目次
1.エアロバイク乗りの日常
1.エアロバイク乗りの日常(1)
1.エアロバイク乗りの日常(2)
1.エアロバイク乗りの日常(3)
2.エアロバイク乗りの非日常~合コン~
2.エアロバイク乗りの非日常~合コン~(1)
2.エアロバイク乗りの非日常~合コン~(2)
3.正反対、だから気になる
3.正反対、だから気になる(1)
3.正反対、だから気になる(2)
3.正反対、だから気になる(3)
4.地表
4.地表(1)
4.地表(2)
4.地表(3)
5.平穏な生活
5.平穏な生活(1)
5.平穏な生活(2)
5.平穏な生活(3)
5.平穏な生活(4)
6.ネズミ
6.ネズミ(1)
6.ネズミ(2)
6.ネズミ(3)
6.ネズミ(4)
7.テロリスト
7.テロリスト(1)
7.テロリスト(2)
7.テロリスト(3)
7.テロリスト(4)
7.テロリスト(5)
7.テロリスト(6)
7.テロリスト(7)
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(1)
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(2)
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(3)
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(4)
8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(5)
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8.終幕、そしてまた始まるエアロバイク乗りの日常(5)

 騒動が一段落した後、ポリスの厳しい尋問を受けるだろうと覚悟していた私だが、他の社員たちと同じく簡単な事情聴取を受けただけだったので、ちょっと拍子抜けしてしまった。
 もしかしたら泳がされているだけかもしれないと勘繰って、しばらくの間警戒して過ごしていたのだが、特にポリスからマークされているということもなさそうだった。後に判明した話だが、何と課長が上手いこと取り繕ってくれたらしい。裏口のロックを知らぬ間に不正解除され、社のデータをテロリストたちによって盗み出されていたと言い張っていたのだそうだ。
 あの鬼課長にしては珍しく、部下に対する親心でも沸いたのだろうか……と感心したのも束の間で、実は課長はただ自分の保身のために動いていただけだった。部下の私が大きな不祥事を起こせば、ただでさえ分が悪い現在の課長の進退にも当然多大な影響が及ぶ。しかし例え課長の身勝手で打算的な行為だとしても、結果オーライ、私にとってはありがたいことだ。面倒事にならずに済んだので、正直ほっとしている。
 監視カメラはうちの課にも取り付けられていたけれど、ビルが崩壊したので証拠となるものは何も残されていない。更に、ティムは崩れ落ちるビルと運命を共にしたので彼の口から私の名前が漏れることもない。そして、ティム以外のテロに関わった真世界党の連中は、ティムが私を篭絡してEEの社内機密文書を手に入れたことを、彼から報告されていなかったらしく(つまりあれはティムの独断による単独行動だったのだ)、真世界党側からも私の情報がポリスに漏れることはなかった。
 私は重ね重ね、運が良かった。
 そんなわけで、私とティムに関する一連の出来事は、私を含む第三雑居ビル電気系統整備課社員と、ミランダの記憶の中だけに封印されている。彼女はあの騒動の中、無事に逃げおおせることができた。今は別のビルで雑貨屋を営んでいる。レインドロップなんかよりも、もっとフランクでお洒落な店だ。
 第三雑居ビルと、第三雑居ビルが崩れ落ちるときに巻き添えになった第六企業ビルの残骸は、後始末に一年以上も費やすこととなった。掘れば掘るほど犠牲になった人々の遺体が発見され、報道される被害者数は日々増えていった。
 事件から三ヶ月ほど経ったある日、テレビでニュースを見ていたら、崩れ落ちるビルの映像の隣にティムの顔写真が大きく映し出された。
 ショックで息が詰まり、私の指は反射的にリモコンのチャンネル変更ボタンを押していた。これ以上、彼に関する情報を脳にインプットすることは避けたかった。
 忘れたければ、距離と時間を置くしかない。そうすれば例え忘れることなどできなくても、いつしかただの懐かしい過去の一部として、自分自身にダメージを与えることなく受け入れられるようになる。今度の件もそうあって欲しいと切実に願った。
 あれからもう三年の月日が流れた。
 大規模なテロ騒ぎがあったにも関わらず、世の中はほとんど変わっていない。事件のせいで、それまでの政府のトップは引き摺り下ろされ、低所得層に有利なスローガンを掲げた候補者が選挙で当選したけれど、結果的に人々の生活にはあまり変化がなかった。上階層と地表の経済格差はちっとも縮まらないし、貧しい人々は相変わらずの苦しい生活を強いられている。
