目次
第一章 愛するということ
天使の指輪 
プロローグ 序章
プロローグ 序章
2006年 6月 ニューヨークの魅力
2006年06月3日  友達の背任行為
2006年 7月 病 
2006年07月05日  独立記念日 
2006年07月07日  七夕
2006年07月24日  病気
2006年07月25日  検査結果  
2006年07月26日  生きる理由
2006年 8月 日本へ
2006年08月04日  手術
2006年08月08日  退院 
2006年08月12日  日本へ
2006年08月23日  赤いドレスの女性
2006年08月24日  狸寝入り 
2006年08月25日  雷雨 
2006年08月26日  祈り
2006年08月31日  時代のうねり
2006年 9月 天国への階段
2006年09月07日  ローズホール
2006年09月10日  泣きじゃくる彼女
2006年09月11日  ワールド トレード センター
2006年09月21日  闘うこと  
2006年09月23日  市民権
2006年09月25日  日曜大工
2006年09月26日  朝日 
2006年10月 一緒に生きる
2006年10月03日  メルトダウン   
2006年10月05日  夜のハーレム
2006年10月08日  助手席
2006年10月09日  買い物
2006年10月14日  友達からのメール  
2006年10月16日  1週間分のキス
2006年10月17日  一緒に生きる
2006年10月18日  雨の火曜日   
2006年10月19日  友達へのメール
2006年10月25日  天使が舞い降りた。
2006年10月29日  神のご加護がありますように  
2006年11月 誕生日プレゼント 
2006年11月01日  ハロウィン
2006年11月02日  誕生日プレゼント
2006年11月16日  セントラルパーク    
2006年11月19日  キティちゃんの指輪
2006年11月20日  Left Alone  
2006年11月22日  仏心
2006年11月23日  小さいウイスキーボトル
2006年11月24日  帰還兵
2006年11月25日  旅の終わり 
2006年11月26日  パリでパン屋さん
2006年11月27日  クリスマスの買い物
2006年11月28日  神にすがる時 
2006年11月29日  スノーフレーク
2006年11月30日  もう一度病院生活に・・・
2006年12月 瞳の中に貴方が見える
2006年12月01日  ポインセチア
2006年12月02日  男の手料理 
2006年12月03日  天気の良い週末  
2006年12月06日  大切な思い出
2006年12月07日  北欧紀行
2006年12月08日  君のもとに帰る
2006年12月09日  The Show Must Go On.
2006年12月13日  東京にて
2006年12月14日  Going Home
2006年12月15日  瞳の中に貴方が見える
2006年12月16日  子守唄
2006年12月18日  クリスマスの匂い
2006年12月19日  君が世の中の全て
2006年12月23日  幸せの総量
2006年12月24日  People Get Ready  
2006年12月25日  クリスマス プレゼント
2006年12月26日  願い事
2007年 1月 天使の指輪
2007年01月01日  スローダンス
2007年01月02日  20年ぶりの友達
2007年01月06日  誕生日
2007年01月08日  天敬愛人
2007年01月13日  両親
2007年01月14日  名こそ惜しけれ  
2007年01月20日  非常勤の顧問
2007年01月22日  ただいま。
2007年01月23日  天使の指輪
2007年01月24日  ホットチョコレート
2007年01月25日  パリ
2007年01月29日  雪のニューヨーク
2007年 2月 雪のバレンタイン
2007年02月01日  愛しい人  
2007年02月02日  あたらしい発見
2007年02月04日  お帰りなさい。
2007年02月09日  残された時間
2007年02月10日  ありがとう
2007年02月11日  テネシーワルツ
2007年02月12日  やせ我慢
2007年02月13日  君が残した優しい思い出
2007年02月14日  雪のバレンタイン
2007年02月16日  僕は信じている
2007年02月19日  愛の力
2007年02月22日  ある別れ
2007年02月23日  別れの季節
2007年02月24日  I'm in.
2007年02月25日   Wild Horses  
第二章 生きるということ
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2007年 2月 陽はまた昇る
2007年02月27日  アリーがいてくれれば
2007年02月28日  陽はまた昇る
2007年 3月 さようなら
2007年03月02日  さようなら。
2007年03月03日  心の整理
2007年03月04日  独り
2007年03月05日  ドライフラワー  
2007年03月06日  冒険の旅へ
2007年03月08日  コミットメント
2007年03月14日  こみあげる涙
2007年03月16日  更正施設の子供
2007年03月19日  天は自ら助けるものを助く。
2007年03月21日  新しい下着
2007年03月22日  夜明けのキャッチボール
2007年03月24日  目標を一つ達成
2007年03月28日  最後まで日本人として
2007年 4月 独り言
2007年04月29日  独り言
2007年 5月 天涯孤独
2007年05月14日  天涯孤独
2007年05月16日  ある家族
2007年05月28日  カタロニアの太陽
2007年05月31日  リスボンにて
2007年 6月 交渉
2007年06月02日  中国での交渉
2007年06月13日  皆で家に帰ろう
2007年06月22日  ベランダに咲く草花
2007年06月24日  あと半年
2007年 7月 人に優しくするという事
2008年07月05日  独立記念日
2007年07月24日  人に優しくするという事
2007年 8月 湊川(ミナトガワ)
2007年08月02日  馬鹿爆弾
2007年08月21日  霧雨
2007年08月29日  遺言
2007年08月31日  湊川
2007年 9月 男の値打ち
2007年09月25日  男の値打ち
2007年09月30日  天気のよい週末
2007年10月 自分の夢
2007年10月10日  自分の夢
2007年10月19日  結婚式の準備
2007年10月22日  妹の結婚式
2007年11月 天敬愛人
2007年11月01日  ハロウィン
2007年11月02日  誕生日
2007年11月16日  死の準備
2007年11月22日  愛情が宿った人形
2007年11月29日  古いもの  
2007年12月 幸せの値段
2007年12月08日   ディズニーランド
2007年12月16日  幸せの値段 
2007年12月18日  綺麗な心
2007年12月21日  大事な家族
2007年12月24日  君を想う気持ち
2007年12月25日  武器よさらば
2007年12月31日  生きるということ
2008年 6月 夢の実現
2008年 6月 夢の実現
アリーが教えてくれた事
アリーが教えてくれた事
晴耕雨読
晴耕雨読
愛のある日
愛のある日
あとがき
あとがき
補足
補足
感想&レビュー
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2007年02月02日  あたらしい発見

