目次
イントロダクション
登場人物設定
1話 沙織ちゃん、敷女を目指す、けど?
沙織ちゃん、敷女を目指す、かも?
家庭教師は霜田さん!
霜田拓也のレクチャー
ホームページ見たので、一晩眠って、よく考えます
2話 他の校区の女子中学生たち
沙織のお勉強タイム!
服部美月のぷんすか状態
立花梨音のつぶやき
柏原桃花のひとりごと
美月のスパルタ学習!
そして4人は出会った!
たまには遊んで来なさい!
3話 室山県立敷島女子高等学校、合格!
室山県立敷島女子高等学校、合格!
沙織さんちのお姉さん
沙織のゆめ
4話 美月のいちばん長い日
美月のいちばん長い日
美月さんのおバスト始め
5話 沙織と美月と狼たちと
沙織と美月と狼たちと
6話 臨時講師、マイク・ゴズウェル登場!
臨時講師、マイク・ゴズウェル登場!
7話 中間テストがやって来る!
中間テストがやって来る!
8話 鳥取地震
鳥取地震と私たち
9話 総合高校がやって来る!
総合高校がやって来る!
10話 夏が来る、夏が来る!
水泳大会がやって来る!
11話 衣替えがやって来る!
衣替えがやって来る!
12話 実は、今日は多い日で重い日で痛い日なのだ
実は、今日は多い日で重い日で痛い日なのだ
13話 家庭科部、スイーツ食べ歩き!
家庭科部、スイーツ食べ歩き!
14話 夏休みがやって来る!
夏休みがやって来る!
15話 オープンスクール!
オープンスクールがやって来る!
16話 梅香祭(文化祭)
梅香祭(文化祭)
17話 霜田、身を挺して!
霜田、身を挺して!
18話 病院へお見舞い
病院へお見舞い
19話 黄昏を追い抜いて
黄昏を追い抜いて
20話 お見舞いふたたび
お見舞いふたたび
21話 冬がはじまるよ
冬がはじまるよ
22話 雪が落ちて来た
雪が落ちて来た!
終章1 それから……
それから……
終章2 十年ぶりの女子トーク!
十年ぶりの女子トーク!
設定資料集
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紅葉野電鉄 駅名表示板設定
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室山県立敷島女子高等学校 制服設定
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奥付

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登場人物設定

(室山県立敷島女子高等学校のみなさん)

 

高槻 沙織(たかつき・さおり) ※JR京都線 高槻駅から苗字を拝借。
 香枚井駅近く、春名坂の洋菓子屋の娘。英語と体育のみ成績優秀で、県下有数の進学校「県立敷島女子高等学校」を目指す。勉強も遊びも平等に両方するタイプで、ゆるーい性格。香枚井中学校区。紅電香枚井駅係員、霜田拓也さんラブな、恋に恋するタイプ。愛称は「さおりん」。どちらかと言えば文系。特に外国語系が強い。一方、理数系はからきしダメ。甘い紅茶と、洋風スイーツを愛する。夢は子どもが喜ぶみんなのお菓子屋さん。嫌いな食べ物は、あずきで出来た餡と、いちご大福(大豆など豆系にアレルギーあり)。いちご大福は邪道だとして特に嫌う。

 

服部 美月(はっとり・みづき) ※阪急宝塚線 服部天神駅から苗字を拝借。
 春名坂上(榛名天神駅前)の老舗和菓子店の娘。「県立敷島女子高等学校」を目指す。負けん気根性があり、男勝りでリーダータイプ。梨音、桃花と同じ、春名中学校区。既に、国公立の大学(室山大学)を射程圏内におさめようと頑張っている。愛称は「はっとり」。たまに愛称で呼ばれると「馴れ馴れしい!」と怒ることも。嫌いな食べ物はチーズ。ピザからチーズケーキまでダメ。

 

