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かけ算を使って作る新しい概念

かけ算を使って作る新しい概念

 
 実は、かけ算には二種類あります。(そんなものは分け方しだいですがね)
 このへんのこと、たぶんあまり学校じゃ教えていないんじゃないかと思います。
 その二種類とは、
 
 ・ 考え方に割り算が含まれている
 ・ 考え方に割り算が含まれていない
 
 この二種類です。(強引にそう分けます)
 割り算が含まれているというのがどういうことか。そういうかけ算がなんなのかについては、この後で改めてやります。ですから、考え方に割り算が含まれていないかけ算について、ここでは先に書き進めてゆきます。
 まず、代表的なものを紹介しましょう。
 面積! です。
 わー! パチパチぃ!
 
 あれ?
 なんだか盛り上がってないなあ。
 当然ですけどね。面積とか言われたって、面白くもなんともない。小学校の最初の頃に計算の仕方を教えられて、後は覚えた通りにできるかどうかの勝負。底辺かける高さ割る2とかって、呪文のように覚えさせられて、なにが底辺でなにが高さで、縦かける横とどう違うのか、なんてことも分からなくなってくる、ってわけ。
 まあねえ、ここのところの深遠な思想性については、ガキにゃ分からんでしょう。
 面積(に関わるかけ算)というのは、「長さ」という大きさを、「広さ」という新たな大きさに変化させるための、考え方のジャンプ台なのですよ。
 
 まず最初に、「広さ」をどう比べるかを考えてやりましょう。
 面積という概念がまだなくても、感覚的に広いか狭いかはありますよね。で、それを比べるのに、すでに数にする方法を見出した「長さ」を使えそうだ、ってくらいの勘は働くでしょう。
 そこで、長さを測る方法で広さを導こうとするわけですが、さて、これはなかなか簡単じゃない。だいたいにおいて、比較したい「広さ」は、それぞれの形からしてぜんぜん違うものであるだろうからです。
 これじゃ比べようがない。さあ、どうしましょう。
 
「で、どうするんだいゲンちゃん?」
「こいつを使うんさ」
「へ? その板っぺらがどうかしたのかい?」
「見りゃあ分かるだろ。こいつは同じ大きさに作った板っきれさ。夜なべしていっぺえ作ったからよお、こいつを並べてみようってのよ」
「お、相変わらずあったまいいねえ」
 長さを比較する時にも、基準になる長さをいくつ並べられるか、というのが大切でありました(本当はここで直線とか平面とか、そういう細かい話が入るんですが、あえて無視)。ですから、広さを比べる時にも、同じ広さ(基準)を、いくつ並べられるか、というのが比較に使える方法だろう、ってことになるわけですな。
「並べたねえゲンちゃん」
「並んだなあゴンちゃん」
「ところどころはみ出したり、隙間になったりしてるなあゲンちゃん」
「まあ、どっちもどっちで、いいことにしようやゴンちゃん」
 これで「広さ」を比べられるようになった、と。
 
 ちょっと脱線します。
 ここで使った「板きれ」について、どういう形をしているのが好ましいか、ということを考えておくべきなんです。
 面積について正しく扱えるようになっている人ならば、「それは正方形だろう」とすぐに答えにたどりついてしまうでしょう。けど、正方形である必要がどこにあるのだろう、と考えたことはありますか?
 長さを元にして広さを作る時に使う形について、考えられる条件は「隙間なく埋められる」「形が安定している」「そもそも広さという大きさを持っている」といったところです。で、実はこの考え方で最も適しているのは、ひょっとして「正三角形」なんじゃないかと思えるんですよ。
 実は正方形という形には、きわめて面倒な条件がひとつ含まれています。それは、内角が(すべて)直角であること、です。一方、正三角形の方は、同じ長さをみっつ組み合わせて作れば勝手に正しい形が出来上がります。圧倒的に簡単です。たとえば一辺が1センチの正三角形の面積を1トリセンチとか決めちゃって、あとはそれがいくつ並べられるかで広さを決めたらどうでしょう?
 原始時代的には、たぶんそれでもいけたはずです。
 なのに現実の「面積」は、正方形を基準にして作られる数値なのです。
 理由はいくつか考えられるのですが、……こんな感じじゃないでしょうか。
 広さを比較したいと思った最初の動機は、田畑の広さの問題だったのではあるまいかと想像しています。狩猟生活だったら、あまり広さを比較する場面には遭遇しません。農耕で生活するようになって初めて、具体的な広さの比較が必要になったのです。
 そうなった時に、きっと畑は四角形を基本としたものになったでしょう。苗を真っ直ぐ植えていって、その列の数が広さに対応していたかもしれませんし、もしそうなら、畑は細長い四角形を積み上げていった形になるでしょう。正三角形を基準とするやりかたでは、必要とする広さとイメージ的にもうまく合わせられません。
 苗を植えた列の数と、一列に植えた苗の数が、広さを測る目安になるでしょう。それは、四角形を元にした広さの考え方です。だからきっと、四角形同士の広さを比べる方法が必要とされることになるのです。
 それが、正方形を基本とした「面積」の求め方として発達していったのではないでしょうか。
 あくまで想像に過ぎませんけれど。
 さらに四角形にして良かったことが出てきます。それは、「かけ算を使えば数えやすい」ということなのです。ちらっと並べてみましょう。順番に数えるより、数を知るのが楽ですよね。
 
