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8: おいしいね。友姫子の唾は


 私の車を追いかけてくる外車がバックミラーに見えた。
 毒々しい赤のコルベット、窓には違反ぎりぎりの濃いスモークフィルムが貼ってある。ロングノーズショートデッキのその形に見覚えがあった。
 先ほど私が突っ込んでいった車群の中で、見事とも言える腕前でポルシェを避けた車だ。
 と言うことは私が引き起こした玉突き事故からも逃げおおせた事になる。
言い方を変えれば事故を引き起こした犯人の「目撃者」ということでもある。
 だからと言ってコルベットのドライバーを始末する必要性は感じなかった。
どうせ友姫子の「皮」は使い捨てにするつもりだったし、あの大事故の中でも、何人かのドライバーは生き延びるだろう。その生き残り全員を口封じの為に殺して回るわけには行かない。
 私には大女を救い出す時間があれば充分だった。
 後ろからパッシングを浴びせてくる。
止まれという事か、、馬鹿な奴だ。
 怪我人だらけの事故現場を見捨てて私を追いかけて来るぐらいだから、警察にも事故発生の連絡をしていないのだろう。
 動機は、、自分が犯人を捕まえてやろうという下らないヒロイズム、、あるいは友姫子目当て。
あり得ないことではない。
 私は別に顔を隠して運転していたわけではないから、あの時、トラックやスポーツカーに乗っていたドライバーならポルシェを運転する友姫子の顔ぐらいは見ている筈だ。
 友姫子は不思議な娘だった。
 彼女を見る者総てに、加虐的な欲望を抱かせる何かがあった。
彼女の容貌の美しさは決してひ弱さに宿るものではなく、むしろ挑発的であり、獰猛ですらあるのにだ。
 形の良い小さな頭骨に、大きくて吊り上がった目と肉厚の唇、鼻はほんの少し上を向いていてクールビューティの印象を免れている。
 昔から良く言われる女豹のような顔立ち。その存在の逆鱗に触れることによって自分の内蔵を食い破って貰いたいとさえ思わせる美しさ。
 コルベットは接触する寸前まで車間を詰めたかと思うと、少し離れてはパッシング、又、車間を詰めるというような事を繰り返している。
 「誘い出して殺す」か、、、私は予定を変更して「友姫子」のルールに従う事にした。
その理由は簡単だ。
 先ほどの事故で高ぶってしまった欲望を鎮めたかったからだ。
こんな状態で薬袋の別荘に着いたら、私は初っぱなから血を見たくなるだろう。
 私は迫ってきたコルベットの威嚇に屈服したかのように、緊急路側帯に減速したポルシェを滑り込ませた。
 ポルシェの中で縮こまって震える振りをしながら、私はコルベットから降りてこちらに向かってくる人物を観察していた。
 典型的なヒップホップスタイルの黒人だった。
肌の色が茄子のように黒い。
 しなやかで、かつ強靱そうな筋肉が全身を覆っているのがわかる。
リズミカルな歩き方。彼の身体を見ている内に、比喩ではなく涎が垂れそうになった。
 早く食べてしまいたい。
 黒人が背をかがめてサイドウィンドウからこちらを覗き込んでくる。
何を驚いているのか目を見開いた。
 只でさえ黒い肌の中で、白さが際だっている白目の部分がハレーションを起こす。
 次にウィンドウを、曲げた太い人差し指の関節でコンコンと小突く。
ドアロックを解除しろという事らしい。
 こんな時、本物の友姫子ならどうしたろうと考えながらロックを外してやる。
「信じられないけど、やっぱユキコだーよ。」
 黒人はドアを開けながら調子外れの日本語を、その分厚くて黒い唇から歌うように発音した。
 薬袋友姫子の名前を知っている。
友姫子の知り合いのようだ。
 どういう偶然だか知らないが難しい事になった。
 別にこちらの正体を疑われても構わない。
そうではなくて、食事の前に余分な時間を割かなければならなくなるのが鬱陶しいのだ。