立花 梨音(たちばな・りおん) ※JR神戸線 立花駅から苗字を拝借。
 香枚井駅近く、春名坂の電器屋の娘。たちばなデンキの跡取り……になる予定が女子。理工系が得意。美月と同じグループ。「県立敷島女子高等学校」の情報処理科を目指す。人なつっこく、さむーいジョークを飛ばす。人生イコールウケ狙い。人生全て商売商売。愛称はそのまんま「梨音」。言われるのが「お前、よく敷女に受かったな」。どちらかと言えば理系。なぜ工業高校にしなかったのか。それは「敷女の制服がかっこかわいいから」。事実、服装をアレンジすることが好きで、制服のスカートを折ったり、私服を全部自分で作ったりできる。そのくせ家政科ではない。なお、実家は電器店で、Nasapanic(ナサパニック)のお店。

 

柏原 桃花(かいばら・ももか) ※JR福知山線 柏原駅から苗字を拝借。
 二年生。香枚井駅近く、春名台団地の至って普通なサラリーマン家庭に育つ、折り目正しい女の子。美月と同じグループ。中学一年の時に、東京都から、市立春名坂中学校に転校してきた。「県立敷島女子高等学校」を余裕で目指す。愛称は特になく「桃花」。後輩からは「ももっち先輩」と呼ばれることになる。どちらかと言えばコツコツ努力するほう。比較的成績はいいのに、時々、ぼーっと空を眺めていることがある。敬語キャラ。災害などの臨時ニュース等で民放ラジオ局へ向かう父親の帰りが心配なお年頃。

 

     ◇ ◇ ◇

 

高槻 紫織(たかつき・しおり)

 ヒロイン沙織の、ふたつ年上のお姉さん。室山県立敷島女子高等学校、普通科在学中。妹とは違い、背も高く、やることなすこと凜々しい。妹いじりが大好きで、演劇部所属。生まれつきガチ百合属性があり、よく同級生を家に泊めては、百合雑誌を読んだり、百合話に花が咲いたり、妹いわく「ゆりんゆりん族」と蔑まれている。彼氏いない歴イコール年齢。作ろうとも思わないし、まるで異性に興味を持たない主義。

 

 

 

田辺 啓子(たなべ・けいこ) ※大阪市営地下鉄谷町線 田辺駅から苗字を拝借。
 刈羽台に実家がある、田辺青果店の長女。シエスタ香枚井(複合ビル)に店舗を構えている。家庭科部員の一年生。見た目素直でおとなしそうなのに、商売の話になると、セールスのマシンガントーク(フルーツの営業)を繰り出す、おろそかに出来ない、あなどれない後輩。沙織たちが二年生の時に、新入生として入学する。

 

長瀬 千秋(ながせ・ちあき) ※JRおおさか東線 JR長瀬駅より苗字を拝借。

 新長坂と香枚井駅の間に住み、お金を節約するためにわざわざ香枚井駅まで自転車で通学するスポーツウーマン。中学よりチア部に在籍しており、高1で全国大会制覇。チアリーディング部の副部長。室山県立敷島女子高等学校、家政科。室山県チアリーディング大会で優勝した経験がある。地元服飾短大へ向けて進学勉強中。高校野球の友情応援では、室山工業ベンチで熱血応援をする。 

 

板宿 美香(いたやど・みか) ※山陽電気鉄道・神戸市営地下鉄 板宿駅より苗字を拝借。

 榛名天神よりももうひと駅北にある急行停車駅、吾野本陣駅在住。敷島女子高校志望の普通の家庭の女の子。家庭科部に入ってのんびりまったりしたい。特に進学はいまのところ考えていない。典型的な妹キャラ。沙織たち3学年の時に、1学年に入学する。

 

(教職員のみなさん)

松井 和俊(まつい・かずとし)

 室山県立敷島女子高等学校、第48代学校長。文化祭では、ステージで照れくさそうに「マイ・ウェイ/フランク・シナトラ」を原語で朗々と歌う。元英語科教諭。なので、担任・相川杏子に多少同情的。

 

相川 杏子(あいかわ・きょうこ) ※阪急京都線 相川駅から苗字を拝借。
 普段はおしとやかで、柔和で、女性の理想像を体現する、クラス担任。室山大学教育学部卒。敷女OG(普通科卒)で、英語科担当教諭。だが、それは世を忍ぶ仮の姿。たまーにキレるが、一度キレたら、もう誰にも手が付けられないし、誰にも止められない。暴走生徒とパワハラ上司とPTAに囲まれて、過去に十二指腸潰瘍を患ったこともある。現在、自律神経失調中。婚期を逃し、出会いもない、幸薄き女性。

