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18.最後の特定調停

無い脳味噌をフル回転させ、猫さんにアドバイスを受けながら、訴状は何とか出来上がった。

 

しかしここで大きな問題が発生した。

 

提訴するにはお金が掛かるのだ。ソレも裁判所へと納金する費用。

 

S社・N社に対して1000万円オーバーの過払い金を請求する。

 

その請求額に応じて、裁判所への納金額が決まるのだが、ウチの場合、1社あたり10万円を越える。総額で20万円だ。

 

企業だったら20万円の現金くらい、常時持っているだろうと思う人は、今までとても恵まれた環境で過ごして来られたのであろう。

 

債務整理をしようと決意した時から、会社の全ての借金の返済を止めた。

 

普通ならコレで資金繰りも楽になると思うだろうが、仕事もゼロに近い状態だったから、入ってくるお金も無い。

 

特に日銭が稼げる商売ではない、不動産・建築業は、入れば高額だが、タイミングによっては1ヶ月入金予定が無いなんてザラにある。

 

結果、20万円を用立てる為に、特定調停をもう1回、延ばしてもらい、次の期日前に提訴して、その足で特定調停を取り下げる事になった。

 


前回の調停委員の独り言を参考に、父・私・母の3人だけで調停に望んだ。


「申し立て人が全員そろっていないようですね。調停を成立しようという気があるのでしょうか?」


N社の担当者が、鬼の首を取ったような勢いで、調停委員に食い下がった。

 

「これじゃ、和解なんて出きるわけない。不調にして下さいよ」

 

「N社さんはこの前の山本氏から提示された支払い計画案について考えて来てくれましたか?」

 

「ウチは約定通りの支払いしか認められないって、最初から言っているでしょ」

 

N社の担当者は、顔ほ赤くし、少し興奮気味だった。

 

コイツ、今日で不調にするつもりだな。

 

私は用意してきた今日の切り札を出した。

 

「あれから、少しでも約定通りの返済に近づけられないか検討してみたのですが、N社さんの希望する金額には届かないのですが、前回の返済額よりは多く返せる返済計画案を考えて来ました」

 

勿論、デタラメな返済計画案である。

 

こちら側は努力して歩み寄る姿勢を見せて、調停委員に「N社さんも帰って検討してみて下さい」と言って貰う為だけに作ったモノだ。

 

N社は抵抗したものの、全員が揃っていないという事と、こちら側から新しい提案が出たという事で、再度検討して次回に結審するという事になった。

 

S社にも同様に対応し、次回期日を1ヶ月後に決定した。

 

 

調停室を出た廊下で、調停委員が

 

「私達の出きる事はここまでだよ。これから大変だろうけど頑張ってね」

 

世間一般の常識というモノであれば

 

借りた金を返せないヤツが悪いのであって、その行為に対しては誰もが「なんとかして返しなさい」と言うだろう。

 

しかし、状況が揃えばソレが逆転する場合が存在し、応援してくれる人までいるのだ。

 

最初に簡裁に来た時は、緊張と恐怖からか、厳格で冷たいイメージだった。法律とはそういうモノで、法を扱う人は気持ちや思いなど入り込む余地などない、冷血な人なんだろうと思っていた。

 

しかし、ココにも人へ対する思いや、弱者に対する慈悲の心が存在した。

 

 

調停委員が差し出した手は力強くて、暖かかった。


 


19.過払い訴訟・提訴

訴え提訴の手数料(裁判所への納金)が調達出来たので、東京地裁へとS社・N社に対して過払い金の請求訴訟を提訴しに行った。

 

正式には「不当利得返還請求」

 

不当に取りヤがった金を返せよ、というシンプルな訴えだが、「不当に取った」という事を証明しなければならないので、コレが結構大変なのだ(当時)

 

当時の高利で貸付ける金融機関は、出資法での上限金利29.2%ギリギリの金利を取っていた。

 

コレはコレで法律に定められた値だから、上回らなければ違法では無い。

 

