目次
まえがき
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タイトル目次
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第1章 エコ技術と生産技術
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アメリカの新車燃費規制
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公差の魔術
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海賊版対策とIpadの中身
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第2章 資源と環境技術
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リサイクルされるレアメタル
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レアアース戦争
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微生物と植物が地球を救う
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日本が産油国になる日
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第3章 電気社会の到来
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宇宙太陽光発電衛星計画
海洋温度差発電
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直流送電技術
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ワイヤレス送電技術
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電気自動車の可能性
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キャパシタ搭載バス
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ハイウェイトレイン構想
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ギガンティック・トウキョウ
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第4章 食料生産技術
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野菜工場
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CAS冷凍技術
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クロマグロの養殖
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第5章 宇宙科学技術
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小惑星探査機「はやぶさ」
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アブレータ耐熱技術
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イカロスの翼
学術・科学技術予算について
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第6章 軍事技術
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CSMミサイル構想
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F22とF35はガンダムとジムくらいに違う
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自衛隊がF22を持つ意味
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空母型護衛艦「ひゅうが」
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第7章 日本の安全保障と国家モデル
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軍事力による平和
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ODAは肉食動物を太らせた
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アメリカの強さの源泉
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日本がスネ夫になるための2つの条件
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しずかちゃんに成りかけた日本
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かつての日本はノビスケだった
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日本が出来杉君になる日
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あとがき
あとがき

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第4章 食料生産技術

 

 

 

 

 

 

 

第4章 食糧生産技術


野菜工場

食の不安、食の安全が叫ばれるようになってから、地産地消という言葉が良く聞かれるようになってきた。地産地消(ちさんちしょう)とは、地域生産地域消費(ちいきせいさん・ちいきしょうひ)の略語で、文字通り、地域で生産された農産物や水産物をその地域で消費することを示す。この言葉自体は1980年代前半には、農水省の公報誌などでも使われていて、結構古くからある概念。

 

もしも、ひとつのビルの中に、スーパーと飲食店と水耕栽培の畑が併設されていたら、どんなに便利かと思うけれど、実は、ほとんどそれに近いものは実現しつつある。それも東京のど真ん中で。人材派遣会社であるパソナは、就農支援の一環として、大手町のビルの地下にPASONA O2(パソナオーツー)という地下農園工場を作っている。

 

銀行の地下金庫だった空間を再利用したこの地下農園工場では、蛍光灯やLEDライトで野菜や花を育てる研究が行われている。施設内には6つの部屋があり、ライトも、温度も湿度も異なった設定で、それぞれ違う作物を栽培している。稲を作る部屋や大根、トマトを作る部屋もあり、稲などは、年3回の収穫も可能らしい。

 

また、元地下金庫だったところで作るだけあって、害虫は病気の心配も少なく、無農薬で栽培可能だという。今のところは、照明代のコストがかさむこともあって、サラダ菜1枚が1,000円くらいになるそうだけれど、こういった課題を解決していくことができれば、都心で農業を営むことも可能になってくるだろう。

 

また、千葉県松戸市で、植物工場での野菜生産を行っている「株式会社みらい」では、既存の建物をそのまま利用でき、多段の栽培ベッドで植物を栽培する技術を開発している。この技術を使えば、狭い空間で多くの野菜を収穫でき、露地栽培と比較して、面積効率で50倍の生産性を持つという。

工場内栽培だから、無菌に近い状態での衛生管理が可能になり、農薬も不要になるだそうだ。そんなストレスなしで育った野菜は、甘味が多くて食感が良いという。食料自給率の面でも、安全性の面からみても、こうした食料生産の"工業化"はもっと進められていい。法規制が障害になっているのであれば、どんどん改善するべきだし、もっと都市部で食糧を生産できるようにすれば、輸送コストの面でも有利に働くだろう。

 

野菜工場の生産管理なんて、ほとんど電子製品の生産管理と変わらない。農作業で汗を流してなんてイメージからはかけ離れている。もっといえば、野菜工場をコンビニの地下に作って、コンビニで自前の野菜を売ってしまうことだってできる。

 

実際に、京都の北山や滋賀県大津市に店舗を持つレストラン「天使のカフェ」では、レストランの地下のクリーンルームで水耕栽培された野菜を食材として使用している。当然、完全無農薬で、洗わずとも食べられるそうだ。レストランで野菜を自己栽培できるのであれば、当然、コンビニでも自家栽培できるだろう。そうすれ、輸送コストも要らないし、地産地消にもなる。ある意味、コンビニの数だけ農地があるのだから、生産量もある程度確保できるだろうし、雇用対策にもなる。

