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クリスマス

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ひとときの安らぎ

 沢禰の公民館で子供たち向けの出し物とプレゼント配りが終わり、青年部のパーティーが始まるところだった。
 パワードスーツ・ディルマに乗る軍事探偵・ケイコも参加している。
 ミスフィは香椎を呼び、二人でなにか話し合っている。
 しかし、シファは一人だった。
 残業で鳴門がまだ内閣調査庁に残ってシファと通信している。
「やっぱり来られない? 残念ね。でもお仕事だからしょうがないわよね」
『うん。また急ぎの仕事が入っちゃったんだ、ホントごめんよ、シファ』
 そこに青年団の団長が介入した。
「あー、鳴門ぉ、かまわないよ。仕事大事だろ」
 との言葉の後、わざと間をあけていった。
「大丈夫。こっちはこっちで『楽しーく』やってるから」
 そう言って、シファの肩に手をのばした。
『行く! 行きます! 今から快速特急に飛び乗って三十分!』
 団長はシファに目配せした。
「ほら釣れた。彼女なんだから、こうやってカレシを操縦しなきゃ。シファは素直すぎるよ。それがまた良いんだけど」
 意地悪げな団長だが、これはこれで、シファが大学に行っていた頃の旅研(旅行研究部)の部長のようで、シファには嬉しい。
「じゃあ、鳴門が未だ来ないけど、カンパーイ!」
 青年団団長の家はライフサプライ、大昔のコンビニをさらに大きく機能を拡張したような店であり、さっそくお酒やオードブル、そして七面鳥とケーキが配られている。
「じゃあ、プレゼントの交換でーす」
 すっとミスフィが可愛く包装された包みを香椎に差し出す。
「わあっ、ありがとうミスフィ。あけていい?」
 と香椎が聞くと、こくんとミスフィは頷いた。
 開けると、中から出てきたのは蛍光の青色もまばゆいレースクイーンの衣装だった。
「わー、可愛い! レーシングチーム・ネバーエンドの四十一年タイプね!」
 香椎はそういうのだが、可愛いのかな、とシファは思う。
「これで『レースクイーンの刑』の時も、バリエーションが五着になったから大丈夫ね」
 刑……?
 五着……?
 怖い考えになってしまったシファであった。
「ふー、着いた」
 扉が開き、鳴門が入ってきた。
「おう、早かったな」
「早瀬局長のタイフーンに乗せてもらったんだ」
 世界最強のロードゴーイングカー、タイフーンは早瀬局長の遊び用の車である。
 早瀬局長は休日には子供を乗せて高速道路を駆け、峠を攻める若さを持っているのだ。
「タイフーンか! 見たいな!」
「いいんじゃないか? 表に停めてある」
「じゃ、いこうか」
 男どもがゾロソロと表に出る。
 赤のカラーリングも眼に鮮やかなタイフーンに、男どもはため息を吐きながら魅入る。
「すごいな。大排気量水素エンジンは普通としても、その上に動翼がついているんだもんな」
「ウェットだろうがドライだろうが、たとえオイルで汚れた路面だろうと、どこまでいっても常にハンドル特性はニュートラルなんだ」
 そこに香椎がきた。
 その衣装に、全員が目を点にした。
「どうかしら、似合う?」
 純白のレースクイーンの超ミニのスカートに見せショーツ、そして胸は特徴的なデザインの、襟付きの蛍光青のトップスで覆われている。
 白い地に同じ青が配された腕章にまた趣味が入っている。
 トップスには、なまめかしい胸元が見えるように窓が開いているのが何とも扇情的だ。
 その姿でパラソルを持っている。
 脚は鍛えられた脚に光沢がまばゆいストッキングである。
 露出が多いように見えるが、今は発熱と冷却機能のある衣服、スマートウェアが普通で、レースクイーン衣装もその例外ではない。
 早速香椎はポーズを取って、ミスフィはそれを嬉しそうに眼で撮影している。ロボットなので、眼がいちばん使いやすいカメラになるのだ。
 しかし、やっぱり『レースクイーンの刑』って……。
 ますますシファもみんなも、怖い考えになってしまった。

