目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2007年10月22日  妹の結婚式

湖のほとりでの野外結婚式だったので、天気を気にしたが、雲ひとつない青空が広がり、素晴らしい結婚式になった。

妹達親族に会うのは、アリーが死んで以来だった。

式場には、アリーが満面の笑みを浮かべた写真が、イーゼルに立てられ、参列者の列の中に飾られていた。

写真の中で微笑むアリーを見つめ、流石に僕はアリーを思い出したけれど、泣き出したい気持ちを懸命に抑え、妹を祝福すべく皆と会話をして微笑みを浮かべた。

式は、新郎がクリスチャンで新婦がユダヤ教なので、宗教色を薄めたジューイッシュ(ユダヤ系)のスタイルで行われた。

式がつつがなく終わり、その後、屋外でそのままカクテルパーティになり、場所を湖にせり出したホテルのレストランに移して、披露宴とダンスパーティが夜遅くまで続いた。

イーゼルに立てられたアリーの写真は、式の後も披露宴席で妹達に微笑を浮かべ続けていた。

めでたい席なので、久しぶりに会った妹達と、踊ったり話をしたりして、努めて陽気に時間を過ごした。

披露宴もようやくお開きになった時に、僕は妹のところに行き、また結婚のお祝いを言った。

妹は僕に一際大きなハグをくれ、
『今日は、来てくれて本当に有難う。私達は皆、貴方の事を心配しているから強く生きてね。私達は貴方の事を今でも愛しているから』と優しく言ってくれた。

僕はもう一度微笑んで、
『ありがとう。そしておめでとう』と言った。

帰りがけにアリーの写真に目をやり、周りの人に気づかれないように投げキスをした。

皆に別れを告げ、一人夜風に吹かれながら、駐車場に停めてある自分の車に向かった。 

歩きながらネクタイを緩め、煙草に火をつけて煙をはいた。

周りに人もいなくなり、僕を照らす明かりも無かったので、我慢していた涙が頬をつたって流れた。

 


2007年11月01日  ハロウィン

今日のハロウィンは良い天候に恵まれ、気温が上がり、過ごしやすい秋日和になった。

僕のアパートの玄関にもハロウィンの飾りつけがされており、仕事場に向かう道にも、既にコスチュームを着込んだ人たちを見る事ができた。

仕事場に行く途中で、僕はコンビニに寄って子供達に渡すお菓子を買い込んだ。

せっかくお菓子を楽しみにトリック・オア・トリートをしに来た子供達に、お菓子を振舞えないと、なんとも格好悪いので、”少し買いすぎたかな?”と思うほどお菓子を買い込んでいる自分がちょっと可笑しかった。

仕事場にも子供を連れてきている人が何人かいるので、その子供達にお菓子を振舞わなければいけない。

中には、子供を連れてきているわけではなく、自分が子供でも無いのに、コスチュームを着てお菓子をねだりにくる大人もいる。

僕は笑いながら、来る人来る人にお菓子を配り続けた。

夕方になり仕事の手を休めて、ちょっと独りでセントラルパークを歩いてみた。

丁度去年の今頃、僕は大学に行くアリーと待ち合わせをして、二人で手を繋ぎながら紅葉のセントラルパークを一緒に歩いた事を思い出した。

二人で枯葉を蹴っ飛ばしながら歩いた事を思い出した。

ベンチに座ってアリーの宿題を一緒に解いた事を思い出した。

二人で公園の小さな動物園を横切り、オットセイを眺めた事を思い出した。

アリーが僕の肩に頭を乗せながら、
『あとどの位、こうやって二人で散歩をする事ができるのかな?』とつぶやいたのを思い出した。

アリーはポケットに手を突っ込みながら僕に語りかけた。

『今まで王子様だと思って沢山の蛙にキスをしてしまったけれど、やっとアタシの王子様を見つけたんだ』とアリーは僕の方を向いて笑った。

僕はただ笑って、アリーの肩を抱き寄せて髪の毛にキスをした。

『褒め言葉なんだよ』と、アリーはちょっと不服そうに口を尖らせて僕を見た。

僕はまた笑って、
『後で蛙にならないように頑張るよ』と言った。

アリーも笑った。

 

暫くして、アリーは、
『本当はアタシも結婚して、家庭を持ったりしてみたかったんだ。でも結婚できないのは分かっている。だから結婚できなくてもいい。その事実は受け入れているから』と言って少し目に涙をためていた。

