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ID交換

 普段と変わらぬ輸送車内。携帯端末でゲーム対戦をしている子供たち。眼鏡越しに難解そうな本を読む老人。周りの迷惑を顧みず大声で話すおばさん…失礼、婦人たち。キャバ嬢風アンドロイドとデート中の男性。

 この乗客の中にもうすぐ消される人間がいるなんてことは誰も予想すらしていないだろう。ぼんやりと景色を眺めながら輸送車両に揺られること30分。コロニー管理局前の駅で降りる。


 12:45。タイムリミットまで、あと15分。

 

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コロニー管理局。
コロニーの全住民、全施設、外部へのアクセス、外部からのアクセス、すべての情報を管理している公的機関。

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 コロニー管理局は円筒型の灰色の建物で入口のみの建物で中を覗けるような窓はない。エアーダクトからは生暖かい空気が放出されていた。

 

「何年ぶりかな。管理局に入るのは」

自動ドアが開く。

 12:47。タイムリミットまで、あと13分。

 右手を受付の端末に乗せると、ディスプレイに「6FのフロアB」と表示された。
「へえ、ここ6Fまであったんだ。知らなかったな」

 網膜ディスプレイにエレベータまでのルートが表示される。案内されるままにエレベータのある部屋へと進んでいく。

 

 コロニー管理局の職員とすれ違うこともなくエレベータの前に到着した。エレベータが開く。

 目の前に自分がいた。

 自分が右手を上げるが、目の前の自分は、あきれた顔でこちらを見ていた。鏡ではないようだ。

 

「どうぞ、こちら空いていますので、お乗りください」
「あ、いや、自分、次ので乗るんで。結構です」
「そうですか」

 自分とのやり取り、お互いの無言の時、わずか数秒の出来事が数分のように感じた。
 エレベータは自然に閉まった。閉まり際に目の前の自分が微笑んだのがわかった。
 悪魔のような素敵な笑顔だ。鏡の前で笑う自分とそっくりだった。


「あの人が、新しいあなたなのですよ」
 背後からの声。聞き覚えのある声。振り返る。カジキだ。

 

「ロストナンバー。先ほどのあなたが新しいあなたです」
 両手を広げ、神の申し子のように語り掛けるカジキ。

 

「…ドッペルゲンガーかよ」
「あなたのIDは新しいあなたに引き継ぎました」
 自分の言葉に耳を貸さないカジキ。相変わらずだ。

「なるほど、ちょっと不満を言ってもいいかな」
「応えられる範囲であれば」

「もうちょっとイケメンにしてほしかったな」
「これ以上は無理でしたね」


 12:54。タイムリミットまで、あと6分。


「あと、5分ほど後にあなたは死にます」
「死因は? それより痛くないんだろうな?」

「強制シャットダウンによるガベージです」
「時間もないし、サルでもわかるように言ってほしい」

「あなたの体内デバイスを暴走させます。脳への血流を止め、同時に心臓を停止させます。ご安心を、痛みはありません。体への負担の少ない方法で肉体および臓器は再利用できます」

「その起動スイッチはどこにあるんだ?」
「このコロニー管理局のスケジューラに登録してます。自動でキックされます」

 

わざわざコロニー管理局へ呼んだのは電波障害を防ぐためだったのか。

 

「今から電波の届かない場所でも行こうかな」
「このコロニーの外に出るということでしょうか? それならば、異動手続きが必要ですよ」

そういえば、コロニー内で電波が圏外になることなかったな。いい仕事をしてらっしゃる。

 

「あと、3分後にあなたは死にます」
「いちいち言わなくても、時間くらい自分でわかる」

 

あと、2分じゃないか。多めに見積もるなよ、カジキ。

 

「そういえば、さっきのクローン。自分とIDが同じって言ってたな」

「ええ、純粋な複製ですから」

「同じIDなら同時に死ぬんじゃないの?」

「ご安心を。実際は、あなたのIDを消した直後に、あなたのIDの入れ替えを行うのです」

「なるほど、しっかりテストはやったのか?」

「ええ、万全の体制です」

 

「まもなく、あなたは死にます」


この本の内容は以上です。


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