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16.特定調停・第一回目

特定調停はS社・N社とも別々に行う。

 

但し、期日は同日となるので、横須賀から霞ヶ関まで行く我々にとって、非常に便利ではあった。

 

しかし、原則的に全ての申し立て人が出席する事が必要なので、父や私を含め、連帯保証人さん達にも同席してもらう事になる。

 

そういった意味でも月1回で済むのは楽だ。
(調停は申し立て案件に対して原則、月1回)

 

第一回目の調停日は、申し立て人と調停委員の顔合わせ的なモノと、面接のようなモノだ。

 

本当に調停を進めてもいいのかどうかを決める場でもある。

 

また、被告(申し立てられた側はこう呼ばれる)は第一回目は書面、若しくは電話でもOKだ。

 

よって、我々の第一回目はS社・N社の両方の案件に対しての面談となる。

 

「商工ローン相手に調停は無理だよ」

 

調停委員の第一声はコレだった。

 

「アイツらは調停には絶対応じないから」

 

このままでは調停が不調に終わってしまうと考えた私は

 

「実はまだ全ての計算が終わっていないのですが、2社とも過払いが出るのです。だから計算が終わり次第、訴訟に切り替えるつもりです。しかし、それまで預けてある手形の期日が来てしまい、それを事前措置で止めて手形を無効にしてから訴訟にしたいと考えています。」


私はありのままの作戦を調停委員に話した。

 

手形はその性質上、期日が過ぎるとただの紙切れになる。ソレが今回の特定調停・事前措置をヤル真意だった。

 

調停委員は資料の金銭消費貸借契約書の日付けを確かめ


「確かに、これだけ長く借りていれば過払いになる可能性は高いね・・・・」

 

A調停委員はB調停委員にゴソゴソと耳打ちをした。
(調停は2名の調停委員と担当する裁判官がいる)

 

「よし、分かった。調停続行として期日を決めよう。相手が何を言ってきても、調停委員の権限で続行すると伝えるから。」

 

それまで毅然とした態度だった調停委員の顔がゆるみ


「コイツらに今まで我々も嫌な思いをさせられたから、ここで一発、ギャフンっと言わせたいしな(笑)」

 

2人の調停委員はニコニコと笑い


「でも、大変なのはコレからだからね。今日は個人として言っているけど次回からは調停委員としての立場で発言しなければならないから、ちゃんと筋が通るようにしてきてよ」


私は差し出された手を両手で握り

 

「ありがとうございます。本当に感謝します」

 

っと、下を向いて流れる涙を隠した。


ここでも風が吹いていた。


裁判所内でも商工ローンに対して態度が悪いという「風」が吹いていたのだ。

 


17.特定調停・第二回目

ウチは和解するつもりはありません」

 

S社の答えは分かっていた。

 

「でも、他でも同じような裁判ヤラれているでしょ?」

 

調停委員も食い下がる。

 

「まだ裁判の結果はどれも出ていない。今の段階でウチは違法行為をしているという事にはならないでしょ?約定通り支払えなくなったら、契約書通りにウチは回収しますよ」


「兎に角、頭ごなしに和解しないと言わずに、もう少し考えて下さい。でないと、調停の意味が無くなってしまう」

 

苦しいながらも調停委員も意地を見せている。


「次回期日までに双方、歩み寄った提案を考えて来て下さい」

 

S社は憮然として顔をして渋々、調停の続行に応じた。

 


その後のN社も同じだった。

 

 

その日の調停の終了後、調停委員が話しがあるからと私だけを呼び止めた。

 

「あれじゃぁ、引き延ばすにも後1回が限界かもしれないよ」

 

「何とか、頑張ってみます」

 

「今から個人に戻っての独り言だけど、調停は和解にしろ不調にしろ関係者全員が揃っていないと成立しないんだよなぁ」

 

そう言い終わると調停委員はニヤっと笑った。

 

次回期日は欠席者を出せということだった。

 

何も言わず深くお辞儀をして簡裁を後にした。

 

両社に預けてある手形の最後の期日は約1ヶ月半後だった。

 

だから最低でも後1回は調停を継続させなければならない。

 

訴訟も初めてのことで、どうなるかまるで検討も付かない。

 

弁護士を雇うお金も無いから、自分で戦わなくてはならない。

 

猫さんも他の相談者を見なくてはならないから、私一人に時間を裂くわけにはいかない。

 

次の調停期日までに訴状を作って、もう1回だけ期日を入れてもらい、その間に提訴して調停を取り下げるしかなかった。

 

猫さんから貰った過払い訴訟の資料を元に、その日から初めての訴状作りが始まった。

 

 


18.最後の特定調停

無い脳味噌をフル回転させ、猫さんにアドバイスを受けながら、訴状は何とか出来上がった。

 

しかしここで大きな問題が発生した。

 

提訴するにはお金が掛かるのだ。ソレも裁判所へと納金する費用。

 

