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月子 △4三銀
おはようございます。では、続きお願いします。
ぜいらむ ▲3八銀
おはよう!…なるほど。今日はピンクのニーソか。
月子 △5二金左
……どこまでニーソ好きなんですか。
ぜいらむ ▲9六歩
三択チャンスが来るまでじっくり行くか、それとも自ら動いていくべきか、それが問題だ。【たったの】3回しか使えないし!今日のニーソはピンクだし!棋王戦が凄いことになってるし!
(※この日棋王戦第二局が行われていました。戦型は対ゴキゲンの5二金右急戦で、ものすごいスピードで進んでいました)
月子 △3六歩
そうですね、どこで使うかによって(笑いの)センスがわかりますよね。
ぜいらむ ▲ 3六歩
ええっ!?笑いをとらなきゃダメなのっ?(;´Д`)
月子 △3六飛
このままじゃ「ニーソコーナー」って言われちゃいます……
ぜいらむ ▲7四歩
わかった。ツインテとビキニについても検証してこうじゃなイカ?ところで笑いの取れる三択チャンスが中々来ないんだよ?
月子 △7二金
……結構どこで使われても大変な気が……あとビキニは絶対にありませんから。
ぜいらむ
なんだ!スク水だったのか!!(駒zone的にどこまでセーフなのか?)
月子
……今ツーアウトぐらいでしょうか……
ぜいらむ
笑い話を2つ。PC前に復帰したら棋王戦が終わっていて嬉しくてニヤニヤ笑い。でもって、ここで「三択チャンス」宣言しようとしたらTwitterクジラさんが大暴れして一人で爆笑してた。
▲7三歩成
やっと動いた!「三択チャンス!」「三択チャンス!」「三択チャンス!」(3回言ったっ)
月子
……うーん ①同銀 ②同金 ③ 同桂 ……ですね……苦難の時代が始まりそうです……
(※ここでの宣言は少し優しさを感じました)
ぜいらむ
なぜそこで「6一玉」とか「5一玉」を候補にあげてから後で涙目うるうるでごめんなさいする、という展開にしなかったのか?ごめんなさいしても許さなかったけど!
月子
プロとは決してあきらめない生き物だからです。
ぜいらむ
くっ…ツインテールでドヤ顔するとは!?……③同桂 ですね(*・∀・)
月子 △7三桂
さ、指したくて指してるわけじゃないんですからね……



ぜいらむ ▲7四歩
月子!駒.Zoneの講座企画で「三択チャンスの手筋」っていうコーナーおもいついちゃったし!
月子 △8五桂
いいですね、それ。先○先生あたりがそういう考察得意そうです。
ぜいらむ ▲7三歩成
「三択チャンス!」「三択チャンス!」「三択チャンス!」「ニーソ!」「ニーソ!」「ニーソ!」(大事なことなので3回ずつ言いました)
(※ここで使われるとどうしようもありません)
月子
なんという鬼畜ですか……桂を逃げなくてもする気でしたね……①同銀 ②同金 ③5一玉(/_<。) 
ぜいらむ
うーーーん。さすが月子プロ。好手ばっかりだなー(棒読み)。ぜいらむ、よくわかんないけど、3が好きだから「③5一玉」にするお!(◎◎)
月子 △5一王
これ……どうにもならない気が……
ぜいらむ ▲7二と
アイコンが変わったら何か興奮してきた。落ち着けぜいらむ!三択チャンスはあと2回ある!あったはず!
(※まるぺけさんにかわいいアイコンを描いていただきました)
月子 △3一飛
あと一回です……むしろそれ私に譲ってほしいぐらいです……
ぜいらむ ▲3七歩
月子!弱音をはくんじゃない!ニーソをはくんだ!(ぺしぺし)
月子 △4二王
なんという堅実な……仕方ないです、華麗な寄せを見せてください。
ぜいらむ  ▲7五飛
何だと?「華麗な寄せ」だと?…ちょっと「光速の終盤術」買いに行ってくる。
月子 △8四歩
どSです……どSがここにいます……
ぜいらむ ▲8二と
ああっ歩切れだ!月子!歩をおくれ!もしくはニーソおくれ!
月子 △1四歩
歩がほしいですか……三択チャンスを使うなら7八歩を候補に入れますよ!
ぜいらむ ▲8六歩
ただいま!しかしTwitter将棋楽しいねぇ。まとまった時間が取れない人でも指せるし、三択チャンスは4回もあるし。「駒.ZONE」でその魅力を伝えねば!
月子 △4五歩
……そうですね。
ぜいらむ ▲5六銀
4五歩は、何かすごくイヤな予感がする。頭突きが飛んできそうな悪寒がする。。