 

柴島 祥恵(くにじま・さちえ) ※阪急千里線 柴島駅から苗字を拝借。
 家庭科部顧問の先生。敷女OG(家政科卒)。家政科担当教諭。既婚者であり、サバサバした性格。根に持たない。すっかりワーキングマザーが板に付いた年齢である。家庭科部では、みんなのお母さん的存在。

 

藤井奈緖子(ふじい・なおこ) ※近鉄南大阪線 藤井寺駅から苗字を拝借。

 保健室担当教諭。敷女OG(普通科卒)。どちらかと言えば、みんなの上級生といった感じで、大人の女性ではあるものの、大人びて見えないところから、学校の生徒に慕われる。

 

マイク・ゴズウェル(Mike Gozwell)

 英語の臨時男性教諭。イングランド、リバプール出身。フットボール(サッカー)とハンバーガーが大好き。ハハハーハ、ハハッと豪放磊落に笑う。体格は大柄。ジャパニーズガールズが、下ネタに反応して「きゃー」と言うのを、とても愉快がっている。なお、日本語は堪能だが、発言が滅茶苦茶である。

 

(香枚井駅駅員のみなさん)

 

霜田 拓也(しもた・たくや)
 地元私鉄「紅葉野電鉄」香枚井駅に勤務する駅員。霜田家の長男。最初に沙織が彼に好意を抱く。責任感が強く、実直で、誠実な人柄。今度、車掌昇進試験なら受けてもいいかなと思っている。石橋を叩いて渡る性格。何事も几帳面。一応、父親の勧めで自動車二種免許は持っている。本気を出せば代行バスも動かせます。最近、美月や沙織に「むっつりスケベ属性」をつけられていて、激しい誤解を招いているが、単に女性に対して淡泊なだけ。

 

霜田  翔(しもた・かける)
 「葱北本線」香枚井駅に勤務する駅員。霜田家の次男。美月や沙織に「おっぱい星人属性」をつけられて、激しい誤解を招いている。事実、思い切ったセクハラな言動をすることがあるが、単にまだ子どものような好奇心があるだけ。サキソフォーン奏者でもある。動力車免許を取り、運転士昇進試験なら受けてもいいかなと思っている。(車掌昇進試験なら既に受けている)その名の通り、バイクで風になるのが好き。本気を出せばハーレーダビットソンも運転できます。


沙織ちゃん、敷女を目指す、かも?

ここは、室山市香枚井。県庁所在地の北の玄関口に当たる。ここ、香枚井中学校校区にある、小洒落た洋菓子店、パティシエール・高槻洋菓堂というお店に、中学三年生になる、高槻沙織という少女がいる。九〇歳になろうとする元祖、パティシエの祖父・祖母をはじめ、店を切り盛りする父母と、現在、高校二年生の姉・紫織と、沙織の六人暮らし。つまり、沙織は末っ子で、天然ボケの母や姉のツッコミ役として、普段から何かと頑張っている。

 

母の恵美は、室山県立敷島女子高等学校のOG。姉の紫織は、同じく敷女の二年生。なので、両親から……いや、母や姉からは「あんたも敷女行きなさいよ」と普段から、ほんわりと、しかし、真綿で首を絞めるように、徐々にプレッシャーをかけ続けられていたのだった。事実、香枚井中学校では、三者面談の時にも、将来の進路を、母親が勝手に「娘を、敷島女子に絶対に入れたいと思います」……などと言うものだから、親と姉に敷かれたレールを、黙々と歩まざるを得なかった。

 

だが、沙織は英語と体育以外はからきしダメで、とても偏差値六〇の敷女へ通うなんて、無理に決まっている。そう思い込んでいた。非常に悩んでいた。「わたしなんか、敷女なんかに受かりっこない……」と、日に日に悩みは深くなって行くのだった。ある晴れた昼下がりの日曜日、高槻家のリビングにて。沙織は母と紫織とで、ソファーに座りながら、手足バタバタ、涙ボロボロで、反抗期むき出しで、何故だか怒っていた。

 

