになっていた。どこか疲れたような表情をしていた。

 

「今ので冷やしてあるのが最後だったんですよ。冷えてないやつなら、一つ残っているんですけど、残念ながら賞味期限が一週間ほど切れていて……ゴホンッ」

 

 オーナーもまた、他の客と同じように咳き込んで、首をかしげた。

 

「いえ、それならいらないです」

 

「じゃ、ピーナッツはお渡ししますよ。社長さんのおごりだそうですから」

 

「ありがとう」

 

 袋詰めされたピーナッツを受け取り、ふとカウンター上に目を留めると、先ほどオーナーが出してきた果物のオレンジが二つおいたままになっている。

 

「これ、戴いても?」

 

「結構ですよ。こっちはよく冷えてますからね。どうぞお持ち帰りください」

 

「ありがとう」

 

 一つをビニール袋に詰め、もう一つを詰めようとすると袋が切れそうだったので、右手にオレンジ、左手にビニール袋とむき出しのネギを持って店の出口に向かう。

 

「またよろしくお願いします」

 

 扉を開けたとき、店員が後ろから言った。


 二度と来るものかと思いながら、振り返らずに外へ出て扉をバタンと閉めた。

 

 中で鳴り響いていた演歌がぴたりとやみ、静寂と共に瑞々しい緑が目に飛び込んできた。

 

 木々にとまる鳥達の声があちこちから聞こえてくる。

 

 自然を見ながら開放感に浸っていると、ふと喉の痛みがなくなっている事に気がついた。

 

 体のだるさも抜けている。

 

 朦朧としていた頭も、どこかすっきりしていた。

 

 咳も止まっている。

 

「ピーナッツギャラリーに移してやったかな……」

 

 そう思うと、どこか気分も晴れやかになった。


                                                                    了


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 初めまして、ひろじぃ。と申します。拙作「オレンジとピーナッツ」を読んで頂き、ありがとうございました! 気に入って頂けたら嬉しいのですが…。

 

 主人公ではないですが、私もオレンジジュースとバタピーの組み合わせが大好きで、疲れたり風邪を引くと1リットルのオレンジジュースとバタピー一袋を食べて元気になっていました。

 

 もっとも、最近ではバタピーよりも、さらに健康を考えてポリフェノールも入っていそうな皮付きのピーナッツにしています(笑)

 

 この小説も、自分の大好きな組み合わせを使って何か書けないかと思いながら書き始めたのですが、ちょうどオレンジガールが、客引きに性サービスも行う女性を示していたり、ピーナッツギャラリーがくだらない批評をする人たちといったような意味も持っていたので、多少言葉遊びも入れながら作ってみました。

 

 …と書くと、多少高尚な感じがしますが、気の向くままに書いたドタバタコメディーですので、読んでくださる方が楽しんで下さるのが一番嬉しいです! 良かったら感想を教えて下さいね。

 

 小説を書く時は、「ひろじぃ。」というペンネームを使わせて頂いておりますが、普段は「ひろじぃ」というハンドルネームで「三十オヤジの東大キャンパス日記」というブログを書いたり、学習系の電子書籍などを作ったりしています。もし、お時間がありましたら、たまにはブログの方にも遊びに来て下さいね。

 

                    http://30oyaji2009.blog40.fc2.com/

 

 また、この小説を電子書籍化するにあたって、haru@氏にイラストをお願い致しました。二十年ほど前に一斉を風靡した某アイドルのヘアヌード写真集の表紙をパク…じゃなかった、オマージュしたような絵が欲しい、という難しい注文にも関わらず、イメージ通りのイラストに仕上げて下さいました。この場をお借りして感謝の意をお伝え致します。

 

 それでは、今回は読んでいただいて本当にありがとうございました。

 

                                   2009年6月29日 ひろじぃ。



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