まえがき
去年・今年とヨーロッパ各地が大寒波に見舞われている。ヨーロッパでは『温暖化は嘘である』という認識が一般国民に広まっており、冬に備えた食糧備蓄を進める国民が増えてきているそうだ。
本当に地球は温暖化しているのか。
この冬、日本でも山陰地方を中心に大雪が観測されているけれども、これは、北極付近からの寒気が日本などに流れこみやすくなっている気圧配置が原因だと言われている。
北極付近の気圧が高く、日本を含む中緯度地域の気圧が低いと、北極の冷たい寒気が、気圧に押されて中緯度地域に流れこんでくる、逆に、北極付近の気圧が低く、中緯度地域の気圧が高いと、北極の寒気は極に押し込められた形となって、中緯度地域は暖冬になる。北極付近の気圧は年々強弱を繰り返していて、この現象は「北極振動」と呼ばれている。
北極振動 (Arctic Oscillation: AO) とは、ワシントン大学の Wallace 教授らにより1998年に提唱された現象で、振動の状態は「北極振動指数 (AO Index: AOI)」と呼ばれる数値で表す。
北極振動指数が正の時には、ヨーロッパでは偏西風の強化により温和で雨が多くなり、日本付近では温和な天候が続くし、逆に北極振動指数が負の時には、ヨーロッパでは晴天が続き、寒気の流入で寒冷化すると同時に日本付近も寒冷化するとされている。
過去20年間の北極振動指数の変化をみると1980年代はプラスだったものの、90年代から徐々にマイナス側に触れいっているという。勿論、マイナスに振れた1998、2001、2003、2004、2006年の冬は寒かった。
世界のCO2排出量はどんどん増えているのに、冬の寒さは必ずしも連動していない。
2009年11月、英イースト・アングリア大学のサーバーから著名な気候学者のメールが大量に盗まれ、ネット上に公開されるという事件があった。
問題のメールは、イギリスのイースト・アングリア大学のサーバへの不正アクセスによって持ち出されたもので、11月17日には、温暖化懐疑派サイトで公開され、世界中のメディアで取り上げられた。全部で1000通以上のメールがあるとされる。
その中には、「ホッケースティック」として知られている、年輪による平均気温データが改竄されたことを指したものがあり、特に問題視されている。
メールによれば、本来のデータでは、気温は1960年以降ずっと下がり続けているのだけれど、それを“Nature”誌に掲載するときに、最近のデータを実際の気温にすりかえたと告白している。
イースト・アングリア大学気候研究ユニット(CRU)のジョーンズ所長らは流出した電子メールが本物であることを認めたうえで、疑惑について11月24日に、「trickとは新データの追加を意味する言葉で、ごまかしではない」という声明を発表しているけれど、苦しい言い訳にしか聞こえない。
この事件は、ウォーターゲートにならって「クライメートゲート」事件と呼ばれているのだけれど、激しい論議を巻き起こしている。2009年12月3日には、米下院で取り上げられ、懐疑派の議員は「気候変動に関する科学すべてに疑問が及ぶ」と批判した。
大寒波はアメリカでも猛威をふるっていて、ワシントンは2010年の冬に数十年ぶりの大雪に見舞われた。そのとき、温暖化懐疑派の中心的人物であるジェームズ上院議員は、家族と共に、ワシントンD.C.の米連邦議会議事堂前にイヌイットの雪の家「イグルー」を作り、「アル・ゴアの新居」と書いた看板を掲げて、アル・ゴア元副大統領を揶揄した。
非難の槍玉に上がったアル・ゴア氏はというと、2009年11月に、あろうことか、CO2は温暖化に対する影響は40%くらいである、と自説を大きくトーンダウンするコメントを残している。
勢いづく懐疑派の動きに対して、環境保護派は、バンクーバーオリンピックの開催地バンクーバーが異例の雪不足に悩まされている問題を引き合いに出して、大雪の原因を「誤解」するなと反撃しているし、イギリス気象庁は、2009年12月5日に温度観測記録を公表すると発表している。まぁ、要は大激論になっている。
欧米では、地球温暖化に関して、懐疑派のウェブサイトやブログが沢山あって、こちらでも、クライメートゲートについて、盛んに議論されている。
中には、メール流出について、COP15を揺さぶることを目的にした内部告発ではないかとの噂まである。もちろん、真偽の程は定かじゃない。
ただ、これを逆手にとって、脱石油エネルギー社会へシフトする切っ掛けにはなるかもしれないことは、唯一の希望ではある。
本書は、筆者のブログ「日比野庵本館」http://kotobukibune.at.webry.info/ で過去3年においてエントリーした、主に科学技術系の記事を中心に抜粋編集したものである。
今回纏めるに至った経緯は、情報社会の最先端をゆくネットにおいて、科学技術系のエントリーが、数年たった今でも継続的に閲覧されていることに気づいたからだ。
この機会に、科学技術系の記事を中心に纏め、閲覧しやすい形にしてみようと思い立った。
本書の第5章までは、科学技術中心の紹介記事なのだけれど、第6章は軍事技術、第7章は日本の安全保障と国家モデルについての記事を取り上げた。
現代社会において、科学技術と安全保障は密接に関係していると筆者は考えているからだ。
これらの未来技術を知ることで、日本の未来の明るい国家モデルが見えてくればと願っている。