 一気に獲物にかぶり付いても構わないが、それでは死への恐怖や苦痛だけしか味わえない。
 相手を性的に誘惑し興奮の絶頂から一気に、、、そう、そういったプロセスが食事に絶妙の味付けを約束するのだ。


 黒人の大きな手が友姫子の手首をがっちりと捕まえて、その身体をポルシェから引っぱり出す。
骨が砕けてしまいそうな握力だった。
 エスカルゴの殻からその身をせせりだして、、、舌の上に乗せて奥歯ですりつぶす、、。
「うひょー、ホントに友姫子だ。一瞬だったからね。他のギャルなら判んね。友姫子、相変わらず、凄いねやること、過激だーね。」
 手首を掴まえられたまま、空いた方の手で男の腰にこすり付けられるみたいに抱き寄せられる。汗や体臭の入り交じったきつい黒人の香水の匂いに全身が包まれる。
 勃起した長大で極太のペニスの脈動が男のジャージ越しに伝わってきて、空腹感が否応なしに増し、目眩がしそうになった。
「でも変わったね。前はちょっと触ったくらいで、、猫よ。そう猫みたいに引っ掻いた。今、じっとしてる。僕、怖い?」
 黒人の目の奥に狡さの影が走り抜ける。
 お前が大事故を引き起こした張本人なんだ、俺はその目撃者なんだよという圧倒的な自分自身の優位性をちゃんと理解しているのだ。
「こっ、怖くなんかねーよ。第一、黒んぼなんかの知り合いなんていねーぇっ。おまえ、だれ?!」
 私は意識的に黒人の正視から顔を背けるように毒を吐いた。
「友姫子、僕のこと忘れた?悲しいねぇ。僕、トモナリチームから追い出したの友姫子ちゃうかった?」
 私の手首を握っていた黒人の手が放れたが、代わりにそれは私の口をこじ開けるみたいな格好で頬に食い込んで来た。
「アガッガッ!!」
 黒人の顔が近づいてきたかと思うと、無理矢理開けられた私の口から舌を吸い出しはじめる。
 勿論この時点からの反撃は十分に可能だったが、私はそれを我慢した。
「うーーっうげぁ、ひゃめろぅ!」
 黒人は私の舌に飽きると唇を味わい、鼻を味わい、又舌を吸い上げ、己の舌を巻き付けて、一端休憩という感じで顔を離した。
「クロマティだよ。忘れた?おまえらは黒マルコメって呼んでた。僕スキンヘッドだからね。下らないあだ名だ。僕それ大嫌いだった。」
 手が頬から離れて私の乳房の盛り上がりにかかる。
 友姫子はビザールファッションというのか、赤いレザースカートに合わせるように真っ赤なラバー生地のブラジャーに黒いレースのカーディガンという服装だったから、乳房はほとんど無防備と言って良い状態だった。
 友姫子の乳首は蒸れたラバーの下でクロマティの分厚い手のひらを感知するや否や一瞬にして勃起した。
 クロマティは動物的直感でそれを感知し、ラバーごしに人差し指と中指の間で充血した乳首を挟んで弄ぶ。
「くっうう、、」
 友姫子の口から図らずもそんな声が漏れ出る。
「友姫子、何故今日、黒マルコメに会ったか、判る?友姫子のパパ、、僕を呼んだね。僕の今のお仕事、フェイマス・ポルノ・アクター。レイプもオーダーOKね。リベンジ、アンド、ショー、、、」
 私はプロの強姦屋が存在することを思い出した。
こうやって実物を見るのは初めてだったが、薬袋現次郎がクロマティを呼びつけたのは勿論、自分の目の前で江夏由嘉里を辱める為だろう。
 それがあの大女に効き目があるとは思えなかったが、少なくともクロマティが今ここにこうしているという事実は由嘉里がまだ生きているという事を示していた。
「なんで糞親父を持ち出すんだよ。かんけーねーっ!!」
 友姫子がニヤニヤ笑っているクロマティに噛み付こうとする。
 それが自分の演技なのか友姫子の皮に残った思念のせいなのか私には判然としなかった。思念、つまり彼女の身体を動かしてきたデータのことだ。このデータ抜きでは友姫子そっくりの人体スーツは作れない。