 □□□□□
 □□□□□
 □□□□□
 □□□□□  4×5=20 これを20□(にじゅっしかく)と呼ぶことにしよう。
 
 さっき○だったのを□にしてみました。面積を考えるのなら本当は互いの□がくっついてなくちゃいかんのですけど、諸般の事情によりこんなもんで。くっついてるつもりでお考えあれ。
 さて、面積なんですが、すでに書きましたとおり、本当は基準になる広さがいくつあるかを「数える」のが考えの基本です。たとえば日本では、広さを測る基準に「坪」っていう単位がありますよね。これはまさしく、一坪の大きさの板なりなんなりが、いくつ並べられるかを表したもの、ということになります。
 で、さらに言えば一坪は、一間(いっけん)と呼ばれる長さで作った正方形のことだったりするんですが、あまりそんなふうには思わないんじゃないですかね。長さと広さは、まったく別のものなのですからして。
 ん?
 いや、まったく別ってことないんじゃないの? と思っちゃいますよね。
 □が二十個並んださっきの図を眺めてみると、あることに気づきます。それは、□の個数を数えている時に、□の並んだ辺の長さと同じになってること、です。つまり、□ひとつの一辺の長さを基準として、それを1なんちゃらと考えるなら、横は5なんちゃらで、縦は4なんちゃら。それは個数といっしょ。縦の個数と横の個数をかけるのと、縦の長さと横の長さをかける、どっちも同じ答えが出てきます。
 ただ「なんちゃら」じゃ分かりにくいかな。ここは大人の事情でセンチということにします。
 で、4センチと5センチをかけて出た答えが20平方センチ。
 おっと、いきなり「平方センチ」とか出てきちゃいましたねえ。みんな小学校で教わっている広さの単位「平方センチ」。なんじゃそりゃ。cとmを並べて肩の上に小さい2をくっつけた、あの「平方センチ」。なんじゃそりゃ。意味不明?
 さあ、ここがキモですぞ。
 センチという単位を持つ「長さ」をふたつかけ合わせて作られた新たな数、実はこの時に、長さから広さへの、意味の変化が生じたのです。そうして、そのことを表すために、ただの「センチ」じゃなくて「平方センチ」という新しい言葉に変わったのです。そうして「平方」ってのは、「同じものを二回かけ合わせた」っていう意味だったのです。センチとセンチをかけたから平方センチということであったのです(さらに言うなら、「方」ってのは直角を意味してもいます。互いに直角な長さを二回かけたわけですな)。
 こんなふうに、なにかとなにかをかける時には、単位が変わるのです。それぞれの数字が持っている「単位」同士もかけ合わさらなければならないのです。
 つまりかけ算によって、新しい意味が生じます。
 面積ではなくて体積もありますよね。体積は、一辺が1の立方体がいくつ並べられるかを数えることで求めます。これもかけ算で数えるので、単位は「立方センチメートル」とかになるわけですね。立方ってのは、三回同じものをかけた、っていう意味。cとmを並べた肩に小さく3ってくっつける、その3が「立方」です。
 長さから面積ができて、さらに体積ができる。こんな具合に、数をかける時には、新たな概念が必要なのですね。面積みたいに同じ単位をかけ合わせるだけでなく、別の単位をかけ合わせるケースも出てきます。そのたびに、新たな概念が登場してくるってわけです。
 ただし……。
 
 さあ、割り算が関係したかけ算の話に踏み込んでゆきますぞ。
 やれやれ、であります。