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 いまは、立派な堰を眺めようとすると、中州にかかった橋がさえぎる。

 百メートルあまりの橋じたいがなんともいいがたく無粋である。

 実用にしては幅広だし、観光の配慮もない。

 ここで立ちどまっても、さらに歩いても、ここから逃れてはたから見ても、ちっとも絵にならない。

 ボランティアのパトロールおじさんは取手市民だが、よそ者の私よりももっと不満を持っていた。

 橋ひとつに次から次へと出てくる。

「茨城百景つったって、茨城にゃなんにもねえ」

 橋を架けるのに1億という金をかけても、新規の掲示板には貼り紙の一枚さえ貼られたことがない、という。これも屋根つきの立派なものが三基ある。

 中州は周囲三百メートルほど。たったそれだけの広さ。

 橋を渡って、なにをする?

 おじさんはいった。

「間宮林蔵が泣いてるよ」

 

(2008.7)このページの写真は2008年5月7日撮影


1億円の橋のたもとで

 

【写真】幅1メートルに満たない用水路を闊歩する珍客、キジ。2008年4月

 

 

 

 

 工費1億円のあの橋のたもとでのおじさんとの立ち話には、公園のありかたへの不平のほかに、パトロールのステッカーをつけた車の運転マナーについてもあったなあ、と思い出している。

「そんな運転するなら、ステッカーをはずせ」

 と、おじさんはいいたかったようだ。

「ああ、それなら龍ケ崎も同じですよ」

 どんな看板をしょっていても、また何もしょっていなくっても、運転マナーを守るのはあたりまえだが、蛍光塗料のついた服を着て泥棒に入るようなまねはやめろということだ。やることが目立つ。

「時間がたてば土に返るっていうが、除草剤だって、まいたあとに雨でも降れば田んぼにしみこんでいくだろう。どんなあぶねえ米つくっているかわかりゃあしねえ」


「ああ、龍ケ崎もそうですよ」

 なんと痴呆じみた応答か。

 去年、用水路に雑魚類がいく匹も瀕死の状態になっているのを見た。

「除草剤だな」

 とおもった。

 数年前だが、魚をとる網を持ってあぜ道をうろついていると、田んぼの持主が訊いたものだ。

「なにか、いるかい」

 わらいをふくんだ訊きかたは、こんなところにいるのはザリガニぐらいだ、とかんがえているからにちがいない。

 流れの幅が1メートルもない用水路だ。稲が育ってしまえば、また次の春まではあるかなきかの流れでしかない。

 しかし、田んぼに水があれば用水路もうるおい、ドジョウ、モツゴ、ときには小さなフナだってつかまえられる。そんなはずはない、と田んぼの持主はおもっているにちがいない。

 そうして去年、生きものが水面にプカプカ浮かんだというわけだ。

 生きものの存在がそんなふうに証明されるなんて、おそろしいことだ。

 あの一億円の橋のたもとで、知り合いでもないおじさんふたりが、あれもこれもほおっておいていいことではないと言い、うなずきあっていたのだった。


冬のバラ

    

 

 

 

 だいぶ冬らしくなった日々に、赤いバラが大小二つのつぼみをつけた。

 四季咲きというけれど、冬はなかなか花ひらくことはない。

 小さいほうは硬そうなつぼみである。

 大きいほうは、花びらがひらきかけている。しかしひらきかけたまま幾日もたち、寒さで、

「咲くのをやめにしました」

 という格好になっている。

 このままほうっておけば、ただの大きなつぼみのまま、内側から腐っていくだけだろう。

 それではもったいない。

 一輪挿しに活けることにした。

 日あたりのいい出窓においた。

 午前にそうしたのだが、午後になると花びらが大きくゆるみ始めた。

 「ちょっとテンポが速すぎやしないか」

 とおもった。


 これでは、日持ちもなにもなく、あっというまに散ってしまうかもしれない。

 だが、つぼみのままの姿を寒気にさらして、こちらのからだまで固まってしまうようなながめのバラよりは、ひとときでも華やかに、そして大輪らしく豪華に花ひらくのを見たほうがいいにきまっている。

 出窓に置いたのを移動させたりせず、一気に花ひらいて散るまでの時間をすごすことにした。

 手狭で、飾り気のない部屋には、バラ一輪でけっこう贅沢な装飾となる。

 べつの部屋から移ってこちらの部屋へはいると、かすかにだが、甘い香りもいきわたっているのがわかる。

 きょう晦日、あすの大晦日と、ことしをしめくくるには恰好の手慰みだ。

 さて、もう一輪をどうするか。

 あちらもついでに活けるとするか。

 いちにち遅れて、つまり大晦日だが、一輪を花瓶に加えた。

 こちらもテンポが速かった。

 といっても、花ひらく方向へむかってではない。

 つぎの日(元日)に指ではさんで押してみると、奥のほうがスカスカになってきているのがわかる。花びらはかたくなに閉じたままだ。

 あのままほうっておいても結果はたいしてちがわなかったろう。はさみを入れるタイミングを誤ったのだろうとあきらめるほかない。

 花ひらいたものと、つぼみのままのものが先をきそってポロポロ散るのだろうか。

 出窓のけしきが無残にならないように、ころあいを見て捨てることにする。



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