閉じる


<<最初から読む

2 / 2ページ

宇宙離婚旅行

 数日後、近くの宇宙空港から飛び立った自動操縦型の宇宙船は大気圏を抜けるとすぐに事故が発生し、地球その他どこにも連絡が取れない状態になった。計画通りだ。
 船内は2つの船室があるが、別々にいては、計画が進まない。なるべく顔を合わせるようにした。そして口げんか。
「あなたの言うことを聞いてうまくいったことはなかったわ。今回もこの有様よ」
「俺はどっちでもよかったんだ。お前が付いて来ると言ったくせに」
 ここだ。ここで怒らせて、性格の不一致という理由で離婚に持ち込まなければ。
「お前は、悪いことはいつも俺のせいにする。お前が何不自由なく暮らせるのも、俺が外で汗水流して働いているからだろ」
「あなたは、すぐに自分が働いて私を養っているって言うけど、私はあなたのペットじゃないのよ」
「そうさ、ペットならもっと言うことを聞くさ」
「まっ」
 妻は、怒り狂って別室に移動。とりあえず、第1ラウンド終了ってとこか。こちらから絶対離婚を提案しない。あくまでも、妻からの提案で渋々離婚に同意するという形をとらなければならない。この閉ざされた空間は、妻を追い詰めるのに適している。この宇宙空間のいいところがもう1つ見つかった。ここで仮に俺の不倫疑惑を突かれようと、それを証明する情報を入手する方法がない。この閉じた空間の中で議論をすれば、お互いの性格がいかに一致しないかだけが、議論の中心になる。最高の環境だ。
 俺の不倫が離婚の理由でない以上、財産の取り分は、五分五分になる。しかし、それではだめだ。妻が、一方的に離婚をしたがっている状況をつくりだすことで、条件はこっちに有利だ。離婚の落とし所は、まあ、七対三くらいにすることだ。俺には新しい彼女との生活が待っている。
  
 
「もしもし、私ですけど」
「奥様、一応その宇宙船は、通信ができないという設定になっておりますので、あまりこちらに連絡をされないほうがよろしいんでございますが」
「ええ、わかっているわ。ちょっと確認したいことがあって。今回の旅行の前に、夫の生命保険を宇宙旅行用に増額してほしいとお願いしましたけど、ちゃんと、手続きは済んだかしら」
「はいもちろん。その件は、奥様の代理人のAさまに確認していただいております。でも今回は、円満な離婚のための旅行ですので、あんな高額な生命保険は、無意味かと……」
「意味があるか、ないかは、あなたが決めることじゃないわ。あなたには、夫の依頼に忠実に、事故で通信ができなくなる宇宙船を手配していただいて感謝しているわ。それを前もってお願いしたのはわたしだけど」
「はい、奥様のおっしゃられたとおり、数日後、旦那様が当社においでになりましたので、ご希望の旅行を準備いたしました。それ以上のことは関与しておりません。それではよい結果をお祈りしております」
「ありがとう。それで結構よ。でも、もしかしたら、もう1つ事故が発生して、帰りは1人になるかもしれないわ。その時は、新しい彼との旅行を企画していただこうかしら。もちろん安全な奴をね」
 
「はい……」
 小太りの旅行インストラクターは、ちょっと姿勢を正した。

この本の内容は以上です。


読者登録

junpnozakiさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について