ニューヨークは寒い日が続いている。

まだ雪が積もらないだけましだけれども、今週になって何回か雪が降った。
 
そんな季節になると、ニューヨークの道には凍結剤がまかれるので、そのおかげで車は真っ白になってしまう。

僕はマフラーに顔を埋めてアパートの駐車場に行き、真っ白になった僕のトラックに飛び乗ってエンジンをかけた。
 
エンジンが温まり暖房が効き始めるまで、僕は手を擦りながら白い息を吐いた。

朝の渋滞を縫いながら仕事場に向かった。
 
やりかけの仕事を一段落させ、僕はいつものように更正施設にボランティアに出かけた。
 
子供達といつものように話し合い、アリーだったらどうするかを考えながら、注意深く言葉を選んで会話をした。 

そのせいで2時間も話をしていると僕の脳みそは、カラカラになってしまう。

でも言葉は、本当に注意をして選ばないといけない。 

不注意に使った言葉で子供達の心を傷つけてしまうと、彼らは二度と心を開いてくれないからだ。

心を開いてもらうまで、どんなに時間がかかろうと、ただただ辛抱強く、言葉を選んで会話をしていかなければいけない。
 
心を開いてもらうのはこんなに大変な事なのに、心を閉ざせるのはとても簡単だ。

不用意な言葉一つで、簡単に今まで築き上げた関係を壊してしまう事ができる。

 

ボランティアを終えた後、車にのり、アリーが通っていた学校に、講義で使われた資料を受け取りに行った。
 
せっかくアリーが心機一転、決断をして学校に戻ったのに、病気のおかげで諦めないといけないのでは、あんまりなので、せめてアリーがベッドの中で勉強を続ける事ができるようにと言う想いで始めたものだ。

