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霧の内輪でもとりわけ
霧と目される流れを
魚がにおってくる
意味のないひとことずつの
冬の街路樹から
つと口つぐむくだり坂
うっすらと血を予感した
盲目の庖丁は
凍える家 ひとつの分際へと
痩せた膝をくりだす
白い息をつめた
紡錘形の光を横たえ
暗く実質的な頭部を
撃ち落すのだ
胡瓜のふるい切口や いまだに
手を切れぬ人びとの真っ只中で
死が裾をととのえ
霧を含んでふくらんだ
白木の板塀へ声高にのしかかる
流れを骨ごと
そっくり受けついだ切先は
未練な狂躁を一挙にはらおうと
そりかえったのどごし
空前の糸へ接近する

尻あがりの椅子 
 

どろ足が
みるみるひからびる日ざかりだ
白があって
黒があっての風景を
ぼろっとくずれるように走りぬけ
されるままのとびらをおして
毛糸玉のようにころがった
泣きじゃくる階段をのぼり
尻あがりの椅子で
へんにさとりきった天秤のように
ぶらぶらしているばか
あいつが鬼ならツノ
ねこなら首っ玉
しらをきったつらなら二枚の耳
ひっつかまえてげんこか
それともびんた
好みをきいて喰らわせてやろうじゃないか
たてあなへしのつく何万年もの雨
あふれてやまぬものを
謝罪の海におとしいれようとするあいつと
日ざかりのゆるい傾斜をめぐって
あらそったちいさい足よ
いっそ切ってくれろと
しなびた足よ

 
 

ふたも 底もない
ほんの気持だけの函をつくる
愛せずにぼくがそだてる釘は
経文のようにだらだらとながく
そろって板の意表をつきぬける
四枚のむきだしの沈黙が
うっすら深まる四隅で
忍び笑う声もあり いたたまれず
さきを争って錆びつくものもある
羽目板や どぶ蓋なら
息絶える街まで
むじゃきに吼えていけたろう
くされ縁なら腹いせに
蹴りぬくこともできたろう
見えすいた函だが
釘さえ ぬかれでもすれば
ふたたび顔をあげず
みずからをつぶす覚悟だ
よろしい 四枚の板が背を向けた世界で
ぼくはかなづちをとる

孔雀のはねを抜く 
 

人気のたえた動物園のオリのなかで
孔雀がはねをひろげていた
そのはねの一本を
彼女は金網ごしに綱ひきでもするように
ついにひきぬいてきた
 
彼女はすっかり孔雀のつもり
叱ることもできず
はね一本の壮挙と化身を
家族はこっそり祝したものだ
 
エメラルドの
ゆびをまるめたくらいの水玉もようが
はねのさきにひとつ
それさえなければ(とは もはや
だれものぞみはせぬが)
背にこそばゆい
ススキまがいのしろものだ
しかし がんじょうな根もとは
なまのままの
孔雀のしろいほね
 
うしろ手にかざし
スカートのすそをつまんで身をひねり
ふみだした足はしようもない
ひとのもの
 
「さあ だれか
さいごのはねをぬいて!
金網がここにあるとしてよ」

盲従 
 

なにが不足で
からっぽなのか
煮えきらぬ函をぼくはならべた
あちらでもこちらでもない塀ほどの
気ままな歳月を
ならべついだ
千人が千人 塀のかたわらを行けば!
と信じていたのだ
あっさりひきはがせる気もするが
なまじはがせば
ついでに世界もごっそり抜けてしまいそうで
それにしてもながすぎると
千人が千人うたぐりはじめ
うたぐりだしたらきりもなく塀はつづき
ほくはやっぱり函をならべつがねばならぬ
ついにかれらは塀とよぶのをやめ
かといって塀をのりこえ
そこにからっぽの函を見出す勇気はだれにもない
りくつにあわない函の
つじつまをあわせ
ほくは函を積みあげた
それみたことか のりこえられるわけが
あるものかと 千人の九百九十九人までが
いばりちらすのだ
わかったふうな立方体に
まるくおさまった忍耐のような物質から
なにが不足であふれでる風
ついつい吹かれてころげおちるぼくを
目撃した者がひとりいて
身もふたもない世界で
ぼくはただひとつの身となり
いきなりふたをされて それもどうやら
あいつが積みあげた函の底らしく


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