S社・N社に対して1000万円オーバーの過払い金を請求する。

 

その請求額に応じて、裁判所への納金額が決まるのだが、ウチの場合、1社あたり10万円を越える。総額で20万円だ。

 

企業だったら20万円の現金くらい、常時持っているだろうと思う人は、今までとても恵まれた環境で過ごして来られたのであろう。

 

債務整理をしようと決意した時から、会社の全ての借金の返済を止めた。

 

普通ならコレで資金繰りも楽になると思うだろうが、仕事もゼロに近い状態だったから、入ってくるお金も無い。

 

特に日銭が稼げる商売ではない、不動産・建築業は、入れば高額だが、タイミングによっては1ヶ月入金予定が無いなんてザラにある。

 

結果、20万円を用立てる為に、特定調停をもう1回、延ばしてもらい、次の期日前に提訴して、その足で特定調停を取り下げる事になった。

 


前回の調停委員の独り言を参考に、父・私・母の3人だけで調停に望んだ。


「申し立て人が全員そろっていないようですね。調停を成立しようという気があるのでしょうか?」


N社の担当者が、鬼の首を取ったような勢いで、調停委員に食い下がった。

 

「これじゃ、和解なんて出きるわけない。不調にして下さいよ」

 

「N社さんはこの前の山本氏から提示された支払い計画案について考えて来てくれましたか?」

 

「ウチは約定通りの支払いしか認められないって、最初から言っているでしょ」

 

N社の担当者は、顔ほ赤くし、少し興奮気味だった。

 

コイツ、今日で不調にするつもりだな。

 

私は用意してきた今日の切り札を出した。

 

「あれから、少しでも約定通りの返済に近づけられないか検討してみたのですが、N社さんの希望する金額には届かないのですが、前回の返済額よりは多く返せる返済計画案を考えて来ました」

 

勿論、デタラメな返済計画案である。

 

こちら側は努力して歩み寄る姿勢を見せて、調停委員に「N社さんも帰って検討してみて下さい」と言って貰う為だけに作ったモノだ。

 

N社は抵抗したものの、全員が揃っていないという事と、こちら側から新しい提案が出たという事で、再度検討して次回に結審するという事になった。

 

S社にも同様に対応し、次回期日を1ヶ月後に決定した。

 

 

調停室を出た廊下で、調停委員が

 

「私達の出きる事はここまでだよ。これから大変だろうけど頑張ってね」

 

世間一般の常識というモノであれば

 

借りた金を返せないヤツが悪いのであって、その行為に対しては誰もが「なんとかして返しなさい」と言うだろう。

 

しかし、状況が揃えばソレが逆転する場合が存在し、応援してくれる人までいるのだ。

 

最初に簡裁に来た時は、緊張と恐怖からか、厳格で冷たいイメージだった。法律とはそういうモノで、法を扱う人は気持ちや思いなど入り込む余地などない、冷血な人なんだろうと思っていた。

 

しかし、ココにも人へ対する思いや、弱者に対する慈悲の心が存在した。

 

 

調停委員が差し出した手は力強くて、暖かかった。


 


19.過払い訴訟・提訴

訴え提訴の手数料(裁判所への納金)が調達出来たので、東京地裁へとS社・N社に対して過払い金の請求訴訟を提訴しに行った。

 

正式には「不当利得返還請求」

 

不当に取りヤがった金を返せよ、というシンプルな訴えだが、「不当に取った」という事を証明しなければならないので、コレが結構大変なのだ(当時)

 

当時の高利で貸付ける金融機関は、出資法での上限金利29.2%ギリギリの金利を取っていた。

 

コレはコレで法律に定められた値だから、上回らなければ違法では無い。

 

しかし貸金業者には「利息制限法」というもう一つ、金利を制限した法律があり、

 

100万円を越える         15%
100万円未満~10万円以下  18%
10万円未満                20%

 

コレを上限とする利息は取ってはダメよという法律がある。

 

原則的に貸金業者は利息制限法の利率を厳守しなければならないのだが

 

・借手が2つの法律がある事を知っているにも関わらず、出資法以内の利率でいいよっと言った場合。

・借手が利息や元金を支払った瞬間に領収書を渡す。

・領収書に詳細事項を記入する。

・貸し金の契約書を発行しているか。

 

などの特例条件を全てクリアしていれば利息制限法以上、出資法未満の利息を取ってもイイよという法律がある。

 

(「みなし弁済」というが、平成22年6月に撤廃)

 

当時、商工ローンは「みなし弁済だ」っと、主張し、過払い金など存在しないと全面的に対決姿勢だった。

 

たから、「みなし弁済じゃねーべ」っという証拠を出さないといけないのだが、まだ裁判所では、ソレがみなし弁済かどうかという結論(最高裁判決)が出ていなかったので、簡単な作業では無かった。(コレが当時、弁護士などがヤリたがらなかった理由の一つ)

