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 電車の中で夜明けを迎えた三人は、少し眠気を帯びながら、予定地へ向かった。駅からバスで1時間。さらに歩いて1時間という、おおよそ観光には向かない 土地だった。三人とも体力がありすぎるのか、その道のりにあまり不服を言わなかった。ちなみにこの段取りを組んだのはSAYURIである。
 名前もよくわからない村だったが、現地の人は親切だった。彼らは2泊程度の客人に家一軒を貸してくれた。

 若い人のキャンプといえば、家事ができないというトラブルがよくあるが、なんとそんな困難には至らなかった。
 ボーイスカウトのごとく、3人の自炊の手際は一級の腕だったのだ。それもそうだろう。さすがそれぞれに冒険をしているだけのことはある。


「そういやさ。唯人、シャツに名札ついてない?」
 浩平が皿を片付けながら言った。唯人が自分のシャツをよく確かめる。
「ああ。親父がサ。知らない所に行くなら便利だゾって」
「そうかもな。名前なんてなかなか覚えてもらえないもなあ」
「あんたはキャラクターが薄いの」SAYURIは浩平によく突っ込む。
「なあんだよそれ」
「充分、俺とかぶってると思うけど」唯人は自分が浩平と似ていると自分では思っている。
「唯人は髪が赤いでしょ」SAYURIは二人が似ているとは思っていないらしい。
「また、見た目だよ」浩平が漏らす。

 
 夜はすぐに訪れた。


 街の灯かりがない分。星がよく見えた。深夜、唯人が屋根の上で涼んでいた。誰にも邪魔されない。
 今ごろ、あとの二人はお互いを気にしながら、寝付けずに 朝までどぎまぎしているんだろう。と勝手に想像した。大概のことは器用なのに、二人ともそういうことには不器用だったからである。

 物音がした。

「唯人。唯人」
 声をひそめて浩平が登ってきた。よく見ると、防毒マスクを持ってきている。
 無理やりマスクをはめられつつ、浩平の注意がどこにあるのかを尋ねた。
「あれだよ」
 目を凝らし見渡すと、森林の土や、水路に沿ったり、低いところを薄紫色のガスが這っている。
「薄紫色…か?」
「ああ。ムラサキだ」
「やばいの?」
「たぶんな。明日は忙しくなるからその装備で寝てねってさ」
「お気遣いありがとうございますだな」
「よし、寝るぞ」屋根を降りる二人の少年はさながら特殊部隊のようだった。

 防毒マスクをつけて眠る少年たち。
 紫色の夜は更けていった。

 翌朝、村の人々の異変に気づいた。
 3人以外はおよそ正常とは思えなかった。

 虚ろな目でこちらを見ている。生気のない顔。
 近づくと恐いので、遠くら話しかけてみる。だが、住民は興味深そうにゆっくり近づいてくるだけである。特に何をしてくるわけではないが、近づくのは不気味である。

 しかし、あっという間に3人は全ての村人に囲まれていた。

「あっち行けって」
 浩平がずっとわめいているが一向に事態は好転しない。暴力に訴える手段もあるにはあるが、危害を加えてこない以上、避けるぐらいしかできなかった。
 我慢できずに唯人もついに漏らした。
「あー、もう、どいてって」
 次の瞬間を、3人は予想していなかった。

 不思議なことに唯人の周辺だけは、村人がどよどよと離れたのである。
「ずりい、なんで?」
「さあ?」
「唯人とりあえずこっちも、どかして」
 SAYURIの合図で、3人は村人達の群れから離れた。

 遠くからみると全員なんとなく、顔に紫色を帯びている。
「追いかけて来ないでね。ね」
 唯人が言い聞かせながら、3人は村をあとにした。

 山道を歩きながらSAYURIが仮説を立てた。
 昨夜の薄紫色のガスをすうと、紫色の顔になり、人間の機能が低下する。知能が特に低下し、ガスを吸っていない者に群がる。何故か唯人の言う事は聞く。というものだった。
「髪が赤紫だからかな?」浩平の意見である。
 多少、意見を出し合ったが、さして新発見はなかった。さきほどの気持ち悪さを語り合いながら、3人は港を発見した。
 山間から港を発見したが、不用意に近づかないようにした。港なら人は多い。3人の注意力は観察に費やされた。すでにただのキャンプではなく、彼らのそれぞれの日常に近づいていた。だが、3人はお互いにその姿を見せたことはまだなかった。
「あれは!?」浩平が唸った。
 あとの二人が浩平の観察ポイントへ駆け寄った。双眼鏡を覗き込むと、港の埠頭がよく見えた。
 列になっている人々と…戦艦!

 人々はやはり顔色が悪く、どうやら軍服の人間に誘導されている。べつに髪が赤いわけではない。3人はレンズ越しに目を凝らした。

「そうか!」SAYURIは叫んだ。
「声でかっ」浩平がつぶやく。
「あー、うるさい。今、大事なとこなんだよ!」SAYURIは浩平を叱った。
「で。答えは?」唯人は痴話げんかにならないうちに割り込んだ。浩平はちょっぴり照れている。
「それよ」SAYURIは唯人の胸を指差した。



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