「クドルチュデスが案外役に立ってくれて」
 鳴門が側聞きされないようにシファにメッセンジャーで話かけてくる。
「とらわれの身なのに?」
 シファもメッセンジャーで返す。
「彼女は流石だよ。ラッティが入れ込んだだけあるね。今も休まずに仕事してるよ」
 鳴門はクドルチュデスのできる仕事を任せてきたのだ。
「彼女、ミスフィのサブシステムを借りてるんでしょ」
「そう。それにしちゃ仕事が手早い。いくつか出所の分からない資金があったんで、彼女に頼んだらあっさり出てきたよ」
「どこなの?」
 興味津々のシファに鳴門は言った。
「国民保健省だよ」
「嘘!」
 国民保健省とは太平洋戦争以来四度目の行政改革で厚生省・労働省・旧文部省・旧科学技術庁を統合した巨大官庁である。
 現在の政府は六省一府三委員会制をとっている。その委員会の中には行政執行委員会という大きな委員会があり、そのなかにSAIS管理委員会も含まれる。
「ホントだから困るよ。シファ、君を作る計画の時、いくつか平行して似たようなことをする計画があったようなんだ。香椎さんが普段乗り組むパワードスーツFPXの時もそうだし、ケイコさんの乗るディルマも山崎重工がFPX計画に関与するための試作機だった」
「じゃあ、私たちと同じ人工生命がトップ?」
 シファは驚く。
「そうでもないらしい。クドルチュデスの話によれば、えらく人間くさい反応が返ってくるけど、それにしても応答速度が速い」
「脳に直接マシンを接続している人間かな」
「わかんないよ。まだ資料が少なすぎる」
 そのとき、声がかかった。
「また仕事の話かい。忙しい仕事だとは聞いているけど、たまに休まないと壊れるよ」
「そうだね」
 鳴門はシファを抱き寄せ、公民館に向かった。
 全員が公民館に入った。


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そのころの〈ちよだ〉

「今頃シファたち楽しくやっているだろうなあ」
 シファ機付長の沖島がつぶやく。
「ああ」
 主計科で〈ちよだ〉の司厨士をやっている矢竹がビンゴマシンを動かす。
「はい、二十五番」
「リーチ!」
 艦内のクリスマスパーティーはビンゴゲームまで進んでいた。
「しかし……イヴにこうして恋人のいない職場の連中で集まって、ビンゴゲームか……。俺の人生二十六年目のクリスマス、しょっぱすぎるよ」
 矢竹が慨嘆する。
「おれもな」
 沖島も継ぐ。
「沖島さん、なんですか」
 天霧が声を上げる。
「なんでもない」
「私、こういうの好きですよ。いつも病院の院内学級ではこうでした。」
 それがよけい悲しいじゃないか、と沖島と矢竹は言いそうになって堪える。
 天霧は循環器の病気でずっと院内学級だった。それを治療した後、体力面でも強さを求められる艦隊に入隊し、今に至るのだ。
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ロボット省察