 クロマティは友姫子の噛み付きを避けもせず、それに対して軽い頭突きで応戦してきた。
 これには私自身も意表を突かれ、軽い目眩を起こしてしまった。
友姫子は頭を振ってその目眩を追い払うとクロマティを睨み付けた。
「オマエがそんなだから、チームから追い出してやったんだ、この嫌われ者っ!!」
 私は当てずっぽうで、そう叫びながら唾をクロマティの顔に吐きかけてやる。
 自分でも驚くような大量の唾が見事にクロマティの顔の中心部にべたりとかかった。
 乳房を鷲掴みにしていた手が唾のかかった顔に移動するのを見て、この機に私は黒人から逃げ出そうと身体をよじる振りをした。
 勿論、本気ではない。
本気でやれば簡単に逃げだせてしまうからだ。それでは面白くない。
だが結果、クロマティは私の腰に巻き付けていた腕から私の身体を逃してしまう。
 クロマティは辛うじて、逃げ去ろうとする私の手首だけを掴む形になった。
しかしクロマティの片手一本でも、普通の女性ならそこからは絶対に逃れる事は不可能だった筈だ。
 クロマティは自分の手でひっかけられた唾を拭いながら、それを払うのではなく口に持っていった。
 そしてそれを私に見せつけるように舐め上げる。最後は指先に残った唾を啜り上げてみせた。
「おいしいね。友姫子の唾は、、最高だヨ。お返しに僕のも上げるよ。ただし僕のムスコのだけどね。」
 私たちの背後の高速道路では、静けさに満ちた不思議な空間が形成されていた。
午後の抜けるような青空、、その中にあってクロマティと私の欲望は結晶化してしまうのではないかと思えた程だ。
 だがこの静けさも一時のことだ。
後方の大事故はいずれ通報されるか発見されるかして大騒ぎになるだろう。
私にとっての幸運な偶然が重なって発見がおくれているだけの話だ。
 私の位置から見える対向車線に一台でも車が通過すれば、そのドライバーが悲惨きわまりない事故現場の第一発見者となるだろう。
 友姫子の皮はいずれ捨てるつもりだが、屋敷に侵入するまではトラブルには巻き込まれたくない。
 そろそろ急がなればならない。
 クロマティが渾身の力を込めて私をコルベットと高速道路の防音壁の間に引きずっていく。
 私は怪しまれない程度の抵抗を示しながらその後に付いて行った。
「ぽちぽち大人しくだね。言いたくないけど、友姫子、僕に逆らうと刑務所だよ。判ってる?あれはたまたまの事故ちゃうねんよ。僕のガールフレンドになったら一生の秘密ね。さ、どうする。時間がないよ、」
 脅しをかけているクロマティにも時間はないのだ。
 人命救助が第一義とされる高速道路上の事故を無視して、その事故を誘発させた犯人を追いかける人物を、この国は決して許さない。
 それを在日歴の長いクロマティは理解していた。
私はクロマティの身体全体で防音壁に押しつけられ、自由を奪われて口を犯され耳を噛まれ鼻を舌でなぶられた。
 クロマティは舌を器用に使って私の鼻を弄る。鼻の下に舌を差し入れて鼻を持ち上げて、その形を豚鼻のようにしたり、舌の先端を尖らせて鼻の穴に突っ込んでみたり。
 勿論、その間中、私の股間に割り込ませた太股で暴力すれすれの圧力をかけ私の秘部をこすり上げている。
 友姫子の身体が彼女の意志に反して肉欲に溺れていく演技は容易かった。
 なぜならこの頃には、私自身が既にクロマティの「男」に反応し興奮していたからだ。
 友姫子の手はクロマティのペニスを探り当てそれをなぶり始めた。肉筒を掴んでも指でOKのサインが作れないサイズであるのが判った。しかも堅い。
 それを友姫子の合意と見たのかクロマティは両手で私の頭を包み込むと下腹部へと押し下げた。
「さっき言っただろう。今度は僕のミルクを君が飲むよ。それが終わったら二人でここから逃げよう。」
 私は素直にクロマティの股間に自分の口元が来るまでしゃがみ込み、ついでに彼のだぼだぼのパンツを下着ごとズリ下げてやった。