しかし貸金業者には「利息制限法」というもう一つ、金利を制限した法律があり、

 

100万円を越える         15%
100万円未満~10万円以下  18%
10万円未満                20%

 

コレを上限とする利息は取ってはダメよという法律がある。

 

原則的に貸金業者は利息制限法の利率を厳守しなければならないのだが

 

・借手が2つの法律がある事を知っているにも関わらず、出資法以内の利率でいいよっと言った場合。

・借手が利息や元金を支払った瞬間に領収書を渡す。

・領収書に詳細事項を記入する。

・貸し金の契約書を発行しているか。

 

などの特例条件を全てクリアしていれば利息制限法以上、出資法未満の利息を取ってもイイよという法律がある。

 

(「みなし弁済」というが、平成22年6月に撤廃)

 

当時、商工ローンは「みなし弁済だ」っと、主張し、過払い金など存在しないと全面的に対決姿勢だった。

 

たから、「みなし弁済じゃねーべ」っという証拠を出さないといけないのだが、まだ裁判所では、ソレがみなし弁済かどうかという結論(最高裁判決)が出ていなかったので、簡単な作業では無かった。(コレが当時、弁護士などがヤリたがらなかった理由の一つ)

 

事実、裁判所に訴状を提出した時に

 

「ん?弁護士さんは付けないの?商工ローン相手に?」

 

っと言われた。

 

それでも、提出書類や印紙などに不備が無ければ、裁判所としては受付しないといけないので、事務的に受け付けて貰えた。

 

日本は公的な手続き・申請は原則、全て本人申請だ。

 

裁判などによる弁護士の立場は、あくまでも申請人本人の代理人として行う業務であり、裁判だからといって、必ず弁護士が関わらないとダメだという事では無いのだ。


そして、その足で簡裁へと向かい、特定調停の取り下げをした。

(東京地裁と東京簡裁は隣接していて、地下道でも繋がっている。※現在は特定調停を取り扱う部署が錦糸町に移転している。)

 

 

この日から、対商工ローンとの戦いの第二章が始まった。

 

そして、ソレは想像以上に壮絶な戦いだった。


20.第一回口頭弁論

今日はS社との第一回目の裁判。

 

正確には「第一回口頭弁論」という。

 

裁判は訴えた方が傍聴席から見て、左側。

 

よって、当たり前だが反対側には被告(裁判では訴えた方が原告。訴えられた方を被告と呼ぶ)

 

第一回目は被告は書面だけで出席しなくても良い。

 

案の定、S社は誰も来ず、答弁書だけが提出された。

 

被告の主張
1.原告の主張を認めない。
2.本件の被告の主張は次回期日までに、詳細を明らかにする。

以上


要は全面的に戦うという事だ。


「原告、訴状陳述という事でよろしいですね?」


30代の女性の担当裁判官が言った。

 

本来なら法廷で原告側が提訴した内容を口頭で発言する。

 

しかし、裁判の時間を短縮する為に、訴状陳述=訴えたい事は訴状通りでいい という事で省略する。


「はい。訴状通りです」


ここまでは猫さんと打ち合わせ済みだ。


「では、次回期日を入れましょう。」


裁判官のスケジュールと我々のスケジュールを照らして、良い日時を決定する。


「それでは、次回は○月○日の10時30分という事で」


「原告は、弁護士に依頼しないのですか? S社相手に本人訴訟はキツイですよ。」


裁判官からも言われた。


「経済的理由で弁護士さんには依頼出来ないのです。相談という形でアドバイス頂いている弁護士さんはいます」


「そうですか。原告の自由ですから、これ以上は言いませんが、覚悟はしておいた方がいいですよ」


そう言って、第一回目は終了した。


掛かった時間は5分。

 

猫さんからは聞いていたが、第一回目は本当にこんなに簡単終わるものなんだと実感した。

 

これじゃ、日本の裁判が長く掛かるのも分かる気がする。

 

