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15.手形の止め方

特定調停と同時にもう一つ、手を打っていた。

 

それは当座がある銀行に対して指定手形の決済の無効の手続きだ。

 

コレは「裁判所から手形決済差し止め命令が出ているのだから、万が一、その手形が回って来ても決済するなよ」という手続きだ。

 

正直、コレは特定調停よりも大変だった。

 

まずは銀行に説明をしなければならず、「特定調停をしている」というだけで金融機関への信頼度はガタ落ちになる。当座も解約されてしまう恐れもある。

 

また、止める手形の1枚に対して1枚の申請書となるので、数十枚ある手形を止めるのに手形と同じ枚数の申請書が必要だった。

(実はコレが一番大変だった・・・)

 

田舎の支店では殆ど、取り扱った事のない事例だったので、担当者は副支店長が対応してくれたが、本部とのやりとりをしながらの手続きとなった為、時間も掛かった。

 

「申請通りの手形であれば止められますが、裏書きなどされて第三者からの取り立てという事になると、ソレが善意か悪意かという判断が出来兼ねますので、当行としてはその手形を止める事は出来ません」

 

要は、S社やN社から直接回ってきた手形なら止められるけど、両者が第三者に手形を譲って、その第三者が事情を知らずに回して来たら、取り立てを止める事は出来ないという事だ。

 

正直、大した効力があるとは思えなかったが、手探り状態で始めた事なので、出来る事は全てヤっておきたかった。

 

案の定、前記のN社の脅し行為の際、裏書きされた手形が第三者(大手銀行)から回ってきた時、副支店長から大慌てで電話が掛かってきた(笑)

 

私はどうしても当座を解約したかった。

 

だから副支店長に最終に切った手形の期日が過ぎた時点で当座は解約されると聞いた時には、この手続きをやった甲斐があったと思った。

 

しかし父はどうしてもこの当座を守りたかった。

 

既に借入先全ての返済を止めている為に他の当座は全部解約されていた。

 

この銀行だけが借入のないところだったので、唯一残っている当座だったからだ。

 

この件でも父から罵倒された。


「当座が無くなったらどうするんだ!?手形が切れなければどうやって仕事をして行くつもりだ!?」

 

父はこの後に及んでまだ手形で仕入れの支払いをしようと考えていた。

 

既にウチは「いつ潰れるか分からない」と噂が広まり、大きな仕事など期待出来ない状態だった。

 

でも私はコレがチャンスだと思っていた。

 

小さな仕事からまた初めていけばいいし、小さい仕事ならこっちのリスクも少なくて済む。

 

「会社が潰れたらオマエの責任だからな!」

 

闇金から始まった債務整理は常に私が行ってきたのは確かだ。

 

しかし、実行する前に父には必ず確認を取って、了解を得てから行って来た。

 

「俺は分からないからオマエに任せる」


父はいつもこう言って私の問い掛けに答えてきた。


この時も今現在も父が代表取締役だ。
(父は未だに社長という地位を捨てきれずに、仕事など全く無いにも関わらず、現在もこの会社を続けている)

 

一代で築いてきた事に対しての敬意と、社長としてのプライドを傷つけないようにと考えた上での行動だった。


この時既に、私は父からの罵倒に対して何も感じなくなっていた。

 

既に止まる事など出来ないところまで進んで来た。

 

何がどうなっても、ウチには進むしか道は無い。

 

父に何を言われようとも、もう止まる事は出来ないのだ。


16.特定調停・第一回目

特定調停はS社・N社とも別々に行う。

 

但し、期日は同日となるので、横須賀から霞ヶ関まで行く我々にとって、非常に便利ではあった。

 

しかし、原則的に全ての申し立て人が出席する事が必要なので、父や私を含め、連帯保証人さん達にも同席してもらう事になる。

 

そういった意味でも月1回で済むのは楽だ。
(調停は申し立て案件に対して原則、月1回)

 

第一回目の調停日は、申し立て人と調停委員の顔合わせ的なモノと、面接のようなモノだ。

 

本当に調停を進めてもいいのかどうかを決める場でもある。

 

また、被告(申し立てられた側はこう呼ばれる)は第一回目は書面、若しくは電話でもOKだ。

 

よって、我々の第一回目はS社・N社の両方の案件に対しての面談となる。

 

「商工ローン相手に調停は無理だよ」

 

調停委員の第一声はコレだった。

 

「アイツらは調停には絶対応じないから」

 

このままでは調停が不調に終わってしまうと考えた私は

 

「実はまだ全ての計算が終わっていないのですが、2社とも過払いが出るのです。だから計算が終わり次第、訴訟に切り替えるつもりです。しかし、それまで預けてある手形の期日が来てしまい、それを事前措置で止めて手形を無効にしてから訴訟にしたいと考えています。」


