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 翌朝、村の人々の異変に気づいた。
 3人以外はおよそ正常とは思えなかった。

 虚ろな目でこちらを見ている。生気のない顔。
 近づくと恐いので、遠くら話しかけてみる。だが、住民は興味深そうにゆっくり近づいてくるだけである。特に何をしてくるわけではないが、近づくのは不気味である。

 しかし、あっという間に3人は全ての村人に囲まれていた。

「あっち行けって」
 浩平がずっとわめいているが一向に事態は好転しない。暴力に訴える手段もあるにはあるが、危害を加えてこない以上、避けるぐらいしかできなかった。
 我慢できずに唯人もついに漏らした。
「あー、もう、どいてって」
 次の瞬間を、3人は予想していなかった。

 不思議なことに唯人の周辺だけは、村人がどよどよと離れたのである。
「ずりい、なんで?」
「さあ?」
「唯人とりあえずこっちも、どかして」
 SAYURIの合図で、3人は村人達の群れから離れた。

 遠くからみると全員なんとなく、顔に紫色を帯びている。
「追いかけて来ないでね。ね」
 唯人が言い聞かせながら、3人は村をあとにした。

 山道を歩きながらSAYURIが仮説を立てた。
 昨夜の薄紫色のガスをすうと、紫色の顔になり、人間の機能が低下する。知能が特に低下し、ガスを吸っていない者に群がる。何故か唯人の言う事は聞く。というものだった。
「髪が赤紫だからかな?」浩平の意見である。
 多少、意見を出し合ったが、さして新発見はなかった。さきほどの気持ち悪さを語り合いながら、3人は港を発見した。
 山間から港を発見したが、不用意に近づかないようにした。港なら人は多い。3人の注意力は観察に費やされた。すでにただのキャンプではなく、彼らのそれぞれの日常に近づいていた。だが、3人はお互いにその姿を見せたことはまだなかった。
「あれは!?」浩平が唸った。
 あとの二人が浩平の観察ポイントへ駆け寄った。双眼鏡を覗き込むと、港の埠頭がよく見えた。
 列になっている人々と…戦艦!

 人々はやはり顔色が悪く、どうやら軍服の人間に誘導されている。べつに髪が赤いわけではない。3人はレンズ越しに目を凝らした。

「そうか!」SAYURIは叫んだ。
「声でかっ」浩平がつぶやく。
「あー、うるさい。今、大事なとこなんだよ!」SAYURIは浩平を叱った。
「で。答えは?」唯人は痴話げんかにならないうちに割り込んだ。浩平はちょっぴり照れている。
「それよ」SAYURIは唯人の胸を指差した。


 唯人の胸には、名札が付けられていた。

 ようやく納得がいった。あの薄紫のガスは知性を奪う悪魔のガスである。人の顔の分別もつかないほどに脳機能が低下した結果、ガスを吸っていない人間に興味を示し、それ以上に名札のある人間に服従する。
 結論から言えば、どこかの国か組織が人々を奴隷化しようとしていたのだ。昨夜のガスはその準備といえる。
 その悪意に、卑怯さに、唯人は腹が立った。
 浩平も怒っていたが、それ以上に、唯人の変化に興味を示した。
 SAYURIも心配そうな顔をしていた。
 唯人の心は怒りでいっぱいになった。






 怒りに震えた唯人の顔が紅潮していく。徐々に首筋や腕も紅くなっていく。腹のあたりで何か光ったかと思うと、額の毛の生え際から牙のようなものがメキメキと音を立てて生えてくる。
 角だ。
 唯人は瞬間的な光に包まれた。光の落ち着いた後には2メートルほどの巨人が立っていた。
 しなやかで充分に膨らんだ筋肉をもつ、例えるなら・・・赤鬼というしかなかった。


10

「唯人!」浩平が声をあげる。
「これが、唯人?」
 SAYURIは初めて見るその変異に興味を示した。
『すまねえ。サポート頼む』
 赤鬼、唯人はいつもよりはるかに低い声と、よく響く高音を同時に放った。
「いいよ。攻撃位置をナビゲートする」
 SAYURIはあっさりと状況に順応した。
「んじゃあ、俺はドア全部開けてくるわ」
 浩平は、当然と言った顔で引き受けた。
 浩平はなんとなくうれしかった。このメンバーで作戦が展開できるとは夢のようだ。

 特殊工作員、森野浩平。彼は様々な時空で生きていた。
 旅行者、SAYURI。時間と空間を偵察する発明者。
 赤紫の髪、風間唯人。赤鬼に変化するヒーロー。
 浩平にとっての、お楽しみの時間がやってきた。
 SAYURIは赤鬼と浩平にサングラスのようなバイザーをさっと投げた。受け取りざま、装着する浩平。サイズ合わせのため赤鬼のほうが一秒ほど時間がかかった。SAYURIも同様のバイザーを着けている。

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