アリーは自分の先が短い事を、もう知っていたのだろう。

あの日の後何日かして、僕はアリーにプロポーズをしようと決めた。

そしてアリーには内緒で、僕は天使のデザインを施したエンゲージリングを作りはじめた。


アリーにその指輪を渡せない事も知らないで。。。


あれから季節はめぐり、また木々は燃えるような赤い色に葉を染めている。

僕は一年前のそんな事を独りで考えながら、セントラルパークのベンチに座っていた。

暫くすると、猫のフェイスペインティングをした小さな男の子が、僕の所にやって来て、にっこり笑いながらお菓子をくれた。

その男の子はお菓子を貰うのを間違えて、お菓子を渡そうとしていたらしい。

後ろにいたその男の子のお母さんらしい女の人が、それを見て笑っていた。

僕も笑った。

でもその男の子は、お菓子を僕に突き出したまま、僕を見つめて笑っている。

仕方ないので僕は微笑んで、男の子に差し出されたお菓子を貰い、僕が持っていたお菓子を男の子に上げた。

男の子は、僕からお菓子を受け取ると嬉しそうな顔をして微笑んだ。

44歳のおじさんと小さな子供が、セントラルパークのベンチで、お菓子の物々交換をしている。

そんな滑稽な光景だった。

僕は、その子の笑顔を見て何となく気持ちが明るくなり、貰ったお菓子を手にしたまま、大きく伸びをひとつしてベンチから立ち上がった。

仕事場に戻り、男の子から貰ったお菓子をテーブルの上に飾り、夜まで仕事を続けた。

明日は、アリーの誕生日だ。


 


2007年11月02日  誕生日

11月2日は、僕の最愛の人の誕生日だった。

アリーは逝ってしまったけれど、アリーとの色々な思い出を振り返りながら、独り静かに、アリーの誕生日を祝った。

去年の誕生日の事を昨日の事のように思い出した。

人には会わず、独り静かに気持ちを通わせようと、心をきれいにして語りかけようとした。

僕は心も体も汚れてしまっているので、気持ちを通わせる為には、心に溜まった汚いものを綺麗にしなければいけない。

少しずつ僕の心の掃除が出来たら、僕は遠い世界にいるアリーと心をかわせるようになれるのかも知れない。

それは遠い道だけど、まっすぐな道に思えた。

人はまっすぐの道を歩く時には、道に迷う心配をする必要は無い。

僕は子供の頃はひたすら強い男に憧れた。

自分に親がいなかったり、貧しかったり、

育ての親が芸者さんだった事で苛められたりしたのが理由だと思う。

だから誰にも屈することのない強い男になりたいと思った。

17才になった頃には、ただ強いだけではなく、精神的に強くなりたいと思うようになった。

それは15歳の時に、育ての親だった芸者さんとの別れがあり、自分一人で生き始めた事で、肉体的な強さや経済的な強さだけでは、自分が思うように生きていけないと言う事を、身をもって感じたからだと思う。

10代で一人で生きていく為には、表の世界だけではなく、裏の世界も覗かざるをえなかった。

そこで、色んな人間の醜さをみた。

強そうな男でも権力に媚を売ってみたり、欲に目がくらんで、人間としての醜態をさらしているような奴を沢山この目で見た。

自分はそうはなりたくなかった。

その為には人に屈しない強さだけでなく、醜態をさらさないような、精神的な強さを持った男になりたいと思うようになった。

 

それから何度かの恋愛を重ね、世界各地を放浪し、人の温もりに触れ、人と別れを重ねてきた。

その結果、かなり年を取ってから、”優しい男”になりたいと思うようになった。

優しい男とは、媚を売ったり、甘い男と言う意味ではない。

優しい男とは、辛さや寂しさや、どうしようもない切なさを抱えた人達に、ふっと微笑みかけられるような男と言う意味だ。


天を敬い、人を愛する。

天敬愛人。


それが、今、僕がなりたい理想の男。

そんな男になれたらいいな。

そのために僕がやらなければいけないことは、

人を愛する事。

人の幸せに尽くす事。

そして、見返りを求めない事。


【 天 敬 愛 人 】


それが、僕が生きる理由だ。

 