「やだやだやだやだー! 敷女なんて行きたくなーい! 絶対無理! 一〇〇%無理! 無理無理無理無理-!」

「あら沙織。地団駄踏んでも無駄よー。だって、もう、家庭教師たのんじゃったんだもの。ふふふ」

「ママ! 余計なことしないでっ! わたしは近所の県立香枚井高校で、三年間、共学で過ごしたいの! いきなり家庭教師って! きっと、ガリ勉おたく連れてくるに決まってる! やだ、やだやだ! 絶対に嫌!」

「沙織、敷女って結構過ごしやすいよー。男子の目を気にすることもなく、フリーダムな世界! 絶対に後悔させないってば、おいで!」

「お姉ちゃんは、ただ単に性格が百合なだけでしょ! 一緒にしないで! ああっ、もう! 女子高と言えば、同性愛……げっ、想像しただけで気持ち悪い……」

「沙織? 家庭教師を、あなたの大好きな、霜田拓也さんに頼んでおいたから、よろしくしてあげてね?」

 

沙織は泣き止んだ。霜田拓也。彼は、今でこそ地元私鉄「紅葉野電鉄」略して「紅電」の香枚井駅係員だが、幼い頃は、近所の児童公園で遊んでいた仲だ。本当のところ、沙織にとっては初恋の人。幼心に「おおきくなったら、たくやお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」とまで言い切ったことがあった。霜田拓也。彼は、葱州長坂駅が最寄りの県立室山工業高等学校機械科卒。学校推薦で地元私鉄に入社した、比較的クレバーな男だった。

 

「え? 拓也お兄ちゃんが、カテキョ?」

 

紫織や恵美が、さらにたたみかける。

 

「そうだよ。霜田さんなら、あなたも抵抗ないでしょ。だったらそうしなよー。ほら、わたしのお下がりのセーラー服あげるから、ほーら!」

「ぐえ! そんな汗臭いボロボロのなんか、いりません! でも、拓也お兄ちゃんかぁー。ちょっとかんがえておく」

「あらまあ、やる気になってくれたのね! お母さん安心!」

「安心させた覚えはなーい! あくまでも、絶対に、県立香枚井高校で、健全な青春を過ごすんだもん! レズで百合なお姉ちゃんとは、絶対に合わない! タイプが違う! わたし、共学がいいんだもん!」

「どこまでも意固地ねえ……あ、もうじき、霜田さんが朝番の勤務を終えて、うちに来る頃ね! ケーキとお茶で出迎えなきゃ! お母さん、ちょっと支度してくるから、霜田さんに、『わたし、ちゃーんと敷女に行きます!』って言わないと、お小遣い抜きですからね」

「ちょっと! お母さん! ひどいー!」

「まあまあ沙織、おねえさまの後、ついといで! 先輩としてみっちり指導するから! よろしく!」

「よろしく! じゃなーい! 勝手に決めないでー! それから……」

 

ping... pong...

 

「噂をすれば、ほら来た! 沙織! 玄関まで行っといで! わたしも行くから!」

「なんで一緒にー? お姉ちゃんのバカ! この、裏切り者!」

「はーい、どちら様? 霜田さんですか? 今から開けますねー!」

「……」 

 

玄関ドアを開けると、そこにはネクタイにカッターシャツ、制服のオリーブ色のズボンを履いた、イケメン……という程整ってはいないが、容姿そこそこ格好いい、7等身男子がそこにいた。彼こそが、沙織の初恋の人、霜田拓也だった。紫織が彼を招き入れる。

 

「どうぞー、いらっしゃーい! お待ちしてました!」

「どうも、こんにちは。僕が家庭教師で良かったのかなぁ」

「大変助かりますー! この子にお勉強教えてあげてください! さあさ、二階へどうぞ! 沙織の部屋へGO!」

「もう、お姉ちゃんったら!」

「沙織ちゃん、今日は何でぷんすかしてるんだい?」

「あのね、聞いてよ! 百合族のお姉ちゃんが、敷女にわたしを入れたがって……むがっ!」

 

紫織の手が、沙織の口を塞いで、沙織は何か不平不満をモゴモゴ何か言いたそうだったが、紫織は有無を言わさず階段を引きずって、沙織を無理矢理勉強部屋へ連れて行くのだった。


2
最終更新日 : 2018-01-06 13:27:46

家庭教師は霜田さん!