 

ただ、問題はコスト。今はまだ光を作るのにべらぼうに金がかかる。これをどうにかする問題がある。それでも、光の問題で地下につくるのがコスト的に難しいのなら、いっそのこと屋上に作ってしまうという方法もある。

 

これは、屋上緑化と呼ばれる、建築物の断熱性や景観の向上などを目的として、屋根や屋上に植物を植え緑化する試みの一種で、屋上緑化自身は十年ほど前から取り組まれている。東京都では、平成13年4月に改正された自然保護条例から、建物の新・増・改築時における屋上等の緑化を義務付けているけれど、緑化するなら何も庭園だけとは限らない。農地を作っても立派な緑化。もともと屋上緑化はヒートアイランド緩和を期待して始まったそうだけれど、なかなか進んではいない。

なんでも、開発の進んだ都市部での既存の建物では、緑化するだけの屋上の強度がないらしい。また新築でも緑化のための敷設設備に費用がかかることもあって、これも思ったように進まない。それでも少しではあるけれど、屋上緑化で農地を作った事例もある。福岡市では、2004年にビルの屋上に田んぼを作っていて、毎年、白米にして1.5キロほどの収穫があるという。

 

また、兵庫の大丸神戸店の屋上約45平方メートルを整備して畑にしているという。全国のスーパーやコンビニの屋上、または地下に畑や野菜工場を作って、自家栽培の野菜を売るようにするだけでも全然違ってくるだろう。そうして自給率を向上させた先に、ようやく美味しい日本産の農作物を輸出産品として考えることができる可能性も開けてくるだろう。

CAS冷凍技術

植物工場の普及による地産地消の促進が進んでも、依然として残るのは、その土地で消費しきれない食糧をどう保存するかという問題。平たく言えば、売りものにする野菜や魚、肉などを如何に鮮度を落とさずに市場に卸していくかという食品販売に関わる課題。これについても、画期的な冷凍技術が注目されている。CAS冷凍技術がそれ。

 

「細胞が生きている(Cells Alive System) 」という意味を持つこの技術は、細胞を壊さず冷凍・解凍をすることを実現している。従来の急速冷凍などは、素材に-40℃から-50℃の冷風を送り込んで冷凍するのだけれど、素材に冷風を直接吹きかけると、表面から氷結が始まって、表面の氷が一種のバリアとなって素材内部の凍結を妨げながら断層的な凍結を繰り返すようになる。これにより、全体が凍結するまでに時間がかかってしまう。

 

全体が凍結するまでの間、今度は、表面の氷が成長していき、内部の未凍結の水分子が移動して、表面の氷の核に吸い上げられてしまう毛細管現象が発生する。このとき成長した氷が食品の細胞膜に傷をつけてしまう。そして、冷凍した素材を解凍したときに、この傷からいわゆる「ドリップ」と呼ばれる細胞内の栄養や水分が流れ出して、劣化しや食品の味を落とす原因になっていた。

 

水が凍るという現象は、分子レベルでみれば、液体の状態で互いに動き回っていた水分子同士がくっついて、結晶化することなのだけれど、それは、不純物や振動などの「核」となるものを切っ掛けとして起こる。ところが、水をゆっくりと、均一に冷やしてゆくと、その凍る「核」がなく、0℃以下になっても凍らいでいることがある。これを「過冷却」と呼ぶ。

2010年夏に、お台場限定で発売された、「フタをあけた瞬間に凍っていくコカコーラ」はこの過冷却現象を利用している。この「過冷却」現象に目をつけて、対象物が凍結する直前まで、水を凍らせずにどんどん冷却していって、過冷却状態を人工的に作り出し、充分に過冷却させた後、一気に凍結させることで、水が氷として成長する間を与えずに冷凍してしまうのがCAS冷凍技術。

 

具体的には、冷却過程において、対象物に特殊な微弱電磁場を与えて水分子を均等に振動させてやることで過冷却状態を作っているそうだ。これによって、細胞を傷つけることなく、全体を新鮮なまま凍結することができるようになった。しかも、従来冷凍困難だった、生鮮食品やショートケーキなども冷凍可能だというから、何とも凄いもの。