私はありのままの作戦を調停委員に話した。

 

手形はその性質上、期日が過ぎるとただの紙切れになる。ソレが今回の特定調停・事前措置をヤル真意だった。

 

調停委員は資料の金銭消費貸借契約書の日付けを確かめ


「確かに、これだけ長く借りていれば過払いになる可能性は高いね・・・・」

 

A調停委員はB調停委員にゴソゴソと耳打ちをした。
(調停は2名の調停委員と担当する裁判官がいる)

 

「よし、分かった。調停続行として期日を決めよう。相手が何を言ってきても、調停委員の権限で続行すると伝えるから。」

 

それまで毅然とした態度だった調停委員の顔がゆるみ


「コイツらに今まで我々も嫌な思いをさせられたから、ここで一発、ギャフンっと言わせたいしな(笑)」

 

2人の調停委員はニコニコと笑い


「でも、大変なのはコレからだからね。今日は個人として言っているけど次回からは調停委員としての立場で発言しなければならないから、ちゃんと筋が通るようにしてきてよ」


私は差し出された手を両手で握り

 

「ありがとうございます。本当に感謝します」

 

っと、下を向いて流れる涙を隠した。


ここでも風が吹いていた。


裁判所内でも商工ローンに対して態度が悪いという「風」が吹いていたのだ。

 


17.特定調停・第二回目

ウチは和解するつもりはありません」

 

S社の答えは分かっていた。

 

「でも、他でも同じような裁判ヤラれているでしょ?」

 

調停委員も食い下がる。

 

「まだ裁判の結果はどれも出ていない。今の段階でウチは違法行為をしているという事にはならないでしょ?約定通り支払えなくなったら、契約書通りにウチは回収しますよ」


「兎に角、頭ごなしに和解しないと言わずに、もう少し考えて下さい。でないと、調停の意味が無くなってしまう」

 

苦しいながらも調停委員も意地を見せている。


「次回期日までに双方、歩み寄った提案を考えて来て下さい」

 

S社は憮然として顔をして渋々、調停の続行に応じた。

 


その後のN社も同じだった。

 

 

その日の調停の終了後、調停委員が話しがあるからと私だけを呼び止めた。

 

「あれじゃぁ、引き延ばすにも後1回が限界かもしれないよ」

 

「何とか、頑張ってみます」

 

「今から個人に戻っての独り言だけど、調停は和解にしろ不調にしろ関係者全員が揃っていないと成立しないんだよなぁ」

 

そう言い終わると調停委員はニヤっと笑った。

 

次回期日は欠席者を出せということだった。

 

何も言わず深くお辞儀をして簡裁を後にした。

 

両社に預けてある手形の最後の期日は約1ヶ月半後だった。

 

だから最低でも後1回は調停を継続させなければならない。

 

訴訟も初めてのことで、どうなるかまるで検討も付かない。

 

弁護士を雇うお金も無いから、自分で戦わなくてはならない。

 

猫さんも他の相談者を見なくてはならないから、私一人に時間を裂くわけにはいかない。

 

次の調停期日までに訴状を作って、もう1回だけ期日を入れてもらい、その間に提訴して調停を取り下げるしかなかった。

 

猫さんから貰った過払い訴訟の資料を元に、その日から初めての訴状作りが始まった。

 

 


18.最後の特定調停

無い脳味噌をフル回転させ、猫さんにアドバイスを受けながら、訴状は何とか出来上がった。

 

しかしここで大きな問題が発生した。

 

提訴するにはお金が掛かるのだ。ソレも裁判所へと納金する費用。

 

S社・N社に対して1000万円オーバーの過払い金を請求する。

 

その請求額に応じて、裁判所への納金額が決まるのだが、ウチの場合、1社あたり10万円を越える。総額で20万円だ。

 

企業だったら20万円の現金くらい、常時持っているだろうと思う人は、今までとても恵まれた環境で過ごして来られたのであろう。

 

債務整理をしようと決意した時から、会社の全ての借金の返済を止めた。

 

普通ならコレで資金繰りも楽になると思うだろうが、仕事もゼロに近い状態だったから、入ってくるお金も無い。

 

特に日銭が稼げる商売ではない、不動産・建築業は、入れば高額だが、タイミングによっては1ヶ月入金予定が無いなんてザラにある。

 

結果、20万円を用立てる為に、特定調停をもう1回、延ばしてもらい、次の期日前に提訴して、その足で特定調停を取り下げる事になった。

 


前回の調停委員の独り言を参考に、父・私・母の3人だけで調停に望んだ。


「申し立て人が全員そろっていないようですね。調停を成立しようという気があるのでしょうか?」


N社の担当者が、鬼の首を取ったような勢いで、調停委員に食い下がった。

 