 

事実、裁判所に訴状を提出した時に

 

「ん?弁護士さんは付けないの?商工ローン相手に?」

 

っと言われた。

 

それでも、提出書類や印紙などに不備が無ければ、裁判所としては受付しないといけないので、事務的に受け付けて貰えた。

 

日本は公的な手続き・申請は原則、全て本人申請だ。

 

裁判などによる弁護士の立場は、あくまでも申請人本人の代理人として行う業務であり、裁判だからといって、必ず弁護士が関わらないとダメだという事では無いのだ。


そして、その足で簡裁へと向かい、特定調停の取り下げをした。

(東京地裁と東京簡裁は隣接していて、地下道でも繋がっている。※現在は特定調停を取り扱う部署が錦糸町に移転している。)

 

 

この日から、対商工ローンとの戦いの第二章が始まった。

 

そして、ソレは想像以上に壮絶な戦いだった。


20.第一回口頭弁論

今日はS社との第一回目の裁判。

 

正確には「第一回口頭弁論」という。

 

裁判は訴えた方が傍聴席から見て、左側。

 

よって、当たり前だが反対側には被告(裁判では訴えた方が原告。訴えられた方を被告と呼ぶ)

 

第一回目は被告は書面だけで出席しなくても良い。

 

案の定、S社は誰も来ず、答弁書だけが提出された。

 

被告の主張
1.原告の主張を認めない。
2.本件の被告の主張は次回期日までに、詳細を明らかにする。

以上


要は全面的に戦うという事だ。


「原告、訴状陳述という事でよろしいですね?」


30代の女性の担当裁判官が言った。

 

本来なら法廷で原告側が提訴した内容を口頭で発言する。

 

しかし、裁判の時間を短縮する為に、訴状陳述=訴えたい事は訴状通りでいい という事で省略する。


「はい。訴状通りです」


ここまでは猫さんと打ち合わせ済みだ。


「では、次回期日を入れましょう。」


裁判官のスケジュールと我々のスケジュールを照らして、良い日時を決定する。


「それでは、次回は○月○日の10時30分という事で」


「原告は、弁護士に依頼しないのですか? S社相手に本人訴訟はキツイですよ。」


裁判官からも言われた。


「経済的理由で弁護士さんには依頼出来ないのです。相談という形でアドバイス頂いている弁護士さんはいます」


「そうですか。原告の自由ですから、これ以上は言いませんが、覚悟はしておいた方がいいですよ」


そう言って、第一回目は終了した。


掛かった時間は5分。

 

猫さんからは聞いていたが、第一回目は本当にこんなに簡単終わるものなんだと実感した。

 

これじゃ、日本の裁判が長く掛かるのも分かる気がする。

 

片道2時間かけて、本番5分で、また2時間かけて帰る。

 

「こんなんじゃ、俺は来なくても良かったな」

 

原告筆頭で主債務者の代表取締役でもある父が言った。

 

「何言ってるんだ!アンタが原因の借金での裁判だろ?」

 

連帯保証人の取引先社長が怒鳴った。

 

「専務(私)の苦労も少しは分かったらどうだ?」

 

特定調停から連帯保証人さん達には、日時の調整や、書面、主張など、私から一人一人説明に行っていた。

 

最初は

 

「大丈夫なのか?」

 

っと、不安気で、私に対しても良い感情を持っていなかったが、特定調停から訴訟と進むにつれ

 

「大変だけど頑張ってな」

 

っと、励ましてくれるようになっていた。

 

それまで犬猿の仲であった弟も、私の提案を聞き入れ、仕事を休んで特定調停も裁判も出席してくれていた。

 

「アンタは自覚を持たなきゃダメだ。人にサインさせる時だけ「迷惑かけないから」と頭を下げただけで、尻拭いは全て専務にやらせて・・・・最低な親だぞ」


「俺は裁判なんかも分からないし、コレは息子が勝手に調べてやっている事で、俺にはまったく相談無しで・・・」


「もう親父は喋らなくていい!大変だけど兄ちゃん頼むよ」


父が人任せで、責任逃れするのは、今始まった事ではないし、既に父の言葉は私には聞こえないようになっていたので、私は苦にもならなかった。

 

ただ、連帯保証人さん達が分かってくれたダケで、私は十分満足だった。


その後のN社の第一回口頭弁論も全く同じ内容だった。

 

そして担当裁判官(年輩の男性)から

 

「弁護士には依頼しないのか?」

 

っと、言われた。


やはり、商工ローン相手の過払い訴訟はそれだけ難しいものなのだろうか?

 

日々、案件を扱っている東京地裁の裁判官でさえ「弁護士だって難しい」と言っている。

 

そんな相手に素人の私か立ち向かえるのだろうか?

 

不安を抱えたまま、それでも後戻りは出来ない状況に押し潰されそうだった。

 

 



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