残念ながら単位は取れないけれども、少なくとも講義の内容を知る事はできる。

後は元気になってから、また学校に戻ればよいと思う。

学校を出て、また車に乗り、仕事場に戻って残りの仕事をこなした。
 
夜の8時半頃に、大体仕事も一段落したので、途中でメキシカンのテイクアウトを買って、アリーの病室に行った。

病室のドアを開けると、アリーは丁度、アリーのお婆さんの誕生日カードにコメントを書いている所だった。 

子供のような真剣な目つきで、カードにコメントを書いているアリーを見て、僕は、ただただ微笑んでしまった。

なんと純真で無垢な人なのだろう。

アリーは、ドアの横で微笑んでいる僕にようやく気がついたようで、
『来てたんだったら、声をかけてよ』とちょっとはにかんで笑った。
 
僕も笑いながら、いつものようにアリーの横に座って、アリーの顎を持ち上げて、いつものようにキスをした。

僕といつものようにキスをすると、アリーは、またお婆さんに渡すカードに向かい、色々と独り言を言いながら、適当なコメントを考えていた。
 
たまに独り言なのか、僕にコメントを求めているのか良くわからず、アリーに話を聞いていないと言われる事があるので、僕はアリーの独り言にも返辞をするようにしている。

そんな奇妙な会話が二人の間で暫く続き、アリーはやっと自分が満足できるコメントを考えつき、それをカードに丁寧に書いて、満足げに微笑んだ。

『お婆さんの誕生日は、いつも皆で中華料理に出かけたんだ。でもアタシは本当は中華料理が嫌いなの』とアリーは言って、鼻に皺を寄せて笑った。

そう言えばアリーとの付き合いも長いけれど、中華料理を食べたのは数える程しかなかった事を思い出した。

 

最後に二人で中華を食べたのは、2年くらい前に、僕の仕事のディナーに無理矢理付き合ってもらって、中華料理のレストランに行った時なので、本当にアリーは、中華料理が嫌いなのかもしれないと思った。

僕はアリーに
『君とはもう長いけど、まだまだ知らない事ってあるんだろうな。また新しい事を知って、なんか得した気分だな。長く一緒でも、毎日あたらしい発見があるよ』と言って笑った。
 
アリーも笑った。

その後、暫く、二人でテレビのニュースを一緒に見た。

テレビを一緒に見ていると、アリーが急に
『パリも良いけど、病院を出たらカリブの島に貴方と行ってのんびりしてみたいな』と言いだした。 

全く気まぐれだなと思ったけれど、それはそれでアリーの可愛いところなので、僕はテレビから目を離して、
『カリブの島でも良いよ。君の好きなところに行って、暫くのんびりしようか?』と答えた。

すると、アリーは嬉しそうに笑って、
『それじゃあ、早速、プランを練らなきゃ。いついけるか分からないけど、アタシは貴方との旅行のプランをしてると、何か、楽しくなっちゃうんだよね』と言った。

アリーと一緒だったら僕は何処でもいい。
 
アリーと微笑みながら時間を過ごせる場所だったら、何処に行っても、そこは、僕にとっては天国だ。

そう思いながら僕は自分の最愛の天使の方を見た。
 
アリーはすっかりカリブの島にでも行く気で、鼻歌を歌いながら雑誌をめくっていた。

僕は雑誌を見ていたアリーの顎を持ち上げ、アリーにキスをした。 

僕らは少しだけ現実世界から離れ、空想の中で、カリブの青い海と青い空を楽しんだ。


2007年02月04日  お帰りなさい。

かなり前から医者と話をしていて、アリーをちょっとの時間でも病院の外に連れ出してあげたいと言っていたのだが、ようやく医者からOKが出た。

アリーが不意に倒れて入院をしてから、早いもので、もう2ヶ月がたっていた。

色々医者と相談をして、結局、日曜日の午後に遠くに行かない事を条件に、アリーを外に連れ出す許可を貰った。

前日の土曜日にアリーを見舞い、何気なく
『明日、外出していいってさ』と言うと、アリーは最初キョトンとした顔をしていたが、僕の言った事を理解するなり、
『嘘でしょ? 嘘でしょ?』と何度も聞き、僕が
『本当だよ』と言うと、まるでプレゼントを貰った子供のように、大きな声で叫び声をあげ、僕を力いっぱい抱きしめてくれた。

