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割り算が始まる

割り算が始まる

 
 さて、さっきの話に、こういう疑問を持った人はいないでしょうか。
 つまり「面積を1個2個って数えるのはいいけど、かけ算にするんなら縦が4個で横が5個だから、面積は20平方個になっちゃうんじゃねえの? でも平方個ってなんだよ」って。なるほど、個数をかけても長さをかけても同じ数になっちゃう、みたいな話でしたっけ。
 うん、なにはともあれ、そんなふうに思うようだったら、あなたは子どもの頃の筆者と同じくらいひねくれ者ですな。よろしい、そこは通ってきた道です。
 実はここで、割り算の考え方が必要になってきちゃうのですよ。
 まさか、ここで割り算が関わってくるとは思わなかった、ですかね。
 なぜ割り算?
 ちょいと遠回りすることになりますが、おつきあいあれ。
 
 まずは、割り算ってなんだろう、ってところから始めなければなりません。
 一般的には、「分ける」っていう印象で扱われることの多い「割り算」ですね。
 たとえば「お菓子が五十六個あります。これを八人で分けます。ひとりいくつお菓子がもらえるでしょう」なんて問題。
 そういう問題でイメージ作って、計算方法を覚えて、あとは「こういう時に割り算を使いなさい」っていう状況をひとつひとつ覚えてゆく。
 たとえば「速度」ですな。
 速度=距離÷時間
 あるいは「濃度」ですな。
 濃度=溶質の質量÷溶液(溶質と溶媒を合わせたもの)の質量 に、百をかけて%にする。
 あるいは電流とか電気抵抗ですな。オームの法則ってやつですな。
 電流=電圧÷抵抗  抵抗=電圧÷電流
 最後の例は、ちょいと微妙な問題をはらみますが、とにかくこんなふうに、なんにも関係のないように思えるいくつものケースで割り算ってのが使われます。ですから、それぞれのケースで覚えてやらなくちゃいけなくなります。
 速さを求める公式とか覚えて、なにをなにで割るんだっけ、という混乱がよく起こるので、覚えやすいようにあんなふうにこんなふうに呪文を作って、それを唱えたりします。
 大変に面倒な上、間違ったら訂正がききにくい方法です。おすすめできません。割り算とはなんであるか、どのように使えばいいかが分かれば、あとはおのずと導けるものなのです。
 だいたいにおいて、「分ける」ことで割り算を作るのはいいんですが、その後で本質的な考え方をとりこぼしてしまうからいかんのです。
 その考え方が、「割合」です。
 
 お菓子を分ける問題に戻りましょう。
 五十六個のお菓子を八人で分けましょう。すると、答えは七個、ですよね。小学生ならみんな、意気揚々と「こたえ 7こ」とか書くことでありましょう。
 ぶっぶー 不正解です。少なくとも、今までの話を踏まえて求められる答えは「7個(こ)」ではありません。小学生なら許しても、大人のあなたは許しません。
 正確な答えは「答え 7個/人」とすべきなのです。さもなければ「答え ひとりあたり7個」です。
 だまし討ちみたいなやり口ですな。だいたい問題に「ひとりあたり何個でしょう」とあるのだから、「ひとりあたり」という表現はいらんだろう、という反発が予想されます。まあ、おっしゃるとおりではあります。問題文がいかんのです。こういう問題文だから、答えが混乱するのです。数字であるところの7さえ正しけりゃいいだろう、と思ってしまうのです。
 でも、そんなことだから大切な部分が見えなくなってしまうのです。その7個には、大事な意味があるのだ、ということを声を大にして言いたい。文字だから声を大きくはできませんが。
 こだわっているのは「ひとりあたり」という言葉です。もっというなら「あたり」の部分です。
 この「あたり」という部分にくっついている思想、考え方、技巧が、「割合」という、ここで重要視しているものだったのでありました。
 つまり、元にある数字を別の数字で割るわけですね。で、問題は、なにで割ったのか、です。数字じゃありませんよ。どういう意味を持っている数なのか、どういうふうに「数えた」数なのか、という点を問題視しているわけです。
 ここでは「人数」ですよね。8という「人数」で割ったのです。人数で割ったから、得られる答えは、「ひとりあたり」の数になるのです。
 当然ですか? 大丈夫ですか?
 じゃあもう一押し。単位のある数で割ったら、答えの単位も元の単位が割られた状態になる、ということ。納得できるでしょうか。非常にあたりまえのことなんですが、ここのところが分かっていない子ども、けっこういるんじゃないかなあ。そういうふうに教えられてない気がするんですよねえ。
 