ここは、高槻家の沙織の部屋。拓也は、沙織の身に何が起きてるんだ! と言わんばかりに、オロオロ、オタオタしているが、そんなことはお構いなしに、紫織に口を塞がれ、首を絞められている沙織は、また泣きじゃくりながら、口をモゴモゴさせ、両手両脚で紫織を殴る蹴るしていたのだが、全然効果がないようで、黙って引きずられ、勉強机に無理矢理座らされようとしているのだった。

 

「ちょ、紫織ちゃん、余り沙織ちゃんに暴力は、ちょっと、さすがに……」

「霜田さん、これは、うちでは日常茶飯事な出来事なので、心配なさらないで、ねっ!」

 

そう言い放つと、ドサッと、沙織を勉強机に無理矢理座らせるのだった。

 

「ぷはー! もうっ! お姉ちゃん最低!」

「いいこと? 絶対に敷島女子に入って、私の後輩になりなさい! さあさ、霜田さん、この子にお勉強教えてあげてくださいね! あ、このメモ、私の携帯の番号ですから、何か反抗期が始まったら、わたしの部屋まで電話してくださいね。それじゃあ、後はよろしくおねがいしますね!」

 

ドアがバタム、と閉じられた。困惑する拓也。何かをこらえていそうな、涙爆発寸前の沙織。非常に気まずい。

このように、性格的に、常に一方的な姉・紫織であった。そんなことはともかく、目の前で涙ながらにゴホゴホむせて、ゲホゲホ言っている沙織を見るに見かねて、拓也が、たまらずに沙織に声をかけた。

 

「沙織ちゃん、大丈夫か? なんか、ドタバタして、無理矢理そうなんだけど……」

 

沙織が、真っ赤な顔をして、大粒の涙を浮かべて、上を向いて、しばらく鼻をすすったかと思えば、突然、隣席の拓也の太腿に顔を突っ込んで、大声で泣き始めるのだった。ますます、手に負えなくなり、ひたすらうろたえる拓也!

 

「ぐしゅ、ぐしゅ、うわああああーん! 助けて、お兄ちゃあああん! う、うええええん」

「助けろって、一体、何が何だか分からない……じゃ、じゃあ、まずは落ち着いて、一旦、顔を上げて、ゆっくりと深呼吸してみようか、ね、沙織ちゃん!」

「無理ー! うわああああーん! わたし、わたしになんか、敷女は無理……受かりっこないよおおおお! わ、わああああん!」

 

(これは時間がかかりそうだな……泣き止むのを待とう)

 

沙織は、拓也の膝元で、かれこれ十数分、ぎゃんぎゃんと泣き続けた結果、ようやく気が済んだらしく、目許をこすりながら、ようやく起き上がって、鼻をすすすん、すすすんしていた。


3
最終更新日 : 2018-01-06 13:28:33

霜田拓也のレクチャー

拓也は、泣き止んだ沙織を何とか机に向かわせて、今日の目的であるお勉強を教えにかかるのだが……。こんなメソメソさめざめ泣いている沙織の勉強が手に着くはずもなく、とりあえず、拓也の出身校の室山工業高校と、近所の香枚井高校と、沙織が絶対嫌がるはずの、敷島女子高校のホームページを見せながら、お茶とケーキをたしなみつつ、世間話をすることに決めた。

 

http://pref.muroyama.lg.jp/school/muroyama_th

 

「あ、室山工業高校のホームページ! 霜田さんの母校!」

「まあ、制服は……詰め襟と作業着だけどね、女子はブレザーだったっけ」

「え! 女子もちょびっとだけだけど、いるの? やだ、ものすごい逆ハーレム!」

「沙織ちゃん。案外、そういうロマンスのたぐいは、君が思っている以上に生まれないものなんだよ」

「え、そうなの?」

「例えば、夏の6限目のプールの授業。先輩方の整髪料で、プールの水は整髪料くさくって、なおかつ、整髪料だけでプール全体が白濁液状態。なので女子はプールサイドでジャージで見学な。そんな香ばしい汚染された水の中で、バタフライを泳いだ後の口の中たるや……思い出すだけで気持ちが悪い……」

