閉じる


韓国にオタク文化はあるか

職場旅行で、観光ソウル行きが決定。

オタク的性格の僕が団体旅行を望むはずもなく、法事理由で速攻に断るつもりだった。

念のため内容を聞くと、2泊3日のほとんどが自由行動だった。

 

自由。

 

ああ、なんという素晴らしい言葉。

これを獲得するために、一体何人の努力と犠牲があったことか。

 

 

僕は韓国に一度行ったことがあるが、その時から数年以上の時を経ている。

当時は僕が希望するもの=オタク的要素が皆無な国だったが、最近の発展をみればきっと著しい変化があったと予想できる。

韓流スターは定着し、大量のドラマDVDも発売されている。

KARAや少女時代の出現で、男性陣もヒートアップ。

ネットで調べたところ、韓国のアキバもあるらしい。

 

アキバ。

ああ、オタクの聖地。

 

ここで、僕に疑問が生じた。

韓国オタクグッズとはいかなるものか?

まだ見ぬキャラクター。映画。漫画。ゲーム。

あれだけ観流が入ってきても、僕のツボ的作品は極めて少ない。

いや、一般ウケしないだけで、現地には無数の低級が蔓延っているかもしれない。

これは、行ってみる価値ありそうだ。

 

その反面、不安もある。

職場では、オタク気質を封印してきた自分。

動くのであれば、完全に一人で動かなければならない。

できるのか?

超がつくほど小心者の僕だ。一抹の不安がよぎる。

前回の訪韓では、同行者がいた。今回は、いない。

会社の者には分らぬよう、闇に紛れて行動しなければならない。

 

 

韓国は何語だ?ハングル語?全然知らんぞ。

極めてリスキーな選択。

思えば、海外に行く度にオタク的店めぐりをしてきた。

香港のゴールデンタワー。

サンタモニカ、ラスベガス、フロリダ、ロサンゼルスの玩具屋めぐり。

台湾の光華商場。

自分で探し当てたわけじゃない。

本やネットで調べ、その記事に基づいての旅。

先駆者の足取りを、ただ追ったにすぎない。

それでも、これらの経験は、心の勲章となって君臨している。

 

自分で開拓できるほど、僕は積極的ではない。

なにしろ、僕は日本においてさえ、新しい店に入るのが苦手なほど気が小さい。

ひょっとすると、満足に店に入ることもできないかもしれない。

しかし……。

まだ見ぬ韓国ホラー映画があるかもしれない。

まだ見ぬ格闘映画があるかもしれない。

伝奇アートやPCゲーム。漫画。

数年前に買ったゲーム雑誌には、まさしくツボ的怪奇ゲームの記事が掲載されていた。

いまや、市場は熟成期に入っているかも……。

むうう。

これは、行くしかない。

小心者よ、再び韓国を目指せ。

天竺を目指した三蔵法師のように、僕の心は遥かなる目的地を夢見ていた。

目指すは韓国の秋葉、龍山(ヨンサン)。

 

 


機内食の思い出

今回搭乗するのは、韓国系航空会社。

前回も同じだったので、二度目の利用となる。

実は、その時の機内食体験が軽いトラウマとなって残っている。

当時のメニューに、かなりの量のキムチが含まれていた。

ここ数年、僕はキムチに興味を持ち、原材料を確認して食べるようになった。

(沖アミ、塩辛、カキ等が入っているとコクがある)

しかし、最初の韓国訪問では全くの素人状態。

機内食で出たキムチの美味さが、僕を虜にした。

尋常でない量が供されたのも問題だが、それを平気で平らげてしまった。

それどころか、残したツレの分までもらった。これが、後にトンデモない事態を引き起こすとも知らず。

賤しさ全開、サイクロン。

僕の失敗は、いつもここから。

 

空港到着後、免税店にて買い物というオタクには全く興味ない行程をこなし、梨泰院にあるホテルにチェックイン。

この時、日はすっかり暮れている。

あまりに暗いホテル周辺。街灯もないよね~。

海外とは、つねに危険に満ちたところ。

稀代の小心者である僕は、当時はとても周囲の探索には踏みきれなかった。

闇は、犯罪の巣窟と化す。

特に危険のエリアではなかったが、用心を重ねるにこしたことはない。

とりあえず、日の出を待って動くのが得策と判断した。

実は、この決断がマズかった。

 

