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「どれがあなたですか?」

地平線まで続くかと思える無蓋貨車の連なりを前に、
わたしは照準器をあてもなくさまよわせる。
砲弾は1発のみ。
ここからでは貨車の中は覗えない。
闇雲に一つを狙い、引き金に力をこめると、
中からむくりと起きあがった見知らぬ誰かと目が合った。


「どれがあなたですか?」

見あげる夜空には
恒星と珊瑚の幼生が入り混じって輝き、
どちらがどちらか見分けがつかない。
それらすべてがお決まりの、
「私はここにいます」というメッセージを発していた。
どれほど眼をこらしても、
そこに顔が浮かび上がってくることはなかった。


「どれがあなたですか?」

しなびた野菜の皮でできた大きな山を示されて、
わたしの指は迷わずその中腹の一点を指差した。
べつに嘘ではない。この山は全てわたしなのだ。
指差したあたりから小さな芽が伸びて、
よくよく見ればゴム製で、
先端に手があり、揺れていた。


「どれがあなたですか?」

コップ一杯の水を差し出され、
その中を泳ぐひとつの水分子としての自分を思う。
コップの底には小石がひとつ沈んでおり、
そのとてつもない巨大さを思う。
持つ手がコップをわずかに揺らし、
小石が底を転がった。
「うわあ」と私は心の中で叫んだ。


「どれがあなたですか?」

鳥肌の立った二の腕を示され、
塚のような皮膚の隆起のひとつひとつに目を凝らす。
これらすべてがいわば墓標なのだ。
いるとは思いもしなかった友人がつぎつぎと見つかった。
線でつなぐと何かが見えてきそうだが、
ペンをくれとは言いだしづらい。


「どれがあなたですか?」

内側から赤い光を放ち、
夜道に並ぶカラーコーン。
それぞれがなにかの胎児を宿しているように見える。
それぞれが宇宙へ飛び出す間際であるように見える。
だとすれば、ここには私はいない。
そう答えようとして振り向くと、相手はすでに発っていた。


「どれがあなたですか?」

たくさんの子供靴が、川面を小舟のように流れてゆく。
小石を投げるとひとつに当たり、ぽつりと小さな音がした。
衝撃がわたしを襲う。
それはたしかに、あの日失くした靴だった。
そう思えたのは5秒ほどか、
偽の記憶はうたかたと消え、わたしは小石をまた投げる。

この本の内容は以上です。


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