電気自動車の可能性
朝日大学マーケティング研究所が08年2月に行なった、車に対する意識調査によると、首都圏在住の20歳~39歳男女で、車を持っている人の約7割は、週4日以上運転しないという。その反面、「ちょっとした用事・買い物」の用途・目的で車を使う頻度が大きく増えているのに対して、「テーマパーク」や「ドライブ」といった非日常のイベント的な用途・目的で車を使う頻度は下がっていて、『自動車が単なる移動手段としての道具と位置付けられ、長距離の移動を楽しく過ごすという意識が以前ほど感じられない』と結論付けられている。
特に都会では、電車やバス網が発達しているから、無理して車を持つ必要まではない。だけど、有れば有るで便利だし、実際ちょっとした用事には使われているという調査結果がある。また、田舎のように交通網が十分に整備されていないところであれば、もっと車は必要とされる。だから、自動車という存在自体が全く必要なくなるという事はない。小さな子供が沢山いる家族には大きなワゴンは欲しいだろうし、病院に行くのにいつも救急車を呼ぶ訳にもいかない。
本来の車の機能を考えた場合、その役目は人を含めた物資の輸送手段。その輸送「手段」として個人の車のあり方を考えてみると、実に無駄が多いことに気づく。普段の個人の生活で、365日、毎日24時間、物資の輸送手段を必要とする人は少ない。輸送業を生業としている人でも寝ながら運転はできないし、食事や休息だって必要。
車を単なる移動手段として考えた場合、必要なときに必要なだけあればそれで事足りる。だけど、先の調査結果でも分かるように、週の半分も運転しない人が大半を占める現状は、移動「手段」としての車が、普段の生活の中では僅かな時間しか必要とされていないことを示してる。駐車場で寝かされている時間のほうがずっと長い。これを企業の商品に置き換えて考えてみると、めったに売れない商品を「在庫」として抱えていることと同じ。
駐車場代という名の倉庫代は嵩むし、持ってるだけで税金も取られてゆく。企業経営的感覚からみれば、持っているほうがおかしい、レンタルで十分だと考えるのが普通。だから、これからの社会は、車を必要とする状況、つまり車が欲しい時間と場所がより個人の要求に沿ったものになっていって、在庫は極力持たない方向にシフトしてゆく。本当にその個人にとって、ピンポイントで必要な時間と場所に車が欲しい。そんなニーズが広がっていくことは疑いない。
市民団体「日本EVクラブ」は、CO2削減EV洞爺湖キャラバンと題して、2008年6月に電気自動車で、東京から札幌市の北海道庁までの858.7kmを7日で走破した。使われた電気自動車は、富士重工業「スバルR1e」と三菱自動車「i MiEV(アイ ミーブ)」の2台。驚くことに、東京から北海道まで行って、かかった電気代はたったの1713円。これがガソリン車だと、12956円になるというからその安さが分かろうというもの。
キャラバンに参加した2台は、途中東京電力さいたま支社で急速充電を行ったけれど、スバルR1eは約5分、三菱iMiEVは約15分の充電で8割くらいまで電気が復活するとレポートされている。ガソリン補給なんかと比べても全然見劣りしない。また、キャラバン中、立ち寄った岩手のコンビニ(ローソン紫波高水寺店)で、普通にコンセントから補充電もしている。
昔、道路に電線を張って、そこから電気をもらいながら走るトロリーバスというのがあったけれど、電線がないところでは走れないという欠点があって、次第にガソリン車におされて廃れてしまっていた。ところが最近のバッテリー技術向上のお陰で、バッテリー走行でも以前と比較して長距離を走れるようになった。それで、少しづつトロリーバスが復活してきているそうだ。
洞爺湖キャラバンで見せつけた電気自動車の性能を考えれば、トロリーバスが復活したと言ってもなんら驚くに当たらない。それにしても、近年の車の技術革新には目覚しいものがある。次世代型電気自動車、燃料電池車、インホイールモーターなど続々と新技術が開発されている。
特にインホイールモーターは、車のホイール部分に走る為のモーターを内蔵するから、トランスミッションやドライブシャフトなどの複雑なメカニズムが要らなくなる上に、各駆動輪の駆動力や制動力をきめ細かく独立制御できるようになる。更には、駆動部分がホイール内に収まるので、設計自由度が上がって、ハイブリッド車や燃料電池車のバッテリや燃料電池、水素タンクの搭載スペースを容易に確保できるという。
