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第一章 ダニングメッセージ

サロンディテクテイブ【幻の邪馬台国編】 

治は、心臓の痛みに苦しんでいた。
 
仕事を定年退職し、毎日気ままに自分の好きなことをして暮らしてきた。バスで駅に向かう途中突然、胸に刺したような痛みが貫いた。次に気が付くと、治は救急車の中で運ばれていた。
 
胸ポケットの携帯電話を隊員に教え 家に電話をさせる。
 
薄れゆく意識の中で、治は救急隊員に一言ダイイングメッセージを残して亡くなった。 

季節は蒸し暑い梅雨に突入した。僕は、ヘアサロンを構えてもう約5年になる。 

5年も経つと顧客の色々な傾向のようなものも分かってきて、色々な種類のお客様に囲まれ時には元気をもらい、このサロンのある地域の中に 溶け込んできたように思う。 

そんな時だった・・ 

「こんにちは、お久しぶりです」
 久々に来店した、優香ちゃんだった。 

彼女は大学を卒業し、地元の企業に就職していたOPEN当初からの顧客で、まだ学生の頃から色々と就職に対する悩みや色々な事も含め サロンに来る度に様々な思いを吐き出していた。 

僕自身は、そのような身の上話を聞くのは嫌いではなかった。 客商売だからと言うわけではなく、話を聞く行為が僕には全然苦痛にはならないのだ。 

彼女は自分の話もしたが僕の話も色々と聞いたりしてきた。大体が僕の趣味?というか好きな日本史の話題なんかが多かった。 

まあ、他愛もない話だ。 

彼女の来店サイクルは大体2ヶ月に一回。ショートの似合う女の子だ、その彼女が4ヶ月ぶりに、うちのサロンに来た。髪は彼女にしてはすっかりと 伸びてしまっていた。 

「ずいぶん久しぶりじゃん」
 僕は言った。 

「実は色々あって、中々時間がとれなくて・・・」
 優香ちゃんは言った 

「ふーん、そうだったんだ、一体どうしたの?」 

「実は、祖父が亡くなったんです、突然の心筋梗塞で先日49日の法要が終わって少し落ち着いた所なんです・・」 

「そんな事が・・ご愁傷様、なんかうまい言葉がみつからないけど・・」 

「あ、いえ・・そんなつもりで言ったわけではないんです。ただ、祖母がとてもショックを受けてしまって・・」 

「そりゃあそうだよ・・」僕は彼女の髪をカットしながら話を続けた。

「でも祖父は家族には謎めいていたというか、定年退職して自分の部屋に引きこもって色々と古代の調べ物をしてました」 

「そうなんだ?何の歴史を調べていたの?」僕は、鏡に映る彼女の顔を見て聞いた。

「店長さんなら笑わないと思うけど、ズバリ邪馬台国なんです・・」 

「ええ?そうなんだ?多分俺と話が合うね。邪馬台国は教科書では習うけどまだ正確な場所とかは比定されてないんだ、でもなんでそんな難しいものを?」 

「それが分からないんです・・お爺ちゃんは凄い真面目な人で定年までは終わったら寄り道もしないで家に帰るような人でした」 

「うん」 

「それがあるときから何かにとりつかれた様に、部屋にこもって色々と調べ物をしていたんです。祖母が聞いても、うん、ああ、みたいな生返事ばっかりで・・」 

「それが、邪馬台国について調べてたってことなのかな?」 

「たぶんですけど、そうみたいです、一体何を調べていたのか・・そして、事切れる前に、あ、救急車の中で隊員さんに祖父が言ったみたいなんです、後で隊員さんが教えてくれたんです。」 