 

従来の冷凍食品の問題であった、美味しくない、食感が悪い、冷凍臭、退色とその防止のための添加物の使用などなどの問題が一気に解決する道をCAS冷凍技術が拓くことになった。さらにこの技術によって、食品の賞味期限が飛躍的に伸び、何年も前のCAS冷凍品は新鮮なままいただけるという。この技術をいち早く取り入れた島根県隠岐の島の海士町では、地元の海産物を都内にまで出荷することで販路を拡大し、地方自治体の立て直しに貢献している。

 

既に、CAS冷凍技術は実用段階になっていて、家庭用冷蔵庫では"瞬冷凍"などと呼称して販売されている。(筆者の家庭でもCAS冷凍機能を持った冷蔵庫を使用しているけれど、普通の冷凍ではカチンコチンになるところが、CAS冷凍だと、買ったばかりの柔らかい状態のまま冷凍され、本当に冷凍されているのか、最初は訝しがったほどだ。)

 

このCAS冷凍技術は世界からも注目を集めていて、賞味期限が飛躍的に伸びるとされていることから、食品問題の解決の鍵を握るのではないかとも言われている。また、CAS冷凍技術を使えば、細胞を傷つけずに冷凍できるから、医療の移植技術の分野でも応用されつつあるという。

ただ、CAS冷凍は素晴らしい技術ではあるけれど、やはり冷凍していることはしているので、食べる前には"解凍"というプロセスを必要とする。だけど、普段の生活で食べ物が無駄になる時とは、大抵は食べ残した時とか、冷蔵庫の奥深くに入れたまま忘れて腐らしてしまう時などだろうと思われる。

 

そんなときでも、すべてCAS冷凍すればいいのだけれど、ちょっと食べ残してしまって、後で食べようと取っておきたい場合でも、解凍に時間がかかることを承知で、いちいち"冷凍"しようとする人は少ないと思う。従って、実生活上の利便性を考えれば、解凍技術にも気をくばる必要が出てくる。たとえば、CAS冷凍した食材であっても調理する寸前に瞬間解凍できれば、なんでもかんでもCAS冷凍できることになるから、食品の無駄は大分少なくなるのではないだろうか。

 

もし、瞬間冷凍・瞬間解凍機能のついた冷蔵庫が開発されれば、その時食べる分だけ解凍して使えばよくなるし、野菜室の底でニンジンをカサカサにしてしまうことも無くなるだろう。今の時代に現代人の生活から冷凍食品を無くすことは極めて難しい。昔と比べて生活そのものが圧縮されて、分刻みの生活になっている人がどんどん増えているから。休日なら兎も角、平日に時間をかけて調理に時間をかけられる人は逆の意味で恵まれている。共働き家庭なんかになると料理に割ける時間はうんと短くなる。

 

家電の世界では、テレビ番組なんかをでHDDにどんどん録画して好きなときに見るというスタイルが当たり前になってきたけれど、番組を予め保存して好きなときに再生するという意味では、冷凍食品と変わらない。だけど、録画映像なんかは殆ど劣化しないし、仮に少し劣化したところでテープやDVDを丸ごと捨てる人はいない。何度でも繰り返し録画再生するのが普通の感覚。

 

食品もそういう世界に入ることが求められている。政府も大々的に予算を投入してそうした技術の開発普及を検討してみてはどうだろうか。

クロマグロの養殖

2010年4月にカタールの首都ドーハで開かれていたワシントン条約締約国会議で、心配されていた大西洋・地中海産のクロマグロの輸出入を全面禁止する提案が否決され、25日に全体会合で正式承認された。

 

国際取引禁止案が否決されたのは、同案に反対する日本などが懸命の多数派工作を繰り広げ、中東やアフリカ、中南米などの途上国を中心に反対票を積み上げたためだとされている。ひとまずは安心といったところだけれど、まだまだ予断は許さない。何れは国際圧力に抗えない時がこないとも限らない。

 

2002年に世界で初めて、人工ふ化から育てたクロマグロの産卵を確認して「完全養殖」に成功したというニュースが駆け巡って以来、マグロの養殖研究は着実に進んでいる。クロマグロは太平洋を横断するほど運動性が高く、飼育しにくい大型魚。 クロマグロは、皮膚が弱く大変デリケート。稚魚は特に皮膚が弱く、手でつかんだだけで死んでしまう。また、光や音にも過敏で、隣の生け簀のタイやハマチは平気なのに、夜間生け簀に自動車のヘッドライトが当たっただけで、パニックを起こし、網に突っ込んで死んでしまう。