とりあえず、就寝。

しかし、その2時間後、体内の異変が僕を目覚めさせた。

猛烈な空腹感。まるで胃を絞られているよう。

例えるなら、エア・ストマック・クロー状態。

嘔吐感も伴い、僕は酸っぱい胃液を吐き出す。

喉が、焼けるようだ。当然、水が欲しくなる。

しかし、安ホテルの冷蔵庫には何も入っていなかった。

館内に自販機も売店もなかったはず。

かといって、水道の水には抵抗がある。

腹を下すのは嫌だ。

 

 

 

未知の苦痛が、僕を襲う。

それは、胃液を吐いたぐらいでは、到底治まらないものだった。

フロントに連絡しても、多分言葉が通じないだろう。

それに、何と説明すれば良いのか。キムチの食べ過ぎ?

韓国人の呆れ顔が目に浮かぶ。

そうだ。僕は韓国に来てまで、恥をさらすわけにはいかない。

苦痛よりプライドが勝った。

よし、死ぬなよ、自分。とりあえず、朝までの辛抱だ。

 

むうっ。

ぎっ。

ぐぇっ。

ごほっ。

うげえ。

 

数時間、耐えた。

その間、眠れず。

苦痛との激闘は続く。

韓国の空が、白くなった。

朝だ。朝がやってきたのだ。

それと共に、苦痛はようやく沈静の兆しを見せ始めた。

まさか、韓国の夜明けをみることになろうとは。

そして、ある映画の場面が思い起こされた。

壮絶なる死霊との闘いの一夜。

その夜明けシーンは、まさにこの状況にピッタリだ。

『死霊のはらわた』。

僕は、ブルース・キャンベル演じるアッシュと同様の経験をしたのだ。

もっとも、こちらは死霊ならぬキムチだったが……。

 

と、そのような過去があって、今回の機内食にも相応の心構えで臨んだ。

レッスン1。キムチを食べすぎるな。

それを無視した時、僕にはまた死霊の一夜が訪れる。

知は、最大の防御なり。

得意顔で機内食をオープン。

あれっ。

 

 

そこに、あの毒々しいレッドの食品が見当たらない。

甘い味つけの、牛肉ちゃんが鎮座しているだけだ。

まさか、僕と同じ発病者が多発して、廃止になったのか?

それとも、単なる匂いの問題か?

はたまた、フライトが昼便だからか?

様々な理由を考えるが、真相は定かではない。

ただ、これだけは言える。

これならば、僕の元に死霊は訪れまい。

あの時、死霊(=キムチ)との闘いは、終わったのだ。

 

 

 


団体旅行の1日

ソウル・金浦空港到着。

トイレ、両替を済ませ、ゲートを出ると皆がカメラを持って待ち構えている。

ガイドさんに尋ねると、上野樹里さんが出てくるらしい。

むうん、大河ドラマ真っ只中の女優に会えるとは、何たる強運。

この旅行、さい先良かね。

 

 

上野効果でテンション上った一向は、バスで市内へ移動。

ガイドさんの口から梨泰院の地名が告げられ、そこで昼食を摂るらしい。

梨泰院(イテウォン)。

前回、宿泊したホテルがある地域。

そうだ、僕が死霊(=キムチ)に苦しんだホテルがそこにある。

 

 

一人緊張の面持ちで、到着を待つ僕。

バスは件のホテルを少し通りすぎたところで、停まった。

近い。あまりに近すぎる。

僕の想いを余所に、一向はホテル地下のレストランへ入店していった。

席に着くと、そこには数種類のキムチが既に並んでいる。

キムチはどれも味が良く、箸が進む。

しかし、僕は知っている。決して暴食してはならない。

見ると、同僚が調子に乗ってキムチを大量に食べている。僕は蔭でほくそ笑む。

君は今、死霊復活の呪文を唱えつつあるぞ、と。

 

メインの料理は、カルビタンだった。

肉、ゴロゴロ。柔らかな噛み応え。

そして、あっさりながらも味が滲みこんだスープ。

澄んだ奥に、ほのかなコク。

これにご飯・キムチを交互に食べる。

団体メニューなれど、かなり満足だった。

 

 

 

 

