目次
まえがき
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タイトル目次
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第1章 エコ技術と生産技術
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アメリカの新車燃費規制
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公差の魔術
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海賊版対策とIpadの中身
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第2章 資源と環境技術
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リサイクルされるレアメタル
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レアアース戦争
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微生物と植物が地球を救う
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日本が産油国になる日
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第3章 電気社会の到来
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宇宙太陽光発電衛星計画
海洋温度差発電
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直流送電技術
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ワイヤレス送電技術
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電気自動車の可能性
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キャパシタ搭載バス
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ハイウェイトレイン構想
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ギガンティック・トウキョウ
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第4章 食料生産技術
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野菜工場
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CAS冷凍技術
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クロマグロの養殖
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第5章 宇宙科学技術
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小惑星探査機「はやぶさ」
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アブレータ耐熱技術
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イカロスの翼
学術・科学技術予算について
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第6章 軍事技術
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CSMミサイル構想
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F22とF35はガンダムとジムくらいに違う
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自衛隊がF22を持つ意味
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空母型護衛艦「ひゅうが」
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第7章 日本の安全保障と国家モデル
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軍事力による平和
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ODAは肉食動物を太らせた
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アメリカの強さの源泉
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日本がスネ夫になるための2つの条件
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しずかちゃんに成りかけた日本
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かつての日本はノビスケだった
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日本が出来杉君になる日
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あとがき
あとがき

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小惑星探査機「はやぶさ」

200359日に宇宙科学研究所から打ち上げられた小惑星探査機・通称「はやぶさ」は、2005年夏に火星軌道近傍の小惑星イトカワに着陸、サンプルを採集して20106月に見事地球へ帰還した。

 

JAXAは、カプセル内部で確認された微粒子の分析を進め、11月には、微粒子のほぼ全部がイトカワ由来の物質だと発表した。探査衛星「はやぶさ」は小惑星イトカワに接近した際に、様々な観測をおこなっていて、「近赤外線分光器(NIRS)」による、イトカワの地域ごとの反射スペクトルの観測や、「蛍光X線スペクトロメータ(XRS)」による総スペクトルの観測によって、イトカワの組成は、普通コンドライトであると推定されていた。

 

そして更に、「はやぶさ」がイトカワの「ミューゼスの海」と名付けられた、なだらかな部分への降下中に捉えた、イトカワ表面の画像には、表面の殆どで、数cmの大きさに揃った小石が敷き詰められたように存在し、観測の結果、輝石とかんらん石であることが分かっていた。カプセル内の微粒子にも、かんらん石や輝石、斜長石などが含まれ、イトカワの表面観測結果と一致していたことも、回収された微粒子がイトカワのものとする決め手の一つとなったという。

 

JAXAはこれまで、電子顕微鏡による組成分析では「イトカワ由来」と判断するのは難しいとして、より詳細な分析を行ってから結論を出す予定だったそうなのだけれど、上野宗孝・JAXAミッション機器系副グループ長は「大量の微粒子がそろって、イトカワ由来の傾向を示したので、科学的にも間違いない。簡易分析でこれほどはっきりした結果が出るとは、予想していなかった」とコメントしている。

 

小惑星に着陸するのも世界初なら、地球に帰還するのも世界初。そしてとうとうサンプルまで持ち帰っていた。正に快挙と言う他ない。

「はやぶさ」の名称は「第20号科学衛星 MUSES-C」。実は、はやぶさの名称は、打ち上げして、軌道投入確認後に決定された。命名の由来は、探査機が小惑星の表面を採取する様子を、隼が獲物を捕らえてさっと舞い上がる様子になぞらえたものだそうで、当時内之浦へと向かう寝台特急「はやぶさ」や、薩摩隼人の「隼」といった理由もあるという。

 

ただ、偶然にも、日本の宇宙開発・ロケット開発の父であり、旧帝国陸軍一式戦闘機「隼」の開発にも携わった、故・糸川秀雄教授の名に因んで命名された、小惑星「イトカワ」に、「はやぶさ」の名を冠した探査衛星が訪れるというのも、何やら運命的なものを感じないではいられない。

 

「はやぶさ」のミッションである、小惑星からサンプルを持ち帰るという「サンプルリターン計画」は国際的にも高く注目されていて、大きく次の4つの実験を目的としていた。

 

(1)イオンエンジンを主推進機関とした惑星間航行

(2)光学観測による自律的な航法と誘導

(3)惑星表面の標本採取

(4)惑星間軌道からの直接大気再突入と回収

 

「はやぶさ」はこれらのミッションを完璧に果たしたけれど、その運行はほとんど奇跡といっていい程のものだった。姿勢制御装置の故障や化学エンジンの燃料漏れによる全損。姿勢の乱れ、電池切れ、通信途絶にイオンエンジンの停止・・・。様々なアクシデントに見舞われてなお、ミッションを遂行したJAXAのはやぶさスタッフには素直に敬意を表したい。

 

たとえば、イトカワへの着陸では、XYZの3方向制御のために3台設けられていた姿勢制御用のリアクションホイール2台が壊れるというアクシデントに見舞われてなお、精度の出ないガス噴射制御での着陸を慣行し、見事に成し遂げている。