 

また、秋の台風などでは産卵を期待していたクロマグロが海上に流れ出た泥水によりって視界を遮られるなどでパニックを起こして、100尾が死ぬこともあった。これまでクロマグロの完全養殖は不可能だとされていた。それだけに、2002年の完全養殖の成功は関係者を驚かせたに違いない。

 

養殖クロマグロは、近畿大学水産研究所大島実験場などで研究が続けられ、「近大マグロ」とも呼ばれている。

今では近大マグロは、一部の百貨店や飲食店などに出荷されるまでになっている。近大水産研究所では、孵化して23年経った40Kg前後のものを多い週には1520匹出荷しているそうだ。

もっとも、週に何度も釣り上げると、釣り上げ船のエンジン音を聞いただけでマグロは海中深くに潜るようになるようで、餌を代えたり、エンジン音を消して近付いたりもするという。近大マグロは、“全身トロマグロ”と呼ばれるほど脂が多く、赤身も中トロ並み。今では脂の多さを売り物にしている。

 

また、餌の履歴がハッキリしていて、水銀濃度が低く抗生物質を使っていない、といった特徴がある。食の安全や食糧安保が叫ばれる昨今。クロマグロの完全養殖が軌道にのり、クロマグロ自給率が100%を超える日がくることが期待される。養殖マグロをビジネス的に採算が合うようにするための課題は、稚魚の生存率を上げること。

 

マグロは1回に数十万個の卵を産むのだけれど、自然界では成魚になれるのは限りなく0に近い。養殖マグロでさえも、孵化して40日目までの生存率がたった0.1%。これを10倍にして始めてビジネスになるという。マグロの稚魚の生存率が低い理由はいくつかあって、まず、孵化後の数日間は浮上死の危険がある。

 

孵化後の一か月は陸上水槽で育つけれど、エアーポンプから出る水泡の流れに乗って水面に浮いたまま下りられなくなるのが出てくる。また、夜の間に動きを止めて水槽の底に沈んで死ぬものも出る。さらに、マグロの稚魚は成長が早く、その分餌が必要で、孵化後2週間もすると共食いを始めるそうだ。

 

養殖の環境ですらこうなのだから、自然界での卵からの生存確率は数十万分の1あるかないかというのも頷ける。これだと流石に絶滅を危惧されてしまうのだろう。量産化の期待が高まるのもむべなるかな。ところが更に問題なのは、稚魚の大量生産ができないこと。近大が1974年に完全養殖の研究を始めて30年以上経っても、産卵はまったく自然にゆだねるしかないらしい。

1979年、初めて畜養マグロが生け簀で卵を生んだのだけれど、孵化した稚魚は47日で死んでしまった。その後も数十日で死ぬことが続いた揚げ句、83年から11年間は卵を生まない年が続いたという。前途は厳しいかと思いきや、なんと、サバにマグロを産ませて増やそうという研究が進んでいる。

 

12年近くこの研究に取り組んでいる吉崎悟朗・東京海洋大学准教授は、7年前、淡水魚のヤマメにニジマスの卵や精子を作らせることに成功。2005年からサバにマグロを産ませる研究に着手している。このサバにマグロを生ませる技術は、生まれたての赤ん坊のサバにまず、サバ自身の卵や精子を作らないよう不妊処理を施す。その後、メスのサバにマグロの卵原細胞を、オスのサバにはマグロの精原細胞を注入するというもの。

 

そのサバが大人になるとマグロの卵や精子だけ作ることになるから、処理されたサバのメスとオスが受精して卵を産めばクロマグロの子になるという仕組み。この技術の凄いところは、マグロの稚魚を作るのに、マグロを使わなくてよいところ。自然に任せるしかないマグロの産卵が、サバの腹を借りることでより確実になる。これは、マグロの大量生産をも可能にする技術となるかもしれない。

 

吉崎悟准教授は、この技術を使って、クロマグロを鮭の放流のように、人間が取る分だけ増やせればそれでいいとコメントしている。クロマグロの放流とは何とも夢のある話。たとえば、瀬戸内海に大量にクロマグロの稚魚を放流することなんてできれば、瀬戸内海全部がクロマグロの生簀になるかもしれない。