満腹の皆を乗せたバスは、今度はロッテ免税店へ立ち寄り。

何と、買い物時間は1時間もある。

ブランド物に興味のない僕にとっては、苦痛の時間だった。

しかし、ここの免税店はデパートの高層階にある。

つまり、下に行けば、普通のデパートになっている。

僕は、一気に地下へ移動。

そう、デパ地下は食べ物の宝庫。

早速、韓国食事情の調査を開始した。

 

結果は、日本と同じような作りで、値段も同様。ただし、円高な分、安く感じられる。

高価なものは、アワビ・蟹の盛り合わせセット(約15,000円程度)や牛肉の詰め合わせ。

ケーキ300円~500円程度。

握り寿司(20貫。ネタはタイが中心)800円程度。

日本酒・久保田 千壽約3000円。

土曜の午後は、なかなかの混雑。

こういうの買って、ホテルの部屋で食べるのも一興かと。

デパ地下探索にそれなりの手応えを感じ、あっという間に集合時間となった。

 

夕食は、社員皆さん合同で。

韓国宮廷料理をスタイリッシュにアレンジした店が選ばれた。

何とも独創的な料理で、どちらかといえばフレンチに近いかも。

しっかり印象に残り、皆も満足の様子だった。

 

その日は、ホテルに戻り、MTV見ながら就寝。

とり憑かれたかのように眺める僕。

同僚は、三次会へ出掛けている。

腹が一杯で、とても飲み直す気にはならなかった。

異国の地で見るMTVは、なかなかオツなものだ。

そして、明日はいよいよ龍山だ。

 

 

 


いざ龍山

2日目の目覚め。

睡眠たっぷり、気分爽快ゼーッットと水木の兄貴真似も飛び出すくらいの朝を迎える。

天気予報では、本日雪。

鉛色の空ながらも薄日が射し、降るのは夕方か。

朝食も早々に済ませ、我ホテルを出発す。

 

 

宿泊先コリアナホテルから歩いて3分程度で地下鉄駅入り口を発見。

切符売場で多少の戸惑いを見せつつも、無事乗車に漕ぎつける。

地下鉄乗ってしまえば乗り換え無しの数駅で龍山駅だ。

 

 

車内は、まばらで空いていた。

端に座っていると、突然オジさんがデカい声で喚きだす。

出たよ。どこにでもいるんだな、この手のオッサン。

危害があるとマズいので、僕も格闘家モード(餓狼伝風)に気分切り替え。ぬうっ。

いつでも、獣性を引き出せるようにしておけ。

 

オッサン、かなりの大声だが、その表情は笑っている。

 

むう、楽しいか。

 

しっかり観察したところ、オッサンは乗客に靴のクリームを販売したいらしい。

皮靴を放り投げ、ジェスチャーしてみせる。

宙を舞った皮靴は、電車の床に音を立てて落ちた。

どうやら、ちょっとやそっとの衝撃なら、このクリーム塗っておけば防げるというアピールらしい。

僕と目が合いそうになったが、咄嗟にその視線を外した。

むう。話かけるなよ、オッサン。

 

一通りの説明終わり。誰も買わんよと思っていると、何と購入者が出現。

こちらもまた、中年のオジサンだった。

そんな得体の知れないモノ買っちゃって。

ちょっと蔑んだ目で見てしまう僕。

ところが、おじさんは満面の笑み。

 

 

これは掘り出し物だ!

 

そんな内なる声が滲み出てきている。

需要と供給。これが商売の基本。

彼らは、その基本に忠実であっただけ。

むう、いつの間にか荒んでいる自分。

突然の車内販売に、人生を考えさせられてしまった。

 

結局、餓狼モードも意味なく、列車は龍山駅に到着。

改札を出ると、予想外に広い駅構内。

見まわすと、出口が幾つもある。

事前のネット調べでは、その情報は皆無だった。

とりあえず、近くの出口から外へ出る。

 

 

駅の出口は、建物2階になっているようで、Iパークモールというショッピングモールとも直結している。

一見しただけでは構造が理解できず、何度か同じところを行ったり来たり。

もっと簡単に電気街が見つかると思っていたので、これには焦った。

ただ、Iパークモールにレストラン街があること、メガブックスという本屋があること、ガンダムの存在を知らしめる店の広告があることを発見。施設も綺麗で、いざという時の避難トイレも確保できそうだった。