よほど嬉しかったようだった。

『早く寝ないと、明日外出できないよ』と僕は遠足の前日に興奮して眠れない子供をあやす様に、アリーを諭して、眠りにつくまでアリーの隣に座っていた。

かなり長い時間がたって、ようやくアリーは寝息を立て始めたので、僕は病室を片付け電気を消しアパートに帰った。

家に帰ってアパートの掃除をし、ベッドシーツを新しいものに変え、食料品店に行って明日の晩飯の食材を買い込んだ。

アリーを遠くに連れて行くことは出来ないし、無理もさせられないので、僕はアリーをアパートに連れて行き、そこで僕の手料理をご馳走することにした。

二人でゆっくり、久しぶりに自分達のアパートで時間を過ごす事ができれば、アリーも嬉しいかなと思ったからだ。

結局、掃除をしたりで僕は一晩中おきていた。

遠足の前日に興奮して眠れない子供のようなのは、アリーではなく、僕のほうだったようだ。

日曜の朝になり、僕はいつもどおり午前中は、ジムで汗を流して、昼過ぎにアリーを病室に迎えに行った。

病室のドアをあけると、アリーはもう既に外出する準備を終えており、ベッドに座って僕が来るのを、満面の笑みで待っていた。
 
隣にいつもの看護婦が、困ったような顔をしてアリーの身繕いを手伝っていた。

『おはよう。今日も寒そうだけど、天気が良くて良かった。雪とか雨だったら嫌だなと思っていたからね』とアリーは陽気に言った。

 

僕は微笑んで、アリーと少し会話をし、病院で必要な手続きをした。 

夕方までに帰ってこないといけないのだが、どうせ帰りが夜になるのは、看護婦も感ずいているようで、
『ちゃんと電話をして下さいね』とぶっきらぼうに僕に念をおした。

この看護婦さんには本当に御世話になっている。
 
見た目はとっつきにくいけれども、僕らのことを本当に心配してくれているのは分かっているし、何度か物陰でアリーに隠れて泣いているのを見た事がある。

僕は看護婦に、
『迷惑はかけないようにするから』と言って、笑って彼女の肩を叩いた。 

用意ができたので、僕はアリーを抱き上げて車椅子にのせ、病院の前に止めてある車に向かった。
 
あまりにも前日のアリーのはしゃぎぶりが可愛かったので、意味はないけども、何となく病院に来る前の店先で、小さな白いテディベアを見つけて、それを買い車椅子にのったアリーにテディベアを渡した。

アリーはそれを素直に受け取り、自分の膝の上に置いた。
 
アリーとテディベアを乗せた車椅子は、僕に押されて病院の玄関を抜け、寒気の中を通って車の前についた。

アリーは
『思った以上に寒いんだね。ほら、息がこんなに白い』とまるではじめて北国に来た子供のように、はしゃいでいた。

僕はアリーを抱きかかえ、車に乗せ、車椅子をたたんでアパートに向かった。

本当はまっすぐにアパートに行くつもりだったのだが、アリーが海が見たいというので、ちょっと遠回りをしてマンハッタンの東側を走る高速に乗り、イースト川を横に見ながらバッテリーパークを目指した。

車の中でアリーは、あそこに二人で出かけて何をしたとか、あそこのレストランに二人で出かけたとか、途中で、二人で出かけた場所を見つけては指をさし、まるで僕たちの出会いから今日に至るまでの思い出を、一つ一つ噛み締めるように、もう一度振り返っているかのようだった。 

バッテリーパークは、マンハッタンの南端に位置する公園で、自由の女神が見守るニューヨークの港を一望できる場所だ。 

僕は公園の近くに車をとめ、車の中からアリーと一緒に海を眺めた。

アリーは、車椅子にのって外に出たがったが、風が冷たかったので、風邪をひかせないように、車の中から景色を眺める事にした。

 