片道2時間かけて、本番5分で、また2時間かけて帰る。

 

「こんなんじゃ、俺は来なくても良かったな」

 

原告筆頭で主債務者の代表取締役でもある父が言った。

 

「何言ってるんだ!アンタが原因の借金での裁判だろ?」

 

連帯保証人の取引先社長が怒鳴った。

 

「専務(私)の苦労も少しは分かったらどうだ?」

 

特定調停から連帯保証人さん達には、日時の調整や、書面、主張など、私から一人一人説明に行っていた。

 

最初は

 

「大丈夫なのか?」

 

っと、不安気で、私に対しても良い感情を持っていなかったが、特定調停から訴訟と進むにつれ

 

「大変だけど頑張ってな」

 

っと、励ましてくれるようになっていた。

 

それまで犬猿の仲であった弟も、私の提案を聞き入れ、仕事を休んで特定調停も裁判も出席してくれていた。

 

「アンタは自覚を持たなきゃダメだ。人にサインさせる時だけ「迷惑かけないから」と頭を下げただけで、尻拭いは全て専務にやらせて・・・・最低な親だぞ」


「俺は裁判なんかも分からないし、コレは息子が勝手に調べてやっている事で、俺にはまったく相談無しで・・・」


「もう親父は喋らなくていい!大変だけど兄ちゃん頼むよ」


父が人任せで、責任逃れするのは、今始まった事ではないし、既に父の言葉は私には聞こえないようになっていたので、私は苦にもならなかった。

 

ただ、連帯保証人さん達が分かってくれたダケで、私は十分満足だった。


その後のN社の第一回口頭弁論も全く同じ内容だった。

 

そして担当裁判官(年輩の男性)から

 

「弁護士には依頼しないのか?」

 

っと、言われた。


やはり、商工ローン相手の過払い訴訟はそれだけ難しいものなのだろうか?

 

日々、案件を扱っている東京地裁の裁判官でさえ「弁護士だって難しい」と言っている。

 

そんな相手に素人の私か立ち向かえるのだろうか?

 

不安を抱えたまま、それでも後戻りは出来ない状況に押し潰されそうだった。

 

 


21.商工ローンの反撃

2回目の口頭弁論。


S社は意外にも、弁護士ではなく社員が法廷にやってきた。


主張はあくまでも「みなし弁済」。


但し、今回はその立証資料は間に合わなかったので、次回に提出するという事で、裁判官(女性)から軽いお叱りを受けながらも、10分程度で終わった。

 

その反面、N社が送り込んで来たのは顧問弁護士。


それも、相当のヤリ手の弁護士だ。


N社の主張は「保証料と手数料は利息ではない」と「取引は個々であり、一連性はない」という事だった。

 

N社はまず、借入に際してN保証という保証会社を間に入れる。


そして、保証料と称して高額な金員ブラス事務手数料を借入額からその都度、差し引かれる。


ソレらとN社が利息と称して差し引く金額を足すと、借入額の29%ピッタリの額になる。

(平成12年以前は40.2%)


コレは他に行われている裁判で、「保証料と事務手数料も利息の一部」という地裁判決が出ているが、N社は上告し最高裁で戦っている最中だったので、強気の姿勢だ。


実際に借入当時、ウチの担当者はN社とN保証の2つの名刺を持っていた(コレも証拠)

 


また、「個々の取引」の主張は、300万円を借りて、4ヶ月後の期日に決済をする時、形式上は300万円を一旦、返してから再度300万円を融資するという形になっていた。


しかし、実際にはこちらが期日に次の借入の利息分のみを当座に入金して、不足分(300万円ー入金済み利息分)をN社がウチの当座に振り込み、そしてその日の期日の手形をN社が決済(取り立て)するといった、明らかに継続している取引だった。


連続性のある取引だと、利息制限法の引き直し計算も連続して計算出来るのだが、一回ずつの個々の取引となると、その都度の引き直し計算となるので、引かれる金額も少ない。

 