月子 △4四銀
……「俺の小宇宙よ、奇跡を起こせ!」と叫ぶと元気が出る、と師匠が言ってました……頑張ります……
(※作者はそういう世代なのです)
ぜいらむ ▲8五歩
ググってしまった。小宇宙と書いてコスモと読むんですね。ぜいらむはコスモよりKOS-MOSの方が好き。なんだよ。
月子 △3六歩
私もググりました。KOS-MOSと書いてもっこすと読むんですね。
ぜいらむ ▲3六歩
もっこすとか言うと、作者が怒って続編書いてくれなくなるよ!
月子 △5五銀
そうなんですか……どんな意味が隠されているのでしょうか……
ぜいらむ  ▲7二飛成
うん、そのうち作者から怒りのリプが来ると思うんだ。
その銀はびっくりした!毒まんじゅうは取らない!ニーソは取るけど。
らくは 
 「もっこす」禁止!
(作者はKOS-MOSファン)
月子 △5六銀
恐ろしいことに歩以外の駒をようやく取れた気が……。作者に怒られたのでKOS-MOSの話題は止めます……



ぜいらむ ▲5六歩

ふと思ったんだけど「三択チャンス3回」ってサッカーの選手交代枠と同数でいいね。最後の1回はキーパーの負傷に備えて取っておこう……。
月子 △8七銀
こちらは負傷者続出です……
ぜいらむ ▲5五桂
月子怪我したの?唾つけてふーふーしようか?(←変態)
月子 △5五角
自覚は……あるんですね……
ぜいらむ ▲5五歩
デカルトの「我、変態と思う故に我あり」という有名な言葉があってですね…
月子 △8八銀不成
ぜいらむさんはパスカルさんが言うところの「考える脚フェチ」ですよね……
(※細かいところですが成ると9七角を打たれると思いました)
ぜいらむ ▲1六角
そうそう「人間は足のことだけ考える奴である」ってやつ。
月子 △3四歩
棋士は結構手に気を使ってますね。
ぜいらむ ▲4四銀
ふーん。そうか!NHK杯戦でTVに映るからだ!…そろそろ月子もマニキュアとか……
月子 △4三桂
お金のかかるものは避けてしまう癖が……
ぜいらむ ▲5四歩
うん、月子のそういうとこ好きよ♡よし、この対局でぜいらむが負けたらマニキュア買ってあげる!ところで、ここで最後の「三択チャンス」「三択チャンス」「三択チャンス」(重要なので3回言った)
月子 
え……ここで? うーん ①6四角 ②同歩 ③投了 です……
ぜいらむ
うーーん、ぜいらむは2が好きなので②同歩で!
月子 △ 5四歩
情けも容赦もないことですよ……
ぜいらむ ▲5二竜
ぜいらむは、月子のニーソがどうしても欲しいんだー、だぁーだぁーだぁー(最後エコーで)



月子  参りました

取っても並べ詰みですね。ありがとうございました。
そんなわけで@Zeiramsさんとの対局が終わりました。わかったこと……①三択チャンスは、厳しいです。初心者への指導にはいいかも。②ぜいらむさん、有段者でしょ。③ぜいらむさん、どSで変態。 
ぜいらむ
ありがとうございましたm(。。)m (一応、挨拶だけはちゃんとする)…えーと、感想戦は?
もっと褒めて!…あと自分の段とか級とか知らないの!(←これは本当)
月子
感想は……ルールが厳しかったですね(泣)序盤から角交換や、終盤では1二金や3四桂も受かりませんでした。居飛車で受けていたらもっと早く終わってた可能性大です……
ぜいらむ
あ、そうか!両取りかけて三択すればよかったのか!あそこだけ真面目に寄せを考えていたぜいらむのバカw
三択はミスした時まで温存する予定だったんだけど、7二玉を保留して7二金の余地を残しながら飛先交換してくる上手すぎる手順を見て気が変わりましたのよ。第2局は三択2回ですか?
月子
二択二回が限度でしょうね……(中の人をこっそり本物のプロに変えるとかしないと……)
ぜいらむ
うーん。ニ択5回か、三択1回ではどうだろう?
月子
二択五回(;゜月゜) まじめに考えるとそれ、飛車先突破とか受かるんでしょうか……「平手でできるちょっとしたハンデ戦」のアイデア、また考えておきます。