近くのスターバックスでチャイティーを買い、アリーとそれを分け合いながら、港を見ながら色々な話をした。

『海はいいよね。前にアタシが眠れない時に、夜中に二人でコニーアイランドの海を見に行ったのを覚えている?
あの時に、貴方がアタシのおきているのに気がついて、夜中なのに、二人で海を見に行こうかって言ってくれたのが、凄く嬉しかった』とアリーは言った。

『こうやって考えると、アタシたちには、本当に数え切れないくらいの沢山の思い出があるんだね』とアリーは呟いた。

僕は
『そうだね。思い出が沢山あるね』と言ってアリーの肩を抱きよせた。

思い出は人によって多かったり少なかったりするのではなく、ちょっとした事でも、記憶の底に留める様な心の機微があるかどうかが、思い出の数の多さ少なさに繋がっているのだと思った。
 
僕とアリーの心の機微はアリー病気のこともあって、より小さな事にも反応するようになっているのだろう。 

夕方になり、更に気温も下がって来たので、僕らはバッテリーパークを離れ、アパートに向かった。

アパートに向かう車の中でアリーは、ずっと車の窓から外の景色を感慨深げに見つめ、一言、
『懐かしいね』と呟いた。

車をアパートに横付けし、僕はアリーを抱きかかえて、アパートの中に入った。
 
ドアを開けアリーをベッドに寝かせ、僕はアリーに
『おかえり』と言ってキスをした。

アリーは笑って
『ただいま』と言い、
『家の匂いがするね』と言って周りを懐かしそうに見回した。

『やっぱり家が良いね。たくさんの色があるし、貴方の匂いがするし、大好きなものが沢山あるし、やっぱり家が良いね』とアリーは呟いた。 

そして
『アタシを連れて帰ってくれてありがとう』と言った時に、アリーの頬に涙が流れた。

僕はもう一度アリーを抱きしめて、アリーの横に座り、アリーの手をとって、アリーと一緒に小さなアパートの隅から隅を眺めて、改めてアリーが帰って来た事を実感した。

僕は
『僕の所に帰って来てくれてありがとう』と言って、もう一度アリーにキスをした。

 

コーヒーテーブルにはアリーを迎える為に、大きな百合の花束を買って花瓶にいけておいた。 

アリーは、百合を良い香りだと言って、暫く目をつぶって匂いを楽しんでいた。

僕は暖炉に久しぶりに火を入れた。
 
暖炉に焼べられたもみの木が、パチパチと音をたてて、柔らかいオレンジ色の炎を放ち、僕とアリーは、暫く暖炉の暖かさと、炎の色と、パチパチと言う音を楽しんだ。

暖炉の炎でアリーの顔を赤く照らされた。
 
アリーは暖炉を見つめながら、
『暖かいね。そして良いにおい』と言った。

僕はアリーの瞳に映ったオレンジ色の炎を見つめていた。
 
アリーはそれに気づき僕に向かって微笑んでくれた。
 
僕もアリーに微笑んだ。 

 

車の中ではあれほど沢山話をしていたのに、家に帰ったら二人の会話が少なくなった。 

会話はなくても二人は暖かい気持ちに包まれた。

僕は何よりも幸せな気持ちになり、アリーがここに帰って来た事を神様に感謝した。

会話をする必要がなかった。
 
二人で寄り添って家の中の小さな事に、目をやり、耳を傾け、匂いを感じるだけで、二人の気持ちは通じ合った。

暫く僕らはその感覚を楽しんだ。
 
そして僕はアリーの為に夕飯の用意を始めた。
 
食事は簡単なもので、マリネートされた骨付きの肉をソースにつけてグリスしたものと、サラダにパスタを用意した。

アリーはベッドから僕が料理をするのを眺めていた。
 
たまに料理や食材について質問をした。

さっきとはかわって僕らは会話を楽しみながら、まるで二人で料理をするかのようにして時間を過ごした。

料理ができ、僕は料理をベッドに持って行った。
 
お酒は飲めないので、クランベリージュースで乾杯をした。 

アパートの灯りを消して、ロウソクをたくさん灯し、暖炉とロウソクの火の中で、ステレオからは季節外れのジャネットケイのレゲエをかけて、ゆっくりと食事を楽しんだ。

時間をかけて二人で食事を楽しみ、食事が済むと僕は、簡単に洗いものをすませ、アリーの隣に腰をおろして、また暖炉とロウソクの炎を眺めながら二人で話をした。 

なんとも静かで、優雅で、愛おしい、幸せな時間がながれた。

 