頼もしいぞ、Iパーク・モール。

幸いなことに、雪もまだ降っていない。

天は、僕に味方したらしい。

 

 


龍山を歩く

結局、駅の構内およびIパークモールの往復を20分くらい繰り返した。

建物に囲まれて、視界が開けていないのが原因だった。

ちょっと寂れた方向へ歩き、ようやく電気街らしき建物を発見する。

見れば、空中通路のようなものが伸びていて、これがターミナル電子商街に直結しているのだった。

うぉお、まもなくだぜぃ。

日本の秋葉に行くのと同じ格好の僕は、背中のリュックを担ぎ直し、通路を早足で歩いた。

 

 

 

 

 

まずは最遠の電子ランドへと向かう。

そこから駅方向に戻ってくれば、効率良いと思ったからだ。

まだ雪が片隅に残る道を、ひたすら歩く。

駐車場っぽい道や、薄汚れた犬2匹がほぼ放し飼いになっている敷地など、緊張感には事欠かない。

そして到着した電子ランド。

 

 

 

 

 

 

 

事前情報では、大型CDショップやゲーム機、映画館まであるという。

しかし、そんな大型店舗にも関わらず、なんか寂れた雰囲気。

鉛色の空も相まって、冬のリビエラって感じ。

ひょっとして、営業していないのかと思いきや、ドアは開いている。

時刻は11:10。う~ん。実は、帰国してから、隔週日曜定休の店が多いことを知る。

とりあえず中に入るものの、客の姿がほとんどない。

これだけの巨大店舗のくせに?

店員も暇そうにしている。しかし、僕に声を掛けてくる店員は、ほとんどいない。

とりあえず、店内の案内もなく、何がどこに売っているかも分からない。

手当たり次第に、回ることにした。

2、3階は家電やパソコン等。

各売り場がショーケースのあるブースのようになっており、その中に店員がいる。

見ようとすると、店員に限りなく接近することになる。

僕は、買わないのに店員と話すのが嫌なので、通り過ぎる僅かの間に展示物をチェックする。

これらのフロアに、オタク物発見できず。

 

4階に移動し、CDショップ発見。

正規品を扱う店のようだ。K-POP、洋楽、ハリウッド製映画のDVDが売られている。

店の規模は、日本の百貨店に入っているCD屋といった感じ。

韓国オリジナルの映画は、見当たらず。

セールで洋楽北欧ヘビィ・メタルのCDが4900ウォン(400円程度)だった。

あまりメジャーでないアーチスト数組。

この後、モデルガン、ゲーム、映画館を発見も特徴見い出せず。

僕は、移動を決意した。

 

電子ランドを後にした僕は、北の元暁電子商街の前まで行き、どう考えてもオタク物は無かろうという外見にあっさり探索を諦め、東へと移動した。

道路の両側に小さな電器店が点在しているが、どこも営業しているのか、いないのか、分からないくらい活気がない。

日曜の昼なのにこれか?

ああ、秋葉原の賑わいが恋しい。何よりも、適度の人ごみは必要なのね。

 

不安感にさいなまれながら、電子街では東端にあたるソニンプラザに到着。

このあたりは、露店が立ち並び、活気づいている。

おお、これだよ。この雰囲気だよ。

待ち焦がれていた街の顔。

食べ物を売っている店もある。秋葉原なら、ドネルケバブといったところか。

 

そして、数多くあるDVD屋。

ジャケットのみアルバムに入れられており、客はそこから気に入った映画を店員に言うらしい。

正規品でない確率、かなり高いです。買ってないから分かりませんが。

ちなみに、料金等の表示がないので、ハングル語できない僕には値段を確かめる勇気がなかった。

聞いたら最後、僕は確実に商品を買ってしまっただろう。

それも、日本で手に入るハリウッド映画作品を。

 

露店を一通り冷やかし、ソニンプラザの中へ。

小さな店が所狭しと軒を連ねていますが、営業していない店も多い。

2階以上は、完全休業状態。

シャッターの閉まった店舗が並び、不気味な空間と化していた。

スティーブン・セーガル風にいえば、『沈黙の店舗』。

 

 

 

 

 



読者登録

奇怪伯爵さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について