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量子のスキマ

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なにかの予告

 シファとミスフィは、戦闘ロボットであると共に、人格を一部認められた艦隊の2佐である。
 艦隊にいるという事は、当然雑事がある。


「シファ、そうヘコむことはないよ。
 完璧なはずのこの量子化された現実世界だって、現実には無数のエンジニアリング上のエラーがある」
 仕事上のミスをしたシファを、鳴門がなだめている。
「近江さんが言っていたよ。
 僕らはプログラムを作っているんじゃなくって、バグを作っているんじゃないか、って」
「大昔からそうね。でも、バグって言うのはそう考えると面白いわね。
 だって、人間の遺伝子の突然変異も、エラーの起きやすいコピー、交配をさせた遺伝子のエラー、バグなんでしょ」
「そうか。そういう見方もあるね。我々の本体は、遺伝子ではなくバグなのかも知れない」
 全員が考え込む。
「でも、君はその遺伝子の中で、全て最適に」

 そのとき、鳴門は絶句した。
「え」
 沖島や天霧、香椎や矢竹と言った〈ちよだ〉の乗組員(クルー)全員が、気付いて絶句した。
 ふと目をはなした瞬間で、シファとミスフィがいなくなったのである。
 それも、執務にも使っているスキャナつきベッドごとである。
 ベッドがあった跡には、固定用ボルトの跡があり、その跡にはキャップがされている。
「嘘!」

 全員が硬直から戻るまで時間があった。
「シファ、ミスフィ!」
「いなくなった……一瞬で?」
「艦内の記録対照!」
 全員が慌てた。
「おかしい! この艦のデータベースにも艦隊のメインシステムにもシファとミスフィの記録がない!」
「嘘だろ? だって、この短時間に全部の記録を抹消し、抹消の痕跡までかくすなんて」
「センサーサイトの情報は!」
「ノーマッチ、該当無しです!」
 全員が冷や汗ともつかないイヤな汗をかいているときだった。

 ドアが開いた。
「シファ!」
「ミスフィ!」
「近江さん!」
 3人が現れた。
「近江さんですか、こんなことをしたの!」
 近江は目を白黒させている。
「普通に艦内で出会って、そのまま来たんだけど」

 全員が目を戻すと、ベッドが以前の通り、定位置にボルトで艦に固定されていた。
「いったいどうしたの?」
 へなへなと崩れる全員に、3人は戸惑うばかりだった。

「もしかすると」
 近江は話し出す。
「時空の運行に関わる問題なのかも知れない」
「運行?」
「最新の物理学の話さ」
 近江はそういったあと、考え込んでいた。
「連中、ついに焦りだしたな」
 近江はそう口にすると、ホログラフィプレートを開いた。
「テイ教授の力が必要だな」
 浮かんでいるプレートには、こう記されていた。

 考えなくていい、思わなくて良いと思っても、考え、思ってしまう。
 その命のかけら(Key Of Gold)を私に与えたことに
 運命よ、私はあなたを呪います。

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