僕らはこのままずっと二人で一緒にいたかったけれど、既に病院に戻る時間を遥かに過ぎていたので、僕はアリーを諭して抱きかかえ、病院に戻る事にした。

アリーは、名残惜しそうに部屋を見回し、僕の腕の中で
『またつれて帰って来てね』と言った。

僕はアリーに笑って頷き、アパートを後にして、アリーを車に乗せて病院に戻った。

病院について、アリーを車いすに乗せようとすると、アリーが珍しく
『車椅子じゃなくてこのまま抱きかかえて、アタシを病室まで連れて行って』と甘えてみせた。

アリーが元気な頃は、御姫様だっこをするのが結構重労働だったが、病気でやせて、簡単に抱き上げられるようになっていたのが、ちょっと切なかった。

僕はアリーに言われた通り、アリーを抱きかかえたまま病室に戻った。 

例の看護婦が呆れた顔で僕らの事を出迎えた。
 
僕は看護婦にウインクをして、
『遅くなってごめんね』と謝った。
 
看護婦さんは、それには答えずに、
『早く着替えてくださいね』とだけ言って、アリーの着替えを手伝ってくれた。

僕らはアリーを病院のベッドに戻し、病室の光景は、今朝、僕がここを訪れた時と同じになった。

僕はいつものようにアリーを寝かしつけ、その後で病室を片付け病院を後にした。
 
今日の一日を思い起こして、独りでニヤニヤと笑いながら、病院の前に止めてある車に戻った。

寒さも感じない程、幸せな一日だった。


2007年02月09日  残された時間

入院後、アリーに初めて外出許可が出て、僕らは久しぶりに二人で家に戻ることが出来た。

アリーを病院に戻して、またいつもの日々に戻った。

あれ以来アリーは機嫌が良くなり、気持ちがポジティブになってきたような気がする。

アリーの気持ちがポジティブになると、僕の気持ちも自然にポジティブになる。
 
僕自身のためにやらなければいけないことに加えて、アリーのためにやらないといけない事も沢山あるので、忙しい毎日を送っているが、アリーに生きようという気持ちが強くなればなるほど、僕の気持ちにもハリが出てきて、何とか頑張ろうという気持ちになる。

自分の仕事をし、財団の仕事をし、更正施設のボランティアをし、大学に行き、アリーの身の回りの世話をする。
 
ほんの何ヶ月の事だけれども、もう何年もこういったサイクルで生活をしているような気がする。

一日の始まりや終わりに、アリーを病室に見舞い、僅かな時間、手を握りながらお互いの話をする。
 
限られた時間を惜しむように、僕らは毎日お互いの話をしている。

いつかこういった時間にも終わりが来る。

終わりが近い事もお互いに分かっている。
 
だけれども、最後の最後まで、惜しむようにその残された時間を大切に使いたいと思っている。

また来週あたりには、外出許可を貰いたいと思っている。

バレンタインあたりに、外出ができたら最高だけれども、別にバレンタインデイでなくても、アリーと一緒にいられれば構わない。

僕はたまに思い出したように引き出しから、アリーに渡す指輪を取り出し、その天使のデザインをした指輪を眺めては、一人アリーのことを考えている。
 
あと少しで、僕はアリーに気持ちをうちあける事になる。

バレンタインデイまであと5日。

 


2007年02月10日  ありがとう

相変わらず寒い日が続いている。

僕は昔は寒い日が嫌いだったのだが、最近は寒い日に暖かい格好をして、冬景色の公園や街並を歩くのが結構好きになった。

今日もコートを羽織りマフラーで顔を隠して、ポケットに手を突っ込み、ウエストビレッジの街並を一人散歩した。 

冬の凛とした太陽の光に包まれると、心も体も清められる気がする。

この街には、アリーとの思い出が沢山詰め込まれている。
 
どの街角にもアリーとの思い出があり、僕とアリーにとっては忘れる事のできない街だ。

今日も一人街を散歩しながら、ふと立ち止まり周りを見渡すと、僕は昔そこをアリーと一緒に歩いた思い出をいくつも思い出す事ができる。

それは夏の夜に二人で通りに出されたオープンカフェのテーブルで、手を繋ぎながらコスモポリタンを飲んだ思い出だったり、雨の日に、二人で身を寄せ合って一つの傘で雨をしのぎながら、歩いた思い出だったり、春に二人で散歩をして、通りのコンクリートの割れ目から元気よく生えて来た雑草を見つけた思い出だったり。