「ひいっ! ひどい!」

「それに加えて、防具臭い剣道の授業。男の汗臭い柔道の授業。黙々と男同士でやる器械体操や新体操などなど」

「げええええっ!」

「だろう? だから、余程タフな女子でないと、つとまらない。沙織ちゃんなら三日で逃げ出すと思うよ」

「うん、なんだか納得!」

「次は、香枚井高校のホームページだな!」

 

http://pref.muroyama.lg.jp/school/kahirai

 

「普通科だねー。ここのブレザー、超可愛い! 絶対行きたい!」

「でもご覧、進路先。大学行くのには、ちょっと馬力が足りないかな。進学実績とか、進路・就職実績とか見ると、室山工業よりもひどかったりする」

「わたし、お嫁さんになるつもりなので問題ないです!」

「でもなー、大学出て、一旦世間へ出て、就職してからでも、お嫁さんは遅くないぞー。ちょっと言い過ぎかも知んないけど、急いで結婚する必要なんかないぞー。僕の実家は、タクシー業界なんだけど、進学するのに、実家にあんまり、お金がなかったから、即、就職できる工業高校を選んだんだけど」

「ふうん、そういうもんですかねー。きょうび、大学出てなきゃダメなのかー」

「ダメって訳じゃないけどね、将来、年収とか、結婚とかで、大きな差が出て来る。気をつけた方がいいよ」

「ふえー、勉強めんどくさーい!」

「まあ、勉強なら、一応理工系だし、三角関数とか、微積分まで教えられるぞ!」

「霜田さん、すごおおい!」

「ちなみに、機械製図、機械設計、旋盤加工、CAD、CAMまで知っている!」

「わたし、そんなスキルいらない。勘弁して」

 

http://pref.muroyama.lg.jp/school/shikishima_gh

 

「わかった。それを踏まえて、問題の敷島女子高校だな」

「もう、ホームページ見なくても、紫織の背中見て育ってるし、毎日がゆりんゆりんだし、カノジョ連れて帰ってくるし、百合のカノジョとうちでお泊まりだし、バレンタインなんか、同級生の女の子から大量のチョコレートもらってくるし! なんだか、女刑務所みたいでいや! 絶対いや!」

「まあまあ、怒らないで、落ち着いて。おっ! やっぱりあった! 吹奏楽部の友情応援!」

「……それって、何?」

「昭和初期から続く、室山工業と敷女の伝統だよ。敷島女子のスポーツには、室山工業の応援団が友情応援で駆け付けるし、室山工業の……野球とかサッカーかな、その試合には、敷島女子の吹奏楽部や、チアリーディング部が友情応援に駆け付ける。そんな伝統があってね、昔から」

「ふううん」

「あんまり興味なさそうだね。今日の所はこれくらいにして、オレ、そろそろ帰ろうか?」

「いや、もう少し待って……ここんとこ、もう少し詳しく知りたい……」

 

拓也は内心、ほくそ笑みはしなかったが、確かな手応えをつかみつつあった。沙織を、徐々にではあるが、室山県立敷島女子高等学校に誘導できつつある! と、思っていた。実は、これも、高槻親子によって仕組まれた、巧妙なワナだったのだ! 前日、沙織の母から「あなたから敷女行きを根気強く、悟られないように、沙織に説得してあげてね。ほら、私たちが言うと、沙織ったら、すぐご機嫌損ねちゃうし」などという相談を持ちかけられていたのだった。なので……。

 

(ごめんね沙織ちゃん! オレは君のお母さんに買収されてました。ごめん! 本当ごめん!)