 割り算をする(最大の)目的は、「1~~あたり」を求めることにあるのです。ここで「~~」は、割る数(割られる数でない方)の、基準になる単位。逆に、そのような数を求めなければならない時には、必ず割り算をすることになるのです。
 たとえば、典型的なのが「速さ」です。学校の問題では「あたり」の表現はあまり使わずに、分かりにくくしてあります。けど、これは典型的「あたり」です。
 たとえば「時速何キロメートルでしょう?」という問題は、「1時間あたりどれくらいの距離(キロメートル)進むでしょう?」というふうに質問されてるのと同じです。ちゃんと「あたり」が入っていますよね? 「速度」を問われているので、そもそも「速度」とはなんなのかを考えてやれば、ちゃんと「あたり」が出てきます。速度とは、一定時間あたりに進む距離のことなんですから。1分あたりに進む距離は「分速」で、1秒あたりに進む距離は「秒速」で、1時間あたりに進む距離は「時速」だと。みんな「あたり」がくっついてます。秒速なら秒数で割ればいいし、分速なら分数で割ればいい。なんか、そんな感じです。
 考え方としては、ですけどね。数学のテストだと、「1時間6分で11キロ進んだ、この時の時速を求めよ」、みたいに回答者を混乱させるためのテクニックを使ってきますから、そういうところに目配りができないと正解にたどりつきません。ま、そこを見破る訓練ってのも、たぶん必要なんでしょうねえ。つまらん受験テクニックだけで終わってないといいのですが。
 
 なんだか目的地からどんどん離れているような気がしてきました。
 えーと、□の個数を数えるのと、長さをかけ合わせて求めた面積では、そもそも単位が違うではないか、という話でしたっけ。
 ああ、そうそう。違うんです。違うけど同じなんです。
 また混乱した話向きになってますが。
 まずは、数の数え方からゆきます。□の数を数える時に、4個と5個をかけた、つもりだったんですよね。そうすると、20平方個なんておかしな数になっちまう。変だなあ、と。
 しかし、ここでかけ合わせた数は、本当に「個」でしたか?
 実はそこのところが間違っていたのです。かけ合わせた一方の数は「列」という単位だったんですよ。ひとまとまりで数える時に、たとえばさっきのケースでは、4列あった、のです。
 じゃあ、もうひとつの数はなんだったのか。
 それは、「1列あたりの個数」だったのです。それが5個/列となります(全部で20個あるのを4列に分けた時の1列あたりの個数、ということでも求められますし、単純に、1列にいくつ並んでいるかを数えても(実は1で割る)求められます。なので、単位は「個」を「列」で割った個/列になるってわけです)。
 で、1列あたりの個数と列の数をかけると、個数が求められます。
 
 おっと、説明なしに大変なテクニックを使ってしまった。
 単位についても約分ができる、ってことなんですが。うん、分数の話をする前にやったらフライングってことになりますよね。ま、これ読んでるのは子どもじゃないだろうからかまわんのかもしれません。
 でもできればきちんとやりたいので、これも一応パスしときます。
 ま、とにかく現段階では「1~~あたり」ってのが出てきたら、「~~」の単位を持っている数字をかけてやると、なにか求められる。その時に「~~」っていう単位は消えてくれるもんらしい、ってことにだけしておいてください。「1時間あたり50円」だったら、たとえばそこに「2時間」をかけてやって、100円っていう答えが出る(時間という単位は消える)。「1ドルあたり50グラム」だったら、そこに「5ドル」をかけてやれば「250グラム」という答えが出る(ドルという単位は消える)。逆に「1グラムあたり300円」だったら、そこに「7グラム」かけてやれば「2100円」という答えが出る(グラムという単位が消える)。ま、そんな感じです。
 
 さて、1列あたり5個で4列。これをかけ合わせて「20個」になりました。
 おやおや、まだ「面積」じゃありませんねえ。
 しかしここで長さから面積を導く考え方が適用されます。つまりここでの「1個」は、ある一定の広さを持っているものなんですね。ということは、ここに「1個あたりの広さ」という考え方が発生してくるのです。
 これまでの考え方では、この「□1個あたりの広さ」は取り決められていませんでした。だから、さらに言えば、この□の一辺の長さが1センチであるかどうかも、どうでもいいことでした。でもまあ、ここでなんらかの広さの単位が決まっていれば、そいつをかけて「面積」が求められる、ってわけです。
 □一個の広さって? 一辺が1センチの正方形だとしたら、1×1平方センチってことでいいじゃないですか。「□一個あたり1平方センチ」をかけて、20平方センチという答えにようやくたどりついたのでした。数としては1をかけても同じ。でも、意味は変わるのでした。
 
 かけ算九九で、そういえば1の段ってのもやりましたっけ。いんいちがいち、いんにがに、いんさんなじけんですなけいぶ。なんだか無駄なことやってんなあ、「1はかけても元の数と同じ」でいいじゃねえか、と思ってました。思ってましたよねえ。きっとあなたも。
 実は別の意味が発生するのだ、なんてこと思いもしませんでした。教えてももらわなかったように思います。
 それとも、教えられたけど忘れたりスルーしたりしてたんでしょうか。
 たぶん最初はそういう思想、あったんでしょう。でも、教えなくちゃならない現場ではそんなことやってられない。パス。ま、そんなところだったんじゃないですかね。相手は小学校低学年で、物事の道理なんて分かっちゃいないんですから。たいてい分かろうとさえしませんな。大人になってもそのまんま、ってやからもけっこう……。いや、まあ、それはいいや。
 いろんな人が、いるもんなんです。
 それこそある「割合」でいるもんなんです。
 
 あれ?
 ここで言ってる「割合」って、単位はどうなってましたっけ?