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国会中継



「私といたしましては、世界平和のためには、緩衝地帯として弱小国、貧困国の1つや2つは消滅に陥るのは、『やむをえない』と考えます」
 日本の新首都新淡路市の国会予算委員会室で、その外務大臣の発言に、怒号が沸いた。
「姉崎委員」
 議長が混乱の中、指名する。
「ではBN-X級の配備は、そのような国際政治の感覚で行なったという認識と考えてよろしいのでしょうか」
 姉崎はなおも畳み掛け、外相の柏岡はなおも発言しようとするが、平川総理は色をなしてそれを止め、『私が答えます』と議長に告げる。
「平川総理大臣」
「いえ、私が聞いているのは外務大臣ですよ」
「平川そう」
 委員長が言いかける間も、姉崎議員は口を止めない。
「外相! 外相! 外相! 応えて下さいよ!」
 外務大臣は、にやつきながら水を飲んでいる。
「平川総理大臣」
 ようやく平川総理が答弁に立った。
「国際的にはその覚悟を全ての国が持たねばならない、という意味での外相発言であると思っています。
 BN-Xは単体それだけでは平和をもたらしません。
 各国が各国で民主主義と自由な経済活動と節度ある態度をもってこその国際関係だと考えます。
 それがツリートップ協約の精神だと認識しております」
「柏岡外務大臣」
 続いて外相が答弁する。
「要するに、国際社会のなかでは、他国との積極的な連携を模索せず、経済的にも孤立した小国は屑であります」
 委員会室は当然、紛糾した。
「にもかかわらず、その孤立国の90%は、屑であります」
 外務大臣はなおもそう応えた。
「では、これは内閣の中でそういう傲慢と閣内での見解の不一致がある、と了解することとします」
 外相はうなずくが、平川総理はあわてていた。




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ちよだ

 それをシファたちはニュースラインで見ていた。
 ニュースラインは、既存のTVでもなく、チャットでもない。
 さまざまなニュース映像がクラウド状に表示され、話題の流れを自動編集するもので、家庭内ネットワークでの検索や再生の履歴情報と、公的な要素をもつブ ロードバンド企業のヘッドラインニュースを組み合わせ、速報性と確実性、そして情報の広がりをディスプレイするシステムである。
 それを流しながら、みな午後の課業を行っていた。
「やばいな」
 沖島がつぶやいた。
「人事の季節も近いのに、こりゃないよなあ」
 しかし、シファは動じていなかった。
「当然、政局を狙った手なんでしょう。平川派と柏岡派は遺恨が残っている。
 とくに新淡路市市長選では分裂しかかっていたし」



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090320sif_ver16_3sword_up_image posted by (C)YONEDEN





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内閣調査庁

 同じ事を内閣調査庁のオフィスで鳴門が口にしていた。
「その分析は正しいわね。政局ね。
 でも申し訳ないけど、間の悪いことに私、『寿』なの」
「えっ!」
 寿発言をした氷室管理官に、鳴門は聞き流しかけたが、びっくりして目を見開いた。
「えっ!」
「結婚することになったの」
「だって、仕事が恋人って」
「そりゃそうよ。でも、恋人じゃなくて、愛人にすることにしたの。
 式場も予約したし、パーティーの予約もした」
「そんな急に」
「でも、やっぱりね、ひとりの心細さに心がねじ切れそうになって、そうしたらその人がいた、と言う感じで。あ、それと」
 鳴門がうろたえているところに、氷室は軽く告げた。
「津島次官、定年前に退任するって」
「ええっ!」
「さて、次の次官は予想通りに早瀬局長の格上げかしら。おっと、私のことも関係しているけど」
 鳴門は混乱した。
「そうよ。私の結婚相手は、早瀬局長よ」
「局長が管理官と再婚するんですか!」
「そう。ほんと、あの人には何度も救われてきたし、あの人も私のことが気がかりだったらしいの。それで人員輸送機で同席して、話したら盛り上がっちゃって」
「でも、このまま庁内に」
「それもね。別の選択肢があったんだな、って」
「えっ」
「家庭に入ろうと思うの」
「ダメですよ、氷室さんみたいな生活感のない人が」
「失礼ね。今一生懸命花嫁修業しているのに」
「花嫁」
 鳴門はあまりのことに、のけぞった。
「でも本当よ。これまで使ってた部屋で、お風呂使ったこと無かったの。
 いつも帰りにフィットネスのシャワーで済んでたから、温室代わりに樹を育ててたけど、それじゃまずいってようやく気がついて、どかしてお風呂入ったり。
 お風呂入ってそのまま寝るのって、やっぱり良いわね。
 ああ、日本人だなー、って思うわね。おつまみをレシピ見ながら作って、ビール飲んで。
 なんだかそういう日々がとてもいとおしい。
 ようやく私も、人並みになったなんて思うわ」

