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そのころの〈ちよだ〉

「今頃シファたち楽しくやっているだろうなあ」
 シファ機付長の沖島がつぶやく。
「ああ」
 主計科で〈ちよだ〉の司厨士をやっている矢竹がビンゴマシンを動かす。
「はい、二十五番」
「リーチ!」
 艦内のクリスマスパーティーはビンゴゲームまで進んでいた。
「しかし……イヴにこうして恋人のいない職場の連中で集まって、ビンゴゲームか……。俺の人生二十六年目のクリスマス、しょっぱすぎるよ」
 矢竹が慨嘆する。
「おれもな」
 沖島も継ぐ。
「沖島さん、なんですか」
 天霧が声を上げる。
「なんでもない」
「私、こういうの好きですよ。いつも病院の院内学級ではこうでした。」
 それがよけい悲しいじゃないか、と沖島と矢竹は言いそうになって堪える。
 天霧は循環器の病気でずっと院内学級だった。それを治療した後、体力面でも強さを求められる艦隊に入隊し、今に至るのだ。
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ロボット省察

「完了、っと」
 三時間後、そういう鳴門と青年団長だけをのこして、全員が会場に酔って横たわって眠っている。
 アルコールが飲めないのはミスフィだけだったので、沢禰のバーのマスターが飲み物がないのは可哀想とココアを入れた。
 しかし、そのココアに、いつものクセで少量のブランデーを入れてしまった。
 二滴のブランデーで轟沈してしまったミスフィの傍らで、香椎が横たわっている。
 香椎はレースクイーン姿のままである。
 シファも眠っている。
「じゃあ、女の子だけうちの店のサナに頼んで隣の部屋にまとめておこう。いい加減大人なんだし、途中で目覚めるよ」
「そうだね」
 サナがやってくる。幼い顔をしたメイド姿のバイオロボットである。漆黒の衣装に純白のフリルが多いのが流行なのだが、シンプルなその衣装は、無垢を感じさせる顔と相まって絵本の中の存在のように見える。
「ところでなんだが、鳴門、オマエどう考えている?」
 青年団長は酔っぱらった男共をかたづけながら、鳴門に問うた。
「シファとの仲か?」
 鳴門も、よっぱらいの足を持って引っ張っている。
「ああ。いい子だと言うのも分かる。だがな」
「考えたよ。ロボットとの恋だろ? 今は命に差はないよ。人間だって強くなれるし、機械だって優しくなれる。大学時代、考えつくした」
「そうか」
 サナが両肩に女の子を担いで隣の部屋に連れて行く。
「時々、サナを見ていると悲しくなって。ロクに趣味も持たず、黙々と働いてくれるのはいいんだけど、その姿が余りにもひたむきで、なんだかこうやってずっと仕事させるのが申し訳なくて」
「そうだよな」
 鳴門は頷いた。
「カシス准将という、今、宇宙立体区で捕まっている偉い人がいて」
 と切り出す鳴門に、団長が興味を示す。
「捕まっている? なぜ?」
「ものすごい理論家でね。世界中の軍隊の学校で採用している教科書を書いた戦略家で、宇宙艦隊の指揮官だったんだけど、あまりにもキレ過ぎるから、クーデターの嫌疑をかけられて未だに拘束されている」
「そうか。そういや、この前マイナーメディアに載っていたような気がするな」
「その人が言うんだ。この世界は、すべて文脈である、と。もう個人主体の時代さえも終わった。個人がもう人間であるか機械であるか関係ない段階に来た。あるのは文脈、関係性の歴史だけだって」
「えらく難しいな」
「でも、そうだろ? ホログラフィやシールドで何でも作れるし、個人の視覚を多人数で共有することも出来る。架空の存在が活き活きと動き、個人は疲れて引きこもっていく。そのなかで、リアルとアンリアルに区別はなくなる」
「そうかもな」
「僕は文脈に乗ってしまった。あとは放り出されるまで乗り続けるだけだよ。しぶとく、しつこく。もちろん僕なりの考えはあるけれど、それはいずれ変わらざるを得なくなる。文脈そのものは自分では作れないからね。
 でも、文脈に乗れば、その文脈を暴走させることは出来る。結局、自分でできることなんて、この大きくなりすぎた世界じゃ小さい。カシス准将もそれを分かっているから、拘束されても抵抗していないんだと思う。文脈をしばらく見守り、いずれそれを暴走させようと力を蓄えている」
「うーん」
 団長は考えた。
「とりあえず飲めよ」
「ああ、もらう」
 二人はしばらく酒を舐めた。
「おまえも大変そうだな」
 団長は鳴門にいった。
「まあね。なんか頼りにされてるみたいで。僕なんかでいいのかなって思ってるんだけど、仕事をこなすだけで精一杯になってしまうよ」
 鳴門は苦笑混じりに言った。
「シファ、大事にしてやれよ」
「ああ」
 二人は一時間ほど話しながら呑んだ。
「さて、明日仕事だし、そろそろ帰るよ」
 団長はきりだした。
「シファたちは?」
「じゃ、起こすか」
 鳴門はシファの胸元のペンダントに触った。
 そして、とんとん、とダブルクリックした。
 ペンダントが輝き、その輝きが波紋状に広がって、直後、シファはガバッと目を覚ました。
「もう、鳴門ったら、私がロボットだからってそんな起こし方、ひどいわ」
 強制覚醒だったようである。
 シファが半笑いで抗議する。
 鳴門はゴメンネと言いながらキスをする。
「ミスフィも起こしてやって」
「うん」
 シファは酔いをすっかり醒まして起きてミスフィのところへ行く。
 そして、鳴門と同じ起こし方でミスフィを起こすシファを見て、鳴門は笑っていた。
 それをを見送りながら、団長は言った。
「ロボットって、便利だね」
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点呼