 でもきっと、少しずつ良くなっていくだろう。
 生き物の進化過程だって急激に変わったわけではない。何世代も経て徐々に環境に適応してきたのだから、人間の世界だって同じように段々変わっていくだろう。そのスピードは目に見えないくらいのスローペースかもしれないけれど、状況は確実に変化している。
 だって私たちは、それぞれがこんなにも毎日懸命に生きているのだから、世界が変わらないわけがない。大勢の人々が自分のより良い生活のために、家族や愛する人が幸せになるためにと願っているのだから、その願いが通じないわけはない。
 きっと、きっと少しずつ。
 例え世界のトップに立てなくても、悪の帝王にならずとも、普通の人間のままだって……私はそう思いたい。
 事件後、私たち第三ビル電気系統整備課の人間は、課長以外の全員が解雇された。
 シマダは整備工稼業から引退し、現在はセントラルからずっと離れた山奥で、大切な奥方と共に、家庭菜園を作って自給自足の隠居生活を楽しんでいる。
 真面目で素行の良いチェは、なんと政府から引き抜かれ、公務用エアロカーの運転手に転職した。時折空中ですれ違うが、いつも白い手袋とパリッとした上品なスーツを着用しており、EEにいた頃のオイル塗れで薄汚れたツナギ姿とは別人のようだった。しかしすれ違い様に交わす挨拶は相変わらずで、エアロバイク乗りの良くやる乱暴な敬礼みたいな動作だ。私はそれを見る度、嬉しい気分になる。
 エツコは専業主婦となり、昨年三人目の子供が生まれた。彼女とは今でもよく飲みに行く。若いと言って良いのか大人げがないと言うべきか分からないが、あのノリは相変わらずだ。
 彼女のエアロバイクの免許はまだ有効で、EEから支給されていたエアロバイクを取り上げられてしまった今でも、旦那のエアロバイクを無断で乗り回しては叱られている。だが、もうすぐ免許更新の時期が迫っているようで、そろそろエアロバイク乗りとして復帰しようと目論んでいるらしい。エアロバイクの免許は、特殊職以外の一般市民には取得が不可能なので、エツコが免許を更新するにはいずれかの会社に所属する必要がある。まだ子供も幼いというのに、エツコはどうしてもエアロバイク乗りの血が押さえられない、と酒の席で漏らしていた。
 シンディの姿を見たのはあの事件の日が最後だった。それ以降の彼女の消息を私は知らない。特に興味も引かれないので誰かに尋ねたこともない。けれど、おそらく今もどこかのビルの上階層から、階下を見下ろして生活しているのだろう。
 ホワイトは、第十五雑居ビル等を管轄としているハロルド・エレキテルの電気系統整備課に転職した。EEにいるときには、仕事に対する愚痴ばかり溢していたホワイトだったが、何だかんだ言っても整備工の仕事を愛しているのだろう。しかしここまで頑張るとは正直思っていなかったので、少しだけ見直した。
 ホワイトにはつい最近、年下の可愛らしい彼女ができた。それは大変良いことだと思うのだが、会う度にデレデレしながら端末に撮り溜めた写真を見せびらかしてくるのには辟易する。だが、しばらくの間彼の教育係だった私としては、後輩が充実した生活を送っているのを垣間見ることは嬉しいものだ。
 マイトもホワイトと同じく別会社の同職に就いた。経験豊富なマイトは、EEを解雇されると同時に複数の会社から引き抜きの電話が掛かってきた。すぐに転職先が決まったマイトだったが、何故か私まで彼にくっついて再就職する運びとなってしまった。
「お前だって、どうせエアロバイクに乗るくらいしか能がねぇんだからさ」
というマイトの発言にはカチンときたけれど、悔しいことに、マイトの意見は的を得ている。それに整備工の職に再び就いたお陰で、エアロバイクも中階層暮らしも、若干の変化はあったにしろ失わずに済んだのだ。ティムと事件のことを思い出すのが辛くて職変えしようかと悩んだ私だったが、今となってはマイトに感謝している。
 私も結局、エアロバイクに乗るのが一番性に合っているのだ。
 現在の職場も相変わらずスモーカーばかりだ。この職場では新人のくせに、私は遠慮の欠片もなく先輩たちに悪態をついては苦笑いされている。
 どうしてこうも、エアロバイク乗りにはスモーカーが多いのだろうか。
 終業後、停車したエアロバイクに跨って遠くの空を眺めながら吸う煙草の味が、スモーカーにとって格別なものなのだろうということには薄々感付いているが、それでも私は煙草なんて健康に悪いものを吸う気にはなれない。
 そうそう、最後にもう一つだけ。
 こんなスモーカーだらけの職場だけれど、マイトの禁煙は奇跡的にまだ続いている。

 

 

 Fin


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第三雑居ビル電気系統整備工の日々


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著者 : Lee Kino
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