というわけで、今回は私がぼろ負けしてしまいました。このルール、相当棋力差がないと成立しませんね。皆様もアレンジしてぜひ使ってみてください。
そしてぜいらむさん、企画へのご協力ありがとうございました!
それでは、機会があればまたお会いしましょう。


登場人物
金本月子(@tsukiko_sann)
ぜいらむ(@Zeirams)
作者(@rakuha)



七割未満 (一)

   七割未満

 

清水らくは

 

 

 朝、気が付くと何かがおかしかった。いつもと空気の感触が異なる気がする。目を開ける。薄暗くて、それでいて生暖かい。外は大雨か何かだろうか……と思って、ようやく思い出した。そういえば、カーテンを買ったのだった。

 一人暮らしを始めて一年。昨日まで我が家にはカーテンがなかった。日の出とともに目が覚め、コーヒーを飲み、散歩して、朝食をとる。その繰り返しだった。それが今日はいつもなら朝食を食べ終わっている時間まで寝てしまった。カーテンの威力は恐ろしい。

 何となくテレビをつける。これも二か月ほど前に買ったものだ。普段はDVDを鑑賞するぐらいにしか使わない。主にロックやクラシックをBGMとしてかける。面倒な時はそれもパソコンで済ます。

 今日はなぜかいつもと違うことをしたいと思った。着替えるため、クローゼットを開ける。非常に大きめの備え付けのものだが、がらんとしている。普段は制服で過ごすことが多い。何となく対局もそうしている。実際には高校はほとんど行っていない。行った方がいいと言われたものの、何も楽しさを見いだせなくなってしまった。何より、行かないことを誰にも咎められない。それでは張り合いがない。

 外の世界には、敵が少なすぎる。

 俺自身は、自分はしょうもない人間だと考えている。たまたま将棋が強かっただけで、本当はみっともない、まだまだいろいろと勉強しないといけない人間だと。でも、将棋が強いことで、将棋をがんばることで、将棋でプロになることで、全てが許されてしまった。だから、将棋だけは手を抜けない。

 しばらく着ていなかったパーカーを身にまとう。なんかこういうのが若者っぽいんじゃないだろうか。昨日届いたばかりの詰将棋の雑誌を鞄に入れる。知らない街の初めてのレストランで、これを読もう。なんとなく、ワックスで髪も固めてみた。自分で言うのもなんだが、俺は結構かっこいいと思う。ただ、そんなこともどうでもいい。顔で名人が取れるわけじゃない。

 家を出る。次の対局のことを考える。三日後、ベテランの先生と。中身のことをあれこれ考えることはしない。先後もわからない中で、予想で一喜一憂しても仕方ない。ただ、負けると勝率七割を切ってしまう。それだけは避けたかった。とびぬけた実績もなく、C級2組で、それでいて一流を目指すには勝率七割が最低条件。それは、自分に課した重たい枷だった。

 十代でデビューした先輩が、苦しむ姿を見ている。気を抜けばすぐにその他大勢だ。正直、そうなるのは怖い。俺にとって、この世界だけが希望なのだ。上を見れなくなったら、ただのつまらない人間になってしまう。

 名人になれるなら、負け越したっていいとすら思う。ただ、今はとにかく、七割勝たねばならない。

 

 