「それは何て?」 

「はい、一言、宇佐(うさ)って・・」 

「宇佐?それって九州の?」 

「はい」 と優香は言った 

「どういう意味だろう・・・邪馬台国の事を調べていたんだよね?」と、僕は聞いた。 

「そうなんです、まだほんとに何を調べていたのかが、全然わからないんですが・・邪馬台国だとかアマテラスの神話だとか」 

「日本神話か・・つまり宇佐が邪馬台国って意味かな?そしてアマテラスも関係あると?」 

「そうですよね・・個人的に宇佐を調べても全然歴史には疎くて 困ってるんです、ただ」と彼女は言った。

「うん、ただ何?」 

「はい、祖父が何を知ったのか、生前私に言ってました。本当の歴史は資料だけでは解明できないって・・このダイイングメッセージを解明できれば、祖父の供養にもなるかなと・・」彼女は神妙な顔をして話した。

「そうだよね、OK、じゃあこうしよう、お互いに仕事があるから中々難しいけども、ディテクティブって知ってるかい?」 

「なんですか?それ?」 

「探偵推理さ、君のお祖父さんが何を持って、何を根拠に邪馬台国を宇佐にしたのかは分からない。正直、邪馬台国は歴史の研究の中でも特に難しいジャンルだと思う。だから、僕の仕事と君の仕事が終わってから、うちのサロンで邪馬台国の解明作業、いや、サロンディテクティブをして君のお祖父さんのやろうとしてた事を 解明していこうじゃないか。」 

「凄い!それは助かります!祖母もきっと喜ぶし、もし何かが分かれば祖父の供養にもなりますね」 と、優香は笑顔を見せた。 

「OK、じゃあ、君の予定が平気なら今日の夜から早速始めようよ」 

「わかりました店長さん」 

こうして、彼女の祖父が死に際に残したメッセージの答えを僕らは解くことになった。いったい、彼は何を見つけたのだろうか? そして、彼の見つけた古代からのメッセージとは・・。 



その晩、優香ちゃんは
僕のサロンの営業後に改めて顔を出した。 

「お疲れ!じゃあ、早速だけどお祖父さんの調べていた事を調べていこうか」 と僕は言った。

「はい、先生、是非お願いします」と優香は言った。 

「せ、先生はやめてよ」僕は彼女を客待ちの椅子に促して、お茶を出した。 

「ご馳走様です」と彼女は笑った。 

「さて、どこから始めようか・・」 

「私にも何から手をつければいいか全然わからないんですよ」 

「だよね~、取りあえずお祖父さんの残した言葉から整理して、一つ一つ精査してそのパズルを上手く埋めていくしかないわな~」 

「そうですよね・・」 

「取りあえず調べていた事と、言葉を箇条書きに抽出してみよう」 

1、邪馬台国について 
2、宇佐というダイイングメッセージ 
3、アマテラスや日本神話について 
4、本当の歴史は資料だけでは解明できないという言葉 


「こんな所だよね?」と僕は言った。

「そうですね、これでほぼ出てると思います・・」
と優香ちゃんは言った。 

「最後のお祖父さんの宇佐というダイイングメッセージが、最終的な結論に向かう一つのヒントとして、 
その前段階を踏まえた上で考えていくと」 

「はい」 

「4、の本当の歴史は資料だけでは解明できない、という言葉を受け止めると、学校では教えられていない本当の意味での歴史的な考察が必要だと思うんだ」 と僕は言った。 

「教科書に載っていない歴史ですか?」 

「うん、例えば3の神話なんだけど有名な記紀(日本書紀、古事記)・・これらは神代におけるはるか昔の日本の国の起こりから、その後、天上会から地上に降りてきての初代の天皇からその後の各代の天皇の治世についてまとめられたものなのね」 

「ええ」 

「で、実際にこれらが編簿されたのが、後の壬申の乱で・・あ、奈良時代の天武天皇の時に命令によって書かれたものなんだ」 

「そうなんですか・・奈良時代・・ってことは店長さん」 

「うん」 

「確か学校で習った歴史だと、縄文、弥生、古墳時代、そして奈良時代でしたっけ?」 

「うん、そんな感じ、あ、奈良の前に聖徳太子の時代の飛鳥時代というのもあるね飛鳥、奈良時代と一つにまとめてもいいけど個人的には分けたほうがいいかもね。」 

「あ、そうか、そうですよね・・聖徳太子さんがいましたね」 

「日本書紀の完成が720年、これから解明する一つの邪馬台国については女王の卑弥呼が当時の中国の魏という国から親魏倭王という、ようは倭という当時の日本の総称の王と認めるという金印を贈ったと魏の書簡、魏志倭人伝に載っているんだ」 