「完了、っと」
 三時間後、そういう鳴門と青年団長だけをのこして、全員が会場に酔って横たわって眠っている。
 アルコールが飲めないのはミスフィだけだったので、沢禰のバーのマスターが飲み物がないのは可哀想とココアを入れた。
 しかし、そのココアに、いつものクセで少量のブランデーを入れてしまった。
 二滴のブランデーで轟沈してしまったミスフィの傍らで、香椎が横たわっている。
 香椎はレースクイーン姿のままである。
 シファも眠っている。
「じゃあ、女の子だけうちの店のサナに頼んで隣の部屋にまとめておこう。いい加減大人なんだし、途中で目覚めるよ」
「そうだね」
 サナがやってくる。幼い顔をしたメイド姿のバイオロボットである。漆黒の衣装に純白のフリルが多いのが流行なのだが、シンプルなその衣装は、無垢を感じさせる顔と相まって絵本の中の存在のように見える。
「ところでなんだが、鳴門、オマエどう考えている?」
 青年団長は酔っぱらった男共をかたづけながら、鳴門に問うた。
「シファとの仲か?」
 鳴門も、よっぱらいの足を持って引っ張っている。
「ああ。いい子だと言うのも分かる。だがな」
「考えたよ。ロボットとの恋だろ? 今は命に差はないよ。人間だって強くなれるし、機械だって優しくなれる。大学時代、考えつくした」
「そうか」
 サナが両肩に女の子を担いで隣の部屋に連れて行く。
「時々、サナを見ていると悲しくなって。ロクに趣味も持たず、黙々と働いてくれるのはいいんだけど、その姿が余りにもひたむきで、なんだかこうやってずっと仕事させるのが申し訳なくて」
「そうだよな」
 鳴門は頷いた。
「カシス准将という、今、宇宙立体区で捕まっている偉い人がいて」
 と切り出す鳴門に、団長が興味を示す。
「捕まっている? なぜ?」
「ものすごい理論家でね。世界中の軍隊の学校で採用している教科書を書いた戦略家で、宇宙艦隊の指揮官だったんだけど、あまりにもキレ過ぎるから、クーデターの嫌疑をかけられて未だに拘束されている」
「そうか。そういや、この前マイナーメディアに載っていたような気がするな」
「その人が言うんだ。この世界は、すべて文脈である、と。もう個人主体の時代さえも終わった。個人がもう人間であるか機械であるか関係ない段階に来た。あるのは文脈、関係性の歴史だけだって」
「えらく難しいな」
「でも、そうだろ? ホログラフィやシールドで何でも作れるし、個人の視覚を多人数で共有することも出来る。架空の存在が活き活きと動き、個人は疲れて引きこもっていく。そのなかで、リアルとアンリアルに区別はなくなる」
「そうかもな」
「僕は文脈に乗ってしまった。あとは放り出されるまで乗り続けるだけだよ。しぶとく、しつこく。もちろん僕なりの考えはあるけれど、それはいずれ変わらざるを得なくなる。文脈そのものは自分では作れないからね。
 でも、文脈に乗れば、その文脈を暴走させることは出来る。結局、自分でできることなんて、この大きくなりすぎた世界じゃ小さい。カシス准将もそれを分かっているから、拘束されても抵抗していないんだと思う。文脈をしばらく見守り、いずれそれを暴走させようと力を蓄えている」
「うーん」
 団長は考えた。
「とりあえず飲めよ」
「ああ、もらう」
 二人はしばらく酒を舐めた。
「おまえも大変そうだな」
 団長は鳴門にいった。
「まあね。なんか頼りにされてるみたいで。僕なんかでいいのかなって思ってるんだけど、仕事をこなすだけで精一杯になってしまうよ」
 鳴門は苦笑混じりに言った。
「シファ、大事にしてやれよ」
「ああ」
 二人は一時間ほど話しながら呑んだ。
「さて、明日仕事だし、そろそろ帰るよ」
 団長はきりだした。
「シファたちは?」
「じゃ、起こすか」
 鳴門はシファの胸元のペンダントに触った。
 そして、とんとん、とダブルクリックした。
 ペンダントが輝き、その輝きが波紋状に広がって、直後、シファはガバッと目を覚ました。
「もう、鳴門ったら、私がロボットだからってそんな起こし方、ひどいわ」
 強制覚醒だったようである。
 シファが半笑いで抗議する。
 鳴門はゴメンネと言いながらキスをする。
「ミスフィも起こしてやって」
「うん」
 シファは酔いをすっかり醒まして起きてミスフィのところへ行く。
 そして、鳴門と同じ起こし方でミスフィを起こすシファを見て、鳴門は笑っていた。
 それをを見送りながら、団長は言った。
「ロボットって、便利だね」