 午後四時の控室。奨励会員が二人、興奮しながら局面を検討している。

 対局はあっさり終わった。終盤に入った途端、相手がぽっきりと折れた、という感じだった。

 七割は守られた。

「どうしたんですか?」

 二人とも先輩だ。僕は丁寧に尋ねた。

「いやこれね、金本さんの将棋なんだけど」

「金本さん……ああ、女の子の」

 最近入会した女性の話は聞いていた。別に女性が将棋をするのはそんなに珍しくはないけれど、何より話題になったのが「誰も知らない子」だったことだ。普通奨励会を受けるような子は何かしらの大会で活躍しているもので、同年代には名前を知られている。しかし金本さんは、全国大会の実績ゼロ、地方の大会にも出場したことがないという話だった。師匠の三東四段はまったく成績の良くないぱっとしない若手だし、いったいどこからそのような逸材が発掘されたのだろう……とゴシップ好きな人たちは随分と話題に挙げていたようだ。

 ただ、実際にはただの奨励会6級。何をそんなに騒ぐことがあろうか、と思う。

「いやあ、それがですよ。女の子どころか若者とも思えない」

「そうなんですか」

「これなんだけど……」

 盤面には、ひねり飛車の局面が出現している。しかも、後手は左の金が出ていく戦法……いわゆる「タコ金戦法」と呼ばれるもののようだ。

「確かに古いですね」

「しかもこの後、金を地道に動かして押さえ込んでいくんだよ」

「へえ」

「で、この戦法選んだ理由が、『名人の手がしっくりきたから』って」

「名人?」

「小川名人」

「はあ……」

 昭和の大名人の名前が出てくるのは、確かにすごい。すごいがおすすめかと言われると悩む。

「まあ将棋もすごいんだけどね。本人が全く強そうじゃないんだよ」

「そうなんですか」

「内気でおどおどしてあんまりしゃべらなくて。勝ちたいとかそういうのも感じられないけど、将棋を始めるとちょっと空気が変わるというか。不思議な感じ」

「へえ」

「でもかわいいですよ。こう、ツインテールで」

 そのあとも先輩の説明は続入けれど、そんなに興味はわかなかった。勝負の世界に入ってきたら、ライバルとして見るに値するかどうか、だろう。かわいい子を見たいならばこの世界の外へと目を向ければいい。高校に行けば女の子はたくさんいる。それでも行きたくないのだから、今の俺は女の子そのものに興味がないのかもしれない。

「あ、じゃあ僕はこれで」

 控室もつまらない時はつまらない。なんというか、気合が乗らない時がある。きょうなどは気になる一局があったのだけれど、あの先輩たちと検討したいとは思えなくなっていた。

 どうせ結果はわかっている。川崎四段の勝ちだろう。

 俺より一学年上。小学生の時から何度も対局してきた。そして、勝てなかった。お互い奨励会に入っても苦手で、ダブルスコアに近かった。それでもなぜか俺の方が先にプロになれた。運が良かったのだと思う。

 でも、彼も追いついてきた。デビューから五連勝。内容も全く隙がない。すでに周囲からは期待のホープと呼ばれている。

 それは、俺のものだった。いや、今でもある程度は俺のものだ。けれども、これだけ勝っても何一つ達成できなかったことは、周囲の評価を少なからず下げている。順位戦昇級ならず、タイトル戦リーグ入りならず、新人戦決勝いけず、早指し戦本選出場ならず。面白いぐらいあと一歩のところで負けている。そして多分、自分より強い三割の人にきっちり負けているのだ。

 急にどうこうなるとは思わない。それでももう一つの目標だけは、譲れないと思っている。

 川崎さんにだけは、負けられない。

 会館から外に出る。このまま家に帰るのは、本当に虚しい。

 

 

「ふーん。不真面目なんだ」

 大阪、将棋会館から少し歩いたところにある喫茶店。昔よく俺はここにきてゲームをしていた。家にいても楽しいことなどない。親はお金だけ渡していれば子供は育つと思っていたし、俺はあんまりお金の使い方を知らなかった。だから、喫茶店で少し高い食事をするのが精いっぱいの贅沢だったのだ。

 そして今、二人分のビーフシチューがテーブルには載っている。

「そうですよ、知りませんでした?」

 頬杖を突きながらけだるそうに話す女性。彼女は俺の姉弟子である、皆川女流二級だ。変な柄の入った赤いシャツに胸元にはネックレス。髪は茶色に染められていて、眉毛も細くきりっと描かれている。昔は爽やかな女の子だったのだが、正直最近もったいないぐらい頑張りすぎている。