「魏志倭人伝ですか・・」 

「うん、当時の弥生時代後期の日本を図る資料のようなものは、これしかないんだよね、その後は魏も滅びて中国は戦国時代の小国家分立に入るから、倭国(日本)についての文献はなくなるの。 で、倭人伝によると確か、248年頃に狗奴国(くなこく)との戦いの最中に卑弥呼(ヒミコ)死んで男の王が後継に立てられたんだけど混乱を抑えることができず、壱与(トヨ)という 女王を新たに立てて混乱を収めたって記述があるんだ」 

「じゃあ、その当時は狗奴国と邪馬台国と2つの国が日本にはあったんですか?」 

「中国の理解として代表的なものとしてはそうかもしれないね、あとは小国家がどちらかの支配下に置かれていたという状況かもしれないし、はたまた倭人伝に載ってない大きな国もあったかも知れない。いずれにしてもその後に統一されて後の時代の大和朝廷の基礎には なったと思うんだ」 

「そうなんですか・・」 

「問題はその後の事で、また倭国(わ)の話を宋書という三国をまとめた晋に卑弥呼の後を継いだ壱与(トヨ)が朝貢をしたのを最後に日本の情報はなくなるんだ、晋滅亡後の混沌とした時代を治めた遼、宋という国家が書いた史書にまた倭国の記述が登場するんだ。その年代が5世紀」 

「ということは、邪馬台国の記述が3世紀後半とすると・・」と優香は言った。 

「気がついた?そこにポッカリと空白の100年余りがあるんだ。日本の歴史には・・失われた100年だね。そこを日本書紀で見ればいいじゃないかという意見があると思うんだけど、史実の年代としてほぼ正確なのが応神天皇の治世からではないかと推測はついているんだ」 

「その前の天皇は、正確ではないんですか?」 

「正確ではないというか、いたかも知れないとは思うんだけど、実はアマテラスの子孫が日本を治めると神話により決まっているのね?そうなると、初代の神武天皇は書記によるところを現代の西暦に直すと誕生が紀元前711年2月13日~紀元前585年4月9日で126歳で亡くなった事になる。ちなみに、天皇に即位したのが紀元前660年2月11日にあたるとされていて。これによって2月11日は日本が建国された日として建国記念日になったんだ」 

「そうなんですか!建国記念日の意味がやっとわかった」と優香は目を丸くした。 

「だから、126歳で亡くなるというのも現代においても難しいよね、古代の天皇は100歳以上生きたと言われてる天皇が日本書紀や古事記にけっこういるんだよね」 

「そうか、なら信憑性も薄くなってきてしまうんですね・・」 

「そう、中国よりも歴史が古い事になってしまうんだ、でも一概にがそうとも言えないと思うとこもあるの、文献だけを見たらそうかもしれないけれど、君のお祖父さんのいった言葉(本当の歴史は資料だけでは解明できないという)を考えたら神話としても事実に基づいた伝承でもあるかもしれないしどこかにキーワードがあるやもしれないのよ」 

「じゃあ、神話も含めてこれから色々と検証して行くということですね?」 と優香は言った。

「うん、そうだよね。。君のお爺さんが突き止めた邪馬台国を調べることで、その後の邪馬台国から大和朝廷成立までに起こった日本の一番大事な成り立ちの失われた100年の解明につながるのかもしれないね・・」 

「なんだかすごいワクワクしてきました」 

「俺もだよ・・難しい作業だけどがんばろうよ」 


果たして失われた100年の意味するものは・・古代からのメッセージを僕たちはサロンディテクティブによって時空を超えて旅に出ることになったのだ。 


続く~ 


この本の内容は以上です。


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