昔、アリーが自分の将来を考え、息詰まっていた時があった。

或る晩、二人でベッドに入って、眠りに落ちるまでに色々話をしていたら、アリーが自分の将来への不安を訴え、今の自分の現状に憤りを感じ、背中を向けて泣き出してしまったことがあった。

僕はアリーの助けになりたかったのに、何をしたら良いのか判らなかった。

自分の一番大事な人が苦しんでいるのに、その隣で僕は、何もする事ができないと痛感させられるのは何よりも辛かった。

いつも笑顔を見ていたい人の顔から笑顔が消え、ベッドの中で背中を向けてすすり泣いているのに、僕は全く無力だった。

僕らは電気を消したまま、ベッドの中で話し続けた。

アリーが泣きつかれて眠りに落ちるまで、僕はそのまま話を聞き続けた。

アリーが起きている間は我慢をしていたが、アリーの寝息が聞こえてくると、我慢していた涙が頬をつたって流れ落ちてきた。

助けたい人を助けられない無力感が、僕を打ちのめした。

大好きな人を幸せにできない無力感。

大好きな人に笑顔をあげられない無力感。

翌朝、アリーは目を醒ますと、昨日の涙はなかったかのように、いつものアリーに戻っていた。

仕事場に行くついでに、アリーを大学まで車で送った。
 
大学に着き、車を降りるときにアリーは
『行って来ます』と言ってキスをして微笑んだ。
 
僕もアリーに向って微笑んだ。

大学の校舎の中に消えていくアリーを見送りながら、なんとも言えず心が疼いた事を、まるで今朝の事のように覚えている。

僕がアリーと暮らして学んだ事は、どんなに大切に思っても、どんなに愛していても、自分ではどうにもできない事があると言う事だった。

悲しいけれど、それが現実だ。

そのどうしようもない現実を受け止めた時、僕はそれでもアリーの隣で、アリーの哀しみや憤りをともに背負って生きる覚悟を決めた。
 
何もできない事を知りながら、それでも同じ痛みを感じる事で僕の愛情を示そうとした。

あれから時が経ち、僕は今ここに独りきりで立ちつくしている。

あの時の心の疼きを抱えたままで。

大好きな人には、心の底から笑顔でいて欲しい。

そんな一つの願いも叶わなかったけれど、今度、君にまた巡り会えたら、今度こそは全身全霊を込めて、君に笑顔をプレゼントさせて欲しい。

 


2007年11月16日  死の準備

昨日の夜から雨が降り始め、今朝も早いうちはかなりの量の雨が降った。

昨日は、一日忙しかった。

夕方からクライアントの役員会があり、僕はそれに出席する事になっていた。
 
役員会が無事終わり、その後42丁目のステーキハウスで懇親会が用意されていた。

僕は荷物を片付けながら、隣に座っていた役員の一人のデヴィッドに、
『一緒の車でステーキハウスに移動しないか?』と誘った。

デヴィッドは弁護士から投資家に転進して、この業界では、やり手として有名な男だ。

彼は今年で丁度50歳になるけれど、いつもハードな仕事をこなしながら、ジャンクフードばかり食べているので、子供のような奴だと皆にからかわれている。

2度結婚をし、2度目の結婚で子供が生まれ、僕は仕事で日本に行った時などに、その子供に何度かお土産をせがまれて買って帰った事がある。

そんなデヴィッドだが、僕の誘いに首を振りながら、
『ちょっと疲れているから、今日は帰るよ』と力なく言い、疲れた笑顔を残して家に帰っていった。

僕はデヴィッドに
『あまり無理をするなよ』と声をかけ、肩を叩いて彼を見送り、他の役員達と連れ立ってステーキハウスに向った。

懇親会は思ったよりも長いディナーになり、全てが終わり、家に帰った時には夜中を回っていた。

翌日、仕事場に行くなりパートナーから、デヴィッドが昨日死んだと伝えられて驚いた。
 
彼は気分がすぐれず、役員会の後にそのまま家に帰り、ベッドに入って休んだが、なんとそのまま死んでしまったらしい。

全くの突然死だった。

 