後でアリーをまた病院に見舞いに行こう。

最近はどんな小さな事にも、命を感じ、感謝の気持を感じる。
 
小さなものにも命があり、自分は周りによって生かされている。

全てのものに感謝をしながら、僕はまた冬の街を一人歩き始める。

”ありがとう”という気持ちが、僕の心の中に満ちて来る。

僕の周りには悲しい事や切ない事が沢山あるけれど、それでも僕はこうやって生きている。
 
しかし生かされているからこそ、今日のこの日をこうやって過ごす事ができる。

この世から去るその日まで、残り少ない日々を全てのものに感謝しながら、毎日噛み締めるように大切に生きて行く事にしよう。

アリーが、その翼を再び広げて天国に帰る時に、僕も連れて行ってもらえれば嬉しいなと考えながら、優しい気持ちで独り街を歩いて行く。

ありがとう。

2007年02月11日  テネシーワルツ

アリーが初めて外出許可を貰ったのは2月4日だった。

その後、経過も良くそれ以来アリーも明るくなり、僕らは僕らなりに精一杯生き、二人の僅かな時間を悔いなく過ごそうとした。

この一週間は本当に僕らに、久しぶりに訪れた楽しい愛に満ちた日々で、若い頃の恋のように情熱的なものではないけれど、僕らは僕らなりに静かだけれども何とも心温まる一週間を送る事ができた。

だがあれから一週間してアリーの容態が急変し、ついにアリーは、僕の呼びかけにも答えなくなってしまった。

今日も夕方近くにアリーの病院に行き、アリーの隣に座り手を握りアリーに話しかけても、アリーは、眠りについたままで、あの愛くるしい目を開けて、僕に微笑みをくれる事もなければ、僕の手を握り返してくれる事もない。

ただ僕の最愛の人は、ベッドで呼吸器の助けを借りながら目を閉じたままでいる。

明日の朝には、アリーの両親もフロリダからニューヨークに飛んで来る。 

僕はただアリーの隣に座り、目を閉じたままのアリーに静かに語り続けた。
 
今日の出来事を語り思い出話を語り、アリーの手を握ったままで丸一日、話を続けた。

話が尽きると僕は、アリーの隣で鼻歌を歌い始めた。

昔の唄、僕らが好きだった唄、子守唄、知ってる唄を全て唄った。

アリーの手を握ったまま、その握った手でリズムを取りながら、まるでアリーを寝かしつけるように、いつまでも唄を唄った。

最後に僕は”テネシーワルツ”を唄い始めた。
 
カントリーの名曲で、僕が若い頃にアメリカを彷徨った時に覚えた曲だ。

 

日本では江利チエミという歌手がこの唄を唄っていた。

そんなことを目をつむったままのアリーに語りかけながら”テネシーワルツ”を何度唄っただろうか。 

今日僕は、この病院にまた泊まる事になる。
 
もう夜中の1時近くなので周りに人はいない。
 
アリーの手を握り唄をうたおう。
 
アリーが僕の唄でもう一度目をさましてくれる事を、心から祈りながら。


<テネシーワルツ ー 訳詞>

私は、愛するあの人と、テネシーワルツを踊っていた。

私の幼友達が、たまたまそれを見かけたから、

私は、あの人に幼友達を紹介したの。

そして、彼女があの人と踊りを踊っている間に、

彼女は、私からあの人を奪って行ってしまった。

私は、あの夜とテネシーワルツを忘れない。

私は、失ったものの大きさを知ってしまった。 

そう、あの美しいテネシーワルツが流れていた夜、

私はあの人を失ってしまった。

<テネシーワルツ>



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