4
最終更新日 : 2018-01-06 13:35:55

ホームページ見たので、一晩眠って、よく考えます

霜田拓也は、ビターなチョコレートケーキに、無糖のアイスコーヒー。高槻沙織は、いちごのショートケーキに、ミルクティーを、それぞれ口にし始めた。随分冷めかけている。時と共に、沙織も冷静になってきたようだった。そして、沙織のパソコンに映された、室山県立敷島女子高等学校のホームページ。そこには「生徒が作った学校紹介ページ」なるリンクが添えられていて、沙織は思わずそこをポチッとしてしまった。新しい開眼の瞬間と言うべきか。

 

即席ホームページ作成ソフトで作られたと覚しきそれは、学校公式ページより、幾分、いや、随分とソフトなイメージだった。そこに書かれているものは、学校のリアル、を表現していると言っても過言ではなかった。まずは、敷島女子高等学校の、入学前の印象と、入学後三年生になった時の感想とが、アンケート形式で綴られていた。

 

●敷島女子高等学校の入学前の第一印象

 1位 真面目

 2位 お嬢様

 3位 怖そう

 4位 おとなしい

 5位 おしとやか

●三年生になっての我が校の印象

 1位 明るい

 2位 楽しい

 3位 個性的

 4位 元気

 5位 爽やか

 

「……ねえ、霜田さん、中の人は、随分楽しんでいるみたいだね」

「まあ、自然とそうなるだろうね。ほぼ男子校な室山工業なんて、僕の中学時代、ヤンキーがウロチョロして、怖そうなイメージがあったけど、実際入ってみると、楽しかったり、個性的だったりしたよ」

「ふうーん。そういうもんですかねえー。紫織を見ていると、確かに別な意味で楽しそう。バックに百合の花が書いてあるような、そんな学校だと思う」

「またまたー。沙織ちゃん、きっともっと、いろんな性格の子がいると思うよ」

続いて、ホームページには「好きなお菓子」というリンクがあり、沙織はそれに興味を抱き、ポチッとしてしまうのだった。

 

●敷女生が大好きなお菓子ランキング

 1位 チョコレート

 2位 ケーキ

 3位 グミ

 4位 アイス

 5位 クッキー

 

「……霜田さん。ケーキとクッキーがランクインしてるよー。うちの主力商品じゃありませんか!」

「確かに確かに」

「じゃあ、早速、お父さんに頼んで、県立敷島女子高校に営業をかけよう!」

「待て!」

 

●敷女生の早弁事情

 HR終了後 3%

 1限目終了後 3%

 2限目終了後 27%

 3限目終了後 28%

 お昼にちゃんと食べる 39%

 

「これ見てー。ケッサク! お昼が待てない子がこんなに! ぷっ! くくく! はー、可笑しい。わたし、紅茶吹きそうになった」

「何だかんだ言って盛り上がってんじゃねえかよ!」

「えっと、次は……」

 

●赴任してきた先生から見た、敷島女子高等学校の印象

 ・敷地に入った途端、落ち着いた雰囲気が流れている

 ・制服を着崩さない

 ・礼儀正しい

 ・まるでお花畑のようなところ

 ・高山植物の群生地帯

 ・女子だけしかいないことのデメリットさを感じないところ

 

「やっぱ紫織は、ゆりんゆりん族だったんだ。ああいう姉を持つと苦労するよ」

「でも、最後。デメリットさを感じさせないってとこ。もしかしたらいけるかも」

「ちょっとやめてよお兄ちゃん! まだ決めたわけじゃないんだからねっ!」

「はいはい、わかってますとも」

「もうー!」

 

●敷島女子に入って良かったと思うところ

 1位 ともだちが増えたこと

 2位 部活と勉強の両立が図れるところ

 3位 ここでしか出来ない体験ができたこと

 4位 進学に有利だと実感したこと

 5位 夢に向かって前進できたと実感出来たこと

 

「こうして、同性のともだちばかりが増えるんですね、お兄ちゃん」

「もしも、今から僕が、敷女卒のカノジョを作ろうとすると、結構、敷居が高いかも知れないなあ……」

「高嶺の花的な意味で? 紫織が? 冗談ポイですよお兄ちゃん!」

「まあ、初日は、ホームページ観察という訳で、気が済んだかな? よーく考えて、お父さんとも相談して、じっくり決めよう。じゃあ、オレ帰るから、一晩眠って、よく考えなよ! 沙織ちゃん!」

「はい! そうしますー! 今日はお忙しい中、ありがとうございました」

「んじゃな、しっかり頼むぜ! じゃあまた今度」

「はーい! じゃねー!」

 

霜田拓也は、階段を降りると、母親に一礼して玄関ドアから帰って行った。


5
最終更新日 : 2015-09-22 22:48:59


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