「シファ、ミスフィ両名、任務飛行点呼お願いします」
 シファが当直室で声を上げる。
 当直士官の熱海二尉が応対する。当直室の隣の仮眠室の入り口で、非番のはずの戸那美三佐が、アイスクリームを食べながら熱海の当直ぶりをチェックしている。
 当直士官として一人前になるのは、艦と部隊の全てについて一人前になることであり、将来の指揮官として乗り超えなければならない関門である。
 熱海は緊張している。
 戸那美は眼鏡を直した。『あれ、戸那美さんコンタクトじゃないの?』とシファが聞くと、戸那美は『昔は眼鏡のまま任務やってたけどね』と答えた。
『戸那美さん眼鏡似合ってる』
『野暮ったいわよ』
『それがいいんじゃない』
 戸那美は笑った。
『鳴門君とキャラ被っちゃうからコンタクトだったんだけど……。でもそうね。これからは眼鏡で任務やるわ。ちょっと不本意だけど』と言った後、ごほんと咳払いをした。
 シファは始めた。熱海の緊張を少しでも解きほぐしてあげようとシファは気を使ったのだった。
「任務点呼します。本日の任務行路は7811Fです。プランは2211A、使用スコークは34F7、34F8、本日の関係制限は紀州沖の3200、太平洋航路上の4112です。今月の月間目標はリアクションタイムの短縮、減の確認です。時刻整正します。ただいま十時十一分十秒」
「十秒よし」
「ゼロ災でいこう、よし」
「了解です。これで今年の任務は終わりだね」
「ええ」
「私も明日から実家に帰るから、また会うのは新年って事になるね。じゃ、良いお年を」
「はい。では」
 シファたちは点呼を終え、飛行甲板へ向かう。


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地球と月と

「宇津居課長も熱心だね」
 早瀬と氷室、そして鳴門が資料の読み合わせをしている。
「十二号事案が未解決で忙しいのに、新年の松が取れないうちに西ロシアとの課長級会談、ってマジかよと思ってたけれど、ホントらしい。シファとミスフィには新年早々で悪いけど、任務発令だよ」
「大丈夫でしょう。シファたちは強くなりました」
「そうだな。最近、シファとミスフィの線が強くなったように思うよ」
「私もです」
「そうか。いいことだ。シファは一度クドルチュデスにやられたかと思ったけど、あれも経験の一つだったんだな。危なっかしいけど、それも親の覚悟の要るところだと思っている」
 氷室も頷いている。
「じゃ、読み合わせにもどろう。シンガポールのデータセンターに仕掛けられたトラップは?」
「シンガポール警察当局が調査しました。経路遮断に使っただけで、十二号の情報はまったく別のところにありそうです。それと」
「何だ?」
「十二号を検索していたクドルチュデスの報告です。十二号らしき存在の生々しい痕跡を発見、それがすぐに自動消去されたものの、ファイバー接続で遅延時間が六百ミリセカンドかかったそうです」
「経路遮断機を使いすぎて情報が遅延したのか?」
「その線でも考えたのですが、彼女の調べでは経路遮断の程度は余り高くなかったそうです」
「物理的に距離の離れたところか……宇宙立体区か?」
「そうかもしれません」
 宇宙には多数の人工惑星が存在している。
 人類の六分の一はグリッドを建築と組み合わせた新居住システムによって、宇宙に居住している。
 P-1から始まるコードネームを持ち、限定的な自治権を持っていて、実際には西ロシアと親アジア共同体のアメリカ宇宙軍の二陣営に分かれて浮かんでいる。
 ラグランジュポイント付近と火星・地球軌道間の二つに分散しているが、他にも数は少ないが、他の金星側や土星以遠にも居住は行われている。
 その点で、月面開発が大きく進み、第二の母星としての地位を持ちつつあるのだ。
 そこでアジアリフト・アフリカリフト・アメリカリフトの三つの軌道連絡線はもはや欠くことのできない大動脈である。
 当初の軌道連絡線はカーボンナノチューブのケーブルだけだった。
 軌道上から地球と、宇宙側両方に、遠心力と重力をバランスさせながらのばしていく。
 そして、それが地上に達し、軌道連絡線は完成であった。
 だが、それは終わりではなく始まりだった。
 増大する宇宙との往復貨物に、同じ軌道連絡線の隣に一本、また一本と追加され、さらにリニアモーターで上下するゴンドラの代わりに大容量リフト線列車が走り、そして現在ではテロ対策の幅一キロのシールド防護層の内側に六本平行にはしったカーボンナノチューブ製の柱が、リフト線列車やゴンドラの支えとして使われている。
 遠心力で地上からの重力に対抗して塔としての形を保っているので、もし破断されるようなことがあれば、地上に落ちる部分と、宇宙の彼方へ放り出される部分に分かれると計算されているが、しかし未だにそんなことは起きていない。
 軌道連絡線の発展と共に、宇宙都市と宇宙基地が次々と生まれている。
 しかし、その宇宙都市建設は人工生命・虚体によって制御されているのだが、人工生命は悪用されることもある。そこで犯罪も起き、それを理由に人類自身も地球にとどまるべきだという考えがあり、サミットのたびにデモ活動をやって問題となっているのだ。
「宇宙都市の調べはうちの庁でも仕切が違うからな。まあいい。クドルチュデスが動きやすいように話を進めておこう」
 早瀬の言葉に、鳴門は頭を下げた。


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