 真っ黒なワインボトルを思わせるようなペニスが腹筋を叩くように垂直に勃起している。
まずホーデンを口に含んでやる。
そして根本から亀頭までを、ゆっくり横から舌で肉筒を回転させるようにシャブリ上げてやった。
 亀頭の先からペニスをくわえ込んでやる段になって困った事が起きた。
 あまりにその直径が大きくて口にはいらないのだ。
勿論、その気になれば私は簡単に顎の骨をはずせる。蛇が自分より数倍大きな得物を丸飲みするのと同じだ。
 随分この方法で男達を死の直前まで楽しませてやったものだが、昼日中にそれをやった友姫子の顔を、もしクロマティが見るような事になれば、さすがの彼の興奮も冷めてしまうだろう。
 しかし今までに何度もこういう目に遭った事があるのか、フェラチオが出来ないと知ったクロマティの反応は素早かった。
 友姫子の頭に添えた両手で、友姫子自身を誘導するようにして二人の身体の位置を、合わさった2本のスプーンのように入れ替え始めたのだ。
フェラが駄目ならファックで、下のお口はもっと大きいだろう?と言うわけだ。
「ルーフに両手を付いて。」
 友姫子はクロマティの意図する体位に気付いてコルベットの天井に両手を付くと、自ら両足を開き気味にして臀部を突き上げてやった。
 クロマティは荒い息を吐きながらレザーミニを力任せに巻き上げ、ピンクのパンストを引き下ろしにかかる。
パンティはTバックだから横にずらせばすむことだ。
 用意が終わった途端にクロマティが背後からのしかかってくる。
 灼熱の肉棒が挿入前の鬼頭キスを楽しんでいる。上の穴も下の穴も十分に濡れている。どちらでもOK。
 ただし私のペニスが変容して形成された女性器はオカマ達の「ペニクリ」という俗語を借りるならば、「ペニヴァギ」とも呼んで良いもので、突っ込む側の快楽をどう保障するのかはまでは判らなかった。
 入ってきた。上?下?驚いた事にそれが、判らない。
 友姫子の皮膚の下で、私の排泄器と生殖器はどのように変貌しているのだろう。もしかしたら入り口は二つでも中は一つになっているのかも知れない。子宮のように内側に凹んだペニスとそれに連結したアナル。
 まあいずれにしても上も下も私にとっては同じ事なのだが。
 私は、少し前にマンションで見た子供用の科学番組を思い出した。
 懐かしいU字型の大きな磁石に向かって砂鉄の粉が磁力線にしたがっって模様を描くシーン。
 あれと同じだ。
私のなかの細胞の一つ一つが、まるで意志ある生き物のようにクロマティのペニスがピストン運動を続ける位置に向かって再配列を起こしている。

 勿論、幻影だ。
そんな事はあり得ない。
私はつむっていた目を開けた。
 目の前にコルベットの窓に貼られたスモークフィルムに映った友姫子の顔が映し出された。
 それは快楽に捩れた表情のようにも見えたし、今にも泣きだそうとするのを必死で堪えているような顔にも見えた。
私はその時、これが友姫子の本当の素顔なのだろうと頭の片隅で考えていた。



 友成が「アジャのケンタ」と呼び捨てにし、彼に対する電話の応対も高圧的だったので、倉庫に現れた男を見て知念は一瞬戸惑った。
 口ひげにアフロという、誠二に劣らぬ、いかれた格好だったが年齢的には知念に近い。聞けばアジャというクラブの雇われマスターらしい。
 友成には後の指示をして、健太と入れ違いに解放してやる。
 今後の友成の相手を、誠二に指名したのは後悔が残ったが、行方不明の友姫子や謎の男の正体を掴む手がかりが急速に増え始めた今、何もかも自分一人でさばくのには無理があった。
「知念さんが言ってるのは巻笛って野郎のことかな、、。」
 健太の声は落ち着いている。
「そいつは、あんたの知り合いなのか?」
 友成と違って、健太の場合には自分に引け目がないから、普通のやりとりが出来るわけだ。