「でも高校は出といたほうがいいんじゃないの」

「なんか、そういうことに興味なくなっちゃたんですよね」

「ふーん。じゃあやめるの」

「まだ決められてないんですよねえ」

「煮え切らない子ねー」

 別に迷っているわけではないのだ。決断を悩むほどのことではないと思っているにすぎない。放っておけばそのうち退学処分になるだろう。決断などいらないというわけだ。

「まあ僕のことはいいじゃないですか。それより用事ってなんですか」

「え、あー。うん。なんかこうさ、みんなで集まって将棋する機会とかあればって……最近ないじゃん?」

「研究会ですか」

「まー、簡単に言えば」

 確かに昔は一門で集まって定期的に将棋を指していたけれど、弟弟子がやめたり僕が関東に移ったりで立ち消えになっていた。

「そうですねえ。じゃあその時は皆川さんこっちまで来てくださいね」

「え……なんで私が」

「皆川さん実家じゃないですか。うちならいつでも使えますよ」

「辻村の家で?」

「ほとんど物ないですし広いですよ。六人ぐらいは入れるんじゃないかな」

「そ、そうか。じゃあそれで」

 研究会というのは、実はあまり興味がない。一人でする研究の方が、効率がいい気がする。それに、研究会では一方的に搾取する人がいる。協力する場面では、せめて努力する姿ぐらい全力で表現すればいいのに、と思うものだ。

 とはいえ姉弟子の提案を断る気もなかった。彼女は見た目は派手になってしまったが、内面はとても実直で、俺は確かにお世話になってきた。同時期にプロになり、何となく「同期」としても見ているのは内緒だ。

「じゃあ、よさそうな人いたら声掛けときますね」

「頼んだ」

 断りはしなかったものの、忘れてしまう可能性は大きいと思った。


 思ったよりも早く、その日が来ることになった。

 新年度の順位戦C級二組、三回戦で俺と川崎さんは対戦することになった。

 このリーグは、年に3人しか抜けられない。40人を超える中からたった3人。三段リーグを抜けてきた俊英たちが、毎年何人も取り残されるのだ。

 昇段後驚異的な成績を残してきた川崎さんか、昨年七割の勝率を残した俺か。どちらかが三回戦で負けるのだ。

 他の勝負は、常に均等に対処してきた。実力を出せば七割勝つのは当然だし、三割は負けても仕方ないと思ってきた。けれども川崎さんとの対局だけは、意味付けをして考える。たとえ実力では下回っていても、どうしても勝ちたい。

 ライバルというのは周囲が決めるものだと思う。川崎さんはこれから絶対に活躍する。その人のライバルと呼ばれるためには、勝つことが一番手っ取り早い。

 もう、高校など行っている場合ではないと感じている。そこで過ごす時間を研究に充てている若手に抜かれたら、本当に笑えない。そして今日は、川崎さんの対局がある。観に行かなければならない。

 電車に乗っている間も、将棋のことを考え続けた。最初はそんなに将棋の強い子供じゃなかったと思う。何にしろ努力が好きなタイプじゃないのだ。それでも負けたら悔しくて、それを親に言ったら将棋教室に通わせてくれた。うちの親は、お金で解決することなら大体のことはしてくれたのだ。そして、そこで言われるがままに将棋を指して、詰将棋を解いて、棋譜を並べていったら強くなった。それが普通なんだと思っていた。そしていつの間にか、アマ五段とかになっていた。

 プロになれる、と言われてその気になったのだ。俺にはそれ以外の取り柄がなかったし、早く何かで一人前になりたかった。家にいるのが好きじゃなかったから。

 どこで停滞するでもなくプロになって、そこで初めて大変さというものを知った。強い人というのは、とことん強い。俺が勝てない三割の人たちは、まるで別の次元で戦っているのだ。

 電車を下りて、歩いて。仕事場だけれど、対局がなければ一円ももらえない。将棋会館というのは不思議な場所だ。

 棋士室には誰もいなかった。そういう時間もある。モニターに映っているのは、ベテラン同士の対決だ。最新研究とはかけ離れたクラシックな戦型だけど、こういうのも好きだ。将棋は何かを解明すればいいというわけではない。目の前の相手が力戦好きならば、それに対応しなければいけない。終盤型の棋士には、一気にまくられないように気を付けなければならない。参考にならない将棋などない、と思う。

