目次
まえがき
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タイトル目次
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第1章 エコ技術と生産技術
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アメリカの新車燃費規制
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公差の魔術
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海賊版対策とIpadの中身
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第2章 資源と環境技術
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リサイクルされるレアメタル
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レアアース戦争
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微生物と植物が地球を救う
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日本が産油国になる日
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第3章 電気社会の到来
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宇宙太陽光発電衛星計画
海洋温度差発電
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直流送電技術
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ワイヤレス送電技術
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電気自動車の可能性
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キャパシタ搭載バス
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ハイウェイトレイン構想
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ギガンティック・トウキョウ
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第4章 食料生産技術
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野菜工場
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CAS冷凍技術
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クロマグロの養殖
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第5章 宇宙科学技術
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小惑星探査機「はやぶさ」
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アブレータ耐熱技術
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イカロスの翼
学術・科学技術予算について
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第6章 軍事技術
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CSMミサイル構想
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F22とF35はガンダムとジムくらいに違う
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自衛隊がF22を持つ意味
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空母型護衛艦「ひゅうが」
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第7章 日本の安全保障と国家モデル
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軍事力による平和
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ODAは肉食動物を太らせた
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アメリカの強さの源泉
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日本がスネ夫になるための2つの条件
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しずかちゃんに成りかけた日本
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かつての日本はノビスケだった
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日本が出来杉君になる日
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あとがき
あとがき

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従って、遅かれ早かれ、全てのガソリン車はハイブリッドに移行すると予想される。事実、中小型では、日本を始め、どこのメーカーでもハイブリッド車を開発し、販売している。

 

今はまだ、日本のハイブリッド車が優勢だけれど、あと10年もすれば、外国産の車もみんなハイブリッド車になって日本の優位性は無くなっているかもしれない。自動車産業の復活に、アメリカが本気を出してきたとするならば、日本もうかうかとしていられない。

 

では、燃費規制対象となる新車ではなく、中古車の分野ではどうだろうか。アメリカでは、1~2年乗ったくらいでは、日本の様に値段ががくんと下がることもなく、いい値で取引されている。

 

今回の燃費規制にしても、中古車は対象外だから、こちらの分野では日本の中古車がまだしばらくは幅を利かせるかと思いきや、一概にはそうとも言えなくなっている。というのも、「アメ車」が燃費の悪い車の代名詞であったのは昔の話で、今や中・小型のガソリン車では、もう日本車と遜色ないレベルにまで燃費が向上しているからだ。

 

国土交通省は、自動車の燃費性能を評価し、毎年「燃費一覧」として公表しているけれど、平成22年度版から、日米自動車の燃費を比較すると次のようになっている。

 

トヨタ マークXジオ:2.4L 燃費 12.012.8 (km/L)

フォード エスケープ:2.3L 燃費 10.0 (km/L)

 

アメリカ車の1.5Lクラスのデータがないので、2.5Lクラスでの比較だけれど、このクラスでも、さほど巷で言われるほど、日本車とアメリカ車の燃費差はないように思われる。

とはいえ、リッター2Kの差は、積み重なれば馬鹿にならない。燃費がリッター10Kと12Kとでは、100Km走ったときには、1.7Lの差。リッター100円なら170円の差となって跳ね返ってくる。すると、やはり、中古車や中小型のガソリン車だと日本車の独壇場なのか。

 

オバマ大統領は2010年3月に、大西洋岸とメキシコ湾沿岸などでの石油・天然ガス探査を拡大する方針を発表した。この中には、過去20年間禁止されていたバージニア州沖での掘削も新方針に含まれるものとみられている。要は石油や天然ガスも自給しようということ。

 

注目すべきはこの発表が、新車の燃費規制の発表と同じ日だという点。筆者はこれを燃費規制とセットの政策ではないかとみている。石油が自給できるようになると、中東の原油価格にガソリン価格が影響されることも無くなるし、輸送費も要らなくなるから、今よりも更にガソリンが安くなる可能性がある。

 

ガソリンの値段そのものが安くなると、多少の燃費の差は関係なくなってくるから、アメリカ車でも売れる余地が増えることになる。こうしてみると、オバマ大統領ははっきりとアメリカの自動車産業の復活を狙っていると見ていいように思われる。

 

事ほど左様に、アメリカは戦略的に動く。

公差の魔術

では、アメリカの企業や政府が本気を出して自身の製造業の立て直しを行ってきたら、日本は絶対立ちうちできないのか。

 

日本の製造業の強みの一つとして、個々の部品の精度が挙げられる。これはなかなか他国では真似できないところ。部品の精度は製品の信頼性に直結するから、まだまだこの分野で戦える余地はある。

 

部品の精度を表す目安として「公差」というものがある。公差(こうさ)とは、機械工学に代表される工学において許容される差のことで、基準値に対して、許容される範囲の最大値と最小値の差を公差という。