..ちよだ

「というわけなんだ」
 鳴門は謝った。
「じゃあ、津島次官は退任?」
 シファは溜息をついた。
「人間は相変わらずこんなだよ」
「私たち機械だって、似たようなものよ。新陳代謝をシステムに組み込んだから私たちは人工生命の中でも虚体と呼ばれ、特別に扱われている。実のところ、私たちにもそういう争いの遺伝子、ミームはあるわ」



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ちよだ会議室

 その上、母艦ちよだの会議室では、検討が続いていた。
「しかし、艦艇ってすぐ劣化するんですね」
「そりゃそうよ。ゲームの駒じゃないんだから、さびたり、われたりは当然よ」
 ホログラフィには『ちよだ艦艇設備5年点検作業』の文字が浮かんでいる。
「応急班で目視確認とともに非破壊検査をメインで行いますが、極端な劣化があった場合はドックでの修繕ではなく、第1次改装として計画を立てることもあり得ます」
 戸那美が仕切る。
「で、戸那美としてはどうだ」
「我が国のBN-X計画だけだったら、問題はなく定期修繕で済んだと思います」
 戸那美はホログラフィを操作した。
「ところが、この計画は」
 そこに標示されたのは、
 軽量戦闘救難型BN-X・UN-X(仮称)開発要素研究
 の文字だった。
「UN-Xは韓国・インド・パキスタン・ペルー・アルゼンチンをはじめとした、BN-Xの保有能力を持たない国の、BN-Xの救難能力への要求を満たすものとして研究が開始されました。
 シファ級のダウングレードで済む部分もありますが、しかし一部にはモンキーモデルをなぜ押しつけられるのかという批判もあり、各国困難に直面しています。
 その上で、UN-Xが具体化した場合、そのソースデータの変換でストレスが発生しないように、キーオブゴールドのインストール後の十分な完熟訓練が必要になり、それを誰がやるかというと、必然的に嚮導艦であるシファとミスフィにリクエストが来るでしょう」
「となったら、BN-Xとそれと同等のウイングナイトを最大で8隻程度運用可能な艦艇が必要になる、と」
「それですが、このちよだはそれを見越した構造を持っています。
 その場合は、支援巡洋艦CSLからCVL、軽空母となります」
 全員が息をのんだ。
「そうか、空母か」
「ええ。このままの情勢なら、この支援巡洋艦ちよだは、軽空母ちよだとして、生まれ変わります」
 戸那美はそういうと、息を吐いた。
「で、それでまたドックでしょ? もう新淡路の八橋造船所、やだよ。
 だってあいつら連合艦隊を、かなりなめてるよ」
「そうだよなあ。艤装員で着任しても、こっちの言うこと聞かないし。
 連中にとっては小さな艦かもしれないけどさ、俺たちにとっては人生かかった艦だぜ。
 そう気安く「要求仕様ではそうですから」なんて言わないで欲しいよねえ」
 みんながぶうぶうと文句を言う。
「それにちよだの建造を指揮した造船官、尾張さんって言ったっけ。あの人、もういないでしょ」
「そうだよ。あの人がずいぶん八橋にかけあってくれて何とか『使える』艦にしてくれたのに」
「あの人の存在、大きかったよなあ」
「そうだよ。今こうして空母への改装ができる構造だって、尾張造船官と高千穂陸将のコンビでようやく実現したんだから」
「そうだよなあ」
 皆が息を吐いた。
「で。戸那美さん、ここまで定期補修の話をしておいて、いきなり昇進、指揮幕僚課程入りってのはないよね」
「ありました」
「ええっ!」
 みんなはびっくりした。
 戸那美の上昇志向は皆の知るところなのだ。
「さびしいなあ。覚悟はしていたけど」
 そのとき、戸那美はめがねに手をやって、言った。
「ありましたけど、そのままするほど私は浅くないです」
 皆が戸惑った。
「指揮幕僚、誘われましたけど、断りました」
 皆はさらに驚いた。
「だって、ハンモックナンバーのナンバーワンで、何でここに残るの?
 らしくないよ!」
「いつも当直の時だって勉強しているのに」
「いいえ」
 きりっと戸那美はめがねを直した。
「私なりに、最適解を検討した結果、このちよだで、艦隊勤務における実務をさらに経験した方が有利と判断したのです。
 最終的に理想とする艦隊士官としてのキャリアを積むには、このちよだの配置が一番なのです」
「そうか」
 聞いていた宮山司令と槌屋艦長は、そろって微笑んだ。
「ようし、びしびし鍛えるからな」