しかも「はやぶさ」に指令を送るのが片道30分、往復1時間かかるから、指令センターは、現実の「はやぶさ」の30分前の位置情報を受け取って、30分後の「はやぶさ」到達位置を予測して指令を出し続けたという。職人業以外の何者でもない。

 

元々「はやぶさ」は2007年に地球に帰還する計画で、2003年の打ち上げから5年の使用には耐えられる設計だった。ところが、イトカワ着陸後の燃料漏れによる通信途絶とその復旧のため、地球帰還は2010年6月に遅延することとなった。この遅延で、設計寿命の5年間を大幅に超えてしまうことが決定したにも関わらず、更に2年も余分にイオンエンジンを動かして航行を続けている。

 

こんな想定外の過酷な環境でもなお運用できているのは、JAXAスタッフや開発チームのありとあらゆる事故を想定してフェイルセーフ機能を搭載していたことによる。特に、2009年11月4日に起こった、4基中3基目のイオンエンジンの故障停止はもう駄目かと思わせるものだった。

 

ところがJAXAスタッフは既に故障によって運用を休止していたイオンエンジン2基のうち無事な部分同士を繋ぎ合わせることで2基で1基のエンジンとして使用するという離れ業をやってのけた。もちろん「こんなこともあろうかと」それを可能とする回路を仕込んでいたお陰。ネットでは、アニメ宇宙戦艦ヤマトに登場するキャラクターで天才科学者の真田さんになぞらえて、「なんという真田さん」だとか「変態技術だ」とか、妙な賞賛の声しきり。流石だという他ない。

 

「はやぶさ」に搭載されているイオンエンジン(μ10) はエンジン単体の性能試験や2万時間にも及ぶ連続稼動試験などを得て、「はやぶさ」本体に搭載されたのだけれど、事前に試験したことは、サブシステムを含めた各システム単体の試験で、システム全体の総合試験は行われなかった。サブシステム間の連携に関する試験は、エンジン動作を伴わない簡易チェックのみだったという。

それでも、いきなり本番でこうしてシステム全体を動かしてみせる日本の技術の高さについて、我々は、認識を新たにすべきだろう。「はやぶさ」のイオンエンジン(μ10)は、NECと米Aerojet-General社の協力を得て、人工衛星向けエンジンとして、2011年の販売を目指しているという。

 

イオンエンジンとは、アルゴンやキセノンといったガスをイオン化させ、電気の力でそのイオンを加速して後方に押し出すことで推進力を得るというエンジンのこと。推進剤がキセノンやアルゴンなどの軽量なため、十分な速度を得るには、長時間の加速が必要で、また瞬間的な推力も低いので、重力や空気抵抗のある地表面での使用には適さない。

 

その反面、従来のロケットエンジンのように「燃焼」をさせる必要がないから、酸素が要らなくて、少ない推進剤ですむという利点から、惑星探査機など長距離・長時間運用する宇宙機のエンジンとして期待されている。通常のヒドラジンを推進剤につかったエンジンだと、その燃焼ガスの放出速度は秒速3km程なのだけれど、「はやぶさ」のイオンエンジンは、秒速30kmでイオン化したキセノンを放出する。

 

プロ野球選手が投げる150キロの速球でも、秒速に直すと41mくらいにしかならないから、イオンエンジンの秒速30kmが如何に凄い速度か分かる。

 

また、イオンエンジンは燃料の重量占有率に対して、軌道変換能力が高く、従来のヒドラジンを使ったロケットと比較して、推進剤の重量は1/4程度にも関わらず、軌道変換能力は4倍もある。イオンエンジンは、プラスに帯電したキセノンイオンを電気の力で加速し放出するためのイオン源と、負電荷を持つ電子を放出してキセノンイオンを中和するための中和器から成り立っている。

中和器とは、イオン源から放出されて、プラスに帯電したキセノンイオンにマイナスイオンをぶつけて中性にする装置のことで、中和しないと、折角放出したプラスイオンが、今度は、プラスイオンを放出することで、マイナスに帯電してしまっている「はやぶさ」本体に引き寄せられてしまい、加速することができなくなってしまう。

 

今回の故障したエンジン同士を繋ぎ合わせた、というのは、イオンエンジンBのイオン源とイオンエンジンAの中和器を繋ぎ合わせてひとつのエンジンとしたということ。凄い裏技である。こうした、「こんなこともあろうかと」という数々のフェイルセーフ機能というのは、実に日本人的は凝り性の賜物のように思える。

 

それは、おそらく、島国で資源もなく、限られたあるもので、兎に角なんとかしようという工夫の精神の発露ではないかとさえ。

 

アメリカなんかのようにアメリカンドリームを求めて、次から次へと人がやってくる国だったら、駄目だったら、出来そうなのに取り替えればいい、なんて簡単にできるけれど、日本のように、人の入れ替えが効かない国だと、そうはいかない。今ある人をやり繰りしてなんとかするしかない。まるで選手交代できないサッカーの試合のようなもので、フィールドプレーヤーの誰もがFWもできればMFもDFも出来るみたいな、マルチロールな使い方をすることを考える。

 

それと同じで、「はやぶさ」の開発チームも、もしこれが故障したら、こうする。ここが壊れたらあっちに切り替えるなど、実に様々なケースを開発段階から、きっちりと考えていたように思われる。これも、一種の日本文化が貢献した結果なのかもしれない。

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