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壁のまえの
壁をたててやりながら
その壁と対になって
なんとなく壁のようである
 
壁と壁のあいだには
もういちまいの壁がおちこんでいて
鳥などが
首ごとわすれさられている
 
どの壁にだか
ときに はげしく
しょうべんをひっかける
さびしいおとがする
 
けりをつけようじゃないか
どなれば
おもいがかない壁までが
どなりかえす
けりをつけようじゃないか
 
鳥のぶんだけ
まえにでろ
どこの壁だか
やくざなことをいう
 
つめをたてても
おれをたてる壁はない

象と逢う朝 
 

いつかまた象と逢えるのだと
ぼくが生きているばかりに
象のゆめしか見たことがないかあさん
象と象のたわいないあいだで
酔いつぶれるかあさんをしりめに
あらそわなければならない
二頭ぶんのりくつもあるのだ
かあさんの悲鳴はもう一頭の
象のかたちをとるだろうし
三頭の象は鼻をぶらぶらさせて
いるだけだろう
ぼくのむすめがはじめて
象と逢う朝
象とさえつながれていない象とつながれた
かあさんのしわだらけの腹に
千頭の象よりもいたわりぶかい
目をむけているにちがいない
ほんとうの象よ
ほんとうに象なのよと 

 
 

雨はどこを降る
ひだりの耳のひろがりを
ついに鳴らぬ鍵穴を
闇のなかでの挨拶を降る
 
雨はなぜたたく
生皮の記憶を
めくれあがる高さを
うしろ手の火をまたなぜたたく
 
雨はいつぬらす
立ち去るばかりの宣告を
儀礼と棒のあわいを
いまつかみあう自由をぬらす

椅子 
 

これがきみのための
きみにだけ到る椅子である
腰とともにあらゆる
疑いを引きおろす椅子である
膝のみが組みかわる哲理は
きみのその姿勢が支え
椅子にならってころげ
あるいは声高にわらえ!
きみから椅子が欠落するとき
雑駁な部屋できみ自身こそ
死のための椅子である

 
 

きちんと栓をされて
ぼくはねむった
けれどもそっとしてはおけず
さらにふかい眠りへ
しずむ栓のように
ぼくの寸法は自在だった
 
闇はあふれたくらさを恥じたか
敷居をまたぎ
とりかえしのつかない夜となった
ぼくはあかるく
からっぽだった
 
それから雨戸が鳴りだした
掻痒のような雨風が
ぼくをうまいぐあいに満たした
ひきかえして来はしないかと
鍵穴から壁の画鋲へ
ともす釈明はないものかと
 
ながいながい溜飲のはての
いじけた栓のような
だれにも解せぬ時刻だった
てのひらでもまにあわぬ
しずかな朝だった
あいつが打ちあげる花火のおとを
ぼくはぼんやり聴いていた


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