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ニュースライン

「衆院予算委員会での野党民権党の追及は今日も続きます。
 今日は平川総理への不正献金疑惑を民権党玉河委員が追及しました。
 かつて使われた小規模決済システムの不正利用の一部が平川派に流れたとの疑惑です。
 その決済システムはかつて、ドクター・ラッティが国際空賊団の構成に使ったもので、その記録が何故ここで出てきたのかは不明で、玉河委員はソースの秘匿を理由にしていますが、平川総理はそれを逆に追及する構えを見せていません。
 そこには柏岡派が意図的なリークを行ったとの噂もあり、平川総理は党の崩壊よりは、と苦渋の決断をしたともされています。

 また、情報筋では平川総理の決断をもっとも支えてきた内閣調査庁津島事務次官の退任で、平川総理が孤立し始めているとの分析もあります。
 津島次官が「東京の枢機卿」として情報政策では多大な功績を残した一方、次官のやり方を官僚の思い上がりとしてきた官邸生え抜きの情報政策チームは、カウンターパートとしての次官の退任で、いよいよ官邸主導の情報行政の実現という形で真価を問われることになります。

 また、この政局の混乱で、いくつかの法案が廃案に追い込まれるとの観測が広がっています。

 その一つが「新地価基準評価法」で、これは現実に理財建設省が日本各地で起きている都市崩壊に対する建設官僚の長年の宿願でした。

 しかし早くも官界では『「官僚たちの夏」の終わり』と冷ややかな感想も出ています。

 BN-X問題の紛糾の影で、日本の人口構成に起因する国土の荒廃を解決する計画「ビレッジフロントプロジェクト」は、すでに福岡・秋田・神奈川の3カ所をモデル地域として各自治体とともに進めてきた事業です。
 が、ここで国の政策として廃案となった場合、その事業をどのように継続していくか、特に負担割合が大幅に増える自治体としては、政局の行方とともに大きな不安が広がっています。
 一部自治体では着工し引き渡し寸前となった施設を恒久保管、モスボール措置としてでも、事業そのものへの追加の投資を認めないと公言する自治体の首長(くびちょう)もあらわれ、平成の大合併以前からの宿願は、またしても振り出しに戻るとの観測もあります。

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