デヴィッドはユダヤ人なので、ユダヤのしきたりに従い、明日直ぐに埋葬される。

僕はデヴィッドとそれほど親しいわけではなかったが、結果として最期に会話をした事もあり、びっくりすると同時に、彼の家族を思うと不憫になった。

当たり前な事だけれども、人は必ずいつか死ぬ。
 
それがいつやってくるかは誰にもわからない。
 
唯一確実な事は、必ずいつか死ぬと言う事だ。

デヴィッドの訃報を聞きながら、僕は昔のある事件を思い出した。

かなり昔の話だが、僕は日本のクライアントに頼まれて、アメリカ人の弁護士を日本のクライアントのところに2年程送り込んだ事がある。

そのアメリカ人の弁護士は、初めての外国生活をエンジョイし、日本での仕事に全力を傾けていたらしい。
 
日本のクライアントからの評判もまずまずで、送り込んだ僕は、とりあえず胸を撫で下ろしていたところだった。

その彼が、日本に移り住んでから1年目位のある日曜日に、友達と富士山の登山に行き、滑落死をした。

僕はその時、たまたま別のクライアントの仕事で日本にいたので、山梨県警に遺体の確認に行き、彼である事を確認してから、遺体をアメリカに送り返す事に忙殺された。

ロサンゼルスに住んでいた彼の両親に彼の訃報を伝え、彼はユダヤ人だったので、ユダヤのしきたりに従って、彼の遺体に一切の薬を投与することなく24時間以内にロサンゼルスに送り返さなければならなかった。

彼の両親からは、
『貴方が日本に送り込んで、息子がこんな目にあったのだから、これは貴方の責任だ。貴方が、息子を日本なんかに送らなければ』と言われた。

彼らの哀しみは、最期には号泣に消され声にならなかった。

誰かが受け止めなければいけない。

そして彼をアメリカに帰してあげなければいけない。

ただそれだけを考え僕は全ての方法を試みた。

 

結局、米軍に相談をし、遺体を送り返してもらえる事になった。

無事、彼をアメリカに送り返したあと、彼が日本で住んでいたアパートの掃除に出かけた。

彼は自分がそんな目にあうとは夢にも思っていなかったので、彼のアパートは、前日の生活臭がそのまま残され、散らかったままの状態だった。

僕はそんな彼の遺留品を片付けながら、”きっとあいつは、こんなところを僕に見られて恥かしいかもしれないな”と思った。

その経験をしてから僕は自分が死んだ後に、見苦しいものを見せたくないので、毎朝、家を出る時には、その日に死んでも困らないように、家の掃除をするようになった。

しかし、ここ何年かは他の事や忙しさにかまけて、毎朝の死の準備をしていない自分に気がついた。

デヴィッドの突然死の訃報に触れながら、僕はその事をふと思い出した。


【人はいつか必ず死ぬ】


【そして、いつ死がやってくるかは誰も知らない】


また昔のように、毎朝の死の準備をしなければいけないなと、ふと思った。

死の準備は、死を待ち望むと言う事ではない。

死の準備は、自分に対する身だしなみであり、一瞬一瞬を精一杯生きる為の心構えだと思う。

凛とした気持ちで生きていく為に。

 


2007年11月22日  愛情が宿った人形

アリーのお姉さんは、フロリダで福祉関係の仕事をしていて、一人娘(キャンディ)がいるが、離婚をしてしまった。

福祉関係の仕事は、大事で、尊敬されるべき仕事だけれども、その仕事柄お金は儲からず、母子家庭で娘を育てながら懸命に毎日を生きていた。

アリーは姪っ子に幼い頃の自分を重ね合わせ、姪っ子(キャンディ)の学費を仕送りし、お姉さんの家計を助けたりしていた。

そんな姉妹を見て、家族を持たない僕は、その見返りを求めない愛情に、ちょっと羨ましさを感じたものだった。

『アタシはキャンディの為に生きている。』とアリーはそう言っては僕に笑いかけたものだった。

その母子が家族の用事でニューヨークに来たらしく、アリーのお姉さんから連絡があった。

まだ僕の事を気にしていてくれているようで、”ちょっと会って、コーヒーでも飲まないか?”と言ってくれた。
 
キャンディに会うと、僕は流石にアリーを思い出して、また色々な気持が沸き起こってしまうので、できれば会いたくはなかったのだが、お姉さんの気遣いも袖にはできなかったので、ちょっとだけ彼女達に会う事にした。

