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  4つの大きな光は私の膝の少し上辺りを照らしている。
胸に取り付けられた心電図の音が心地よくて、起きているのか眠っているのかわからないくらいだ。
だいたい、私はどうやってこのベッドまで来たのだろう?
さっきまでは別の個室で眠っていたのに、いつの間にかここに寝かされている。
まるで魂だけゆっくり抱きかかえて連れてこられたみたいだ。
白い光が私の手術着に反射して、部屋全体が白い世界に見える。
雲の上の天国はきっとこんな風に穏やかな場所なんだろう。
右脇から看護婦さんが顔を出し、何か質問されたが、
よく聞き取れなかったので意味もなく頷いてみせた。
両足の間から白衣の先生が見えたのでそちらを向く。
右脇の看護婦さんは注射器を取り出し、それを点滴のチューブの途中へ刺した。
先生は催眠術師のように穏やかな声で私に数を数えるよう促す。

 

いち、にい、さん、し、…

 

四つまで数えられたかどうかというところで、私は意識を失った。
意識を失う直前の感覚だけははっきり覚えている。
体じゅうの力が抜けていく妙な幸福感。
安楽死ってこんな感じなのだろうか。
だとしたら、それはとてつもなく幸せな最期に違いない。
私はこんなふうに死にたい。

 

そんなことを思った。


 気がつくと白い箱の中にいた。
硬くもなく、冷たくもなく、四角いような、丸みを帯びたような、捉えにくい形の箱。
ただ私を入れて音もなくゆっくりと進む。
辺り一面が雲の様に、柔らかく白い世界。
私を乗せた箱はまっすぐ進んだり、ゆるい円を描いたり、時々不自然なカーブで曲がったり、

なんだか同じ場所を何周もしている感覚だ。
子供の時に乗せられた、たくさんの人形が踊るのを観て回るアトラクションを思い出す。


あのドームの中の湿気の匂い。


カラフルだけど少し古びた色彩。


焦点の合わない人形の表情。


無意味に水の上を走る行為そのもの。


何から何まで私を意味もなく不安にさせる、あの場所の感覚。
急に前だけ見ているのが怖くなって、後ろを振り返った。
すると今まで気が付かなかったが、そこにはもう一人いたのだ。

 

『こんにちは。』

 

その人は目が合った私にゆっくりとおじぎをした。

 

「こんにちは。いつからそこにいたの?」

 

『ずっとだよ。君が乗る前から。』

 

「ずっと?」

 

『そう。僕はずっとこの舟で見張りをしているんだ。
工場がきちんと動いているか、壊れた奴らが逃げ出さないか、ね。』

 


そう言って、彼は持っていた黒い杖で舟の右前を指した。
白いだけの景色は、本当に霧がかかっていて何も見えないが、
杖の先に目を凝らすと霧の奥に何か小さな影が見えた。
舟はコースを外れて、まっすぐ杖の方向へ近づいていく。
無数の細長い影がだんだんと形をはっきりとさせていく。


森を抜けたように突然霧が晴れた。
すると影にしか見えなかったものがはっきりと見えてきた。
細長く見えていた無数の影。
それは私と同じ白い服を着たひとだった。

 

「あれはここに住んでいる人達なの?」

 

みんな穏かそうに微笑んでいる。
ここが本当に雲の上ならば、あれはきっと天使なのだろう。

 

『ヒトなんてとんでもない。あれは壊れて使えなくなった抜け殻だよ。
生きてる間に大事な魂を壊しちゃったから、死んだ後もそのままリサイクルできやしない。
だからここに集めて、魂を作る工場で粉々にしてから使うんだ。』

 

魂を壊した、ヒト。


そういえば小さい頃、おばあちゃんが入院していた病院でこういう人達を見たことがある。
事故やショックで自分がわからなくなっちゃったのよ、と母は言った。
なんだか急に穏かな微笑が不気味に思えた。


「粉々にするの?」

 

『そうさ、元の砂に戻してやるんだ。
それを工場でもう一度練り直して、新しい魂をつくる。
それが正常に出来ているか見張るのが僕の仕事さ。』

 

「動物の抜け殻はいないのね。」

 

『そうだね、君達ヒト以外はもっと魂を上手に使うからね。
滅多なことじゃ壊したりはしないよ。』

 

「だとしたら、動物達は生まれ変わってもヒトにはなりたくないでしょうね。」

 

私達は自分達が思っている以上に哀れな生き物なのだろう。


ヒトが生態系の頂点なのではなく、

他の生命から疎まれて生命の連鎖からはじき出されてしまっているのかも知れない。

 

「私の魂もいつか壊れちゃうの?」

 

『さあ、わからない。大事にしてなきゃ壊れるかもね。』

 

「…」


『心配するなよ。僕は別に君を粉々にするために一緒に来たんじゃない。
君のポケットにあるものを預かりに来たんだ。』

 

「ポケット?」

 

『そう、そのポケットの中。』

 

黒い杖で私の方を指す。
私は急いで白い服を触って確かめる。
すると左のポケットに手のひらくらいの大きさのカプセルが入っていた。

 

「これのこと?」

 

ポケットから取り出してそっと振ってみる。
中にガラスのビー玉のようなものがひとつだけ入っていた。

 

『そう、そいつだ。それを取りに来たんだ。
本当は君まで連れてくるつもりじゃなかったんだけど、無理矢理取ってくる訳にもいかなくてさ。』

 

差し出された彼の手に渡そうとすると、中のビー玉は磁石のように私の手のひらにくっついてくる。
下向きに手を離しても落ちてこない。

 

『ほらね。』

 

と言って、彼はすぐに手を引っ込めた。
不思議なビー玉は私の手の中が気に入ったようで、私もポケットにしまわずにそのまま両手で包みこんだ。

 

『仕方ないからこのまま一緒に工場までおいで。
特別に中を見せてあげるから。
だけど、中の魂には絶対触っちゃ駄目だよ。』

 

「うん。」



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