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盲従 
 

なにが不足で
からっぽなのか
煮えきらぬ函をぼくはならべた
あちらでもこちらでもない塀ほどの
気ままな歳月を
ならべついだ
千人が千人 塀のかたわらを行けば!
と信じていたのだ
あっさりひきはがせる気もするが
なまじはがせば
ついでに世界もごっそり抜けてしまいそうで
それにしてもながすぎると
千人が千人うたぐりはじめ
うたぐりだしたらきりもなく塀はつづき
ほくはやっぱり函をならべつがねばならぬ
ついにかれらは塀とよぶのをやめ
かといって塀をのりこえ
そこにからっぽの函を見出す勇気はだれにもない
りくつにあわない函の
つじつまをあわせ
ほくは函を積みあげた
それみたことか のりこえられるわけが
あるものかと 千人の九百九十九人までが
いばりちらすのだ
わかったふうな立方体に
まるくおさまった忍耐のような物質から
なにが不足であふれでる風
ついつい吹かれてころげおちるぼくを
目撃した者がひとりいて
身もふたもない世界で
ぼくはただひとつの身となり
いきなりふたをされて それもどうやら
あいつが積みあげた函の底らしく

鬼どうし 
 

どこから手をつけたものか
ぼくは躯をくしやりと折って待った
爪のあいだからにじむ汗で
輝くばかりに待った
やがて ぼくはひとつかみの
塩になるかもしれない
しわだらけのまま
ぼんやり花ひらく あわててまた
くしゃりと躯を折った
堂々めぐりのあいつののぞみが
どうころんでも果たせる類のものなら
ぼくはあれきり
息をふきかえさずともよかった
そのくせあいつを想いだしては

あいつをまねてころげまわり
左にまわっては
ところてんをぶちまけ
右にまわっては
庖丁を手にした
おもいえがいた円が
目をまわすほどに臭い脚を組んで
ぼくはつぶやく
鶏にでもくれるように
ありあまる恨みごとをバラバラッと
撒きにきたらどうだ
石ころのように突きあげる
赤の他人の照れくささを
いっそぶつけにきたらどうだ
塩分でしかないおれの
どこから舐めてかかろうと 手をつけたがさいご
それはおまえの自由を唾棄することだ
鬼なら鬼らしく
帰って来い

センチメンタル・ネギ 
 

葱は泣いた
固唾をのんでひとが出ていく
不祝儀な夜の廂から
いきなりくすぐったい話の
ひげをさらして
葱は泣いた
泣きながら ぴしりと伸びた
まっさおな空洞を
葱は呪った
鳴咽だけが引返してくる空洞を継いで
あなたにもゆくりなく
鼻につんとくる夜は
台所はなんと
陰湿な塔となり
はるかに聾え立っていることだろう
だれかがまた固唾をのみ
あなたがこらえきれず笑いをもらすところに
杭がうたれ
鞭が霧をくゆらせてい
葱は泣いた
月がかかるのど笛を刺して
葱は泣いた
血と 土を吐きもどし
すこししびれた葉末をふるわせ
もはや何者にも朝を告げぬ
生坂にすがって
泣きじゃくった
冗談だったあれから
鳥肌立ったままの凄惨な風呂あがり
他人のあなたに
葱はふかくきざまれたか

一家皆殺し 
 

台所の灯はしなびて
レモンのようになまあたたかく
おれはほそくちぎった
地図の一点でながいこと見あげていた
あれへ行きつく階段は
たんねんに洗ったすね毛の濃い
あしをかける煮えたった階段はどこだろう
おれはすばやく歩き めざす一家を
とりちがえるはずもなく
平均台のような地上をひきかえす
台所の人影には
あの日おれの怒りをかった頭部がない
あいつをうつむかせたきりの料理
こんどはだれとの悲惨な晩餐だ
レモンの内部のもっとも輝かしい夜に
朝までは待てぬおれを見透かしたか
地図の上の気狂いじみた一点に
虫ピンをたて さらにつよく突刺してくる
台所の灯はしなび
ついにかき消えた下で
おれはうろたえ はずかしい気がした
まだ刃をひらかずにいた果物ナイフが


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