「これじゃ、和解なんて出きるわけない。不調にして下さいよ」

 

「N社さんはこの前の山本氏から提示された支払い計画案について考えて来てくれましたか?」

 

「ウチは約定通りの支払いしか認められないって、最初から言っているでしょ」

 

N社の担当者は、顔ほ赤くし、少し興奮気味だった。

 

コイツ、今日で不調にするつもりだな。

 

私は用意してきた今日の切り札を出した。

 

「あれから、少しでも約定通りの返済に近づけられないか検討してみたのですが、N社さんの希望する金額には届かないのですが、前回の返済額よりは多く返せる返済計画案を考えて来ました」

 

勿論、デタラメな返済計画案である。

 

こちら側は努力して歩み寄る姿勢を見せて、調停委員に「N社さんも帰って検討してみて下さい」と言って貰う為だけに作ったモノだ。

 

N社は抵抗したものの、全員が揃っていないという事と、こちら側から新しい提案が出たという事で、再度検討して次回に結審するという事になった。

 

S社にも同様に対応し、次回期日を1ヶ月後に決定した。

 

 

調停室を出た廊下で、調停委員が

 

「私達の出きる事はここまでだよ。これから大変だろうけど頑張ってね」

 

世間一般の常識というモノであれば

 

借りた金を返せないヤツが悪いのであって、その行為に対しては誰もが「なんとかして返しなさい」と言うだろう。

 

しかし、状況が揃えばソレが逆転する場合が存在し、応援してくれる人までいるのだ。

 

最初に簡裁に来た時は、緊張と恐怖からか、厳格で冷たいイメージだった。法律とはそういうモノで、法を扱う人は気持ちや思いなど入り込む余地などない、冷血な人なんだろうと思っていた。

 

しかし、ココにも人へ対する思いや、弱者に対する慈悲の心が存在した。

 

 

調停委員が差し出した手は力強くて、暖かかった。


 


19.過払い訴訟・提訴

訴え提訴の手数料(裁判所への納金)が調達出来たので、東京地裁へとS社・N社に対して過払い金の請求訴訟を提訴しに行った。

 

正式には「不当利得返還請求」

 

不当に取りヤがった金を返せよ、というシンプルな訴えだが、「不当に取った」という事を証明しなければならないので、コレが結構大変なのだ(当時)

 

当時の高利で貸付ける金融機関は、出資法での上限金利29.2%ギリギリの金利を取っていた。

 

コレはコレで法律に定められた値だから、上回らなければ違法では無い。

 

しかし貸金業者には「利息制限法」というもう一つ、金利を制限した法律があり、

 

100万円を越える         15%
100万円未満~10万円以下  18%
10万円未満                20%

 

コレを上限とする利息は取ってはダメよという法律がある。

 

原則的に貸金業者は利息制限法の利率を厳守しなければならないのだが

 

・借手が2つの法律がある事を知っているにも関わらず、出資法以内の利率でいいよっと言った場合。

・借手が利息や元金を支払った瞬間に領収書を渡す。

・領収書に詳細事項を記入する。

・貸し金の契約書を発行しているか。

 

などの特例条件を全てクリアしていれば利息制限法以上、出資法未満の利息を取ってもイイよという法律がある。

 

(「みなし弁済」というが、平成22年6月に撤廃)

 

当時、商工ローンは「みなし弁済だ」っと、主張し、過払い金など存在しないと全面的に対決姿勢だった。

 

たから、「みなし弁済じゃねーべ」っという証拠を出さないといけないのだが、まだ裁判所では、ソレがみなし弁済かどうかという結論(最高裁判決)が出ていなかったので、簡単な作業では無かった。(コレが当時、弁護士などがヤリたがらなかった理由の一つ)

 

事実、裁判所に訴状を提出した時に

 

「ん?弁護士さんは付けないの?商工ローン相手に?」

 

っと言われた。

 

それでも、提出書類や印紙などに不備が無ければ、裁判所としては受付しないといけないので、事務的に受け付けて貰えた。

 

日本は公的な手続き・申請は原則、全て本人申請だ。

 

裁判などによる弁護士の立場は、あくまでも申請人本人の代理人として行う業務であり、裁判だからといって、必ず弁護士が関わらないとダメだという事では無いのだ。


そして、その足で簡裁へと向かい、特定調停の取り下げをした。

(東京地裁と東京簡裁は隣接していて、地下道でも繋がっている。※現在は特定調停を取り扱う部署が錦糸町に移転している。)

 

 

この日から、対商工ローンとの戦いの第二章が始まった。

 

そして、ソレは想像以上に壮絶な戦いだった。



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