また、車の制御についても、新技術が開発されている。今では、車を無人で走らせることも可能になっていて、既に実用化されている。新型シーマの上級グレードにオプション設定された、レーンキープサポートシステムがそれ。これは、車のフロントにレーダーを装備して絶えず前方を監視して、前の車への衝突を防ぎ、ルームミラー上部にあるCCDカメラで、周囲の白線や車線を判別してハンドルを自動操縦するという技術。
純粋に性能だけでいえば、手放し運転すら出来るものなのだけど、道路交通法で手放し運転が認められていないので、あまり表だって宣伝できないシロモノらしい。実に勿体無い。朝日大学マーケティング研究所の調査で明らかになった「ちょっとした用事・買い物」の用途・目的で車を使う頻度が大きく増えているというニーズを考えたとき、車を持っていない人達にとって、それに応えるものがあるとすれば、タクシーとかレンタカーがそれにあたるだろう。
バスはそのニーズを満たすには物足りない。バスに乗るには、まずバス停に行かないといけないし、時刻表どうりにしか運航しない。時間や場所に制約がかかっている。車がない人だって、欲しいのはそんな制約のない移動手段。
では、タクシーやレンタカー業界がもっと伸びるのかと言われるとそれも少し違う。現状では利用コストが高すぎる。実際問題として「ちょっとした用事・買い物」程度であれば、半径10Km程度乗れれば十分。それなのに、初乗り700円とか、6時間レンタルして5000円とか取られると、気軽には使えない。やっぱり高い。ジュース1本、ワンコイン100円で10kmくらい走れるお手軽な車であってほしい。
洞爺湖キャラバンでの電気自動車は満充電で80km走れて、850km以上走破して、電気代は1700円ちょっと。1kmあたりに換算するとたったの2円。10kmで100円しか取らなくても全然大丈夫。たとえば、タクシーのように向こうから自分のところに来てくれるのだけれど、レンタカーとして使える車。いわば無人ロボットレンタカーとか作れないだろうか。
アメリカのTORCテクノロジーズ社は、バージニア工科大学で自動操縦技術の研究開発を進めるグループと提携し、世界初のロボットカー仕様のハイブリッドSUV「Ford Escape Hybrid」の提供を開始している。このシステムは緊急非常停止装置「SafeStop」を搭載し、アクセル、ブレーキ、ハンドル操作の自動化を実現している。アメリカでは、市街地で競い合う無人ロボットカーレース「Urban Grand Challenge」も行われており、昨年11月に行われた決勝レースに、このロボットカー仕様ハイブリッドSUVも参戦し、見事に3位に入賞した。こうした無人ロボット操縦技術やレーンサポートシステム、そしてバッテリー性能が飛躍的に向上している電気自動車を組み合わせれば、コストの安い無人ロボットレンタカーが実現できるはず。
たとえば、こういうのはどうだろう。
電気自動車に無人ロボット操縦技術およびレーンサポートシステムを搭載したレンタカー(トロリーレンタクシー)を用意して、普段は駐車場で満充電して待機。お客さんから電話があれば、GPSを利用した自動操縦でやってきて、そこからはお客さん本人が運転。
もちろん、本人確認や免許証の認証、その他、道交法の問題とかいくつかクリアすべき問題はあるのだけれど、いずれはこういったニーズに応えることができなければ、車離れを止めることは難しいように思う。1コイン100円で10Kmくらい走るように設定しておけば、都会でもそれなりに使われる筈。
ともあれ、自動車の技術革新を怠らず、また社会のニーズをしっかりと掴むことができた自動車メーカーが、これから生き残ってゆくことになるだろう。既に、ローソンは店舗巡回用の営業車の一割を電気自動車にする動きを始めている。充電設備も併設するというから、電気自動車の普及に一役買うことになる。
無人ロボットレンタカーを実用化するのにハードルが高いというなら、ローソンがレンタカー事業に乗り出すという手はあるかもしれない。日本のレンタカー屋の店舗数はそこそこあるとはいえ、コンビニのそれとは比較にならない。国内最大の店舗数を誇るトヨタレンタカーでも全国で約1100店舗、日産レンタカーは370店舗、三菱に至ってはわずか23店舗。それに引き換え、ローソンの店舗数は2008年8月現在で、全国8614店、内、関東7県で2324店舗ある。首都圏に絞って、ローソン一店舗に1台電気自動車のレンタカーを置いておくだけでも全然違う。
ローソンくらい店舗数があれば、乗り捨てしてもそれなりの利便性はあるだろう。全国のコンビニでレンタカー事業に乗り出せばもっと利便性は高まる。全国に店舗を広く展開しているという利便性を最大限に生かすところにも次代ビジネスの息吹が隠されている。