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中英語

*中英語(11世紀から15世紀ごろまで)

ノルマン人とは、ノルマンジー地方に住むバイキングの一派である。彼らもゲルマン人ではあるが、4世紀のゲルマン民族大移動の時には北欧に留まって動かず、8世紀になってから南下を開始した。


彼らは主に北フランスを侵略し、フランス王らと争いを繰り広げたが、やがて妥協が成立し、フランス王の臣下となる代わりにフランス北西部(ノルマンジー)に領地を与えられた。


その地にフランス貴族として暮らすうち、ノルマン人はフランス語やラテン語などのフランス文化を身に付けるようになったが、バイキングの血はフランスの一領主に安住することを許さず、11世紀にはドーバー海峡を渡ってイングランドを征服するに至る。これがNorman Conquestノルマン・コンクエスト(ノルマン人の征服)である。


ノルマン・コンクエストは政治社会のみならず、言語面でも大きな変化をイングランドに与えた。イングランドの支配階級はほとんどフランス語しか話さない人々によって占められることになり、フランス語が支配階級を通じて大量に流入したのである。その結果上流階級の話すフランス系語彙と、中下層階級のゲルマン系語彙の二系統が混在する現在の英語ができあがった。


たとえば同じ「牛」という単語でも、フランス語由来のbeefは食用の牛肉を表し、ゲルマン系のcowは酪農用の牛を表す。これはフランス語を使用していたノルマン貴族は牛肉を食べ、古英語を使っていた庶民がその肉を養っていたことから来た、単語のちがいである。


(同様の例は、他にもmutton – sheep, pork – pigなどがある)

この時期に英語化したフランス語にはpavilion, tennis, umpire, nasty, bribe, gentleなどがある。そのときまでに英語には十分な語彙が存在していたため、新しく入ってきたフランス語は従来の英語の意味を変えたり、変えられたりして定着し、結果として英語の表現力は大きく向上した。例えば判決を下す、の英語は元来doomであったが、それはフランス語のjudgeにとって代わられ、doomは「神による最後の審判」という特殊化した意味へと変化していった。

このように英語を大きく変化させたルマン人であったが、その絶対数は少数であったため、英語そのものが取って代わられることはなかった。これは第二次世界大戦後、日本はアメリカ人によって支配されたため、多くの英語語彙が日本語に入ってきたものの、日本語そのものは消失しなかったのを想像してもらえば理解できるだろう。

 

ノルマン侵略から二世紀を経た13世紀になると英語がイングランドの国語としての地位を確立し始め、百年戦争(注)の敗退などを受けてフランスとの靭帯が切れた14世紀には、ノルマン貴族でさえ英語を母語とするに至った。だがこの間にフランス語から借用された語彙は一万語に及び、その75%が現在まで生き残っている。

古代から中世に至るまで、英語では話し言葉と書き言葉(ラテン語)が分離していたが、ルネサンス(文芸復興;1416世紀)の運動がようやくイギリスにも伝わると、両者を一致させる動きが見られ、チョーサーの『カンタベリー物語』などがかかれた。


このようにしてフランス語と混ざりあった英語は、長い中世を通して次第に統一的な言語へと熟成していったが、世界的にみれば、それはヨーロッパの片田舎の一言語にしか、過ぎなかった。ヨーロッパで通用していたのはラテン語やそれに連なる南欧系諸語(イタリア語、フランス語、スペイン語など)であり、世界的に見ればアラビア語や中国語が、当時の公用語であった。


だが次のエリザベス女王の時代になると、イギリスはスペインの無敵艦隊を打ち破り、一躍世界のヒノキ舞台に踊り出る。そして英語も世界言語への階段を昇り始めるのである。



注)百年戦争

イングランド王となったノルマン貴族は、同時にフランス王の臣下でもあり、フランス王族との婚姻を通してフランスの王位継承権をも得ていた。特にイングランド王・エドワード3世はフランス王シャルル4世の甥であり、シャルルが息子をもうけずに死んだことから、有力な王位継承者であった。

 

しかし王位を継いだのはシャルルの従兄弟であるフィリップ6これを不服としてエドワードはフィリップに宣戦布告した。


戦争は当初イングランドが優勢に進め、クレシーの戦いではイングランドの誇る長弓隊がフランス騎士隊を撃破ポワティエの戦いではフランス王ジャン2世を捕虜とするほどの大勝を重ねた。さらにフランスでは王権が確立しておらず、イギリスに味方するものもいるなど内部分裂の有様であった。


だがイングランドは占領地に圧制を敷いたことから、フランス人の間に反英意識が広まった。そして聖女ジャンヌダルクの登場をきっかけに、フランス勢は結束を固めて戦局を挽回最後にはイングランド軍を駆逐することに成功する。


この戦いによって英仏双方で国民意識が確立され、イングランド王がフランス王臣下となるような錯綜した関係は解消された。そして以後、英仏はそれぞれ独立した近代国家として発展していく。


ちなみにこの戦争は14世紀から15世紀にかけての百年間、戦われたので「百年戦争」と呼ばれるが、実際には休戦やペストなどによって何度も中断があったので、百年間ずっと戦い続けたわけではない。


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