3時過ぎに仕事をちょっと抜けだし、5番街と45丁目の交差点で待ち合わせをした。

僕は約束の時間にちょっと遅れてしまったので、僕が交差点に着くと、そこには見覚えのある母子が立っていて、キャンディは僕を見つけると、ちょっとはにかんだような仕草を見せた後に、恥ずかしそうに手を振った。

僕も彼女達の方に歩いて行きながら、キャンディに手を振った。

僕は交差点で膝を曲げてキャンディと目線を会わせると、キャンディは笑って僕に大きなハグをしてくれた。

『僕の事を覚えているの?』と聞くと、

キャンディは小さく笑って頷いて、
『Tosh、こんにちは』と言った。

僕ら3人は近くのカフェに入りコーヒーを飲みながら、母子の近況について話を聞いた。
 
その間、キャンディはチョコレートシェイクを啜っていた。

 

お姉さんは今も福祉関係の仕事に携わり、彼女自身も、死んだ妹の魂を引き継いで頑張っているようだった。

アリーの魂は、色々な人の心の中に引き継がれ生き続けている。

そう思った。

『貴方は、どうなの?』とお姉さんは僕に聞いた。

僕は小さく笑って、
『相変わらず』と答えた。

彼女もコーヒーカップを両手で弄びながら、僕の返事を聞いて小さく笑った。

そして、
『元気そうで安心したわ』と言ってくれた。

暫く話をして、カフェを出て、僕は47丁目のお人形屋さんに二人を連れて行った。

僕からキャンディへのプレゼントだった。

そのお人形屋さんは、自分で好きな裸の人形を選び、好きな体型に綿を詰め込み、髪の毛を決め、洋服を選んで、自分だけの人形を作るというカスタムメイドのお店だった。

店に入るとキャンディは大喜びで、裸の人形を選ぶのに大はしゃぎだった。

そんなキャンディの姿を見て、お姉さんは嬉しそうに微笑んでいた。

そしてちょっと僕を見て、
『Tosh、いつもありがとう』と言った。

キャンディは迷っていたが結局、自分とよく似た金髪の女の子の人形を選んだ。

背中には綿を詰める為の穴があいていて、そこに綿を詰める前に、押すと声を出す小さなスイッチと、小さなハートを入れるようになっていた。

キャンディは、
『I Love You.』と言う声を出すスイッチを選んだ。

 

店員さんがやって来てキャンディに、
『この人形は、これから君のベストフレンドになるんだから、このハートに願い事を混めて、自分の心臓の上に手をおいて願い事をして、1回キスをして、2回息を吹きかけてから、ハートをこの中に入れるんだ』と説明をした。

キャンディは小さなハートを握りしめ、一生懸命、何かの願い事をして、言われたとおり、ハートにキスをして息を吹きかけ、人形に生命を与えるように、ハートを大事そうに人形の背中に入れた。

店員さんと一緒にキャンディは、人形に綿を詰め背中の穴を塞ぎ、洋服を着せて、キャンディだけの一体の人形が完成した。

キャンディに
『なんて名前にするの?』と聞くと、キャンディは
『Heather(ヘザー)』と答えた。

僕はキャンディの人形作りの過程を後ろから眺めていて、何故か心が温まるような気がした。

命のない人形にも、こうやって、愛情をかけて命を吹き込む事ができるんだなと思った。

キャンディが信じている限り、この人形には命が宿っている。

丁度、僕やお姉さんの心の中に、アリーの想いが宿っているように。

そんな生き方もあるんだなと、ふと思った。

人形が完成し、3人は、4人になって店を出た。

キャンディは嬉しそうに新しい友達を抱えていた。

僕はそろそろ仕事に戻らなければいけなかったので、少し彼女達と一緒に歩いて、50丁目の交差点で彼女達と別れた。

別れ際に交差点で、キャンディは僕にもう一度、大きなハグをくれて、
『Tosh、ありがとう』と言って笑った。

僕も笑った。

母子と別れ、僕は自分の仕事場に歩いて行った。

途中で後ろを振り返ると、母親に手を繋がれた小さな女の子のもう1つの手には、たった今、彼女の愛情が宿ったばかりの人形がぶら下がっていた。

僕には人形は無いけれど、僕の心にはアリーの想いが宿っている。

そんな気がした。

アリーの想いを大事に抱えながら、その想いが飛んでなくなってしまわないように、大事に守りながら、僕はこの先残された人生を歩いて行くのだろう。
 



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