 

たとえば、基準寸法50mm、公差±0.3mmと設定された部品があったとしたら、その許容寸法は、50mm-0.3mmから50mm+0.3mmの間、即ち、49.7mm以上50.3mm以下ということになる。

 

設計寸法は理論値だから、実物の寸法はどうしても少しはズレる。そのズレ分を考慮しながら、設計をするのだけれど、そのズレ分をどこまで許すかが公差の値となる。部品の公差を厳しくすればするほど、製品の組み立て工程でも使用時にも、問題は発生しにくくなるけれど、部品の単価はうんと高くなる。逆に公差を甘くして、単価を下げ言おうとすればするほど、組み立て後に装置が動かなかったり、トラブルの原因となる。

 

ここの公差に対する出来上がり寸法の精度が日本の製造業の強み。

 

公差±0.3mmと設定された部品を作るとき、海外メーカーだと、公差指定が±0.3mmなのだから、それを満たしてさえいれば、問題なし、として納品してくる。図面通りの出来上がり。契約どおりで何の問題もあろう筈がない、と。


だけど、日本の製造業、特にその道の""がいるようなところは違う。たとえ、公差±0.3mmと設定されていたとしても、匠はど真ん中を狙って、公差±0.1mmくらいの部品を作ってしまう。それも、殆ど全数にわたってその精度で仕上げて納品してくる。

 

だから、同じ公差±0.3mmの図面を渡しても、方や公差ギリギリの何時トラブルかも分からない部品が納められ、もう一方は、同じ値段、同じ納期で、本当は何倍もの値がするであろう超高精度の部品が納められることになる。

 

中には、あまりにその加工精度が凄くて、世界でその人しかつくれない匠だって、日本には沢山いる。たとえば、埼玉で辻谷工業を営む、世界一の砲丸作り職人である辻谷さんが作る"辻谷砲丸"もそのひとつ。辻谷さんの砲丸づくりに掛ける情熱には、日本の匠のプライドがある。

 

辻谷さんは13歳で働きはじめ実に60余年のキャリアを持つ超大ベテラン。その探究心にはすごいものがある。辻谷さんは、16歳から4年間夜学に通い、機械・製図・実習を学ぶ傍ら、同級となった30代、40代の大人から社会のいろいろな話を教わったという。そして、26歳で独立。東京オリンピックでは障害走用のハードル作りで頭角を現し、やがて砲丸づくりに取り組むことになる。

 

砲丸の国際規格は直径110~130mm、重さ7.265~7.285Kg。ところがこのとおりに作るのは実に難しい。砲丸を作り始めた頃は、重さをターゲットに作ると直径が収まらず、直径に狙いをつけると今度は重さが合わない。夏と冬では大きさが違ってくるし、作る度に違った出来になると述懐している。

 

辻谷さんが偉かったのは、鋳物工場に作り方が悪いんだというのではなくて、逆に鋳物工場に修行に出たこと。鋳物づくりから見直してみようという思いからだった。


鋳物工場で修行するうちに、溶かして湯状にした鋳鉄の底に沈んでいる部分には比重の重い不純物がたくさん混じっていることに気づく。

 

そこからがまた凄かった。150個の砲丸を吹いてもらい、ひとつひとつに番号をつけて、同じ大きさに削ると片端からデータをとっていった。すると最初から30個くらいまでは重さに変化がなかったのだけど、40個、50個と次第に重くなり、100個から150個でははっきりと重くなっていったことが分かった。

 

こうした研究を延々と続け、砲丸の砂型に流し込む湯口と底とではかすかな違いがあるとか、熱された鉄球の冷却速度によっても違いが生じるとかのデータを集めていったという。更に、砲丸を削りだす作業においては、砲丸の中心と重心がずれないように、ひとつひとつ削り方を変える。その加減は、削るときの音や削った表面の金属のツヤで判断しているという。機械ではまったく対応できない匠の技。こうして砲丸の中心と重心が一ミリも狂わない世界最高唯一の辻谷砲丸が出来上がる。

 

唯一というのは、他の誰にも同じことはできないということ。

 

辻谷砲丸は他のメーカーのようにペンキなど塗っていない無色の仕上がりなのだけれど、これが唯一無二の砲丸の証明になっている。他のメーカーは砲丸は、砲丸の中心と重心をのズレを最終的に合わせこむために一度作ってから、中をくり抜いて鉛を詰めて調節している。ペンキはそれらを隠すために塗っている。

 

そんな辻谷さんの技術をアメリカの大手スポーツメーカーが買いに来た。技術を教えてライセンスをくれといってきたのを辻谷さんはきっぱりと断った。そこには職人の探究心とプライドがあった。「この砲丸をつくる技術はわたしだけのものじゃない。砲丸づくりにはたくさんの人が協力してくれました。それをお金で売ることはできません。」と。



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