N社の主張に次回期日までに反論書面(準備書面)を提出するというコトになり、10分程度で終了した。

 

 


S社は一貫して「みなし弁済だから利息制限法なんて関係ない」という主張。


N社は「保証料は利息ではない。」と「連続した取引ではなく個別の取引。」という主張。

 

S社の方が強気なのだが、N社は強かさを持っている。


N社に対しては、2つの事を覆す証拠を出さなければならず、少々厄介だ。


また、S社の怠慢さも何か意図があるようで気になる。

 


初めて相手の戦法と、攻撃力を目の当たりにして、不安は加速して行った。


これからどうなるのだろう。


本当に私で勝てるのだろうか?


もし、負けたら・・・・


でも、引き下がる訳にはいかない。


ここで辞めたらその瞬間に連帯保証人さん達に迷惑が掛かる。


もう、絶対に後戻りは出来ないんだ。

 

でも・・・・・

 


帰りの電車が地元に近づく度に、その不安は増していった。


22. N社への準備書面

N社との3回目以降、焦点は「保証料&事務手数料」と「連続した取引か個別取引か」となった。


私らの主張を当時、裁判に提出した準備書面から書き出してみた。


※(読むと面倒なので、飛ばしてもストーリーには差し支えありません(笑)

 


【保証料&事務手数料】

 

1.被告の計算根拠には、保証料および事務手数料が利息として加算されていない。

 

2.被告は被告の子会社であるN保証の名義で「保証料・事務手数料」を徴収しており、これはN社の利息制限法の上限利率の制約を受けないと主張しているが、この点について、N保証がN社の取立を行なう一部門に過ぎないことを認定した各判決が、実態を直視し、利息制限法3条のみなし利息とする判断が続いている。

 

3.したがって、利息制限法による計算は、保証料、事務手数料を利息として加算すべきである。
    

【取引の連続性】

1.被告は「手形貸付は一回ごとに別個独立に成立している」とし、取引の連続性を認めていないが、原告が貸付を受けた際には、それが1回ごとの個別契約であるという認識はない。

 

2.当初の貸付段階で、利息を当座に入金するならば手形の切り返しによって継続することができる、という被告の説明を受けて融資が開始された。資金繰りに窮したからこそ借入をした原告は、そのうちに資金繰りが好転することを期待して、当面金利だけ支払えばよいということに納得して借入れをしたのである。もし仮に、一回目の手形決済予定の4ケ月先に一括決済である、と聞かされているならば、そもそも借入を始めない者が大多数である。

 

3.また、もし一回で終ることを予定した取引であれば、今後の貸し増しに備えた極度額を定めること も、5年間という基本契約の期間を定めることもなく、一回だけ契約を交わし、その一回で終了す る例が多いはずである。

 

4.当初の基本契約書には、極度額と期間を定めて、取引を開始する。継続を予定するからこそ、この 形で契約が為され、また、別個独立ではないからこそ、極度額が全体について決められているので ある。

 

5.決済日以前に債務者に交付させておいた新しい手形を元に被告は天引した金額を当座に入金し、他 方、債務者は当座の口座に利息を入金しておき、決済日にその合計額が決済される、という形で、 事実として連続している。従って、利息を支払って借り換えを行なう形態の一つと考えられる。 当座の口座に同一日に入出金をする被告のやり方については、目の前で現金を行き来させても別個 の貸付とすることはできないとされること(大阪地裁平成2年1月19日判決 判例タイムス73 8号160頁)と同様、同一の貸借であると解される(借り増し、借り換えについては後述)。

 

6.上に見たとおり、一連の貸付であることは、被告が意図的に別個であるという扱いをしようとして 複雑化しているにも拘らず、明らかである。


【まとめ】

 

取引経過を被告提出のものと合致させ、それに上記2項の根拠にしたがい保証料・事務手数料を加え利息制限法に引き直して再度計算したところ、別紙の計算書のとおり、過払い金額は○○○○円となる。


 



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