「いや知り合いの知り合いっていうヤツでね。あの野郎、見かけに依らずに喧嘩が強くてね。奴に因縁をふっかけた外人が一発でのされちまって、その手際のよさに一瞬店の中が静まりかえったぐらいで、、。」
「・・まわりくどいな。話が見えん。」
 知念が苛立ったように言う。
 その声には知念自身は意識していないのだが、知らない内にやくざ特有の脅しのニュアンスが混じっていた。
「だから店の中に奴の顔見知りがいたんですよ。巻笛を見つけて声をかけようとしたらしんだが、その直前に奴さんの立ち回りを見てしまってタイミングを外したってことですよ。」
 健太の口調が少し早くなる。健太とてこういった手合いの人間と出会ったのは初めてではない。初めてではないが知念の迫力に押され始めているのだ。
「その顔見知りが、友姫子さんの事を嗅ぎ回っていた男を巻笛とよんだんだな。」
「ねえ、刑事さん。ホントに友姫子ちゃん攫われちゃったのかな。トモナリらのチームはいいんだけど、友姫子ちゃんが店にこないとちょっと辛いな。彼女目当てでうちにやって来る初見さんが結構多いんだよね。すぐに彼女、見つけてくれるんでしょ。なにせ薬袋組の一人娘だし。」
「友成の野郎、、あんたに妙な言い回しをしやがったからな。、、いっとくが俺は刑事じゃない。今あんたが口にした薬袋の者だ。つまり俺はあんたに対して警察には出来ない事も出来るって事だ。あんたにとって良いことも悪いこともな、、。そこんとこを良く考えて喋って欲しいんだよ。その巻笛って野郎のことで他に言い忘れたことはないかな?」
「あー、言ってなかったかなぁ。巻笛君、20代後半ぐらいかなぁ、男でセシルカットってのも言い方変だけどそんな髪型、顔はうーんあれはギャルにはもてないよなぁ。可愛い過ぎて嫉妬対象になっちまう。その代わり体育会系の先輩から手込めにされるって感じよ。ついでに言っとくと巻笛君の顔見知りは完璧ホモだし、巻笛君とも最近寝たっていってたなぁ。」
 その巻笛ってホモ野郎は年齢人相ともタ東郷クシーの運転手の情報と一致する。
「健太さんよ、、残念だが、それぐらいのことは知っているんだ。」
 この時点で健太と知念の力関係は完全に知念に傾いていたが、知念は尚更に圧力をかけた。
「えぅ、、いや待って下さいよ、、そうだ。顔見知り君はこうも言ってたな。巻笛は人が変わったって、それに人間たかが一年であれぐらい強くなれるのかってね。ついでだから下の名前も教えちゃうかなぁ、、涼太。涼しいに太郎の太ね。」
「いいねぇ、よーく、思い出してくれたじゃない。」
 巻笛涼太、大収穫だった。
 と同時に、江夏屋敷に隠れていた男が薬袋友姫子の失踪と関係があるなら、それが示すシナリオはかなり危険なものを暗示していた。
「今はねぇ、情報量で勝負の時代なんすよ。みんなそれに気付いてない。世間話の中にどれだけ金の成る木の種が隠れてるか。」
 健太は、もし自分がまだ刑事を続けているのなら情報屋の一人に付け加えたいような人物だった。ただ口が余りにも軽すぎる。
「ありがとう健太さん、大いに役立ったよ。会長もきっと喜ぶ。ついでにお願いがもう一つあるんだがな、、。」
「へっ、なんなりと。」
「もし梶間っていう刑事が健太さんを訪ねて来るような事があったら、俺のこと黙っててくれる?」
 勿論、知念は健太がその約束を守れる等とはまったく考えていない。
 それは健太に対して、次に吹っかける因縁の為の下準備のようなものだ。こうやって口の軽い男を情報屋に仕立て上げていく。

 健太の肩を親しげにポンポンと叩きながら、知念の頭はすでに、巻笛のデータをどこからどう引っ張り出してくるかという算段と、行方不明になったらしい友姫子と巻笛涼太の結びつきに考えを巡らせる事で一杯になっていた。



8
最終更新日 : 2011-03-12 09:31:11

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