 そういえば今日は沢崎九段と三東四段の対局もある。沢崎九段はタイトル獲得歴もある偉大な棋士だけれど、最近は負けが込んでいる。他方三東四段はデビューした時から負けが込んでいる。すでに降級点を二つ持っていて、来期はフリークラスに落ちてしまう可能性すらある。まだ若いのに、存在感が全くない。

 そんな三東さんだが、噂の金本さんの師匠なのだ。何となく気になる部分もある。普通の棋士が持っているような、しつこさや粘っこさというのが全く見られないのだ。ある意味それでプロになれたということは、天性の素質があるということかもしれない。

「いやー、まいったまいった」

 大きな声を出しながら、影山六段が入ってきた。四十手前の先生で、豪快な風貌ながら細かい駆け引きを得意とする。

「あら、辻村君」

「お疲れ様です」

「うん。対局終わっちゃったよ」

「先生のがですか?」

「ああ。いやあ、まいった」

 聞かなくても負けたというのはわかる。夕食休憩前に負けるというのは、よほど序盤から上手く指されたのか、途中で一手ばったりがあったのか。

「そういえばね、あの子が記録係やってたよ」

「あの子?」

「金本さん。朝から三東君がしきりに頭下げててね。何でも奨励会入るままで棋譜取りどころか、ストップウォッチ使ったことも、お茶を入れたこともないとかで。幹事とも随分練習したらしいよ」

「そこまで……」

 もうなんというか、将棋用に開発されたロボットじゃないかとすら思えてくる。あまりにも世間と離れていて、しかも女の子で、師匠は目立たない若手で。三東四段は実はマッドサイエンティストなんじゃないだろうか。

「でね、つっこちゃんがね」

「つっこちゃん?」

「月子だから。つっこちゃん、かわいらしいんだよ。ちょっとびくびくしてるけど、まじめそうで。今までいなかったタイプだね」

「ヘー……」

 なんだか、こちらにも興味がわいてきた。年齢も大して変わらない、不思議な女の子。高校に行ってもなかなか出会えるものではない。

 だんだん人も集まり始めた。何となく押し出されるように、部屋を出る。居づらいというのではなく、ふさわしくない空気の時があるのだ。そして今は夕食休憩らしく、対局室を覗いても棋士は見当たらなかった。

「あっ」

 誰かが、俺の足を踏んづけた。そして、かわいらしい声。

「ご、ごめんなさい」

「いや、別に。……つっこちゃん?」

「え、あ、はい」

 背は低くて、体の線は細くて、サラサラの髪はツインテールに結っていて。子リスのように動く様は、とても将棋を指す人だとは思えなかった。そして俺の胸は高鳴っていた。こんなことは初めてだ。

「俺……辻村って言うんだ。四段」

「わ、私金本です。4級です」

 ただ、ぶつかっただけなのだ。もうこれ以上話すことはない。けれども、それで終わらせてはいけないと思った。何かきっかけを、口実を、理由付けを……

「つっこちゃん今度さ、うちの研究会来ない」

 思わずそんなことを言っていた。皆川さんとこの間話しただけで、そんなものまだ開催したこともないのに。

「……え……私、そういうのよくわからなくて……」

「いやまあさ、対局したり検討したり、ご飯食べたりゲームしたりするんだ。皆川さんも参加してるしさ、考えといてよ」

「……はい」

 やった! しかしこれでは社交辞令で終わってしまうかもしれない。

「また詳しいことは連絡するしさ、メアド教えてよ」

「……メアド……は……ないです」

「え、携帯は?」

「……持ってないです」

「じゃあ電話は?」

「一応……。先生が出るかもしれませんが」

「……えっと……まあいいや、じゃあ電話番号教えてよ。またかけるからさ」

 先生が出るかも、というのは気になったけれど、電話番号を交換することには成功した。月子さんにメモを渡し、僕も手帖に番号を書き込む。確かに市外局番からだった。

「じゃあ、今度連絡するね」

「は、はい。よろしくお願いします」

 体が少し軽くなっているような気がした。そのまま玄関を出て、ご飯を食べに行くことにした。これまで選択肢に入れたこともなかったけれど、鰻を食べたくなってきたのである。



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