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おれを喰ってくれるかい?

【写真】カマキリ/2008年1月2日撮影

 

 固く小さい逆三角形の頭部をみれば、

 カマキリは高音域を発するかのように空想される。

 とがったあごに低音域はのぞむべくもないようだ。

 しかしそれは声帯とのかかわりを前提としての想像だ。

 

 ほかの昆虫のように羽根をこすりあわせて奏でるとすれば、

 どんな音色になるか。

 飛ぶのもたよりなげなやわらかい羽根は

 低音域でささやくだろうか。

 飛ぶにはふさわしくないぼってりとした太い腹部が

 低い音を野太くするか。

 

 交尾のあと、オスは役目を終えると、あいかたに甘い声で告げる。

 ――さあ、おれを喰ってくれ。


きみをだれかがそらと呼んだ

 

 

 

 きみは目深にかぶっていた帽子をあぜ道にかなぐり捨てた。

 なにに腹を立てたのか、わからない。

 あずまやからだれか女のひとが、

「そら」

 と呼んだ。

そうか、そらという名前なんだ。

きみはあたかも、

「わたしは、そらじゃない」

とでもいうように無視している。

こぶしを握って虚空をにらんだまま動かない。

 四歳くらいになると、ああして頑固にじぶんの想いを主張するのか。

 

■こちらの拙文をイメージして曲『きみをだれかが「そら」と呼んだ』を創ってみました。4分半ほどのDTMによる作曲です。関心がおありでしたらどうぞ聴いてください。こちら


 テコでも動かない、といううしろ姿がほほえましい。

 おさないわがままゆえのたわいない怒りにしても、名を呼ばれて返事もしないきみは、愛すべき女の子だ。

 そして、そらと呼んだそのひとをきみは愛している。そのことをきみじしんが知っているのだろう。

 だから虚空に向かってはっきりといえる。

「おとうさんはきらい」

 そんなふうにいえば、父親が急にやさしくなることもきみは知っているのかもしれない。

 なかばあきれ声で女のひとがまた呼びかける。

「ぼうしをかぶらないと、あついでしょう」

「ちっともあつくない!」

 スイセンの枯れた花にとまって動かないヤンマと、あぜ道でそっぽを向いて仁王立ちしている女の子のあたまを真夏の太陽が照りつけている。

 

 

  【写真】ウチワヤンマ 2008年7月19日


この本の内容は以上です。


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