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 早朝。まだ、日の出ない時間。深夜と言えなくもない。吐く息は白いが、季節はよく分からなかった。
 特急に乗るために、とある地方都市のターミナル駅前に1人の高校生が少ない荷物で現れた。
 彼の赤紫の髪が軽くなびいた。
 栗栄東高校に通う男子、風間唯人。今日は、ある意味同志ともいえる仲間とはじめてのキャンプに向かうのだった。
 ほどなく、髪の長い少女が現れた。よく見ると、大きな荷物を持たされた少年が続いている。
 SAYURIと森野浩平。
 出身も素性も、お互いよく知らない3人だったが、何か似た匂いを感じ、仲間だと意識している。
「お待たせ!」重そうなリュックを背負った浩平が第一声をあげる。
「はい、しっかり持つ。早いね、唯人」SAYURIは手ぶらで近づいてきた。
「俺もなんか持とうか?」唯人は浩平の荷物を指差した。
「お構いなく」
「これ、罰ゲームなんだよ」
「じゃあ、しょがないかあ」
「うわ、諦めるの早っ」
 なんだかんだ言いながら、唯人はある程度の荷を受け持った。
 目的地は深い山村だった。

 電車の中で夜明けを迎えた三人は、少し眠気を帯びながら、予定地へ向かった。駅からバスで1時間。さらに歩いて1時間という、おおよそ観光には向かない 土地だった。三人とも体力がありすぎるのか、その道のりにあまり不服を言わなかった。ちなみにこの段取りを組んだのはSAYURIである。
 名前もよくわからない村だったが、現地の人は親切だった。彼らは2泊程度の客人に家一軒を貸してくれた。

 若い人のキャンプといえば、家事ができないというトラブルがよくあるが、なんとそんな困難には至らなかった。
 ボーイスカウトのごとく、3人の自炊の手際は一級の腕だったのだ。それもそうだろう。さすがそれぞれに冒険をしているだけのことはある。


「そういやさ。唯人、シャツに名札ついてない?」
 浩平が皿を片付けながら言った。唯人が自分のシャツをよく確かめる。
「ああ。親父がサ。知らない所に行くなら便利だゾって」
「そうかもな。名前なんてなかなか覚えてもらえないもなあ」
「あんたはキャラクターが薄いの」SAYURIは浩平によく突っ込む。
「なあんだよそれ」
「充分、俺とかぶってると思うけど」唯人は自分が浩平と似ていると自分では思っている。
「唯人は髪が赤いでしょ」SAYURIは二人が似ているとは思っていないらしい。
「また、見た目だよ」浩平が漏らす。

 
 夜はすぐに訪れた。


 街の灯かりがない分。星がよく見えた。深夜、唯人が屋根の上で涼んでいた。誰にも邪魔されない。
 今ごろ、あとの二人はお互いを気にしながら、寝付けずに 朝までどぎまぎしているんだろう。と勝手に想像した。大概のことは器用なのに、二人ともそういうことには不器用だったからである。

 物音がした。

「唯人。唯人」
 声をひそめて浩平が登ってきた。よく見ると、防毒マスクを持ってきている。
 無理やりマスクをはめられつつ、浩平の注意がどこにあるのかを尋ねた。
「あれだよ」
 目を凝らし見渡すと、森林の土や、水路に沿ったり、低いところを薄紫色のガスが這っている。
「薄紫色…か?」
「ああ。ムラサキだ」
「やばいの?」
「たぶんな。明日は忙しくなるからその装備で寝てねってさ」
「お気遣いありがとうございますだな」
「よし、寝るぞ」屋根を降りる二人の少年はさながら特殊部隊のようだった。

 防毒マスクをつけて眠る少年たち。
 紫色の夜は更けていった。

 翌朝、村の人々の異変に気づいた。
 3人以外はおよそ正常とは思えなかった。

 虚ろな目でこちらを見ている。生気のない顔。
 近づくと恐いので、遠くら話しかけてみる。だが、住民は興味深そうにゆっくり近づいてくるだけである。特に何をしてくるわけではないが、近づくのは不気味である。

 しかし、あっという間に3人は全ての村人に囲まれていた。

「あっち行けって」
 浩平がずっとわめいているが一向に事態は好転しない。暴力に訴える手段もあるにはあるが、危害を加えてこない以上、避けるぐらいしかできなかった。
 我慢できずに唯人もついに漏らした。
「あー、もう、どいてって」
 次の瞬間を、3人は予想していなかった。

 不思議なことに唯人の周辺だけは、村人がどよどよと離れたのである。
「ずりい、なんで?」
「さあ?」
「唯人とりあえずこっちも、どかして」
 SAYURIの合図で、3人は村人達の群れから離れた。

 遠くからみると全員なんとなく、顔に紫色を帯びている。
「追いかけて来ないでね。ね」
 唯人が言い聞かせながら、3人は村をあとにした。


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